オリジナルの場合は、誰も答えを持っていない
──そのほかにも、あおきさんからの質問はありますか?
あおき (初めての)オリジナル作品のシナリオ打ち(脚本会議)は、どうでしたか?
加藤 本当に大変でした(笑)。キャラクターの性格はある程度、決まっていたのですが、実際にキャラを動かしだすと、3話あたりで、キャラクターとストーリーのかみ合い方がよくないみたいな事案が発生して。そうなると、またイチから、キャラの立ち位置とか会話を練り直すかということになるんですよ。
──考えていた大筋とキャラクターの行動が乖離してしまうのですね。
加藤 一歩進んで二歩下がるみたいなことを繰り返して、「本当に終わるのかな」みたいな大変さはありました。最初は、なかなか手応えを得られなかったです。
──そういった大変さは、あおきさんも経験してきたことですか?
あおき そうですね。特にオリジナルの場合は、誰も答えを持っていないから、自分たちで答えを探さないといけない。その工程で、当初の考えとは違う方向に行きそうになる場合もあるんですけど、それをよしとするのか。変えるのは止めて、当初の答えを信じていくと決めるのか。そういう決断を迫られるポイントがいくつもあるんです。
加藤 わかります(笑)。
あおき しかも、「ファンファーレ」の場合、オリジナルだけど、加藤さんは後からチームに加わってるわけじゃないですか。要するに、監督だけど、監督主導の企画ではない。そのことでストレスとかは感じなかったですか?
加藤 そういうストレスは、感じませんでした。僕は、どちらかといえば、餅は餅屋という考え方というか。構成をメインで考える人やメインライターが別にいて、その企画に対して「こうしたほうがもっとよくなるんじゃない?」みたいな提案をして、材料を膨らませるほうが向いてるタイプだと自分では思っているので。ただ、僕が参加してから半年くらい進めていた構成やシナリオをいろいろ検討した結果、また最初から組み直すことになったんです。
あおき ああー(笑)。
──一大事ですね!
加藤 その後、Lay-duce、アニプレックス、僕、そして、その段階で加わっていただいたメインライターの福島(直浩)さんで、構成をイチから組み直していったことは、とてもいい勉強にはなったのですが、スケジュールへの影響も大きかったし、すごく大変でした(笑)。
「これが観たいんだよな」と思った第12話
──先ほどの質問に戻るのですが、改めて、あおきさんの「群青のファンファーレ」に対する感想を教えてください。
あおき 僕は、後半(8話)からのトレーニングセンター編が面白く感じました。逆に、学校編(1話~7話)に関しては、僕が競馬や競馬学校の特殊な事情やルールを全然知らないこともあって、大きな流れが少し理解しづらくて。減量の話とか、1つのエピソードとしては理解できるし、ネタも面白いんですけど、「今はどこを観ればいいんだろう」とか、「今はどういう状況なんだろう」ってなっちゃったところもあって。競馬学校という特殊な環境をもう少し噛み砕いて説明してくれると、物語やキャラクターがよりわかりやすくなるのになと思いました。
加藤 説明についても考えてはいたのですが、少し詰めきれてなかったのかもしれません。トレーニングセンター編が面白かったというのは、視聴者の方の反応もそうでしたし、僕らも作りながら「トレーニングセンター編、面白いよね」「もっと話数があってもよかったね」みたいな話はしていました。2クールならともかく、1クールの中で学校編とトレーニングセンター編にわけるような構成は、トリッキーだしチャレンジではあったんですけどね。それに、あまり描かれることがない馬の安楽死にも、アニメとしてしっかり踏み込んで描いたことは、観ている方にも評価していただけたので、そこも挑戦してよかったなと思います。
あおき 後半のほうがより群像劇になっていて、キャラクターも生き生きしてる感じがしました。あと、1話と13話は別格として、ほかの話数で言えば、僕は12話が一番面白かったです。メインキャラクターが全員、馬に乗って競うじゃないですか。あれを観て、個人的に「これが観たかったんだよな」と思ったんです。
──12話では、卒業を間近に控えた模擬レースが描かれました。
あおき 6話あたりで障害を跳んだりもしていたんですけど、あれは個人戦で競争ではないので。メインキャラクターが丁々発止やりあいながら、レースをしてるのって、12話が初めてだったから、「これこれ!」って思ったんですよね。
加藤 模擬レースも含めて、トレーニングセンター編のほうが、騎手たちはどういう考えや作戦でレースに勝とうとしているのかを説明できて、それを描写に詰められたので、競馬ものであるというところを、より見せられたと思います。
優と駿の物語として、綺麗にまとめられた最終話
──先ほど、あおきさんは「1話と13話は別格として」とおっしゃっていましたが、加藤さんが全編コンテを描いている2本は、やはり加藤さんらしさが色濃く出てると感じましたか?
