「ソードアート・オンライン アリシゼーション」×「とある魔術の禁書目録Ⅲ」|「SAO」と「とある」が交差する炎の5番勝負!

10月よりTVアニメが放送中の「とある魔術の禁書目録Ⅲ」「ソードアート・オンライン アリシゼーション」。両作品とも原作小説は、KADOKAWAが展開するエンタテイメントノベルレーベル・電撃文庫が誇る看板作品だ。

コミックナタリーでは「とある魔術の禁書目録」の原作者・鎌池和馬、「ソードアート・オンライン」の原作者・川原礫、そして2人の担当編集・三木一馬による鼎談を実施。“5番勝負”と題して、2人をデビュー当時から知る三木に2作品を比較してもらった。また話題はハリウッドドラマや人気作家の悩みにもおよんだ。2人の未来を考える三木の熱い思いとともにお届けする。

取材・文 / はるのおと

鎌池さんとはこれまで10センテンスしゃべったかどうか(川原)

──まず鎌池さんと川原さんについて伺います。おふたりはこれまでどんな交流をされているのでしょうか?

川原礫 年に1回お見かけするくらいで、これまで交わした会話は10センテンスあるかどうかですね。

鎌池和馬 こんなふうにじっくりお話するのは初めてです。

川原 鎌池さんはあまり表に出てこない、相当なレアキャラですから。

「とある魔術の禁書目録」小説1巻

──それではおふたりが作家になるまでの経緯を教えてください。

三木一馬 これは僕から。まず鎌池さんは第9回電撃ゲーム小説大賞に応募しまして、3次選考まで残ったものの結果としては落選をしました。そこで僕が担当編集につかせていただいて、投稿した作品とは別の作品「とある魔術の禁書目録」で2004年にデビューしたという流れです。

──川原さんは?

三木 第15回電撃小説大賞に応募された「アクセル・ワールド」(原題は「超絶加速バーストリンカー」)で大賞を受賞して、2009年にデビューしました。でもその前にも川原さんは電撃小説大賞に応募しようと思ったものの、断念をしたことがあったんです。それが偶然にも鎌池さんが落選した第9回。

「アクセル・ワールド」小説第1巻
「ソードアート・オンライン」小説第1巻

鎌池 同じタイミングで応募しようとしていたんですね。

川原 そうですね。その応募を断念してから僕は7年間、Webで「ソードアート・オンライン」などを書いていて、もう1回応募しようかなと思ったのが第15回。それで、この機会に宣言しておきたいんですけど、あらかじめ「ソードアート・オンライン」を出版するのが決まっていて、そのバーターで「アクセル・ワールド」が受賞したという俗説がありますが、そんなことは一切ないので。

三木 僕も「アクセル・ワールド」が受賞して、それから九里史生名義で書かれていた「ソードアート・オンライン」を初めて知りましたしね。

川原 Web連載時に「ソードアート・オンライン」を知っていた編集者さんなんていないのでは。「出版しませんか?」と声をかけてくれたのも韓国のソウル文化社さんだけですから(笑)。

──そんなおふたりの作品の編集を担当しているのが三木さんです。2人から見て三木さんはどんな編集者ですか?

鎌池 どんなプロットや原稿を送っても受け入れてくれるけど、きちんと一線は引いて見てくれるから、とりあえず全部任せるつもりで一度投げてみよう、と思えますね。駄目だったら駄目と返してくれるから、そこは安心できます。

三木 妥協はしません。

川原 僕は、ほかにお付き合いのある小説の編集者さんがいないので比較はできませんが……三木さんだけでなく、電撃文庫の編集者さんって業務がすごくマルチじゃないですか。その辺りを見ていると、本1冊作って終わりではなく、それを広めるためにいろいろとやってくれるプロデューサー気質が強い。あと、やっぱり現場の人ですよね。あのままKADOKAWAで電撃文庫の編集長をやっていれば、そのうち取締役くらいにはなれたでしょうに。

三木 いやそれは絶対に無理だったと思います! 会社に留まるには不器用過ぎて……(笑)。

2016年発行の三木一馬の著書「面白ければなんでもあり 発行累計6000万部──とある編集の仕事目録」では、彼の来歴や担当してきた作品へのこだわり、思いがたっぷりと綴られている。

──三木さんは2016年にストレートエッジを設立し、代表取締役社長であると同時に編集者として動いていると。やはり現場で働きたかったためですか?

