「DEAD OR ALIVE Xtreme Venus Vacation」×「平穏世代の韋駄天達」天原×クール教信者×作田泰紀プロデューサー座談会|フェティシズムをもって“かわいい“を生み出すクリエイターたちのこだわりに迫る

「好き」という熱量がなければかわいさは生まれない(作田)

原作「平穏世代の韋駄天達」より、ポーラのイラスト。©天原・クール教信者/白泉社

──「DOAX」シリーズも、クール教信者先生、天原先生の作品もかわいらしい女の子が登場するというのが共通点なのかなと思います。皆さんがかわいい女の子を描くときに意識する点ってどんなところでしょう?

クール教信者 私の場合はまず女の子キャラクターを入れるときって2つのパターンがあるんですね。1つはストーリーと関係なくこの子がいるだけで楽しいなって思うような子を作るパターン。もう1つは展開上どうしても必要だけど重くなるストーリーを描くときに、「この子がいれば清涼剤になるな」って思って作るパターンです。そういうふうに、かわいい子を描く物語上の動機はしっかりあるんですけど、キャラクターの体型とか顔立ちはやっぱり自分の趣味ですね。自分がよいと思ったものを描かないと読者にもよいと思ってもらえないですし。

作田 わかります。「DOAXVV」の場合、チームで作品を作っているので、キャラクターもチームみんなで案を出していくんです。初期のころは私も案を出していたんですが、しばらくしてからは出さないようにしました。自分でも案を出して自分で決めると、どうしても私の趣味に偏ってしまったり、発想の限界が出てきます。だから、仲間のスタッフから提案をもらう形にしているんです。でも、同時にクール教信者先生がおっしゃるように、「好き」という熱量がないとかわいさってどうしても出せない。だから、スタッフが提案してくる「好き」の熱量を私がちゃんと理解できて、「確かにかわいい」と思えたらきっといろんな人にも共感してもらえるだろう、と。そういう形で作っています。

クール教信者 「韋駄天」も、チームという要素はあるかもしれないですね。天原先生の原作というベースがあるので、性格面でいろいろアドバイスをもらったりもしました。

原作「平穏世代の韋駄天達」より、ピサラのイラスト。©天原・クール教信者/白泉社

天原 最初のうちはいろいろ言ってたような気もするんですが、そのうちおまかせになってきますね、そういう部分は。

クール教信者 まあ、天原先生とは面識もあったので、胸とか体型に関しては「私に任せてくれた以上は、ある程度私の思う通りにやっていいんだろう」という信頼関係もありましたしね(笑)。

天原 私はキャラクターに関しては、軸をぶらさずにいろんな面を見せられれば、なんでもいいんじゃないかと思っているんですよね。例えば、清楚キャラなら清楚な価値観や考え方はしっかりさせたうえで、「エッチなものを見せたときは赤くなって拒否は示すけど内心興味はありそう」ってキャラ付けをしてみる。初めから不健全なキャラなら、ストレートにエッチなものを見てもゲラゲラ笑うけれど、ド直球で真面目な告白されたら案外照れるとか。キャラの軸がぶれない範囲でギャップや意外な一面を見せることができれば、あらゆる女の子キャラクターはだいたいかわいく見えるような気がします。これは女の子に限らないと思いますが。

「DEAD OR ALIVE Xtreme Venus Vacation」より、なぎさ。

作田 ギャップはやっぱり大事ですよね。「DOAXVV」では特に意識していますが、ゲームでも、最初に見たとき、ビジュアルを含めて「こういう女の子ね」って抱くイメージがあったりすると思うんです。でも、その最初のイメージから出発して、あとから別の面が見えてくると「かわいいな」って共感してもらえることは多いと感じます。例外もありますが、そのときギャップになる一面というのはトリッキーなものでなく、「みんなこういう女の子好きだよね」って思えるような部分が多いです。

内面的なかわいさって誰かとの掛け合いでしか生まれない(クール教信者)

