「大ダーク」|全宇宙がぼくたちを追っている 「ドロヘドロ」林田球によるSFコメディここにあり! 「ドロヘドロ」の大ファン 木村良平からコメントも!

18年続いた「ドロヘドロ」の連載に幕を下ろしたのち、林田球が2019年3月にゲッサン(小学館)でスタートさせた「大ダーク」。同作は14歳の少年が相棒とともに、広い宇宙を大冒険するSFコメディだ。

コミックナタリーでは「大ダーク」の2巻発売に合わせ、林田にインタビューを実施。SFは自分には描けないと諦めていたという林田が、宇宙を舞台に選ぶまでの経緯を語った。また「ドロヘドロ」から変わらない、「嫌いなものを避け、好きなものだけを描く」という譲れないこだわりについても言及。最後には、かねてより林田の大ファンであり、アニメ「ドロヘドロ」にも出演した木村良平が、「大ダーク」を読んでのコメントを寄せている。

取材・文 / 三木美波

「大ダーク」イラスト

「大ダーク」とは… 「ドロヘドロ」の林田球が放つ、大宇宙SFコメディ!

舞台はどこまでも暗闇が広がる宇宙。14歳のザハ=サンコはどんな願いも叶える“骨”と、特別な力を宿す“闇のニーモツ”を持っているため、全宇宙人からその身を狙われていた。そんな彼を相棒として手助けするのは、闇のニーモツのアバキアン。彼らは今日も宇宙を股に掛け、次々と襲い来る敵をなぎ倒していく。

「大ダーク」をきっと読みたくなる4つのポイント

1名前も性格も一癖ありのキャラクター

“4匹の害悪”と呼ばれ、謎の組織・光力塊(コウリョクカイ)から抹殺対象とされているザハ=サンコ、アバキアン、死ま田=デス、一(はじめ)=ダメ丸。サンコは襲いかかってくる悪党たちを淡々と退治していくためドライな性格かと思いきや、ミートボール・スパゲティをパンに挟んだ“みぼすぱん”が好物だったり、デスのことを初めてできた友達として慕っていたり、子供らしくチャーミングな一面も持っている。アバキアンの面倒見のよさ、デスのナイスバディ美女っぷり、そしてダメ丸のまだまだ謎の多いところも魅力だ。

2「ドロヘドロ」ファンじゃなくても全然問題なし!
ブラックホールを通り、闇の世界・クライへ向かうサンコ。

林田が2000年から2018年にかけて発表し、2020年1月にはアニメ化もされた「ドロヘドロ」。ダークでバイオレンスな印象から同作を避け、「大ダーク」も似たような作風だったら……と手を出していない人もいるのでは? しかしそんな心配は一切ご無用。「大ダーク」は「ドロヘドロ」にもあったコメディ要素がさらにパワーアップ。14歳の少年・サンコによる宇宙の大冒険が、アップテンポで賑やかに描かれていく。

3でも、「ドロヘドロ」読者も楽しめる要素がたくさん
「大ダーク」のキャラクターたちの多くも、「ドロヘドロ」のキャラクター同様にマスクを装着する。

「大ダーク」は「ドロヘドロ」を未読でも楽しめるが、読んだことのある人は共通点をたくさん発見できるかもしれない。第一に、登場キャラクターがかぶっている“マスク”。また闇の船の本体・モージャも、「ドロヘドロ」に登場する恵比寿とキクラゲの要素を掛け合わせたような愛らしさだ。そのほかに主人公を囲む陽気なキャラクターたちも「ドロヘドロ」から相変わらず健在している。

4単行本にこだわりを詰め込みまくり
「大ダーク」1巻

「大ダーク」の単行本は、なんと珍しい透明のプラスチックカバー。通常時はおどろおどろしいマスク姿のサンコがデザインされているが、カバーをめくると、みぼすぱんを持ってうれしそうな素顔のサンコが登場する。林田と担当編集のこだわりを詰め込んだ単行本を手に取って隅々まで楽しんでほしい。

林田球インタビュー

もう宇宙しかない

──2000年にスタートした「ドロヘドロ」が2018年9月に完結し、翌年3月に「大ダーク」の連載が始まりました。ファンとしては新作をすぐ読めてうれしい限りですが、18年の長期連載のあと、休憩とか息抜きとかしなくて大丈夫なのかな、とも思ってしまいまして。