三木 はい。愚かにも、僕はまだほかの人間より自分のほうがうまく編集できると思っているんですよ(笑)。だから現場にい続けたい。でもその一方で誰かに引導を渡してほしいとも思っています。今41歳なんですけど、川原さんか鎌池さんに「三木さん、そろそろセンスがヤバいっすよ」と言われたら、潔く現場の編集を引退しようと思っています。

バトルもので「そもそも戦わなきゃいいじゃん」を言わせないための“枠”

──「ソードアート・オンライン」「とある魔術の禁書目録」の各論について後ほど伺いますが、三木さんから見て鎌池さん、川原さんに共通する作風はありますか?

三木 このおふたりだけではなく、売れている人に共通しているのは、絶対に「自分ではなくキャラクターを優先して創作をしている」ことですね。読者が望んでいるキャラクター像を、ときには自分を曲げてでも守ってくれます。

  • 「とある魔術の禁書目録」より、主人公・上条当麻とそれに噛み付くインデックス。
  • 「ソードアート・オンライン」より、主人公・キリトとヒロインのアスナ。

川原 自分の作品内のことならすべてを自由自在にコントロールできる、と思っている作家のほうが少ないと僕は思いますけどね。自分がこうしたいと思っても、やっぱりどうにもならないラインというのがある。

鎌池 キャラクターについては、たまに公式で出される海賊本とかを思い浮かべるとわかりやすいかもしれませんよ。そういう遊びの場であってもキャラクターをまったく変えちゃうとか、やっては駄目だよねというネタはあるじゃないですか。

三木 そういった考えが自然に出てくるという皮膚感覚がやっぱり作家さんなんだと思います。僕なんか作家の成分がないから、もし仮に自分が小説を書いたとしたら「自分がそうしたいから、このキャラはこう動かす」とか考えちゃうんですけど、たぶん作家はそれができない。キャラクターがそうしたくなければ、できないんです。「いや、貴方の作品なのに、なんで変えられないんですか!」と不思議に感じる編集者もいるかもしれませんが、そういった部分が作家の独自性や個性につながるんでしょう。

鎌池 1巻目か続きものかでも変わるかもしれません。最初は主人公のキャラクターも固まっていないからまだ自由に変えられるかもしれないんですけど、5巻目とかになるとつらい(笑)。

──鎌池さんと川原さんは、お互いの作品についてどういう印象をお持ちですか?

「ソードアート・オンライン アリシゼーション」第1話より。

鎌池 バトルものって、どんなすごい能力があっても「そもそも戦わなきゃいいじゃん」と言われたら終わりじゃないですか。「ソードアート・オンライン」や「アクセル・ワールド」はゲームという枠で何らかのルールを作ってその問題を解決し、VRやARといった要素を絡めつつエンタメとして昇華していてすごいですよね。逆にこちらは、なんの対価もない「ただ単にボクシングが楽しい」というのをリング上でやることはできないので、作品の中でさらに戦う理由を作ってあげないといけない。

三木 命が賭かっていないと駄目と。

鎌池 そう、闇賭博とか何かで命に直結させないと書けないんですよ(笑)。

川原 僕も、最初はゲームをただプレイするだけではバトルものが成り立たないと思っていたんですよ。「ゲームなんだから(ピンチになっても)ログアウトすればいいじゃん」という。その問題を回避するためにデスゲーム設定を持ち込みました。別に命を賭けてない設定でも、川上稔さんの「連射王」や桜坂洋先生の「スラムオンライン」みたいにうまくやれば物語は成立するんですけど、僕はそれだけで書くのは無理だと思い、命を賭けたバトルものにしました。

鎌池 そもそもゲームを題材にした理由はなんでしょう? 例えば、現実世界で殺し合いをしたほうがドラマを描けそうじゃないですか。

川原 僕は「ウルティマオンライン」や「ファンタシースターオンライン」、「ラグナロクオンライン」などのネットゲームをしこたまやっていて。そこにつぎ込んだリソースを取り返したいというのがありました(笑)。この体験を活かして小説を書いて受賞すれば、ある程度は元が取れるなと。