TVアニメ「平穏世代の韋駄天達」より、ミク。

天原 ただ、かといって「ひたすらいい子」ってなってもダメでしょう? ずっといい子ってだけだと、媚びているだけのキャラクターになってしまう。私は悪い一面もちゃんと描いてあげて、その悪いところも含めて好きになってくれるようなつくりが好きなんですね。「韋駄天」は特にそれが顕著だと思います。ピサラもミクも人格面ではろくでもない部分だらけですし。でも、ピサラなら表面上の性格は冷血かつ外道でも、中身は結構乙女だから好きと言ってくれる読者がいるんですね。ミクに至っては表面上も外道で、中身もきっぱり外道なんですが、それでも好きになってくれる読者がいるのがありがたいです。

作田 なるほど。「DOAXVV」では、たくさんの女の子が出ているので、新しく追加する女の子には今までの女の子にはなかった魅力がないといけないと思っているんです。同じ方向性のかわいさを持っているだけのキャラクターを出すわけにはいかないですから。そう考えていくと、普遍的だけど新しいかわいさを常に考えていかないといけない。

クール教信者 でも、キャラクターが増えたからこそ生まれるかわいさもあると思うんですよね。内面的なかわいさって反応で出てくるものですからね。つまり、掛け合いであり、相手がいて初めて成立するもので、1人じゃ出てこない。そう考えていくと、見た目だけじゃなくて、「かわいさ」って誰が見るのか、誰と関わるのかっていうのも含めた総合的なものなんです。

──見た目の話が出ましたが、造形はどういうふうに考えていくんですか?

「DEAD OR ALIVE Xtreme Venus Vacation」より、さゆり。

作田 私たちの場合は基本的に性格や設定を先に考えて、そのあと詰めていきます。ビジュアル面での「かわいい」要素やパターンっていっぱいあるんですけど、いっぱいありすぎてまとまらないんです。天原先生がおっしゃったような、キャラクターの軸や核になる部分がビジュアルから始めて決まることってなかなかない。設定や性格を最初に詰めてあるから、「だったらこういうビジュアルになるんじゃないか」とイメージを広げられるわけです。

クール教信者 私の場合は粘土をこねていくようなイメージですね。「かわいい」ってまずは見ていて安心感を持てないといけないし、そのうえで本能的に感じたりする部分もあると思うんです。だから、まずはとにかくいろいろ描いていって「これはなかなかうまく描けたぞ」ってものができたら、そこに「これを加えて、これを加えて」といろんな要素を乗せていくような感じです。そうやってぼんやりしていた自分のイメージを、手を動かして形にしていって、さらに微調整を加えていく。最初から具体的に決まっていて描きはじめるわけじゃないんですよね。

作田 本能的なかわいさってありますよね。私たちも「DOAXVV」というシリーズの中でたくさんの女の子キャラクターを作っているわけですが、シリーズがさらに10年続いたとして、10年後のユーザーさんにもちゃんとかわいさを感じてもらえるキャラクターにするというのは、すごく大事にしている点なんです。だから、そのときそのときの流行りのかわいさだけではなく、本能的に感じられるかわいさみたいなものを必ず持ったキャラクターにしたいと思っています。恥じらいの表情やうなじなんかもたぶんそのひとつなんです。

お互い変なこだわりとフェチズムを煮詰めた作品ですよね(天原)

クール教信者 見た目でいったら、ゲームの場合は3DCGの進化っていうのも大きい要素じゃないですか? 「DOA」シリーズは初代のころから重量感や質感がすごいと感じるシリーズでしたけど、時代を重ねるごとにどんどんリアルになっている。特に肌の質感はすごいですよね。触ったらこんな感触がしそう、みたいなところを突き詰めているように思います。

「DEAD OR ALIVE Xtreme Venus Vacation」より、たまき。 TVアニメ「平穏世代の韋駄天達」より、ポーラ。

作田 そこはこだわっている点です。私たちは「やわらかエンジン」というシステムを使ってキャラクターを描写していて、女の子の肌のやわらかさをより感じてもらえるようを目指しています。例えば、女の子が動いたときにどういうふうに胸が変形するかとか、重力による沈み具合とかを、このエンジンで表現してるんです。あとは肌の表面のプルルンとした感じとか。

