コミックナタリー PowerPush - 不安の種

トラウマ必至の名作ホラーが実写化

笑いと恐怖のギリギリの線を意識して

──「目撃証言」がお好きな理由は。

「不安の種」の中でも少し特殊なエピソードだったんです。ほかのとは異なり怪物や霊のようなものが出てくる話ではなくて、ややリアリティがあるし、すべての状況が判明するまでのやりとりもちょっとコミカルでいいなと思って(笑)。ホラー映画でこういうエピソードってあまり見たことないので、気になりました。

マンガ「不安の種+」の「目撃証言」より。

──コミカルさも「不安の種」の大事な要素ですか?

そうですね、やっぱり本当に怖い目に遭ったら、ちょっと笑っちゃうこともあるじゃないですか。笑いと恐怖って紙一重で、そのギリギリの線が僕は好きなんですよね。この映画も怖い怖い怖いってだけだと、スパイスが効いてないっていうか。感情のブレみたいなものを意識して、コミカルさも入れたところはあります。

──「目撃証言」のほかに、具体的にコミカルさを感じるシーンはどこでしょう。

例えば普通の住宅地の塀に「フランス語」とだけ張り紙がしてあるシュールな怪異も、どうしてもやりたかったエピソードですね。あとは顔が藁になっている女。本当に出くわしたら卒倒するぐらい怖いでしょうけど、ちょっと笑えるかもしれない。そういう単純に怖いだけじゃなく、ちょっとシュールな部分は意識的に入れています。

「オチョナンさん」の由来は「長男」からきている?

──作品の中でもとりわけ人気の高い「オチョナンさん」の描かれ方も、読者は気になるところだと思います。そもそもなぜ「オチョナンさん」は読者の心を掴んだと思いますか。

やっぱりちょっとユニークなところじゃないでしょうか。しかもおじいちゃんが「オチョナンさん」のことを孫に語って聞かせたりするエピソードもあって、日本の牧歌的な郷愁と繋がっているような、どこか親しみやすさもあります。

マンガ「不安の種+」より、「オチョナンさん」。

──ネーミングも可愛げがありますよね。

これは「長男」からきているという説があるんですが、僕もそう思っていて。「長男」という言葉が変化して「オチョナンさん」になったんじゃないかな。このあたりはぜひ原作の中山先生にお話を聞いてみたいんですよ。

──ではせっかくですから、本当に中山さんに聞いてみませんか? 監督が中山さんに聞いてみたいと思っていることを我々がお預かりしますので、その回答を特集上で公開するというのはどうでしょう。

本当ですか、それはうれしいですね。聞きたいことはたくさんありますよ。「オチョナンさん」に関しては、もし本当にそういう言い伝えみたいなものがあるのだとしたら、ぜひ教えてほしいですね。創作だとしたらどのように生まれたのか気になりました。

──質問、確かにお預かりしました(監督の質問と中山の回答は次ページから)。そんな映画版「オチョナンさん」のビジュアルはコミックナタリーでもご紹介させていただきましたが(参照:オチョナンさんの実写版ビジュアル解禁、映画「不安の種」)、大変な反響がありました。

マンガのキャラを実写化するのは本当に難しいんですよね、読者の中にそれぞれのイメージがあるから。最初は特殊造形の百武朋さんと僕の間ですらイメージにズレがあったりして、何回かリテイクを重ねましたね。百武さんにはご迷惑をおかけしましたが、お陰で納得のいく「オチョナンさん」が生まれたと思います。

テーマは不安を受け入れること「元気に後ろ向きに行こう」

──終始ショッキングな映像が続きますが、1本の映画としてどのようなメッセージを込めましたか。

そうですね、人生は常に予測不能な不安に満ちていますが、それでも我々はその不安を受け入れて、生きてゆかなければならない、というある種の教訓でしょうか。

映画「不安の種」より、浅香航大。

──具体的にお聞かせ願えますか。

普遍的な恐怖の正体っていうのは自分が死ぬこと、あるいは大切な人が死ぬことなんです。で、ホラー映画っていうのはもともと人生の教訓みたいな一面もあって、そのいずれ訪れる死を、エンターテイメントという形で見せているものだと僕は思うんですね。幽霊の存在とか根拠がないのに怖いのは、自分の死はリアルだから。で、「不安の種」はそこからまたさらに1歩踏み出したようなところがあって、誰しも人生は何が起きるかわからない不安を描いてると思うんですね。

