「はねバド!」濱田浩輔インタビュー|“かわいい女の子を描く人”になる必要がないと気付けた 絵柄の変遷から振り返る

益子戦のたたみ方は悪くなかったなと思います

──では、これまでのエピソードで気に入っている試合を3つあげるとしたら?

1つは予選決勝の綾乃対なぎさですね。やっぱりターニングポイントになる試合なので。あとは石澤対唯華が個人的には好きです。割とどうでもいい試合かもしれないですけど、ネームとしては好きですね。個人的に、コンパクトにまとまっている試合のほうがうまくやった気がすることが多くて。

「はねバド!」5巻より、県大会予選決勝を戦う綾乃となぎさ。 「はねバド!」10巻より、石澤望と唯華の対戦シーン。 「はねバド!」11巻より、綾乃と益子の対戦シーン。

──あと1つは……。

難しいな……これは試合ってわけじゃないですけど、綾乃対益子のラストシーンですかね。益子戦のたたみ方は悪くなかったなと思います。この世界で最強と言われるキャラクターが負けるという意味のある試合なので、どんなふうに益子の去り方を描こうかなと考えたときに、うまく言えないんですけど「日が暮れるんだろうな」と思ったんですよ。過ぎ去っていく季節だなって。そういう気持ちで描いたので印象に残ってます。

「はねバド!」12巻より、綾乃と益子の対戦シーン。

自分のマンガがアニメになるなんて、今でも信じられない

──去年はアニメ化もされましたが、いかがでしたか。

ありがたかったですよ。僕、担当さんからアニメの話が来てますって聞いても、いつも「絶対ならないです」って言ってましたね。「流れます」って(笑)。

──なぜならないと思ってたんでしょう。

TVアニメ「はねバド!」キービジュアル

自信がないっていうのもあったかもしれないけど、大変じゃないですか。バドミントンをアニメにするって。そんな大変なことを今どきされるんですか?っていう感じで(笑)。大人の判断でならないって思ってました。だから試写を観に行って、やっと「3話までできてるならさすがにやるんだろう」と(笑)。自分のマンガがアニメになるなんて、今でも信じられないですよ。そういうのとは無縁にマンガを描いていくと思ってたので。

──では脚本をチェックされたりとか、声優さんオーディションに参加したりということは……。

まったくしてないです。それどころか、一応毎回送ってもらってた脚本も読んでなかったです。勝手な理由ですけど、視聴者としてリアルタイムで観たかったので。

──アニメから影響を受けたことはありましたか?

何かが大きく変わるってことはなかったですけど、声優さんが声をつけてくださったことで、キャラクターがより身近になったというか、実態として感じられるようになりましたね。変な言い方ですけど、キャラクターが女の子になったなと。やっぱりどこかで、僕みたいなおじさんが考えてますから(笑)。そういうのから切り離されたなと。そして何より「はねバド!」を知ってくれる人がめちゃくちゃ増えたことは大きかったですね。

体育館を描き続けて6年経っちゃったなと

──今回、初の長期連載になったと思うんですが、ここまで描いてきていかがですか。

すごく長く感じます(笑)。今6年ちょっとですが、長すぎるんじゃないかなって個人的には思っていて。長く続けられてよかったという気持ちももちろんあるんですけど、単純にびっくりしてますね。体育館を描き続けて6年経っちゃったなと(笑)。

「はねバド!」2巻より。

──(笑)。連載が始まったときはこんなに長くなると思ってましたか?

思ってなかったです。始めたときはとりあえず続けたいっていう気持ちが強かったですし、その時期はまだマンガ家って自分自身で言っていいのか疑問なぐらいでしたから。「結末まで決まってる」と言えるような余裕はなかったです。まずは連載を続けていけるよう、読んでもらわないと話にならないっていうところからスタートして、なんとか読者さんが増えてきて。読んでくれている人がいるんだから、ちゃんと作品として良くしていこうと、恥ずかしながらそういう気持ちが出てきて。今に至っている感じです。

──最初はどこまでのお話を想定していたんでしょう。

僕が昔、週刊少年ジャンプ(集英社)でやっていた「どがしかでん!」という作品は2巻で終わったんですけど、チームの中で練習試合をしているだけで終わったんですよ(笑)。だから「はねバド!」もそうなる可能性は大いにあるなと思いながらも、コニーとか違う県のライバルの子たちも出していたので、全国大会まで描けたらいいなとは思ってました。今となっては、もっと早く全国大会のトーナメント始めればよかったなって気持ちもありますが、あのときは「どうなるんだろう」っていう不安な気持ちを常に持っていたので、あたふたしながら作っていた気がしますね。

マンガって作家の精神的なものが出る気がするんですよ

──今、連載ではインターハイの決勝、綾乃とコニーの対決を描かれてますが、もうクライマックスということで。

そうですね、少なくとも今年のインターハイのクライマックスですから。

──綾乃は1年生なので、続けようと思えば2年、3年と続ける展開もあり得るのかなと思うのですが……。

続ける展開があったとしたら、それは高校生ではないですね。ってことは「はねバド!」ではないだろうと思ってます。旧世代と新世代がぶつかるのがインターハイ、というイメージが僕の中にあって。世代交代というか、新世代が突破するっていうのが「はねバド!」のテーマにあったんです。プロの選手は来シーズン、再来シーズンと続けて優勝を目指していけますけど、インターハイって最大3回、まあほとんどの選手にとっては一発勝負だと思うんですよ。だからないんです、次は。もし王者になった綾乃の続きを描いたら、それって今の三強を描いているのと一緒だと思うんです。

「はねバド!」74話より。

──なるほど。

そういう気持ちがあったので、綾乃たちがトップになってからのことを描く必要はないような気がしています。「はねバド!」が終わるタイミングって2回あって。1つは予選決勝で綾乃となぎさがぶつかったとき。もう1つは全国決勝でコニーと綾乃が戦うとき。別に1回目で終わってもよかったと思います。だからあの予選決勝は、最終回を描くぐらいの気持ちで出し切りました。でも冷静に考えると、コニーはなんのために出てきたのかってなるので……(笑)。担当さんからも、続きを描いてほしいと言われて、ありがたかったですね。マンガは読む人がいないと続けられないですから。

──そういう意味では、もっと綾乃の戦いが読みたいという読者も多いのかなと思いますが……。

続けることもできるとは思いますけど、終わらせるぐらいのつもりで描かないと、エネルギーを維持できない気がするんですよ。この先もずっと続くと思うと、インターハイに賭ける感じが薄まるし。高校生のときって刹那的な部分があるじゃないですか。今を一生懸命がんばってる。だからまだまだ続きがあるってなると、高校生感がないなと思っちゃう。マンガって作家の精神的なものが出る気がするんですよ。心の入り方みたいなのが。僕がもし、いろんな思惑を持って続編とかやりだしたら、ここまでちゃんと読んでくれている方には「引き延ばそうとしてるな」って言われるんじゃないかなって(笑)。

「はねバド!」15巻特装版に付属するミニ画集より。

──心は決まっていると。

融通がきかないんです(笑)。

──ではクライマックスに向けて、読者の方にメッセージをいただければ。

このインタビューを目にしているのは、きっと「はねバド!」をずっと読んでくださっている方が多いと思うので、そういう方たちが読んで「時間の無駄だった」と思われないようなものを描いていきたいなと思います。もっといいこと言ったほうがいいかもしれないですけど、本当にそれに尽きるんですよね。よかったって思ってもらえるものを作りたいです。