「錦糸町ナイトサバイブ」の松田舞が漫画アクション(双葉社)で連載中の「ひかるイン・ザ・ライト!」は、アイドルを目指す少女たちのオーディション青春物語。歌うことが好きな銭湯の娘・ひかるが、世界的プロデューサーが仕掛けた一大オーディション「ガールズ・イン・ザ・ライト」に参加し、同世代の少女たちと競い合いながら成長していくさまが描かれる。
コミックナタリーでは1巻の刊行を記念し、モーニング娘。'21の歌姫・小田さくらにインタビューを実施。自らもモーニング娘。のメンバーになるまでに厳しいオーディションを経験してきた小田は、「ひかるイン・ザ・ライト!」で展開される少女たちのドラマにどんな感情を抱いたのか。自身のオーディションエピソードとともに、小田の考えるアイドル像を語ってもらった。
取材 / 瀬下裕理文 / 佐藤希撮影 / 清水純一
「ひかるイン・ザ・ライト!」
銭湯の娘・荻野ひかるは歌うことが大好きな中学3年生。彼女の歌声は常連客の間でも評判になっていた。そんなひかるの自慢は幼なじみである西川蘭。アイドルグループ・JP学園で活動し、常に努力を続ける蘭は、ひかるの憧れだった。進路を決める時期が近づきながらも、やりたいことを見つけられないひかる。しかし世界的プロデューサーによる一大オーディションが始まったことから運命が変わり始める。そして彼女にとっても驚きのニュースが飛び込んできて……。
最初の1ページから「こんなこと言っちゃうんだ!」
──「ひかるイン・ザ・ライト!」はアイドルを目指す少女たちが、厳しいオーディションを通じて成長していく物語です。小田さんは今回インタビューのお声がけをさせていただく前にすでにこのマンガをお読みになっていたそうですね。
普段使っているマンガアプリで見かけて気になったのがきっかけで。アイドルを題材にしたマンガって、メンバーでも読んでいる子が多いんですよ。私もそういう作品はよくチェックしていて、「ひかるイン・ザ・ライト!」は最初の1ページからもう引き込まれました!
──世界的音楽プロデューサーであり、主人公・ひかるが受けるオーディションの主催者でもあるM・葉山の「可愛い衣装を着せただけで育てようともせず、実力のない子をカリスマに仕立て上げ、使い捨てるのはもうやめましょう」というセリフから始まりますね。
「わ、こんなこと言っちゃうんだ!」というのが、このマンガの第一印象です。とても力があって、誰かに言ってほしいと思っていた言葉なので、実際にM・葉山さんがいたらどんなにいいかと思いました。
──M・葉山のセリフには、アイドルファンをハッとさせるようなストレートな言葉が多いです。
アイドルとして活動している私がこういうことを言うのは、もしかしたら驚かれる方もいるかもしれないんですが、M・葉山さんの言っていたことを否定する気持ちはあんまりないんです。普段「ひかるイン・ザ・ライト!」でも描かれているようなグローバルなオーディション番組を見ることもあるんですが、カメラの前では絶対に泣かずに「自分が誰かに元気を与える存在なんだ」と自覚している子に私は惹かれるんですよね。本当の意味でのアイドルになりたいってがんばっている人だと思える。そういうアイドルは今、日本にもたくさんいるので、もう少しそういう部分が脚光を浴びるようになったらいいなと感じています。
──小田さんが常々考えていたことが描かれているということですね。
そうですね。でももし、「ガールズ・イン・ザ・ライト」のようなオーディションがあったとして、私は蘭ちゃんみたいに元いたグループを卒業してまで受けるかと聞かれたら、たぶんできないかもしれないですね。私はモーニング娘。のことが好きなので、ほかのアイドルグループにいる自分が想像できないかな。
ずっと異世界にいるようなオーディションの思い出
──この作品では、ひかるが幼なじみでアイドルの蘭に背中を押され、アイドルオーディションに挑戦したことから物語が展開していきます。小田さんは2011年に「スマイレージ新メンバーオーディション」、2012年に「モーニング娘。11期メンバー『スッピン歌姫』オーディション」にご参加されていますが、そもそもハロー!プロジェクトに入ろうと挑戦されたきっかけはなんだったんでしょうか?