いや、大丈夫じゃなかったです。無茶を……かなり無茶をした感じでして(笑)。

──「ドロヘドロ」のアニメ化もあってお忙しかったと思うので、なんとなくお察しします。

2017年に連載誌のヒバナがなくなってしまってゲッサン(ともに小学館)に移籍したときに、すでに「ドロヘドロ」のアニメの話が走っていたんです。実際は2020年1月に放送スタートだったんですが、当時は2019年の秋アニメの予定でした。「アニメと同時に新連載の1巻を出したいね」とゲッサンの当時の編集長に言われ、「ドロヘドロ」が終わったときにはもう新連載の掲載号が決まっていまして。

──「ドロヘドロ」が完結したゲッサン(2018年10月号)の予告に「二○十九年春頃開始──!!!」とありましたね。「ドロヘドロ」が終わってから「大ダーク」がスタートするまでの半年間は、ずっと「大ダーク」の準備を?

いや、全然そんなことはなく。「ドロヘドロ」の最終巻とオールスター名鑑完全版の作業、全員サービスのカレンダー、「ドロヘドロ本」など、アニメの放送に合わせて「ドロヘドロ」の企画がかなり動いていまして。基本的に準備期間はほぼゼロ。「大ダーク」1話のネームを描き始めたのは、2019年1月くらいだったと思います。主人公の外見も性格も、全然決まらなくって。「主人公って難しいね」って言いながら何カ月も経っちゃった。

(担当編集) 1月くらいに編集長に「『大ダーク』、タイトル以外影も形もないけど大丈夫?」って言われました(笑)。

編集長のOKを取る前に、連載が始まることだけ決定してるっていう……。

──それはすごい(笑)。「大ダーク」は宇宙を駆け巡るコメディです。どんなきっかけで生まれたんでしょうか?

宇宙を駆け巡るサンコ。

「もう宇宙しかない」と思ったんです。

──と言いますと?

先ほども言ったように、ゲッサンに新連載の予告を打たなきゃいけないのに、構想は真っ白。ただ、私はネタ帳みたいなスクラップブックを作っていて、好きなもの、好きな用語、いずれ描いてみたいネタ、雑誌の切り抜きとかをそれに集めていまして。新連載のネタになる可能性があるのは、ネタ帳にメモっていた「宇宙」だけだったという感じです。

──宇宙がお好きなんですか?

もともと、映画の「エイリアン」が好きなんです。あと宇宙でクリーチャーと戦う「Dead Space」という洋ゲーが大好きで、ものすごく長期間やっていまして。クリア自体はすぐなんですけど、何年もかけて何周も何周もやっていた。だから宇宙はすごく好きだったんですが、宇宙……つまりSFは私には描けないとほぼ諦めていたんです。でも新連載の予告はしなきゃいけなくて、「宇宙でいく、好きだからなんとかなるだろう」と宇宙と向き合うことになりました。

──「大ダーク」はまさに「宇宙、惑星、大冒険」という予告の通りの展開ですね。

ゲッサン2018年10月号に掲載された「大ダーク」の予告ページ。

担当編集に「予告には内容が多少わかるように書きたいんですが、『宇宙、惑星、大冒険』でどうでしょうか?」と言われて「じゃあそれでなんとかします! それでいきましょう!」と(笑)。

──それで大冒険に(笑)。ノリで決めたというか、いい意味で軽い感じですね。

準備期間もないし、「できるだけのことをとにかくやってしまおう!」みたいな感じで始めましたね。「ドロヘドロ」が長期連載できつい時期もあったので次は軽いものを、という思いもありました。

──確かに「ドロヘドロ」は娯楽大作ではありますが、ダークファンタジーでホラーでミステリーで……と要素が盛りだくさんなうえに連載が18年続いたから、ちょっととっつきづらいイメージがあるかもしれません。でも「大ダーク」は親しみやすいコメディですよね。

そうですね。本当に軽く読める、ちょろちょろって読んでもらうのに適したマンガかなと。「ドロヘドロ」にもコメディ要素はありましたが、「大ダーク」は本当にコメディだと思っています。