マンガとドラマの同時進行プロジェクト「デスゲームで待ってる」は、ヨーロッパ企画の上田誠が原案、同じくヨーロッパ企画所属の諏訪雅が脚本を手がける作品。“人殺し作家”というレッテルを貼られた若手放送作家が、ある女性との出会いをきっかけにデスゲーム作家となり復讐を遂げていく“リベンジ系エンタメショー”が描かれる。マンガは10月18日、ドラマは10月24日に放送・配信スタートした。
コミックナタリーでは上田と諏訪、そしてマンガの執筆を担当する愛須メノウの座談会をセッティング。常にデスゲームのことを考えているという上田が原案で意識したポイントや、マンガとドラマ、異なる媒体での制作過程などについて語り合ってくれた。最後のページにはマンガ「デスゲームで待ってる」の試し読みもあるので、お見逃しなく。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 武田真和
「デスゲームで待ってる」
主人公はプロデューサーや先輩作家たちから理不尽な仕打ちを受ける若手放送作家・戸村匠真。ある日彼は、事故で一般人を死亡させた番組のスケープゴートにされてしまう。“人殺し作家”というレッテルを貼られ、業界から干された戸村だったが、ある女性との出会いをきっかけに“デスゲーム業界”へと足を踏み入れることになり……。放送作家からデスゲーム作家となった戸村を描く“リベンジ系エンタメショー”が繰り広げられる。
マンガは10月18日よりLINEマンガ、ebookjapan、DMMブックスで先行配信。ドラマは10月24日にカンテレでの放送、DMM TVでの配信がスタートした。
日頃からデスゲームのことを考えている
諏訪雅(ヨーロッパ企画) 最初に「デスゲームを題材に復讐もののドラマをやる」という話を聞いたときは、まったく意味がわからなかったんですよ。「どういうこと?」って(笑)。
愛須メノウ 復讐ものとデスゲームもの、どちらも流行りの題材ではありますけど、その2つが組み合わさることで今までにない新しいジャンルになっているように思いました。私のところには「映像化される作品のマンガ版を担当しませんか」というお話として来たのが最初だったんですけど、大まかな内容を伺った段階では“復讐”と“デスゲーム”という要素がどう絡み合っていくのか、全然想像がつかなかったです。
上田誠(ヨーロッパ企画) 僕の中では、そこは割と自然に結びついたんですよね。もともとこの企画は、「復讐ドラマの枠で放送される作品の原案を」とお話をいただいたところから始まっていまして。その枠ではこれまでに夫婦ものやオフィスものをやってきていると聞いたので、僕らがやるならちょっと変化球のほうがいいのかなと。それで普通の復讐ものとは違う角度から考えようかなと思って、頭の中でデスゲームと結びついたときにこのタイトルを思いついたんです。「デスゲームで待ってる」って、なんかすごく復讐っぽいじゃないですか。
愛須 確かに。
上田 僕はけっこう、日頃からデスゲームのことを考えてるんですよ。
諏訪・愛須 日頃から(笑)。
上田 なんか好きで(笑)。そうすると、どんどん解像度が高まってくるんです。僕らは普段劇団をやっていて、ドラマや映画のお仕事もちょくちょくやらせてもらっているので、業界のリアルな裏側をよく知っているんですね。上司と部下の軋轢だったり、有無を言わさず進行するプロジェクトの裏で生じるスタッフの不満だったり……たぶん、デスゲーム業界というものがあるとしたら似たような裏側の事情があるに違いないと。それで、デスゲームというフィクショナルな題材に“業界のリアル”を持ち込んだら面白いものができるんじゃないか、という発想につながった感じです。
愛須 なるほど……!
