羽々里の登場エピソードは最初の山場として用意した長編
※2023年12月18日(月)追加更新
──アニメの終盤では、花園羽香里の母である羽々里が6人目のヒロインとして登場します。
中村 この話は、編集さんから「単行本3巻のこのへんで一度盛り上げましょう」という助言をいただいて最初の山場として用意した長編なんです。最初は羽香里の母以外に姉もいて、母が敵に、姉が彼女になるという構想でした。でも話を作るうちに、新しいキャラクターを2人も登場させるとそちらに大きくページ数を割くことになって、既存の彼女たちの出番が減ってしまうことがわかった。それで敵役も付き合う役も母に集約することにしました。
赤坂 コロンブスの卵だ。
中村 もともと、別で母のヒロインも考えていたんですけど、かなりニッチじゃないですか。だから出すとしても物語のもっと先のほうというイメージがあったんですけど、羽香里の母という形で出すことになって。でも読者の反響を見ているとちゃんと受け入れてくださって安心しました。
赤坂 ヒロインの母が読者人気を得る、みたいな作品は確かにありますよ。でもヒロインレースに本格的に参加するのはおかしいですって。親族を交えちゃ駄目(笑)。原作で読んだときは「おかしいんじゃねえの」って思いましたもん。
──このエピソードは、ほかのヒロインもそれぞれに活躍しますよね。それはやはり山場ということを意識してのことでしょうか?
中村 山場だからというより、みんなが絡んだ話にしなきゃ「100カノ」じゃないと思っているからです。だから恋太郎と羽香里と羽々里だけの話にせず、みんなを活躍させる話にしました。
赤坂 それをいつまで続けられるかな(笑)。
中村 本当にそうなんですよ……(笑)。
赤坂 僕は「100カノ」のアニメが今後も続いてほしいですけど、もっと先の、4期とかが観たい。どんなふうに作られて、どんなアニメになってしまうのか(笑)。アフレコ体制や声優さんのギャランティのシステムとかも考えなきゃいけないし、アニメ界にとっても大きな挑戦になるでしょう。
──ヒロインが何十人にもなったら、キービジュアルとかどうなっちゃうんでしょうね。
赤坂 今も、原作で巻頭カラーやカラー扉があるたびに作画の野澤ゆき子先生は死んでらっしゃるんだろうなと思っています。
中村 まるで最終話みたいな集合絵ですよね(笑)。
赤坂 野澤先生はそれを毎回やっているんですよね。
中村 野澤先生はヒロインの1人ひとりを全力で愛していて、すごく楽しそうに描いてくださるんですよ。そこが本当にありがたいです。
赤坂 偉い。偉すぎる。
ヒロイン全員が合体でもしない限り1人には絞れない
──赤坂先生はアニメに登場する中で印象的なヒロインはいますか?
赤坂 いつも大変そうだなと思っているのは好本静ですね。あの子はスマホで会話しますけど、扱いが難しくないですか?
中村 そうなんですよ。「スマホを持ってないだろ」みたいな状況でもスマホでしゃべらなきゃいけないので大変です。
──中村先生は誰か1人には絞れないと伺いましたが……。
赤坂 原作者として、1人に絞っちゃうっていうのは許されないですよね。
中村 もちろんそうですね。読者の方々を裏切ることになっちゃうし、僕がもともと何かを観るときに箱推ししがちなタイプなんです。誰か1人が好きというより、この子とこの子の絡みが好き、みたいな。そういう気質に合っているなと思いながら「100カノ」を描いています。
赤坂 ヒロイン全員が合体でもしない限り1人には絞れないですよね。
中村 合体したらその子ですね(笑)。
──まるで恋太郎のような中村先生ですが、彼のことをどう感じていますか? とんでもない大声で熊を退かせたり、何人もの変質者を1人で撃退したりと人間離れしたことも多々していますが。
中村 それはもう、描いてく中でどんどん膨れ上がっていった部分です。こんなに多くの女の子に愛されているんだから、それに応えられるだけの愛を返させよう、どんどんがんばらせようとしていたら今の形になりました。でもこれからももっとがんばらなきゃ駄目だぞと思っています。
──ギャグが多めとはいえ、「かぐや様」や「100カノ」のような恋愛ものだと主人公の男性キャラに対して不快にさせないように配慮されたりしているのでしょうか。
赤坂 絶対に嫌われないように描いています。ヒロインがどれだけかわいくても、ラブコメマンガは主人公が嫌われたらガチで終わりなので。しかもどれだけ好感度を上げていっても、崩れるときは一瞬。そこに気を付けつつ、丁寧に積んでいくことが大事なんじゃないでしょうか。
中村 僕は、主人公を誠実にするというのは大前提として、そのうえで活躍するとしても「すごい奴だから活躍できた」ではなく「努力しているから活躍できた」と見えるようにしています。やっぱりがんばっている奴って応援したくなるじゃないですか。だから恋太郎は努力型にしています。「かぐや様」の白銀を見ていた影響もあるんでしょうけど。
