「ゴブリンスレイヤー」の蝸牛くもが、コンピュータRPGの黎明期に生まれた名作「ウィザードリィ」を題材にした小説を執筆しているのをご存知だろうか。その名は「ブレイド&バスタード」。カバー・挿絵イラストを手がけるのは、「オーバーロード」で知られるso-binだ。2022年12月に1巻にあたる「-灰は暖かく、迷宮は仄暗い-」が刊行された同作は、この6月に2巻目となる「-鉄骨の試練場、赤き死の竜-」が刊行されたばかり。さらにWebマンガサイト・DREコミックスの第1弾タイトルの1つとして、「ブレイド&バスタード」のコミカライズ連載も始動した。
コミックナタリーではマンガ版が始まるこのタイミングで、蝸牛くも、so-bin、そしてコミカライズを手がける楓月誠という作家陣にインタビューを実施。「ブレイド&バスタード」の魅力、作品の制作裏、コミカライズにおけるこだわり、発売されたばかりの小説2巻の見どころなどを聞いた。
取材・文 / 鈴木俊介
漫画/楓月誠 原作/蝸牛くも キャラクター原案/so-bin
誰も足を踏み入れたことのない《
《
キャラクター紹介
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イアルマス
記憶を失った冒険者。寺院の依頼で、《迷宮》内で力尽きた冒険者の死体を回収している。
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ガーベイジ
イアルマスに危機を救われた冒険者。人語を話さず、野良犬めいた言動をとる“
怪物の食べ残し ”。
ブレイド&バスタード|BLADE & BASTARD【公式】 (@BladeandBastard) | Twitter
女の子がかわいい、ダンジョンが薄暗い、ちゃんと“今風じゃない”
──マンガ版「ブレイド&バスタード」の連載がついに始まりました。蝸牛くもさんとso-binさんも序盤をすでに読まれたそうですが、ご感想はいかがですか。
蝸牛くも 率直に、面白かったです。楓月さんがキャラをかわいく、カッコよく描いてくださっているのはもちろん、ガーベイジとかララジャは、「動いているとより魅力が伝わるかな」ってなんとなく思っていたので、その動きを見られているのがやっぱりうれしいですね。あと「ウィザードリィ」(※)って、今風のファンタジーというより古典ファンタジーな感じの世界観なので、それをきちんと表現してくださっているのがすごくありがたくて。
※「Wizardry(ウィザードリィ)」は、1981年にアメリカで発表されたコンピュータ用RPG。パーティ編成、迷宮の探索、モンスターとの戦闘やキャラクター成長などの要素は、のちのさまざまなRPGに多大な影響を与え、RPGの始祖の1つとされる。今日まで数多くの系列タイトルが発売され、発売開始から40年以上経つ今でも、世界中で根強い人気を誇る不朽の名作。ドリコムは「Wizardry」の国内外の商標権を取得している。
──古典ファンタジーっぽさを感じたのはどういうところでしょう?
蝸牛 具体的にどこがどうっていうわけではなくて、全体的な雰囲気ですかね。そこかしこで、ここはやっぱりこういう感じ、みたいなツボを押さえてくれている。so-bin先生のキャラクターデザインももちろんそうなんですけど。
so-bin 僕も面白く読ませてもらいました。さっき控え室でも、くもさんと「女の子がかわいい」とか「ダンジョンがちゃんと薄暗い」とか話していたんですけど……この先ダンジョンばっかり描くことになるから、大変だろうなって(笑)。
──「ウィザードリィ」の世界だとすると、迷宮の中はひたすら平たい壁が続きますもんね(笑)。
蝸牛 いやあ、そこは申し訳ない(笑)。
so-bin あとは第2話を読んで、戦闘シーンがいいなと思いました。勢いがあるし、イアルマスの作画もカッコよくて。
楓月誠 素直にうれしいです。コミカライズさせていただくうえでは、原作のおふたりに「面白い!」と納得してもらえるものを描くのがベストだと思っているんで、大丈夫かなと思いつつ何話か仕上げたんですけど。今日こう言っていただいたことでちょっと安心しました(笑)。
──楓月さんはコミカライズするうえで、原作をなるべくそのままマンガに落とし込もうとされるタイプですか。
楓月 そうですね。コミカライズ、今までも何本か受けさせていただいたんですけど、心がけているのは“原作の一番のファンになりたい”ということ。コミカライズを受けるうえで一番大事なのはそこかなと思っていて、自分が原作を読んで面白いと思ったところ、カッコいいと思ったところを、「このシーンいいよね!」とマンガを通して読者さんと語りたい。原作の魅力を、うまくマンガで共有できたらいいなと思って描かせていただいてます。
ウィザードリィを知らなくても面白い、でも知ると解像度が上がる
楓月 「ブレバス」はコミカライズのお話をいただいて、それから読ませていただいたんですけど、お仕事で渡してもらったっていうのも忘れて夢中で読んでしまって(笑)。
so-bin 本当ですか?
楓月 本当ですよ!(笑)
蝸牛 それは素直に受け取って、ありがとうございます。
──原作が面白いほど、「これを自分がマンガにするのか……!」とプレッシャーには感じませんか?