三木 その投資案件はすごいリターンでしたね。

アニメ「ソードアート・オンライン アリシゼーション」より。

川原 もちろん、ネットゲームの面白さは小説やフィクションで活かせるだろうという発想が出発点ではありますけど。ただ僕のゲーム小説は邪道で、最終的にシステムを超越して気合いでなんとかするんですよ。「アクセル・ワールド」の1巻を読んでくださった川上稔さんに「舞台がゲームである以上、勝った負けたは勝つ理由や負ける理由を積み重ねた結果でないといけない」と言っていただいて「あ、デカい声を出したほうが勝つんじゃないんだ」とようやくそこで気付いた(笑)。それからは理由の積み重ね……主人公が勝つ理由を重ねるか相手が勝つ理由を削るかというのをずっと書いているんですけど、結局クライマックスになると「うおお」って叫んで主人公が勝つ。そこはもう身に付いてしまった悪癖ですね。

鎌池 そこが「純粋なリング」で書ける人のロジックなんですね。でも個人的には縛りから解放された瞬間もたまらなく気持ちいいような。

川原 そうなんです。ルールがきちんと設定されたゲーム小説ではチョキを出した奴がパーを出した奴に勝つけど、「それは本当の意味での勝ちなの?」と思ってしまうんです。賭け将棋を扱ったマンガ「ハチワンダイバー」(柴田ヨクサル)では、肉弾戦の強さも世界観に組み込まれているんですよ。将棋か腕力で勝ったほうが勝ち。ああいう視点の広さが欲しい。世界の枠をルールで縮めるよりは広げていきたいんです。

──「ソードアート・オンライン」はゲーム世界という枠だけでなく、その外にきちんと現実世界が存在するのが特徴ですよね。

川原 ネットゲームプレイヤーの1人としてはどうしてもゲーム運営側の手のひらの上で遊ばされている感がずっとあって、そこと戦うには現実世界に触れざるを得なかったんです。でも最近はゲームっぽい世界に転移して現実世界のことは考えない作品もウケているので、今となっては現実世界の要素は邪魔だったかなと思わなくもないです。

鎌池 身体ごとゲームに転送できないと、現実世界に置いてきた身体はどうなるのかという問題がどうしても出てきちゃいますものね。

川原 その問題を解決するためにものすごいテクノロジーを使って転移するみたいな設定を作ると、今度はそれだけのテクノロジーが存在する世界ってどんなのという話が出てくる。だからいろいろ言われがちだけど、トラックに轢かれてゲームっぽい世界に転生という設定は最適解だと思いますね。最もノイズが少なく、余計なことを考えなくてもいい(笑)。

「とある魔術の禁書目録Ⅲ」より、五和。
「とある魔術の禁書目録Ⅲ」より、アクセラレータ(一方通行)。

──その話の流れだと「とある魔術の禁書目録」は特別な枠を感じさせません。

川原 枠はあるけど、それが宇宙レベルまで広い(笑)。あの膨大な数のキャラクターを、あれだけ自由度の高い設定の中でよくコントロールできるなと。僕は群像劇が苦手なのであまり多くのキャラクターを書きたくないんですが、「とある魔術の禁書目録」はサブキャラクター同士のバトルや見せ場が「ソードアート・オンライン」に比べると圧倒的に多い。そのスケール感に圧倒されますね。巻数だけ見ても「とある魔術の禁書目録」は電撃文庫でも最長クラスであることは間違いない。僕は絶対にそこまで積み重ねられないので、鎌池さんのことは巨人だと思ってます。

「ソードアート・オンライン アリシゼーション」
放送情報

TOKYO MX:毎週土曜24:00~

とちぎテレビ:毎週土曜24:00~

群馬テレビ:毎週土曜24:00~

BS11:毎週土曜24:00~

MBS:毎週土曜27:08~

テレビ愛知:毎週月曜26:05~

AT-X:毎週月曜22:30~ ※リピート放送あり

※放送日時は変更となる場合あり。

ストーリー

原作小説9巻から18巻にわたる、「SAO」シリーズ最長の《アリシゼーション》編を全4クールで描くTVアニメ第3期。
気がつくと、見覚えがないファンタジーテイストの仮想世界にログインしていたキリト。ログイン直前の記憶があやふやなまま手がかりを求めて辺りをさまよう中で、彼はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)のユージオと出会う。仮想世界の存在であるにも関わらず人間と同じ感情の豊かさを持つ、その不思議な少年と一緒にゲームからのログアウト方法を模索するキリト。そんな中で彼の脳裏には、本来あるはずのない幼少期のキリトとユージオ、そして金色の髪を持つ少女・アリスの記憶が蘇る……。