──確かに、普通の人が普通の生活の中で怪現象に巻き込まれていきます。

東日本大震災を体験した今の時代なら、なおさらそれがリアルだと思うんです。絶えず自分の背後にいる不安みたいなものも受け入れて生きていかなきゃいけない。そういう普遍的な人生みたいなものを、僕はこのマンガから感じたんですね。だから映画もエンターテイメントではありますけど、実は自分にも起こり得ることなんだよってことを、観てる人には感じてもらいたい。映画の冒頭と最後に流れるオリジナルの童謡には、そのテーマを込めたつもりです。「元気に後ろ向きに行こう」という(笑)。

──いつまでも耳に残る、不気味な童謡でした(笑)。ちなみに監督にとっての、不安との付き合い方は何かありますか。

これは僕が取材したある人の言葉なんですけど、「人生というのは振り子だ」と。幸福と不幸が両極にあるとしたら、人生はそれを行ったり来たりしてるわけですね。1回幸せなことがあったら、振り子なので、いつか不幸も訪れると。その振り子の振れ幅が大きければ大きいほど人生は激動になるわけで。逆に小さければ、ちょっとした幸せとちょっとした不幸を繰り返して生きていく。これは本当にそうだなあと思っていて、何か嫌なことがあっても、いずれ次はいいことが起きると思って生きていれば、不安とうまく付き合えるんじゃないかなと思いますね。逆にいいことが起きていれば、次に嫌なことが起こるっていう怖い言葉でもあるんですけど(笑)。でも気持ちの準備ができますよね。

長江俊和

──今日は人生訓までお聞きできて、光栄です。最後に映画が気になっている人に向けて、メッセージをいただけますか。

これは自信を持って言えるんですけど、今まで観たことがないような形のホラー映画になってると思います。予備知識は必要ありませんので、原作を知らない人も観てもらいたいですね。あと、今回映像化できなかったエピソードも結構あるので、チャンスがあれば続編も作りたいと思っています。

──今日はありがとうございました。そして読者の皆さんは、監督から中山さんへの質問、そして回答を次のページでご覧ください。

映画「不安の種」2013年7月20日よりシネクイント、テアトル梅田ほかにて全国順次公開
あらすじ

奇妙な出来事ばかりが起こる地方都市──富沼市。

バイク便ライダーの巧(浅香航大)は、バイク事故に遭った誠二(須賀健太)と遭遇。助けを求められるが、誠二の身体は半壊し医学上はすでに死亡していた。そんな2人を遠くから眺める少女・陽子(石橋杏奈)。誠二は薄れゆく意識の中、恋人である彼女と出会った半年前の記憶を遡る……。

一方、事故に遭遇後バイク便を辞めた巧は、新しいアルバイト先で陽子に出会うが……。

出演

石橋杏奈
須賀健太
浅香航大
岩井志麻子
津田寛治

監督・脚本

長江俊和(「放送禁止」シリーズ、「パラノーマル・アクティビティ第2章TOKYO NIGHT」)

主題歌

ムック「狂乱狂唱 RMX for 不安の種」(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)

(C)中山昌亮(秋田書店)2004/「不安の種」製作委員会2013

長江俊和(ながえとしかず)
長江俊和

1966年2月11日大阪府生まれ。1997年、TVシリーズ「奇跡体験!アンビリバボー」の立ち上げからディレクターとして参加。以降「学校の怪談 春の呪いスペシャル」や、「世にも奇妙な物語 春の特別編」など、怪談・心霊ドラマを数多く手掛けた。2003年からスタートした「放送禁止」シリーズは深夜帯の放送でわずか6編が作られただけだが、ドキュメンタリー番組のスタイルを踏襲してフィクションを撮る手法が論議を呼び、翌日のクレーム数ナンバーワンになると同時に熱烈な支持を獲得、後に劇場版2編も製作された。映画では「放送禁止 劇場版 ~密着68日 復讐執行人」「放送禁止 劇場版 ニッポンの大家族 Saiko! The Large family」のほか、「パラノーマル・アクティビティ第2章/TOKYO NIGHT」「エンマ」といった作品で監督を務め、型に捉われない映像表現と、リアリティと深みのあるドラマ演出で高い評価を得ている。

中山昌亮(なかやままさあき)
中山昌亮

1966年12月16日北海道旭川市生まれ。1988年に月刊アフタヌーン(講談社)の新人賞・四季賞冬のコンテストにて「離脱」が準入選。また第20回ちばてつや賞一般部門では「SHUTTERED ROOM」で準入選を果たす。1990年、モーニング(講談社)の増刊号にて「いい人なんだけど……」でデビュー。2006年にはビッグコミックオリジナル(小学館)で連載していた「PS-羅生門-」がTVドラマ化された。このほか代表作に「オフィス北極星」「不安の種」「不安の種+」など。2010年からNEMESIS(講談社)にて「後遺症ラジオ」を連載中。