「群青のファンファーレ」加藤誠監督の挑戦作を、師匠・あおきえいはどう観た? 信頼し合ってこその正直レビュー!

4月から6月にかけて放送されたTVアニメ「群青のファンファーレ」。競馬学校で騎手を目指す8人の少年少女が織りなす青春群像劇を描いたオリジナル作品だ。人気アイドルグループのセンターを務める有村優は、突然、芸能活動休止を発表し、競馬学校の騎手課程に入学。馬の声が聞こえるという風波駿ら7人の同期生とともに、時に助け合い、時に競いあいながら、プロの騎手という夢に向けて成長していく。

監督を務めたのは、「やがて君になる」(2018年)や「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-」(2019年)などで大きな注目を集めた加藤誠。コミックナタリーでは、「群青のファンファーレ」の放送終了と、Blu-ray / DVD全6巻のリリース開始を記念して特別企画を実施。数々の人気作を生み出してきた気鋭の演出家で、加藤が「背中を追ってきた」と語るあおきえいをゲストに迎えて、「群青のファンファーレ」について語り合ってもらった。親交が深く、普段から話す機会も多いという2人の対談は、作品へのストレートな評価にとどまらず、監督論にも広がっていく。

取材・文 / 丸本大輔撮影 / 武田和真

加藤さんは、ステップアップしていくのが如実にわかった

──おふたりが知り合ったのは、あおきさんが監督を務めた「アルドノア・ゼロ」(2014年)で、加藤さんが各話の演出やコンテを担当されたときだったと伺っています。当時のお互いの印象を教えてください。

加藤誠 当時、僕は26、27歳くらい。フリーランスになって1年経った頃で、TROYCAの長野(敏之)さんから、「アルドノア・ゼロ」を手伝ってほしいと声をかけていただきました。なので、あおきさんは、僕のことは全然知らなかったと思います。僕のほうは、もちろん、学生の頃から作品を通して、あおきさんのことは知っていて。「アルドノア」のときも、どこまで付いていけるかなという気持ちで参加させてもらいました。

──あおきさんは、当時の加藤さんにどのような印象が?

あおきえい プロデューサーから「活きのいい若手がいるよ」と紹介してもらって。最初に入ってもらったのは、3話の演出ですよね。

加藤 はい。3話でした。

あおき そのときの印象というか、今も変わらないのですが、加藤さんって、すごく熱量の高い人なんです。当時もやる気に満ちていたし、3話の次は8話のコンテ、その次は12話の演出というふうに何本も入ってもらったんですけど。毎回、ステップアップしていくのが如実にわかったんですよね。「ここは、もう少しこうだといいな」と思っていたことが、次は確実によくなっている。そういうことが続いて、「この人はすごい」と思いました。

あおきえい

あおきえい

──加藤さんにとって「アルドノア・ゼロ」での経験は、演出家としてのキャリアの中で、どのような意味を持っていますか?

加藤 今の自分があるのも、「アルドノア」の現場で、あおきさんの背中を追いかけさせてもらった経験があるからだと思っています。当時は若かったし、「ここで踏ん張らないと! 人生かけるんだ!」みたいな気持ちもあったので、TROYCAに5日いて、1日家に帰って、またTROYCAに戻るみたいな生活をしていました(笑)。まだ、「君、誰?」みたいな状態で仕事をやっていた頃だったので、人に頼ってもらえることはあまりなくて。あおきさんが僕の力量を測りながら、いろいろと仕事を振ってくれるようになったことは素直にうれしくて、仕事が楽しかったです。

あおき 当時は目の前に積まれている仕事をなんとかすることに精一杯で、各スタッフがどういう気分で仕事をしてくれているのかを見ている余裕もなかったんです。だから、後から加藤さんたちが「『アルドノア』、楽しかったです」と言ってくれているのは、救われた気になります。監督として一番よくないのは、周りから「あいつとは、二度と仕事しない」と言われることなので(笑)。

加藤 あはは(笑)。

あおき 大変だった現場の後も、こうしてご縁が続いているのはありがたいですね。

あおきさんの仕事を見ながら、いろいろと学んだ

──加藤さんは、「アルドノア・ゼロ」の翌年に放送された「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」で初監督を務められていますが、その際、「アルドノア・ゼロ」の現場で接したあおき監督を参考にしたこともあったのですか?

加藤 全体的な作品に対するアプローチの仕方ももちろん影響されたのですが、特に、適切かつシンプルな言葉で、周りの人に自分が何をしたいのかしっかり伝えられるところは、すごく影響されたし、盗みたいと思いました。監督にもいろいろなスタイルはありますが、僕は「司令塔」として、自分のイメージを周りのスタッフに理解してもらえるように伝えることは、監督としてすごく大事だと思っていて。あおきさんは、本当に説明が上手な方なんです。あと、僕が言うのもおこがましいのですが、当時から(演出家としての)好みが近いと思っていて。僕が目指している画面作りやキャラ芝居をあおきさんは目の前で実践し、直に見せてくれたので、あおきさんの仕事を見ながら、いろいろと学びました。

加藤誠

加藤誠

──あおきさんも、加藤さんとの相性のよさは感じていましたか?

