
名前が付いているキャラクターだけで100人超
──第1幕の第1話は、聖グロリアーナのオレンジペコの話から始まるじゃないですか。マンガの第1話は大洗のあんこうチームの話から始まるのですごく驚いて。「らぶらぶ作戦」のスタッフは本気だな、と。
いや、もうそう思ってもらえれば成功ですよね。まず飛び道具から入って驚かせて、こちらの覚悟を示したつもりです。
──しかもミニペコの話なのがまたすごいですよね。さらにそのあとに審判員の話もやるという。あれもけっこうな決断だったんじゃないかと思うんですけど、やはり飛び道具という意識からですか?
そうですね。オレンジペコの話の後に大洗の女の子たちの全紹介みたいなものをやって、さあ次に何が来るのかと考えたときに、普通はほかの学園とかキャラクターが来ることを期待されるんでしょうけど、そこは一旦かわして審判員の話を挟んで、アンチョビやアンツィオ高校につなげるという流れにしました。なんとなく感覚的にそのほうが面白いだろうと思って並べたんだと思います。
──例えば大洗の面々が水着になって、そのあとアンツィオとかが来たら「まあそうだな」という気がするんですけど、あそこで審判員の話が来ることによって「この作品は読めない」と思わされて、めちゃめちゃワクワクしました。
そう思ってもらえるとありがたいんですけど、いろんなものをお団子状態で積み込みすぎて、見ている方が忙しくって疲れるんじゃないかなって、ちょっとビクビクですけどね。まあ、第1~3話ごとにオープニングとエンディングを挟んでいるので、そこで一旦落ち着かれるんじゃないかなと思いつつ。
──「ガルパン」ファンなら存分に楽しめるはずですし、なんなら作品に食らいついていくことが醍醐味になるのでは。それについても少し言葉が難しいのですが、「らぶらぶ作戦」はどれくらいの“ガルパンリテラシー”を想定されて作られたのかお伺いしたいです。
僕は当初“ガルパンはじめまして”の人にも向けて作りたいなと考えたんですね。でも途中で無理だということがわかって(笑)。なぜかと言うと、第1幕で大洗の子たちが登場しても誰も自己紹介していないから、初見の人に向けるとしたらテロップを入れるしかない。でもそうすると画面がテロップだらけになってしまうし、それを読んだところで記憶してもらえないだろうと。最終的にはプロデューサー判断だったんですけど、テロップで画面が汚れるくらいだったら、潔くターゲットを「ガルパン」ファンに絞るという方向性で行くことになりました。
──確かに公式サイトを見る限り、大洗チームだけでも37人いるんですよね。
“はじめまして”の方を切るわけではないですけど、終始テンション高めでわちゃわちゃしてるので、どんなキャラクターかわからなくても画面を観ているだけで楽しいとは思うんです。「らぶらぶ作戦」をきっかけに、追々TVシリーズや「劇場版」、そして「最終章」までご覧いただき、キャラクターに親しみを持ってもらえればいいのかなと。
──とは言え、登場キャラクターが多いからこその苦労もあったのでは? 本編は徐々にキャラクターが増えていきましたが、「らぶらぶ作戦」はいきなり多くのキャラクターの設定を用意しなきゃいけないわけで。
キャラクターの数にはびっくりしましたね。僕がTVシリーズで携わったときは、名前のあるキャラクターって20~30人もいなかったのかな。今は、名前が付いているキャラクターだけで100人を超えるらしいですから(笑)。まずキャラクターデザインの杉本(功)さんが弐尉先生のマンガに合わせてプロポーションや表情を踏まえてすべてリファインしてくださり、TVシリーズから担当している原田(幸子)さんが全キャラの色指定を再調整してくださっています。作業量としても、もう完全に新番組1本作るような感じでしたね。さらに処理に関しても省略せず、「ガルパン」本編の処理の仕方に合わせた上に頬の赤みを加えるなどプラスの手法を取っているので、撮影さんにもご苦労をおかけしたと思います。
──水着だったり大洗の制服だったり、衣装パターンも多くて大変だったのでは。
本当に大変でした。でも全部設定しないと逆に現場が混乱するので。
最終章に見劣りするのは避けたいと思っていた
──劇場上映するからこそのこだわりはあったのでしょうか?
