音楽ナタリー Power Push - 「シン・ゴジラ」公開記念特集
安野モヨコ、庵野秀明を語る
「モヨとそんな話ができるとは、感無量だ」
──じゃあストレートな質問ですが、安野さんは監督のどんなところに一番惹かれていると、ご自分では思われます?
えー、なんだろ? たぶん圧倒的に素直なんですよね。そして一切空気を読まない(笑)。例えば監督はベジタリアンなんですけど、キノコ類は食べられないんですね。で、行きつけのレストランのシェフが、それもぜーんぶわかったうえで、いろいろ考えて「この素材と調理法なら監督も食べられるかも……」って入魂の一皿を用意してくれたとするでしょう。でも監督はね、そういうときも絶対に食べないの!
──ははは(笑)。
普通、気を遣ってひと口くらいは食べるじゃないですか(笑)。私なんて小さい頃から、周囲の顔色が気になるタイプだったので。「あまり気は進まないけど、食べた方が丸く収まるよな」と、とりあえずは食べてしまう側なんだけど。監督はまったく気にしないんですね。その構わなさ加減が逆に新鮮だったというか……。きっと一緒にいて楽なんでしょうね。
──真逆だから、かえって気を使わなくて済む?
だと思います(笑)。自分がワガママ通してるのをわかっているので、他者に対してはすこぶる寛容ですしね。自分が変化して、私の生活スタイルに折り合いをつけてくれてる部分も、実はいっぱいある気がする。もちろん10年以上も一緒に暮らしてきて、私がオタク化しちゃったところも多々あるでしょうし。
──例えば、どのような?
すっごいくだらなくて恥ずかしいんですけど……。先日、原宿の東郷神社に行ったんですね。気分が弱ってたとき、アシスタントさんが「そういうときはイケメンのことを考えると元気出ますよ!」って勧めてくれて。私の中でそのイメージを掘っていったら、なぜか東郷(平八郎)元帥が出てきたからなんですけど。で、盛り上がって、帰宅してからも東郷ターンとか下瀬火薬とか伊集院信管とかの話をしてたら、監督から「モヨとそんな話ができるとは、感無量だ」って言われました(笑)。私も監督にそんなことを言われて茫然としてしまいました。
作品に対して妥協したり、信念を曲げたり一切しない
──そういえば「シン・ゴジラ」でも、スクリーンに登場するすべての自衛隊車輌、戦闘機、ヘリコプター、船舶などについて、かなりリアルな描写だと感じました。ああいうこだわりも庵野総監督らしいなと。では最後に、同じクリエイターとして庵野監督のすごいと思われるところを教えていただけますか?
同じ答えになっちゃいますけど、作品に対して妥協したり、信念を曲げたり一切しないこと。それに尽きると思います。もちろん自分で製作会社を経営している限りは、オトナの事情もいろいろ考えなきゃいけない。アニメや映画は大勢の人が集まって生みだす表現だから、トップの人が全体をちゃんと見てないと立ちゆかなくなってしまいます。そのことも十分理解しつつ、でも監督の場合、創作の現場に入ると作品を面白くするのが最優先でほかは全部吹き飛んじゃうんですよね(笑)。自分と作品との間に、余計な夾雑物がまったく挟まってない感覚っていうのかな。自分は作品至上主義者なんだって言ってました。
──妥協を許さないクリエイターと、現実にプロジェクトを推し進めるプロデューサー/経営者が、1人の中に矛盾なく同居している?
うん、まさに。作り手としてはあんなに頑固な人なのに、びっくりするくらいちゃんと会社も経営してるんですよ。社員さんやスタッフさんたちに利益を還元することも常に考えてるみたいだし。私なんて、書類は全部粘土に見えちゃうくらい事務作業が苦手なので……。そういうところは心底、尊敬しますね。
──でも、現場では絶対に自分を曲げないと。
そうなんですよ! 矛盾してるでしょう。ほんと謎だわ(笑)。
──Twitterやブログに不定期でアップされている「ミニ監督不行届」(参照:安野モヨコ 公式ブログ - ミニカントク不行届 - Powered by LINE)、楽しみにしている人がたくさんいます。あのシリーズはライフワーク的に続けていかれるんですか?