あおき 相性がいいとか以前に、ひとえに加藤さんがすごくいい人なんですよ。さっきも「背中を追っかける」という言葉が出てきたり、別のインタビューでは「師匠格」みたいに言ってくれたりもしたのですが、僕としては、正直何もやってないんですよ。何かを教えた記憶もあまりないし、普通に一緒に仕事をして、加藤さんに「これをお願いします」と言っていただけ。でも、加藤さんのほうで、その中に意味を感じて、そういうふうに言ってくれる。だから、ひとえに加藤誠って人が基本的にいい奴なんだと思いますよ。

加藤 ありがとうございます(笑)。

──あおきさんの中での加藤さんの印象は、現在は、どのように変化していますか?

あおき アニメ業界って年功序列ではないんです。もちろん、そういう空気感もゼロではないですけど、基本的にはうまい人が偉い世界。だから、どっちが年上か年下かとかは、あまり関係ない。今も昔も、上手で信頼できる演出さんであり監督さんです。

騎手になるプロセスはあまり知られてない

──ここからは、加藤監督の最新作「群青のファンファーレ」について、お話を伺いたいと思います。まずは、あおきさんに、「群青のファンファーレ」を観ての感想を伺いたいのですが。

あおき 感想の前に、「群青のファンファーレ」に関しては、加藤さんに聞いてみたいことがけっこうあるんですけど、それから聞いてもいいですか?

──作品に関するお話であれば、ぜひ。

加藤 なんでも答えますよ(笑)。

あおき (アニプレックスの)プロデューサーの黒﨑(静佳)さんも知り合いだから、ざっくりした経緯は知ってるんですけど、もともと、「ファンファーレ」は、黒﨑さんが動かしていた企画に、加藤さんが監督として加わったという形ですよね。

加藤 はい、そうです。もともと、別の作品で監督をやる話があったんですけど、いろんな事情で流れてしまうことが何本か続いていて。そんなタイミングでTROYCAの長野さんを通して、黒﨑さんから「ファンファーレ」の監督のお話があったんです。競馬騎手を目指す子たちの群像劇を描くオリジナルをやりたいんだけど、参加してもらえませんかというお話でした。

あおき その段階で、物語の叩きになるものとかはできていたんですか?

加藤 僕が参加したときには、メインの登場人物は性格もある程度まで決まっていて、ざっくりとしたものですが、全体のストーリーラインもありました。だから、僕にとっては、完全なオリジナル作品ではないんですよね。ただ、何かアイデアがあったら、どんどん出してもらって構いませんというお話でした。

あおき 主人公が元アイドルという設定も決まっていた?

加藤 主人公の(有村)優は元トップアイドルで、(風波)駿が島育ちの天才というのは決まっていました。あと、少女マンガ的なエッセンスも欲しくて、超能力ではないけれど、不思議な力の描写も入れたいです、といったオーダーは最初からありました。

有村優

有村優

風波駿

風波駿

あおき 2人以外のメインキャラはどうですか?

加藤 名前が変わったり、シナリオを進めていく中で若干性格を調整した子もいますが、騎手候補生の8人は決まっていました。あと、教官もすでにいましたね。後半(第8話~)のトレーニングセンター編の内容はあまり決まってなかったのですが、1話~7話の競馬学校編に関しては、ざっくりとですが何をやるのかも決まってました。

あおき その時点で、加藤さんは競馬に関する知識があったんですか?

加藤 全然、詳しくはなかったです。僕もそこは気になっていたので、お返事をする前に、黒﨑さんにも、「もっと競馬に詳しい監督にお願いしたほうがいいと思います」とは言ってたんです。でも、黒﨑さんからは「競馬や競走馬についてはメジャーになっているけど、騎手のことや、騎手になるプロセスはあまり知られてない。そういった競馬を知らない人が興味を持つきっかけになったらという企画だから、競馬初心者の加藤さんに監督をしてもらうことで、より視聴者に近い意見も出ると思う」ということでオファーをしたんだというお話を聞きました。それに、(制作スタジオの)Lay-duceの社長でアニメーションプロデューサーの米内(則智)さんがすごく競馬に詳しい方なんです。

──メインスタッフに、競馬に詳しい人がいたのですね。

加藤 だから、競馬の詳しい知識が必要なところは、米内さんを含めた詳しい方にお任せをして、僕は群像劇というか、人の動かし方のところを重視していきますということで引き受けることにしたんです。

あおき じゃあ、黒﨑さんとしては、どちらかと言えば一般視聴者向けの作品として考えていて、その中の繊細な表現みたいなところで、加藤さんに白羽の矢が立ったというわけなんですね。

加藤 たぶん、そういうことだと思います。