赤坂 そうなんですよ。「かぐや様」を描いてる途中で主人公は好かれてたほうがいいことを肌で感じ始めて、がんばる白銀になっていきました。
「100人全員を絶対幸せにするぞ!」という思いがあるだけ
──最後に、中村先生から今後の「100カノ」に期待してほしいこと、赤坂先生からは期待することを伺わせてください。
中村 僕からは、読者の期待を裏切らないよう、ちゃんと彼女全員が幸せになるようとにかくがんばります。もちろんそのうえで、笑いやときめきもこれまで以上に盛り込んでいきますので、付いてきてくださるとありがたいです。
赤坂 僕からは……機会があれば1話僕にも描かせてほしいです。「100カノ」のテンプレートを使っていいならやりたい話がたくさんあるんですよ。(薬膳)楠莉が開発した薬で、キャラクターがフュージョンしたり。
中村 それは絶対に面白い(笑)。しかも人数が減って省スペースになりますし。
赤坂 そうそう。「体のこの部分は羽々里なのじゃー!」とか言いながら。そんなふうに、同じ原作者としてこれだけの数のヒロインをどう処理するか考えたり、予想したりすることがあるんですよね。前半の50人くらいまでいったら全員冬眠させて、後半は彼女たちを助けるための物語にして最後に100人が合流するとか。もしくは恋太郎に第2の人格ができるとか。
中村 (笑)。この機会に僕からも1つ質問いいですか? 連載ってどんなふうに終わらせようと考えるんですか? 「100カノ」はコンセプト的に長く続くことが前提になっていますけど、「かぐや様」は人気がすごかったし、あそこからも続けられたと思うんです。それでも連載を終わらせようと踏ん切りをつけられたのってすごいなって。
赤坂 「かぐや様」は本当は16巻あたりの文化祭編でやめる構想があったんですけど(笑)。
中村 そうなんですか。
赤坂 あそこで白銀とかぐやという男の子と女の子の、どこにでもある恋愛の話が終わって、そこからはそれぞれの事情にフィーチャーした話なんです。読者が共感しやすい「みんなの恋愛だよ」という話ではなく、それ以降は「彼、彼女たちの恋愛だよ」という話。読者への責任は果たしたから、今度は出したキャラクターへの責任を果たそうという気持ちで描いていました。
中村 なるほど。
赤坂 だから当初は読者に喜んでもらうためにギャグも描いていましたけど、キャラクターのための話になったのでギャグもそれほど必要じゃないなと思い始めました。そういう意味では、僕もキャラクターのことを愛してるほうだと思いますね。中村先生ほどの異常な愛は持ってないですけど(笑)。
──ちなみに「100カノ」の締め方は考えているんですか?
中村 一応最終回の構想みたいなものはあります。でも正直そこにいくかどうかは……これから道がどんどんうねって全然違うところにいく可能性もあるでしょうし、とにかく「100人全員を絶対幸せにするぞ!」という思いがあるだけです。
赤坂 僕はアニメもそうですけど、マンガも長く続けてほしいんですよ。だって100人のヒロインを処理するのって、何かしら新しいマンガの発明が行われなきゃ無理なんです。その発明を見たい。
中村 本当に追い詰められた人間だけが生み出せる何かに期待、ですね(笑)。
プロフィール
中村力斗(ナカムラリキト)
ガンガンJOKERおまけで連載された「シークレット ラブ スクーリー」で、2014年に連載デビュー。原作者としても活動しており、2016年から2017年にかけてはあさのとタッグを組んだ「少女Aの悲劇」をマンガボックスで、2017年から2018年まで悪介が漫画を担当する「ヘッポコ勇者に戦略を」マガジンポケットで発表。同時期の2017年から2018年には、自身で作画も担当する「超能力少女も手に負えない!」を別冊少年マガジン(講談社)で連載した。野澤ゆき子を作画に迎え、2019年より週刊ヤングジャンプ(集英社)で連載中の「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」で初のTVアニメ化を果たしている。
赤坂アカ(アカサカアカ)
新潟県出身。2011年に杉井光のライトノベル「さよならピアノソナタ」のコミカライズ連載でマンガ家デビューを果たす。2013年から電撃マオウ(KADOKAWA)で「ib -インスタントバレット-」、2015年からミラクルジャンプ(集英社)で「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」を連載。「かぐや様は告らせたい」は2016年に週刊ヤングジャンプ(集英社)へと発表の場を移し、TVアニメ化、実写映画化などのメディア展開も行われた。週刊ヤングジャンプでは、原作を担当する「【推しの子】」も2020年より連載中で、TVアニメ第2期の制作が決定している。2022年からは原作者としての活動に専念しており、原作を手がける「恋愛代行」の1巻が2023年11月に発売された。