上田 それに加えて、おっしゃったようにデスゲームものは流行りのジャンルなので、次々に作品が作られていて、ゲームの“裏側”が描かれるケースも増えてきていますよね。デスゲームに参加する人たちの視点だけじゃなくて、運営側の視点からも物語が語られるようになってきた。デスゲームというものに対する一般的な理解度や解像度も確実に上がってきていると思うんですよ。なので、今ならデスゲームの裏側を舞台にした作品も受け入れてもらえるだろうと。
諏訪 最初こそハテナでしたけど、プロットが上がってきてようやく「ああ、“デスゲームで復讐”ってそういうことか」と合点がいきました。テレビ業界から追放された放送作家の戸村という青年が、デスゲーム作家に転身して復讐する話なんですけど、「そもそもデスゲームって、作家がいるんや?」って感じですよね(笑)。でも確かに、企画する人や運営する人がいるからデスゲームが成立するというのは考えてみれば当然のことではあって。
上田 であれば、デスゲーム業界にも“業界あるある”があるはずなんですよ。僕らならそこをリアルに描くことができる。その1点のリアリティさえあれば、あとは全部大ウソでもいいというか。全部が全部リアルになるのもアレだし、全部がウソになるというのも……僕がこれまでに作ってきた演劇や映画にも共通していることですけど、荒唐無稽とも思えるような世界で繰り広げられる、ものすごくリアリティのある人間同士のやり取りが面白いなと思っているんです。
諏訪 「わざわざ大がかりなデスゲームを準備してまで復讐せんでも、ゲームに参加させるために弱みを握った時点でもう普通に復讐できるやん」みたいに思ったりもするんだけど(笑)、そこをいかに自然に見せるかというのが難しくもあり、面白くもあるところです。
ドラマとマンガ、同時進行だからできたこと
諏訪 実際に脚本を書く際にも、そのリアリティを一番大事にしてますね。劇団やテレビ制作会社などにおける“制作あるある”みたいなものをデスゲーム制作会社に置き換えて書いているので、「また予算が削られたけど、どうする?」「仕方ないからこの要素を諦めて規模を縮小するか」というような場面は実感を持って書けるわけです。企画会議のシーンなんかは特にそうですね。
上田 会議シーンに持ち込めたら、もう得意技というか(笑)。
諏訪 実際に普段やってることとほぼ同じなんで。例えば今回の脚本会議でも「こういうデスゲームはどう?」ということを実際に話し合うので、「この会議、そのまま脚本にできるんじゃない?」みたいな(笑)。
上田 僕は原案を考えただけなんで、後工程を担うおふたりのほうが絶対に大変だと思うんですよ。例えばドラマだと、言い方は悪いですけど制約が多いじゃないですか。デスゲームひとつ描くにしても予算というものがついて回るんで、「巨大な設備を使うゲームはできません」みたいな。そういうことは今回に限らず、映像の世界では普通にあることなんで。
諏訪 実際、ドラマではデスゲームの描写は最低限に抑えてますからね。
上田 それに対してマンガにはその制約がないから、ドラマでは描けないところまで描いてもらえる。そのぶん画力と想像力が求められるのは言うまでもないですけど、ドラマだけだったら入れなかったであろうアイデアも制限なく盛り込めたというのはあるので、それはマンガとドラマ同時進行という企画だからこそできたことですね。
諏訪 脚本を書いていると、やっぱりデスゲームを厚めに描きたい気持ちにはなっちゃうんですよ。そこが面白いところなんで……でも、「ここで無理にやらなくてもマンガで広げてもらえるんだから」と思えたのは大きかったですね。デスゲームの描写を最低限に抑えてドラマでやるべきことに専念できたのは、「マンガもあるんだ」という安心感があったからです。あと、ドラマには尺の制約もありますからね。全10話で全部のストーリーをやり切らないといけないっていう。
上田 ちなみにマンガは「何話目でどこまで描くか」とかは決まってるんですか?
愛須 一応ドラマの脚本をベースにして描いてはいるんですけど、マンガの場合はページ数との兼ね合いも見ながら区切りのいいところで切ったりもするので、明確には決まっていないですね。先のことはまったくわからない状況です。
上田 ということは、全何話とかは決まっていない?
愛須 そうですね。マンガの連載はできる限り長く続けることを目指すものなので、終わるタイミングは決まっていないです。なので連載が軌道に乗ればドラマ以上に話を膨らませながら描いていくことになるかもしれないですし、違う結末になったりすることもあり得ると思います。
上田 連載が長く続けば、ドラマの最終話よりも先の話まで描けることになる可能性もあるってことですよね。戸村の息子の世代まで復讐が続いていったりとか。
愛須 それも面白そうですね……!
上田 やっぱり最初にお話を考えるときって、どう転がってもいいように“箱”をしっかり作ることを心がけているんですよ。今回はとりあえずドラマ最終話までの流れだけを考えましたけど、まったく違うストーリーのタネを入れても成立するようにはしてあるんで、遠慮なく長寿連載を目指してください(笑)。
次のページ »
ドラマ第1話はマンガをそのまま脚本化