「大ダーク」|全宇宙がぼくたちを追っている 「ドロヘドロ」林田球によるSFコメディここにあり! 「ドロヘドロ」の大ファン 木村良平からコメントも!

「魔剣X」で開眼し、オリジナルの「ドロヘドロ」へ

──「大ダーク」は追い詰められながら構想を練ったことがわかりました(笑)。「ドロヘドロ」を開始するとき、林田さんはまだ大学生だったと思いますが、けっこう準備期間は取れたんですか?

いや、全然ストーリーも決めてなかった。そう考えるとやっぱり同じですね、こういう運命なのかもしれない(笑)。

──「ドロヘドロ」1、2話のときは、まだドリームキャストのゲーム「魔剣X」のコミカライズを描かれていたんですよね。

ええ。「魔剣X」のマンガは打ち切りと決まったんですが、改良版の「魔剣爻」がプレステ2から出るので「やっぱり続けようか」という話もあったんです。「魔剣X」は本当に素敵な仕事だったんですが、ちょうどその頃開眼したというか、自分が描きたいものがはっきりわかってオリジナルをやりたいという思いがありました。そうしたら「魔剣X」を読んだIKKI編集部の堀(靖樹)さんが電話をくれたのでお会いして、「ドロヘドロ」の世界観をイメージしたチラシを見せたんです。そしたらその場でOKが出て、「3カ月後に連載開始ねー」って言われて(笑)。「なんだって!?」と。

左から「大ダーク」のサンコ、アバキアン、「ドロヘドロ」のカイマン、恵比寿。

──そしてIKKIでの連載が始まったと。やっぱり「大ダーク」と似てますね。

「大ダーク」より「ドロヘドロ」のほうが大まかにはストーリーがありましたが、それでも描きながら決めていった部分は大きいですね。

(担当編集) 通常、マンガを始めるときはネームを3話分くらい溜めて、途中でボツとか修正とかしながら企画会議に出して連載が決まるという流れなんですが、林田先生の作品は企画自体がもう通っちゃってる。めちゃくちゃ珍しいタイプの作家さんです。

だから毎回、ストックがゼロのままで始めてる。スケジュールがめちゃくちゃで、ずーっと余裕がない感じです。

ゲッサンで骨とか描いてるの、私だけなので

──「大ダーク」の主人公・ザハ=サンコについて聞かせてください。先ほど、サンコのキャラクターが全然決まらなかったとおっしゃっていましたが。

そうです。名前も決まらない、性格も決まらない、どうしよう、と。あーでもないこーでもないと言っているうちに、あんまり固まりきらないまま1話がスタートしました。一人称は「ぼく」で、14歳にしてみようか、くらい。でも私は普通の少年を描くのはあまり得意ではないので、でかくしようと。

サンコは“闇の皮”をパンツに擬態させ、悪党たちからの没収を免れた。

──確かにサンコは190cmありますし、少年とは思えぬかなりガッチリした体格です。

ええ、思春期の少年キャラクターってかなり多くの人が描いてますけど、私はその土俵ではほかの人に勝てない。みんなが好きなものに興味がなくて、興味がないってことは魅力的に描けないということなので。最初は主人公をおっさんにしようとか、すごくぽっちゃりにしようとか、いろいろ考えたんです。自分が好きになれるキャラクターというのは大前提として、みんなが描かない主人公のほうが、まだ勝機があるかなと。それでおじさんやぽっちゃりキャラ、青年も描いてみたんですが、尖りすぎていたりキャラクターがカイマン(「ドロヘドロ」の主人公)と被ったりでピンと来なくて。試行錯誤するうちに、14歳と言いつつ少年らしさを排除したサンコが生まれました。

どんな望みも叶う“骨”を持つサンコは、どんな場所でも骨を狙われる。

──少年らしさを排除したとおっしゃいましたが、サンコは14歳らしい幼さとカラッと達観したところを併せ持つキャラクターだと感じました。無邪気に死ま田=デスに抱きついたり、悲壮感もなく淡々と「ぼくの人生すでにけっこう地獄だし」と言ったりと、ギャップが魅力だなと。

そうですか? ありがとうございます。確かに描いてみると、20代後半の主人公だったらこの言動にはならないな、と思う部分も多いですね。

──14歳を主人公に据えたのは、連載誌がゲッサンだからといった影響はありますか?