そうですね。ただ最近ちょっと、マンガで突っ込まれるのを気にして、前ほどアホなことを言わなくなってるんですよ。私が「監督、それじゃツマンナイよっ」って指摘するとがんばってボケるんですけど、不思議なもので、そういうのはちっとも面白くないんですよね(笑)。なので、あまり焦らずに。思わず笑っちゃったネタがあったときにアップして、皆さんに楽しんでいただければいいなと。
──カントクくんの日常、描いていて楽しいですか?
うん。楽しいです。
──今もけっこう、道を歩きながら大声でアニソン歌ってます?
どうだろう、ここしばらくは「シン・ゴジラ」で大変だったからね(笑)。でもようやく映画も完成したので、また歌い出すと思いますよ。
──じゃあ、次のアップを楽しみにしています。
はい、がんばりまーす!
「監督不行届」試し読み
「24時間まるごと 祝!シン・ゴジラ」
日本映画専門チャンネル
7月28日(木)19:00~29日(金)22:00
庵野秀明が総監督を務める「シン・ゴジラ」が7月29日に封切られる。その公開を記念し、庵野がこれまでに手がけた実写5作品を連続放送。また「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみ、芸能界屈指のゴジラファンとして知られる佐野史郎らゲスト10名が初めて鑑賞したゴジラ作品と、当時の思い出やエピソードを語る特別トーク番組「ゴジラ ファーストインパクト」全8回も一挙放送する。さらにゴジラ作品8本も放映され、その中にはシリーズで初めて全編4Kデジタルリマスターで送る「『キングコング対ゴジラ』<完全版>4Kデジタルリマスター」も含まれる。
庵野秀明実写映画 放送作品
「巨神兵東京に現わる 劇場版」
「式日」
「ラブ&ポップ<R-15>」
「キューティーハニー」
「流星課長」
©2012 Studio Ghibli
「ゴジラ ファーストインパクト」
日本映画専門チャンネル 毎週木曜 21:00~
8月までオンエアされる特別番組。ゴジラシリーズへの出演経験を持つ宇崎竜童、お笑いコンビ・ドランクドラゴンの塚地武雅ら計10名のゲストが初めて鑑賞したゴジラ作品と、鑑賞当時の思い出を語る。7月のゲストには元プロ野球選手の山本昌、「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみらが並ぶ。
なお、抽選で555名に特製ゴジラTシャツが当たる「ゴジラ初体験記」投稿キャンペーンが7月31日まで特設サイトにて開催中だ。
「シン・ゴジラ」2016年7月29日より全国東宝系にて公開
東京湾アクアトンネルが、巨大な轟音とともに崩落する原因不明の事故が発生。首相官邸では閣僚たちによる緊急会議が開かれ「原因は地震や海底火山」という意見が多数を占める中、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)だけが海中に棲む巨大生物による可能性を指摘する。内閣総理大臣補佐官の赤坂(竹野内豊)ら周囲の人間は矢口の意見を否定するも、その直後、海上に巨大不明生物の姿が露わになった。そして政府関係者が情報収集に追われる中、謎の巨大生物は鎌倉に上陸し、建造物を次々と破壊しながら街を進んでいく。この事態を受けて、政府は緊急対策本部を設置し自衛隊に防衛出動命令を発動し、米国国務省からは女性エージェントのカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)が派遣された。そして川崎市街にて、“ゴジラ”と名付けられたこの巨大生物と自衛隊との一大決戦の火蓋が切られた。果たして、日本人はゴジラにどう立ち向かっていくのか……。
スタッフ
総監督・脚本:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣
キャスト
矢口蘭堂:長谷川博己
赤坂秀樹:竹野内豊
カヨコ・アン・パタースン:石原さとみ
©2016 TOHO CO., LTD.
安野モヨコ(アンノモヨコ)
1971年3月26日東京都杉並区生まれ。1989年に別冊少女フレンドDXジュリエット(講談社)にて「まったくイカしたやつらだぜ!」でデビュー。岡崎京子のアシスタントを経て、別冊フレンド(講談社)にて「TRUMPS!」の連載を開始。フィール・ヤング(祥伝社)での連載「ハッピーマニア」では、恋する女性の心理を大胆に描き多くの共感を得た。なかよし(講談社)での連載「シュガシュガルーン」は第29回講談社漫画賞受賞。夫はアニメ監督の庵野秀明で、著作に夫婦生活を題材とした「監督不行届」がある。そのほか著作に「働きマン」「さくらん」「ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド」など。現在はAERA(朝日新聞出版)で「オチビサン」を、フィール・ヤングで「鼻下長紳士回顧録」を連載中。
2016年7月28日更新