スタッフ

原作:川原礫(電撃文庫刊)

原作イラスト・キャラクターデザイン原案:abec

監督:小野学

キャラクターデザイン:足立慎吾、鈴木豪、西口智也

助監督:佐久間貴史

総作画監督:鈴木豪、西口智也

プロップデザイン:早川麻美、伊藤公規

モンスターデザイン:河野敏弥

アクション作画監督:菅野芳弘、竹内哲也

美術監督:小川友佳子、渡辺佳人

美術設定:森岡賢一、谷内優穂

色彩設計:中野尚美

撮影監督:脇顯太朗、林賢太

モーショングラフィックス:大城丈宗

CG監督:雲藤隆太

編集:近藤勇二

音響監督:岩浪美和

効果:小山恭正

音響制作:ソニルード

音楽:梶浦由記

プロデュース:EGG FIRM、ストレートエッジ

制作:A-1 Pictures

キャスト

キリト(桐ヶ谷和人):松岡禎丞

アスナ(結城明日奈):戸松遥

アリス:茅野愛衣

ユージオ:島﨑信長

「とある魔術の禁書目録Ⅲ」
放送情報

AT-X:毎週金曜22:00~ ※リピート放送あり

TOKYO MX:毎週金曜24:30~

BS11:毎週金曜24:30~

MBS:毎週土曜27:38~

※放送日時は変更となる場合あり。

ストーリー

TVアニメ2期より、8年ぶりの放送となる第3期。原作小説がひとつの区切りを迎える、“神の右席”との激しい戦いが描かれていく。
上条当麻は超能力開発が行われている巨大な学園都市に住む高校生。自分の右手に宿る、異能の力ならなんでも打ち消す「幻想殺し(イマジンブレイカー)」のせいで、不幸まっしぐらの人生を送っていた。そんな上条は、インデックスという少女に出会ったことから、学園都市を統べる「科学」サイド、インデックスに連なる「魔術」サイド双方の事件に巻き込まれていく。そして、ついには魔術サイドの十字教最大宗派のローマ正教が、上条の存在に目を向けることに……。

スタッフ

原作:鎌池和馬(電撃文庫刊)

キャラクター原案:はいむらきよたか

監督:錦織博

シリーズ構成:吉野弘幸

キャラクターデザイン:田中雄一

美術監督:黒田友範

色彩設計:中村真衣、安藤知美

撮影監督:福世晋吾

編集:西山茂(REAL-T)

音響監督:山口貴之

音楽:井内舞子

制作:J.C.STAFF

キャスト

上条当麻:阿部敦

インデックス:井口裕香

御坂美琴:佐藤利奈

アクセラレータ:岡本信彦

浜面仕上:日野聡

川原礫(カワハラレキ)
第15回電撃小説大賞《大賞》受賞。2009年2月、受賞作「アクセル・ワールド」にて電撃文庫デビュー。別名義にてオンライン小説も自身のホームページにて発表しており、その作品「ソードアート・オンライン」を2009年4月より電撃文庫から刊行開始。2012年には、両作品がアスキー・メディアワークス創立20周年記念作品としてTVアニメ化された。2018年10月からは、「SAO」アニメ第3期が放送されている。
鎌池和馬(カマチカズマ)
2004年4月に「とある魔術の禁書目録」を上梓してデビュー。同シリーズはコミカライズ、アニメ化、ゲーム化、劇場映画化と数々のメディアミックスを果たし、名実ともに電撃文庫を代表する作家となる。「とある」シリーズ以外にも多くのシリーズを持ち、驚異的な刊行ペースで作品を生み出し続けている。2018年10月からは「とある魔術の禁書目録」アニメ第3期が放送されている。
三木一馬(ミキカズマ)
2016年4月にKADOKAWA アスキー・メディアワークス電撃文庫編集長を退職し、株式会社ストレートエッジを設立。鎌池和馬、川原礫の担当編集とアニメプロデューサーを務める。他担当作として、「灼眼のシャナ」「魔法科高校の劣等生」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」など。著作として「面白ければなんでもあり 発行累計6000万部──とある編集の仕事目録」がある。