クール教信者 アニメの「平穏世代の韋駄天達」でもポーラが氷山を横向きに歩いているシーンがすごく印象に残ったんですよね。重力でおっぱいが広がっている感じで。アニメのこのシーンは3DCGではないですけど、そういう重力とか立体造形のリアルさは3DCGの得意な部分ですよね。

天原 呼吸動作や髪のなびき、胸の揺れ、水に濡れたときの質感なんかのリアルタイム描写は、3Dならではの表現だなと感じますね。

作田 そういうリアルさを突き詰めていくのと同時に、その中で何をどう見せたいかによっても動かし方というのは変わってくると思うんです。その辺に作品ごとの個性が出る。「DOAXVV」の場合はとにかくやわらかさというのを追求していこうと思っています。

クール教信者 その技術があの胸に詰まっているわけですよ。

作田 そうですね(笑)。でも、ゲーム開発者である私から見るとアニメやマンガならではだと感じる表現も多いです。

クール教信者 どういうところですか?

作田 「DOAXVV」は多少デフォルメが入っていますが、基本的にはリアル寄りの3DCGです。技術的にもどんどん進化しているとはいえ、マンガやアニメのキャラクターがするような豊かな表情をリアル寄りのビジュアルでは再現するのが難しい。マンガだとデフォルメとかも含めて、いろんな表現方法があります。3DCGの場合、リアル寄りな分、やり過ぎると不気味な顔になってしまう。すごく案配が難しいんです。

クール教信者 マンガの場合、二次元的なウソもありますしね。あえてパースを狂わせて美しく見えるようにしたり。でも、3Dはそういうものも表現できるようになりつつあるのかなとは思っています。アニメーションの手法とかで、まず絵コンテを描いてからそれに合うように3Dに直すみたいな手法もあるそうなんですよ。もちろんその手法で作った素体ひとつですべてが表現できるわけではないと思うんですけど、そういう技術を積み重ねていったら3Dはまだまだ進化するだろうなって。

作田 そうなっていくと面白いですね。まずはこの機会に興味を持ってくださった「韋駄天」ファンの方がいらっしゃったら、「やわらかエンジン」で描かれる女の子や「韋駄天」キャラの衣装をぜひ見ていただければと思います。実は胸だけでなく、お尻とかも揺れていたりしますので。

天原 「DOA」も「韋駄天」も、変なこだわりやフェティシズムを持った者が作っている作品ですよね(笑)。

クール教信者 なかなかない方向性の進化を見てもらう機会になればいいですね。

「DEAD OR ALIVE Xtreme Venus Vacation」のビジュアル。 TVアニメ「平穏世代の韋駄天達」より、主人公のハヤト。
天原(アマハラ)
天原
2000年代中盤からインターネットにマンガの投稿を始め、新都社で発表した「平穏世代の韋駄天達」などが人気を博す。「33歳独身女騎士隊長。」を連載中で、「平穏世代の韋駄天達」「貞操逆転世界」「異種族レビュアーズ」は原作を担当。「異種族レビュアーズ」は2020年にTVアニメ化を果たした。
クール教信者(クールキョウシンジャ)
クール教信者
2ちゃんねるのニュー速VIP板の投稿作家を経て、新都社にて「ピーチボーイリバーサイド」などの作品を連載。自身のサイトやpixivで連載していた「旦那が何を言っているかわからない件」が2011年に一迅社より単行本化された後、4コママンガ「小森さんは断れない!」で商業デビュー。主な連載作品に「小林さんちのメイドラゴン」「小森さんは断れない」「ピーチボーイリバーサイド」「平穏世代の韋駄天達」「ぱらのいあけ~じ」「チチチチ」「ふたりぼっちのオタサーの姫」。2021年夏クールには「平穏世代の韋駄天達」のほか、「小林さんちのメイドラゴンS」「ピーチボーイリバーサイド」の計3作品のTVアニメが放送されている。
作田泰紀(サクダヤスノリ)
株式会社コーエーテクモゲームス Team NINJA所属。「DEAD OR ALIVE Xtreme Venus Vacation」にて、2017年11月のサービス開始当初からディレクターを担当し、2021年6月よりプロデューサーに就任。入社後に初めて携わったゲームは「DEAD OR ALIVE 3」(Xbox)。