そうですね。レイアウトバランスとして、劇場向けに少し引き目の絵を増やしてみようと思ったんですけど、そう意識したのは本当に第1幕の冒頭部分だけでしたね。以降はマンガのテンションを活かしたほうが面白いとなり、その方針はやめました。ただ各エピソードでアングルはこだわっていますし、そもそも「ガルパン」は「最終章」を劇場上映しているので、「最終章」に見劣りするのは避けたいとは思っていました。
──本編と並べても、遜色ないようにしたかったと。
とは言えスピンオフで、女の子が元気にかわいく動いていれば形としては成立するのでしょうし、戦車戦と比べるのはナンセンスかもしれませんが。少なくとも「らぶらぶ作戦」では、戦車戦とは異なる部分に多大な労力を費やしているので、そこの手応えは感じていますね。
──キャラクターも多くアフレコも大人数だったかと思うのですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?
皆さん和気あいあいとしていて、チームワークがすごくよくて。本編にはないセリフで戸惑われたんじゃないかなと思うのですが、全員が楽しんで演じているように見えました。潤沢なスケジュールではなかったので、毎回毎回完成した映像でのアフレコというわけではなかったんですけど、役者さんたちは例え兼ね役であっても、自分の演じるキャラクターを見ただけで瞬時に「このキャラだ」と捉え、自分の中からキャラクターの芝居をスッと自然に出してくる感じでしたね。やっぱり音響監督からも演技的なNGは一切出ていないんですよ。そこは本当に大したものだなと。
──もともと魅力的なキャラクターですけど、新たな一面がたくさん見られる作品ですよね。そこに皆さん挑戦されていた。
その通りですね。積み重ねた歴史の中から役者さん全員、キャラクターを裏切らない芝居をしています。特に本編で一言しかセリフがなかった役者さんたちは、その一言からイメージを膨らませてキャラクターを形作っていただきました。
さて本当に戦車戦は出てこないのかな?
──改めて第1幕と、第2幕以降の見どころを教えていただければと思います。
全体としてはすべてのキャラクターに焦点を当てているので、本編でほとんどセリフのなかったキャラクターたちの「日常ではこんな姿を見せたり会話をしたりしているんだ」という姿をお見せできたのが大きな見どころだと考えています。第2幕以降も全キャラクターのテンションは高めなんですけど、特に変化がわかりやすいのはエリカでしょうか。第1幕ではいつもの「ツン」な様子ですが、第2・3幕と進むにつれてどんどん壊れていくというか、テンションが上がっていく感じなので、そのあたりのギャップも注目してほしいですね。みほたちのお母さま方もテンションがどんどん上がっていきますし。というか、今回おまけ(オリジナルミニアニメ「新家元、登場です!」)であのテンションを見せてるのは反則だなっていうのはちょっと思いましたけどね。「ええっ、それはあとに取っておくべきなんじゃ」って(笑)。
──ほかに個人的に印象に残っているエピソードや、特に観てほしいと思うエピソードはありますか?
第1幕の第3話でエリカとみほが迷子になるエピソードですね。ちょっとした謎を残したまま次回につながるような終わり方をするのですが、実は次の幕では解決しなくて。全4幕を通して見ていただけると、「ああ、なるほど。そうつながるのか」とわかるように作っているつもりです。なので、ぜひ最後まで観届けていただきたいですね。
──作品を完成させてみての率直な感想や、ファンへのメッセージがあればお願いします。
作ってみてわかったんですが、人を心から信じて好きになれる、優しい世界だなと。ファンの皆さんには当然だろうと思われるのかもしれないですけど、作ることができてよかったなって感じています。水島監督の箱庭はとっても楽しかったです。
──最後に細かいことを伺いたいのですが、クレジットにミリタリー監修の方のお名前もありました。その必要に迫られるほどミリタリー要素はないように思ったのですが、やはり監修が入っているんですね。
これはもうアクタスさんの伝統なので。
──具体的にどんなことを監修されたんでしょうか?
これから「月刊戦車道」が「らぶらぶ作戦」に登場するので、その表紙や内容の監修とかですね。ほかにプラモデルのパッケージみたいなものも劇中にたくさん出てくるので、そのあたりも含まれます。あとはそうですね、「戦車少なめハートフル多め」と謳っている作品ではありますが、「少なめだけど、さて本当に戦車戦は出てこないのかな?」とだけ言っておきましょう(笑)。
プロフィール
下田正美(シモダマサミ)
北海道出身。アニメーション演出家、監督、アニメーター。「巨神ゴーグ」や「ダーティペア」といった多くのサンライズ作品に作画として参加し、1996年に「セイバーマリオネットJ」で監督デビューを果たす。主な代表作に「藍より青し」「ゼーガペイン」シリーズなどがある。



