大森藤ノ(原作者)インタビュー

読者の言葉から生まれた異端児(ゼノス)編

──いよいよ、「ダンまち」の第3期の放送がスタートします。今の率直なお気持ちを教えてください。

「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」9巻

これは、今と言うよりも第3期が決まったときの気持ちになるのですが、最初は「どうなるんだろう」という不安が少しありました。もちろんうれしい気持ちはあったのですが、自分自身も第3期で描かれる異端児(ゼノス)編はとても難しい内容だと感じているので。「小説を執筆するのも大変だったのに、アニメになるとどれぐらいのカロリーがかかるんだろう」と。キャラ数も非常に多いですしね。それに展開もなかなかにアレなので、「お客さんたちは大丈夫かな。スタッフさんたちも本当にごめんなさい」みたいな(笑)。でも、制作が進んでいき、PVなども観させていただいて、今はとても楽しみになっています。自分が「いちファン」というのもおかしいですけれど、原作者としてではなく、「アニメを観る1人として楽しみに待っている」というのが今の心境です。

──異端児編が始まる第9巻のあとがきに、「本編一巻の頃から叶うならやりたいと思っていたエピソード」と書かれていました。人の言葉を話すモンスターとベルが出会うという物語を書きたいと思った理由を教えてください。

ウィーネは竜女(ヴィーヴル)の異端児の少女。

かなり昔に遡ってしまうんですけれど、GA文庫さんでデビューする前、「ダンまち」をWeb小説として投稿していたとき、感想欄で読者の方に「オリジナルのファンタジーを書くのは初めてなんですけれど、皆さんはどういう展開がお好きですか?」とお尋ねしたことがあって。そのとき、真っ先に挙がったのが「モンスター娘が見たい」という発言で、確かにそれは自分もワクワクするなと思ったんです。ベルとミノタウロスの戦いを書きたくて始めたWeb小説ではあったのですが、それからは「いつかモンスター娘を出したいな」というのがひとつのモチベーションになりました。その後、デビューさせていただいてからも、当時の気持ちはずっと覚えていて、言葉を話すモンスター娘が登場する異端児編をいつか書きたいと常にタイミングを探っていました。実は、その伏線は1巻から仕込んでいたんです。今、考えると新人賞に応募した作品でやることじゃないですね(笑)。それが第9巻と第10巻でようやく結実したというか。やっと書くことができたときには、万感の思いがありました。

──アマチュア時代のファンの声に応えて生まれた展開でもあったのですね。

そうですね。当時の読者さんが「『ダンまち』を応援しています」というすごく温かいコメントを寄せてくださって、自分もそれに応えたいという気持ちがあったから、生まれた異端児編と言えるかもしれません。

──先ほど「執筆するのも大変だった」というお話もありましたが、展開などに悩むことの多かったエピソードだったのでしょうか?

展開に悩んだというよりも、この異端児編で一気に「ダンまち」のカロリー量が増えたんです。第6巻、第7巻ぐらいから総力戦というか、いろいろなキャラクターが入り乱れて戦うシーンを書いてきてはいたんですけど、もっと多くの勢力が入り乱れる異端児編ではその規模がますます大きくなって。10巻は書くのが本当につらかったです(笑)。そのおかげでかなり自分もレベルアップした実感はあるんですけど、当時は「『ダンまち』という物語に殺されそう」と初めて思いました。そういった経験も含めて、異端児編は自分の中でかなり特別な存在です。

ウィーネは異端児編を駆け抜けるにあたっての加速装置

──ウィーネは、本作の中で、どのような魅力や立ち位置を担うヒロインとして生まれたのでしょうか?

実は、ベルよりも年下のヒロインはウィーネが初めてなんです。

──それは気付きませんでした!

ウィーネ

ベル自身はリリが年下だと思って接していたかもしれませんが、リリのほうが年上ですしね(笑)。ウィーネは生まれたばかりの実質0歳児なので、ベルにとっては庇護の対象で、いわゆる「攻略対象」と呼ばれるヒロインではなくて、妹や娘、子どものような存在だと思っています。ほかのどのヒロインとも立ち位置が違う存在であり、ベルが異端児編を駆け抜けるにあたっての加速装置になったんじゃないかなと。

──先ほど行ったインタビューで日高さんも気にされていたのですが、日高さんの演じるウィーネに対しては、どのような印象を受けましたか?

第1話の収録に立ち会ったとき、日高さんは「生まれたばかりの0歳児だけど、理性はある」という設定をすごく汲んで演じてくださっていることを感じて。「ただかわいいだけの女の子」にしようとはしていないことが、個人的にも原作者としても、とてもうれしかったんです。もちろん、無邪気なシーンや、松岡さんの演じるベルとのやり取りも微笑ましくてよかったんですが、そこからの変化や成長というところも含めて、ああ、すごいなあ、といいますか(笑)。日高さんに演じていただいて、本当によかったと思っています。

──日高さんも、この記事を読まれたら安心すると思います(笑)。では、この第3期の物語の中で、ベルとウィーネ以外にも、注目してほしいキャラクターがいれば教えてください。

ベルに剣を突き立てるアイズ。

そうですね……一番言いたいキャラクターは、ネタバレになるので我慢しまして(笑)。個人的には外伝アニメ「ソード・オラトリア」に先行して登場していたフェルズというキャラクターの言動に注目していただけたらうれしいです。異端児編を含めて、とても大切に描いていたキャラクターなので。あとは敵役ですごくヘイトを買うとは思うんですけれど、イケロス・ファミリアのディックスとか。ウィーネ以外の異端児、リド、グロス、レイももちろん注目してほしいです。キービジュアルに描かれているアイズやヘルメスも今回はすごくて……って、これだと全員になっちゃいますね、ごめんなさい(笑)。

──それだけ多くの勢力、多くのキャラクターが入り乱れる物語になるわけですね。

イケロス・ファミリアの主神イケロス。眷族達の非道な行いを知ってなお、自分が楽しければ止めない非情な性格の持ち主。

はい。すべて妥協せずに書いたつもりなので、みんなをまんべんなくというか、「シーンごとにいろいろなキャラクターを見てほしい」という言い方が正しいのかも。「そのシーンでは、そのキャラクターがどういう表情で、どんな考え方をしているのか」なんて考えながら観ていただけると、より面白いかもしれません。あとは、福島潤さんの演技を含めて、アニメのイケロスは原作よりもすごい神様になったんじゃないかなって、個人的には思っています。

──最後に、第3期を楽しみにしている「ダンまち」ファンの皆さんに、メッセージをお願いします。

今回は明確な敵と戦うというよりも、現実に負けないように、ベルもいろいろな人たちも抗い、戦っていくという、これまでとは異なる展開が待っています。あと、「ダンまち」は、「ダンまち」の世界に生きている人たちの話なので、あまり自分の世界の事情や現実は反映させないようにしているんですけれど……異端児編には、ある種、どんな世界にも通じる普遍的なメッセージ……と言うと傲慢かもしれないのですが、とにかくそれに近いものが描かれているんじゃないかな、と今になって感じています。なので、ベルの冒険、決断を見守っていただけると幸いです。

大森藤ノ(オオモリフジノ)
第4回GA文庫大賞にて大賞を受賞。2013年1月、受賞作「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」が書籍化しデビューを果たした。同シリーズからは本編15巻、2017年にTVアニメ化された外伝小説「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 外伝 ソード・オラトリア」12巻、新たな外伝小説「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ファミリアクロニクル」2巻が刊行されている。なお10月15日には本編の最新巻となる16巻が発売予定。