いくら才能があっても自信がないとダメ
──「DRAGON QUEST―ダイの大冒険―」もジャンプからの選出です。
「DRAGON QUEST―ダイの大冒険―」文庫版1巻
©三条陸・稲田浩司/集英社 ©SQUARE ENIX
これは僕が「ドラゴンクエスト」がめちゃくちゃ好きだっていうのもあってのチョイスですね。当時「ドラゴンクエスト」のマンガってすごく多かったんですけど、そんな中でも「ダイの大冒険」はポップがすごすぎて。
──ポップこそがこのマンガの主役だという人も多いくらいですよね。
最初の頃は何かあったらすぐに逃げ出したりする、まあひどいキャラですけどね(笑)。でも周りが天才ばかりだから、「自分がもしこの世界に行ったらこうなっちゃうんだろうな」っていうのはわかります。
──読者の目線に近いキャラだからこそ、より共感しやすいのかもしれませんね。
あんな弱虫だった男が、覚醒して大魔導師に成長していって、主役のダイを食うくらいの活躍をするようになるわけですから。そんなマンガなかなかないですよね。リアルタイムで読んでいた世代の人たちは、ポップの活躍にそうとう勇気づけられていたと思いますよ。これは「ろくでなしBLUES」のヒロトの成長にも言えることですけど。
──今回の特集に絡めて言うと、ポップやヒロトのがんばっている姿にマンガーマネジメントされたということですかね。
ええ。これはポップが体現していることなんですけど、いくら才能があっても自信がないとダメなんですよね。お笑いで言えば、自分が自分のファンじゃないと絶対に人にはウケない。だから、天狗になるということではないですけど「共演者が誰であれ、今日一番ウケるのは自分だ」くらいの気持ちは常に持っておかないといけないですし、そういう自信がないと仕事をくれた方にも失礼だなと思っていますね。じゃないと自分の中にある「アバンのしるし」(※)が光らないですから。若い人は「自分は選ばれてない人間だ」って思っちゃうことがあるかもしれないですけど、自分がやりたいと思うことを続けていく中で才能が開花することも多々あるんで、夢に悩んでいる人にはぜひ手に取ってほしい作品ですね。
※勇者の家庭教師であるアバンが、弟子に対して卒業代わりに送るペンダント。所有者全員のしるしが光らなければならないという状況下で、ポップは自分のしるしのみが光らず苦悩することになる。
自分を鼓舞するときに読みたいマンガ
──最後は「キングダム」です。この作品はムーディ勝山さんに薦められたとのことでしたが、いつ頃のことだったんですか?
「キングダム」1巻
©原泰久/集英社
多分10巻も出てないくらいのときだったと思いますね。品川の書店で、とりあえず3巻まで買ったんですよ。それで新大阪まで行く新幹線の車内で読んだら、もう止まらなくなっちゃって。
──同じようにケンドーコバヤシさんもムーディ勝山さんから「キングダム」の話を聞いて、読み始めたそうですね。
もうほんとに血湧き肉躍るんですよね。今54巻まで出てますけど、ずっとダレずに面白いってなかなかないじゃないですか。原(泰久)先生とも何度かお会いしてご飯に行っているんですけど、あの人が一番作品のファンなんですよね。先生が出演していた情熱大陸も観ていたんですけど、描きながら自分で泣いていたりして。そこまで「キングダム」のことを愛しながら描いているっていうのが、中だるみがない理由かもしれませんね。
──「キングダム」で川島さんが印象に残っているのはどのキャラクターですか?
これもヒロト、ポップに通ずるんですけど、壁っていう、あの世界では一般人に近いキャラクターですね。
──「キングダム」の映画で壁役を演じた満島真之介さんも、記者会見で「壁はお客さんと近いキャラになっているので、壁を追いかけるとストーリーが見えてくる」とおっしゃっていました。
言ってしまえば壁は人のいいおじさんですからね(笑)。原先生も壁が好きらしいですよ。これは単行本のあとがきにも書いてあったことなんで言っちゃいますけど、壁って史実だとけっこう早くに亡くなっちゃうっていう説があるっていうのを、一緒に飲んだときに聞いたんですよ。
──文献には早くに「壁死」という言葉が出てくるらしいですね。
「壁死」っていうのは壁という人物が死んだという意味以外に、城内で人が死ぬていう意味もあるらしいんですよね。だからこの「壁死」っていうのは、「城内で人が戦死したっていうことにとれないか」と考えて、「壁死」という言葉が出てくるところでは壁が生き残ったそうなんです。そこまでした壁が、最近ようやく劇中でスポットが当たったのはうれしいですね。壁みたいな普通のおじさんが活躍して出世していくっていうのは、我々世代の希望になりますし、サラリーマンの人に読んでほしいです。
──「キングダム」はビジネス書として取り上げられることも多いですしね。
出世物語ですもんね。僕はサラリーマンではないですけど、自分を鼓舞するときに読み返したりしてます。
──読み返すときはご自宅で読まれるんですか?
そうですね。新刊は移動中、既刊は自宅で分けています。「キングダム」の新刊に関しては移動中でも環境が整わないと読まないですね。大体隣に人が座っていたら読まないですし、近くで宴会していても読まない。だから発売日に買っても、読み終わるのがめっちゃ遅くなったりするんですよ。最初から寝室で読んどけって話なんですけど(笑)。
娘に読ませたいのは……
──インタビューの最初に「サブキャラクターを好きになることが多い」とおっしゃっていましたが、どうしてなんでしょうか。
歳を取ってくると、自分が特別じゃない人間だっていうのはみんなわかってくるじゃないですか。そうなったときに、「自分に似たキャラクターが、マンガの中で何をしてくれるのか」っていうところに魅力を感じるんですよね。だからもっと歳を取ったら「あしたのジョー」で言えば、マンモス西とか青山くんみたいなキャラクターに共感するようになるかもしれないです。
──決して物語の主役にはなれないけど、それぞれの人生をがんばっているような。
そういうキャラを応援しちゃうでしょうね。
──ちなみに川島さんは電子書籍って普段お使いになられていますか?
めちゃくちゃ使ってますよ。今日話した作品で言ったら「ろくでなしBLUES」なんかは電子書籍でも買ってます。Twitterで誰かが褒めていたり、飲み会で後輩が勧めてくれたマンガをパッと買えるのがいいですよね。たぶん電子書籍だから出会えたっていうマンガもあると思います。これもムーディが薦めてくれたやつですけど、「ジャイアント」(山田芳裕)っていうマンガはけっこう昔の作品で、紙だとなかなか買えなかったりするので。
──では最後に、本日紹介していただいたマンガの中でお子さんに特に薦めるとしたらどの作品になりますか?
正直言って……現時点では1個も薦められないですね(笑)。まだちっちゃいですし、女の子なので。まずは「ドラえもん」(藤子・F・不二雄)から始めて、成長して読みたいって言ってくれたときに渡そうかなと思います。