あおき 1話は、絵コンテまでしかやっていなくて、演出はほかの方が立たれているので、もしかしたら加藤さん的には、「もうちょっと、こうしたかった」というところもあるかもしれないんですけど、純粋に観やすかったんですよね。アイドルを辞めた主人公が競馬学校に入って、田舎からきたもう1人の少年と出会う。「ボーイミーツボーイ」みたいな構成で、この作品はこの2人の物語なんだよっていうのがすごくわかりやすかった。13話に関しては、加藤さんが演出までやっているので、やっぱりファーストカットから、レイアウトの取り方とかが違いますよね。確か、キャラクター(天音・グレイス)が上を向いているあおりのカットがあって。キャラは画面右側に配置されていて、空を大きく映している。あのカットを観たら、「加藤誠の演出」って、パッとわかる(笑)。
加藤 そうですよね(笑)。
あおき 1話と13話は別格と言ったのは、そういう意味です。監督って文字通りディレクターで、プレイヤーではないんですよ。だから、自分が現場には関わらないという前提で、どこまで自分の思うフィルムを作っていけるかがポイントになる。監督が現場でコンテ、演出までやったら、それは当然、監督の思うフィルムに近付くと思うんですけど。そうできないときにどうするのかは、自分も監督をやっているとき、いつも考えます。
加藤 自分が何人もいたら、思うままにできるんですけどね(笑)。どうしたら、監督の「我」みたいなものを残しつつ、統一感のある作品にできるのかは、確かにいつも考えています。ただ、今回は、放送まで本当に時間がない中での作業だったので……。
──そういった状況の中でも、ここは自分のこだわりを出せたと思えるポイントはありますか?
加藤 プロデューサーの黒﨑さんからいただいたオーダーは、最終話(第13話)で全部注ぎ込んで、優と駿の物語としては、綺麗にまとめられたのかなと思っています。最終話でようやくコンテと演出を両方できたので、そこは意地を見せられたのかなと。
──あおきさんへの最後の質問として、「群青のファンファーレ」の経験を経た今後の加藤さんにさらに期待していること、見せてほしいものなどがあれば、教えてください。
あおき 最初にも言いましたけど、加藤さんは、自分でどんどん進化していく人なので。たぶん、次に監督をやるときは、今回の経験が生きて、また違うものになると思うんですよね。でも、当然、それに満足することはないと思うので、またそこから得たもので、進化していく。そういう感じだと思うので、特に僕から言うことはないです(笑)。加藤さんのやりたいように、やるのが一番いいかなと思います。
加藤 今回の経験を踏まえて、自分の中では、次に監督をやるときのやり方というか、アプローチの仕方みたいなところも改革が進んでいます。あと、学び直していることもあるので、今は初心に戻って楽しい感覚もあるんです。まだまだ成長できるはずなので。
あおき ほとんどの視聴者の方って、たぶん絵が一番気になるんですよね。「ここが崩れてる」とか、「ここがもうちょっと」とか。ただ、監督としての仕事が出るのは、絵の良し悪しではなくて、もう少し総合的な……いわゆるフィルムなんですよ。フィルムを見れば、監督は何をやったかわかる。だから、すごくいい絵でも、「現場がすごくがんばっただけで、監督は何もしてない」なんてことも、正直あるんですよ。そういう意味では、「ファンファーレ」は、加藤さんがちゃんと仕事をしたフィルムになっている。もちろん、加藤さんの中では、もっとああしたかった、こうしたかったという思いもあると思うんですけど。でも、「これは加藤誠の作品だよ」と言っていいと僕は思っています。加藤さんのファンが観て、「なんじゃこりゃ」「加藤監督、全然仕事してないじゃん」みたいなフィルムには、なっていないので。
加藤 ありがとうございます。
──では、最後に加藤監督から、Blu-ray / DVDのリリースも始まっている「群青のファンファーレ」に関して、改めて作品に込めた思いも含めて、ファンの方へのメッセージなどをいただけないでしょうか?
加藤 いろいろな声が聞こえてくる中でも、「すごく楽しんでるよ」と言ってくれる方もいて。そういった言葉が本当に救いでした。そういう方の声に何とか応えたいという思いで、最後までやりきることができたと思います。いろいろな事情や状況はあったけれど、自信を持って、自分の全力を尽くしたと言えるし、いちディレクター、いちクリエイターとして、次につながるチャレンジなどもやれたと思います。その原石みたいなところも見つけながら、作品を楽しんでもらえたらうれしいです。
プロフィール
加藤誠(カトウマコト)
1984年、神奈川県出身。日本アニメーションに入社し、絵コンテや演出の経験を積む。2013年にフリーとなり、同年にTVアニメ「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」で監督デビュー。そのほかの監督作には「やがて君になる」「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-」がある。
あおきえい
1973年、東京都出身。大学卒業後はアニメ・インターナショナルカンパニーに入社し、制作進行やデジタル撮影を経験後、演出を担当する。2004年にTVアニメ「GIRLSブラボー」で監督デビューを果たし、その後はフリーに。2013年に元AICのプロデューサーらとともに株式会社TROYCAを設立し、取締役に就任する。2014年にTVアニメ「アルドノア・ゼロ」で初めてオリジナルTVアニメの監督を担当。そのほかの監督作には「放浪息子」「Fate/Zero」「Re:CREATORS」「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」などがある。