私がオーディションを受けようと思ったのは、自分を変えようと思ったことがきっかけだったんです。小学生のときに、自分の仕草やしゃべり方がぶりっ子だと周りの女の子から言われたことがあって。それで中学校に入ってからはとにかく元気に振る舞っていたら、私自身本当にどんどん明るくなっていったんです。自分が変わっていくことがうれしかったし、その延長で芸能のお仕事に挑戦してみようと思ったことが始まりでした。自分の気持ちが固まったのが2011年頃だったんですが、東日本大震災が起きて、発表されていたオーディションが次々と中止されていって。そんな中でスマイレージのオーディションが行われることを母が教えてくれたんです。
──なるほど、そういうきっかけだったんですね。作中で奮闘するひかるの姿を見ていると、オーディション経験もそうですが、歌うことが好きという点でも小田さんに重なる部分があるなと思いました。小田さんご自身はひかるに共感する点はありましたか?
ひかるちゃんはオーディションを受ける前から、自分は歌うのが得意だと実感していましたけど、実は私もそうで。昔からいろんな歌手の方の真似をするのが得意だったので、12歳ぐらいのときには「私は歌に関しては器用なのかも?」と思っていました。あと作品の中ではМ・葉山さんが一次審査から参加していましたが、スマイレージオーディションのときに、つんく♂さんがフラッと私の審査のときだけいらしていたこともこの作品と一緒ですね。オーディションは1週間ほど行われたんですけど、ちょうど私が出る時間帯だけいらしていたそうなんです。
──すごい偶然ですね。
そのとき初めて有名な方にお会いしたので、本当に緊張しました……。「芸能人のつんく♂だ……!」って。ゴッホのことをゴッホさんって呼ばないのと同じような感覚で、つんく♂“さん”と呼ばないのが普通だったというか……それくらいすごいと思っていた人が目の前にいたので。
──一次審査の場面ではひかるが緊張しながらも、歌うことを楽しいと感じるシーンがありました。小田さんと言えば「『スッピン歌姫』オーディション」でモーニング娘。の「Be Alive」を歌って合格を掴んだ印象が強いですが、当時オーディションで歌っていて楽しいという気持ちはありましたか?
私の場合は楽しいというより、もっと冷静な気持ちで歌っていましたね。すっぴんオーディションの合宿審査のときは、「Be Alive」の音源を聴き込み過ぎて、コーラスの音程でメインのメロディで歌ってしまって。歌いながら自分が間違ったメロディを歌っていることにもちろん気付いていましたが、落ち込んだわけじゃなくて、「私にしてはこんなミス珍しいな」「それより不協和音になるような間違え方をしなくてよかった」と考えていました。
──オーディションで思うように表現できなくて焦ってしまう場面はありましたか? ひかるの場合はマイクトラブルが起きて焦った結果、急遽デッキブラシをマイクに見立てて歌うことで切り抜けました。
スマイレージオーディションのときにありましたね。審査も兼ねたボーカルレッスンのときに、歌の先生からほかの候補生とは違う指示を次々と出されて、「みんなは言われていないのになんで私だけ?」と焦りましたし、私だけできていないんだなと感じていました。でも後々聞いたら、先生は私の歌に期待していろんな指示を出していたらしいんですよ。それにしても、スマイレージの合宿期間はとにかくスパルタで、プライベートの時間もまったくないので、ずっと異世界にいるような気持ちでしたね。
──大変厳しい環境だったんですね……!
はい。でもそのときハロプロエッグ(ハロプロ研修生の旧名称)だった宮本佳林ちゃん(元Juice=Juice)が、私を含め一般から参加していた子たちをいろいろと助けてくれて、すごく救われたんです。当時佳林ちゃんはエッグの中でもひときわ目立つ存在で、すでに人気も実力もある「ザ・アイドル!」という存在だったんですが、私たち一般参加者にもエッグから参加している子たちにも、同じように平等かつ親切に接してくれたんですよ。わからない振り付けがあって困っていたら、佳林ちゃんが近くに来て教えてくれたり、気さくに話してくれたりして。こんなふうに振る舞える人が本当のアイドルなんだな、と子供ながらに思った記憶があります。それに佳林ちゃんにしてもらえたことがうれしかったので、私も翌年の「すっぴんオーディション」の合宿審査のときに、一般参加者の子たちに目を配って、同じようにサポートしていましたね。
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メンバーへの嫉妬と“覚醒”につながった気付き