そんなことを考えている余裕はない状態でした(笑)。でもゲッサンって、恋愛を描く作品がすごく多いんです。「大ダーク」のスタート時は、それこそ「からかい上手の高木さん」がアニメ化してすごく盛り上がっていて。私はキャラクターが顔を赤らめたり、涙をポロポロ流したりといった恋愛や青春の描写を描けないので、「恋愛を描かずにネームが通るのか!?」とちょっと悩んだこともありました。ゲッサンで骨とか描いてるの、私だけなので。

巨大小学校船タイボクガンで、光土コンテナの使い方を学ぶ8歳のサンコ。

──誌面で異彩を放ってるんですね(笑)。「大ダーク」では時たま、サンコが8歳のときの小学校のエピソードが描かれます。現在と過去が行き来するのには何か意図があるんでしょうか。

私は「おかしなガムボール」や「ぼくはクラレンス!」といったカートゥーンアニメばかり観ているんですが、小学校が舞台の作品が多いんです。学校は嫌いなんですが、カートゥーンを観続けていたらアメリカの小学校が大好きになってしまって。日本の小学校は一切描きたくない、でもアメリカの小学校……というか、自分が考え出した小学校だったら描けるかも、と。ネタ帳に「宇宙」とは全然別の箇所で「小学校」とメモっていたんですが、新連載のネタとして「宇宙」とくっつけてみようかと思って。

「大ダーク」は4人が宇宙船に乗って珍道中するコメディ

──「大ダーク」でお気に入りのキャラクターは誰ですか?

今描いてて楽しいのは宇宙船のモージャかな。

──かわいいですよね! 見た瞬間、グッズ化してほしいと思いました。

ありがとうございます。モージャは赤べこみたいなので、張り子を作りたい(笑)。「ドロヘドロ」の恵比寿とおんなじような枠のキャラクターなのかなって思ってます。

──あ、なるほど。同じマスコット的なキャラクターでも、キクラゲの枠かと思っていましたが、確かにモージャはしゃべるから恵比寿かもしれません。

まだ物語ではたどり着けてないんですが、「大ダーク」は4人が宇宙船に乗って珍道中するコメディなんです。だから1巻の最後でとにかくサンコを宇宙船に乗せたくて、モージャのデザインを必死に考えました。

──4人というと、1話のカラーページと1巻の最後にチラッと出てきた“4匹の害悪”ですか? ザハ=サンコ、“闇のニーモツ”・アバキアン、サンコの友達の死ま田=デス、そして1巻ではほとんど出てこなかった一(はじめ)=ダメ丸の4人。

「大ダーク」1巻のラストより。

そうです。ネタ帳に「4人が一緒にいる」というメモがあって、4人のチームを描いてみたかった。それもやっぱり4匹のペンギンを描く「ザ・ペンギンズ from マダガスカル」とか、アメリカのコメディアニメに由来するんですが。

──「ドロヘドロ」の魅力のひとつはカイマンとニカイドウの友情だと思っていて、「大ダーク」でもサンコとアバキアンのバディを中心に描かれるのかと思ったんです。でも1巻の最後で4人がすごくカッコよく出てきて、「もしかして4人の物語なのかな」と。

そう、そこは「4人で行きますよ」と示そうという意志がありました。でも唐突すぎたのか編集部の人からも「一=ダメ丸ってどこの誰?」って(笑)。

──あはは(笑)。確かに1話のカラーページには出ましたが、本編にはここが初登場でしたね。2巻収録のエピソードでは一=ダメ丸もけっこう出てくるので楽しみです。

まだあんまり活躍はしないかもしれませんが……(笑)。