コミックシーモア|川島明(麒麟)がチョイスした、昭和・平成から令和に語り継ぎたいマンガ5選

マンガって人生の教科書になるんやな

──「寄生獣」「ろくでなしBLUES」「DRAGON QUEST―ダイの大冒険―」は1980年代末期に連載スタートですが、まずは「寄生獣」についてお伺いできますか。

「寄生獣」1巻

「寄生獣」1巻

これも「あしたのジョー」と同じで、リアルタイムで読んでいたわけではないんですよね。高校生のときに友達が「すごいぞこれ」って持ってきたんです。今考えると初めて読んだ青年マンガだったと思いますね。

──最初から名作を手に取りましたね。

今読んでもトップクラスにおもろいですからね。子供の頃って「人間はどこから来て、今なんでここにいるんやろ?」とか「死んだら霊になるのか? それとも完全に無になるのか?」みたいなことを考えて、怖くなる夜が誰にでもあるじゃないですか。そういう答えがうっすら描いてある作品なんじゃないかと思うんですよ。この作品で、自分の中でマンガへの見方そのものが変わった部分がありますね。

──それまではマンガというのは川島さんの中ではどういうものだったんですか?

イメージ的にはマンガ=少年ジャンプでしたね。まあさっき挙げた「あしたのジョー」は少年マガジンですけど(笑)。当時はジャンプ作品を単行本じゃなく雑誌で読んでいて、「『みどりのマキバオー』(つの丸)がTVアニメになるらしいで! 楽しみやな」みたいなことを友達と話していたんですけど、あくまでマンガはマンガで影響を受けるとかは考えたことがなかったんですよね。でも「寄生獣」を読んだときに、「マンガって人生の教科書になるんやな」ということを教わったというか。

──先ほど高校時代に進路に悩んでいた際、「あしたのジョー」が養成所に通う後押しをしてくれたとおっしゃっていましたよね。同じ高校時代に「寄生獣」を読んで「マンガが人生の教科書になる」ということを感じ取っていなかったら、「好きなことで燃え尽きる」という矢吹の生き方に、その後の人生を決定づけるほどの感銘は受けなかったかもしれませんね。

田宮良子(田村玲子)が表紙を飾った「寄生獣」8巻。

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田宮良子(田村玲子)が表紙を飾った「寄生獣」8巻。

そうですね。「マンガってゲラゲラ笑うだけじゃなくて、ストレートにメッセージを受け取ってもいいんやな」って教えてくれた最初のマンガなので、「寄生獣」がなかったらマンガの受け取り方も少し違っていたかもしれないです。

──ちなみに川島さんは今回、サブキャラクターが魅力的な作品を選出したとおっしゃっていましたが、「寄生獣」で好きなキャラクターを挙げるとしたら誰になりますか?

田宮良子ですかね。彼女はほかの寄生生物とは一線を画しているじゃないですか。寄生生物なのに最後は自分の赤ちゃんを守って死ぬ、人間になって終わるっていうのがいまだに泣ける。「人間とはなんなのか?」みたいな「寄生獣」のひとつのテーマを持っているのは彼女だと思ってます。

後輩に何かあったら守ってあげたいなって思うように

──ジャンプを愛読していたとのことでしたので、「ろくでなしBLUES」はリアルタイムで読んでいた作品になるんでしょうか。

川島明

これはリアルタイムで読んでいたんですけど、正直子供の頃はあまりピンとこなかったんですよ。でも歳を取るにつれておもろいなと感じるようになってきて。「あしたのジョー」と同じで20代、30代、40代で感情移入するキャラが変わってくるんですよね。

──具体的にはどう変わっていったんですか。

20代のときはやっぱり「太尊カッコいいな」ですね。主役であり、物語の中でもっとも強いチャンピオンであり、不器用だけど後輩思いっていう。30代になると鬼塚とか葛西、それに薬師寺もですけど四天王にもそれぞれバックボーンがあるっていうのがだんだんわかってきて、あいつらカッコええなって思うようになるんですよね。

──確かに子供のときに読むと、特に登場時の鬼塚や葛西は悪いキャラクターという印象が強いかもしれないですね。

そうなんですよ。でも鬼塚は孤独になることへの恐ろしさから暴力を振るうしかなかったんだっていうのがわかりますし、葛西も動き続けないと仲間がいなくなっちゃうからっていう寂しさで強い人間を倒すことに執着してますから。僕は「DRAGON BALL」(鳥山明)もめちゃくちゃ好きなんですけど、例えばフリーザって、どういうバックボーンがあって悪い奴になったかって作中では描かれてないじゃないですか。ただただ悪くて怖いやつというキャラクターだから。もちろんそれも魅力的なんですけど、「ろくでなしBLUES」は敵キャラクターにもドラマがあるっていうのがいいですね。

──40代ではどのキャラクターがお好きになってきたんですか?

最近はヒロトですね。20代、30代の頃は読んでると、「こいつホンマいらんことばっかりして足手まといやな」って思ってたんですよ。

──ケンカっ早くてトラブルメーカーなので、問題ばかり引き起こしますから。

「英雄にあこがれて」が収録されている「ろくでなしBLUES」文庫版23巻。

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「英雄にあこがれて」が収録されている「ろくでなしBLUES」文庫版23巻。
©森田まさのり・スタジオヒットマン/集英社

40代になると、そういう部分もかわいいなって思えるようになるんですよ。太尊の後ろにいるだけじゃダメだって、太尊にタイマンを挑む回は痺れましたね。

──「英雄にあこがれて」の回ですね。THE BLUE HEARTSの同名楽曲の歌詞が掲載されている。

あれは泣いちゃいますね。

──では川島さんの現在のお気に入りキャラクターはヒロトですか?

うーん……そうやって聞かれると薬師寺と海老原かもしれないですね。どっちもめちゃくちゃ強いんだけど飄々としてるじゃないですか。特に薬師寺は、鬼塚とか葛西が恐怖で周りを支配している中で、後輩が勝手に付いてきているだけという。ただこの2人に共通しているのは、ケンカのときにキックからいくダサさがあるってことですね。

──確かにどちらのキャラもキックを多用していますね。

キックって動作が大きいんで、飛び蹴りをして隙ができちゃったときに攻撃を受けてボコボコにされたりしてますからね。

──じゃあ「ろくでなしBLUES」から受けた影響は、「ケンカでキックは不利」という知見を得たという部分ですかね?(笑)

「ろくでなしBLUES」文庫版1巻

「ろくでなしBLUES」文庫版1巻
©森田まさのり・スタジオヒットマン/集英社

さすがにそれだけではないですよ(笑)。「ろくでなしBLUES」には僕が考える男の硬派な部分が詰まっているんで、そこに憧れたところがありますね。後輩に対してピシッとしていなきゃな、みたいな。若手のとき、後輩とたまたま飲み屋で会うことがあったりして、「これ、俺が奢らなあかんのかな?」っていうシチュエーションになることがけっこうあったんですよ。そういうときに、「太尊だったらどうするかな」みたいなことを考える指針にはなりましたね。

──ちなみにそのときは支払いはどうされたんですか?

そりゃ借金して払いましたよ(笑)。で、帰ってから後悔するっていう。そこは太尊っぽいなと自分でも思いますね。ただ太尊って一番キレるのは後輩がやられたときなんですよ。僕もよしもとの後輩がたくさんいるので、そいつらが何かあったときに守ってあげたいなって「ろくでなしBLUES」を読むたびに思わせられますね。