デジナタ連載「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」|「これが観たかった!」フィルムの持つ情報量を豊かに再現、押井守が唸る4K有機ELビエラ

シンプルに「そう、これが観たかった!」

──さて最後は、本作のクライマックス。素子と多脚戦車の銃撃シーンです。天窓から煌めくガラス破片が降り注ぎ、銃撃のマズルフラッシュ(発火炎)が閃光を放つ。暗部とコントラストをなす光の表現が印象的ですが……。

「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」より。

いわゆる光りものですね。これもフィルムをデジタル化した場合には、ほとんど再現できなかった部分なんだけど、4Kリマスターと有機ELで見ると素晴らしい。積年の悩みがようやく解消されたというか、シンプルに「そう、これが観たかった!」という感じがします(笑)。そもそも、フィルムにおけるこういうフレアの表現は基本、透過光なので。

──マスキングを施したセルに直接光を当て、それを撮影する技法ですね。

それこそ「科学忍者隊ガッチャマン」(1972~1974年)とか、うちの師匠(鳥海永行監督)の頃からずっと使われてきたテクニックで。光そのものを写すという意味では、むしろ実写に近い。個人的には日本のアニメーションが生み出した最大の発明だろうと思ってるんですけど。過去に「攻殻機動隊」をデジタル化した際、現場が一番悪戦苦闘したのが、実は透過光だったんです。要は、どうしてもフィルムのようには輝いてくれない。デジタル変換すると、白ベタにしか見えないわけです。

──デジタルの場合、最大の輝度はあらかじめ決まっているので。一定以上の輝きはバサッと切られて、フラットな白になってしまう。

フィルムではもっと鮮烈に輝いていたとしても、エンジニアから「これが100%の明るさです」と言われちゃったら、手も足も出なかった(笑)。ラスト近くの銃撃戦だけでなく、例えば僕らが表示系と言っていたモニターやホログラムの類いもそうです。「攻殻機動隊」ではとにかく、マスキングを用いた透過光を多用しまくってたから。それが画面で再現できないのは、かなり痛手でした。でも4Kと有機ELの組み合わせで見ると、きちんと光ってますね。

「天使のたまご」「アヴァロン」「スカイ・クロラ」も4Kリマスター化してみたくなる

4Kリマスター版は、現行のテレビ放送など多くの映像が分類されるSDR(スタンダードダイナミックレンジ)に比べて、より広い幅の明るさを表現できるHDRに対応。今回もそれを生かしたリマスタリングが施されている。

──今回ご覧いただいている4K有機ELビエラ「FZ1000」は、暗部の階調を豊かに表現するだけでなく、画面全体の明るさに合わせて補正量を動的に変化させるテクノロジーを採用しています。それにより明るいシーンでも白飛びを起こすことなく、階調や色を忠実に再現できると。

ああ、なるほど。あとはやっぱり、HDRの威力も大きいですね。素子の銃口から発火炎が輝いているシーンでも、例えば銃弾で削れた石の壁のテクスチャ(質感)だったり、剥き出しになった鉄骨の断面だったり、暗部の表情もしっかり出ていますね。あとは銃のグリップに入れた微妙な光沢だったり。要は、1つの画面に光と影がきちんと共存してる。昔ならフィルムでしか再現できなかったそういうこだわりが、家庭のテレビでも楽しんでもらえるのは、やっぱりうれしいですよ。

押井守監督

──4Kリマスターとディスプレイの進化によって、作り手がイメージしていた「攻殻機動隊」の世界にぐっと近づいた。そういった感じでしょうか?

いくらパッケージが膨大な情報を持ってたとしても、モニター側にそれを再現する能力がなければ意味ないですからね。しかし、家庭用のテレビでここまで高いクオリティで再現できるなら、「攻殻機動隊」だけじゃなくほかの作品も4Kリマスターしてほしくなりますね。リニューアルは大好きなんです(笑)。1985年にOVAで出した「天使のたまご」も、実は暗部にすごい情報が詰め込んでありますし、「アヴァロン」(2001年)や「スカイ・クロラ」(2008年)も、チャンスがあればリニューアルしたいですね。4Kの解像度と有機ELの表現力があれば、当時の技術では再現できなかったイメージをうまくパッケージ化できそうな気がします。その意味でも今日は、面白いものを見せてもらったなと思います。

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自発光方式の4K有機ELパネルを採用した4Kビエラのプレミアムモデル。HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)の鮮やかな映像をブラックレベルゼロの漆黒から描き出すことができる。ビエラ独自の技術により、暗部だけでなく明部でも階調と色彩を忠実に表現。さらに世界的な映像文化の発展と次世代コンテンツの高品質化を目指す国際認証「Ultra HDプレミアム」を取得し、より高品位なHDR映像を楽しめる。

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押井守(オシイマモル)
テレビ番組の製作会社、ラジオ番組のディレクターを経て、1977年にタツノコプロへ。アニメの演出家となり、特に1981年から1986年まで放送されたアニメ「うる星やつら」で異才ぶりを発揮。同作の劇場版で監督デビューし、1984年公開の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」は高い評価を得た。1987年、「紅い眼鏡」で実写監督としてもデビュー。1995年の「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」は「マトリックス」ほか多くの作品に影響を与えた。

2018年6月29日更新