楓月 いったんそこは考えないですね。作画する段階になって「どうやって描けばいいんだろう……」って悩むことはあるんですけど、最初はいちファンとして読ませてもらって。だから続きの2巻も早く読みたいと思いましたし、この世界観にもっと浸りたくなって、仕事をお引き受けするかどうか以前に……これはもう自分で冒険に出ないといけないな、みたいな(笑)。それでゲームの「ウィザードリィ」をプレイしたり、ベニー松山さんの「小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春」とか、石垣環さんが描かれているマンガとかも読ませていただいたり……。
──それまで「ウィザードリィ」に触れたことがなかったけど、「ブレバス」きっかけでゲームもプレイされた。
楓月 ええ、「五つの試練」がSteamで出ていたので、まずはそれからやってみようと思って。とにかく「ウィザードリィ」に関して調べて、視野を広げていったんです。そうしたら、それをやればやるほど「ウィザードリィ」と「ブレバス」の両方の解像度が、相乗効果のようにどんどん上がっていって。自分はこの世界が大好きだなって思えました。
──so-binさんは「ウィザードリィ」はプレイされてます?
so-bin まったく。(「ブレバス」を読んでいると)それっぽい用語が出てくるじゃないですか。でも全然知らないから、「知らない世界で話が進んでいるな」って(笑)。でも「ウィザードリィ」を知らなくても普通に面白かったです。読みものとしてちゃんと面白いから、「ウィザードリィ」世代じゃない人、「ウィザードリィ」のファンじゃない人にもオススメできると思います。みんな読んでほしいですね。
蝸牛 そう言っていただけるとありがたいですね。かくいう自分も「ウィザードリィ」に触れたのは、最初のブームが一段落した後なんですよね。ゲームを触ったのもプレステ版かゲームボーイ版か……そのぐらいでしたから。結局、それこそベニー松山先生とか、ほかの方が書いてきた作品を読んで「面白い!」と追いかけて、そうやって「ウィザードリィ」に入った立場なので。
楓月 僕にとってはその扉を開いてくれたのが「ブレバス」でした(笑)。「ブレバス」は今後、そういう作品にもなり得ると思います。
──「ブレバス」には「ウィザードリィ」の呪文の名前とかもそのまま登場しますよね。ここはこだわられた部分ですか。
蝸牛 呪文の名前については、自分がそのまま使わせてくださいってお願いしたんですよ。それこそ「ドラゴンクエスト」の小説を書きますとなったら、メラだったりギラだったりが「その世界の呪文」じゃないですか。じゃあ「ウィザードリィ」ではと言ったら、やっぱりカティノなりハリトなりが「その世界の呪文」なので。
細かい指定がなくても、小説に書いてあるんだから大丈夫
so-bin 物語の最初に“オールスターズ”っていう冒険者パーティが出てくるじゃないですか。彼らも「ウィザードリィ」の登場人物なんでしたっけ。
蝸牛 その、名前をお借りしている感じですね。
楓月 オールスターズは、その名前の由来とかを調べていくうちに「めちゃくちゃ重要な立ち位置じゃん!」って気が付きまして(笑)。コミカライズの仕事って、イラストレーターさんが原作に登場する全キャラのデザインを起こしてくれているわけではなかったりするので、マンガにする段階で自分でキャラクターを起こすことも多いんですけど。このオールスターズに関しては、「ブレバス」でもいずれ重要なポジションになるのではと思ったので、できればso-binさんに起こしていただきたいと、無理を言ってデザインしてもらいました。お忙しい中ありがとうございます……!
──so-binさんはどこまでキャラクターをデザインされていらっしゃるんですか?
so-bin 依頼があった範囲でしか作業してないですね。
──小説1巻にはイアルマス、ガーベイジ、ララジャ、アイニッキ、そしてオールスターズの一員でもあるセズマールのイラストが載っていました。マンガ版が始まるにあたって、オールスターズの残り5人もデザインされた。
so-bin そうですね、残りのパーティメンバーも。けっこうクラシックなキャラクターたちなんで、「俺がやっていいのかな?」とは思いつつ(笑)。一応くもさんから「こんな感じです」って参考資料はいただいて、あんまり今風にしないように気をつけて……80年代くらいのテイストなんですかね?
蝸牛 そこまで年代を意識してないですけど、少なくとも00年代以前かな。90年代だとそれこそ、たぶんでっかい肩当てとか出てくる感じになると思いますから、それよりも前だとやっぱり80年代になるのかな。
so-bin スタイリッシュとか、そういう感じではないですよね。
蝸牛 「ウィザードリィ」自体が今風ではないので……。せっかくの機会なので聞いちゃいますが、もっと細かく指定したほうが楽だったりします?
so-bin 大丈夫ですよ。だって小説に書いてあるんだから。文章の雰囲気に近づけて描くので、逆にもし違ったら言ってくださいという感じです。
蝸牛 でもガーベイジなんか本当にイメージ通りだったし、セズマールのデザインはニコニコしながら見ました。かわいくカッコよくデザインしていただいているし、それがそのままマンガになっているんで、自分としてはありがたい限りで、素直に楽しんでいます。
──小説では容姿がぼかされているキャラクターもいたじゃないですか。それがマンガだとひと目でわかるのが新鮮に感じました。ほかにもso-binさんにデザインを依頼したキャラクターはいますか?
楓月 レーアの少女ですかね。ララジャが宝箱を開けるときの回想に出てくるんですが、マンガ版ではそこをより盛り上げたいなと思って、ネーム段階で回想シーンを増やしたんですよね。くも先生にネームチェックしていただいて、先の展開で重要なキャラであるとわかり……またしても「so-binさんすみません」と。
蝸牛 あの子は一応、3巻のメインにしたいと考えていて。……3巻の原稿はまだ影も形もないんですけど(笑)、でも3巻で出すならこの段階でデザインを依頼しないといけなかったので、ちょうどよかったです。
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ゴブリンスレイヤーと比較すると、イアルマスは……