時間変動の表現は拡張現実がヒントに
──コマとコマの間を想像しながら仕上げていくとのことですが、特に映像化が難しかったのはどのあたりでしょう。
ヴィクトはトランプを使って戦うんですが、何枚ものトランプを自分の前に並べて盾を作ったり、らせん階段状に並べてそれを駆け上がるんです。その部分を映像として組み立てていくのには苦労しましたね。
──アニメでは盾や階段が組み上がるシーンも描写しないといけませんもんね。
ええ。もちろん何かしらの嘘をついてもいいんですが、そこを上手く表現するのが映像の醍醐味でもあるのでそこはがんばって表現しました。
──登場キャラクターたちが時間を操って戦うということもあり、時間の変動に関する表現にもこだわりがあると思うのですが。
「時間の支配者」ではキャラクターたちは、物体の時間を早める「加速」と時間を遅める「減速」という能力を使って戦うんです。そういう時間を変動させる表現って、映像の世界ではやり尽くされているものではあるんですよね。だからこの作品では時間の変動が起こった空間で何が行われているのかということを視覚化するために、空中に文字やインジケーターのようなモチーフを出現させてみました。最近バーチャルリアリティの技術が一般化してきましたが、それに近しい拡張現実という考え方がヒントになっています。
──拡張現実というと専用のメガネなどをかけると、空中に交通情報や天気などが表示されるという。
はい。時間の変動も実際には見えないんですけど、アニメというレンズを通すことで可視化されるというイメージですね。
──アニメを拝見してBGMがジャズ調だというのも印象的でした。
「時間を操る」って、やっていることとしては結構荒唐無稽な部分があるじゃないですか。だからこそ舞台背景や音楽など脇を固める部分は、なるべくリアリティのある地に足の着いた表現をせねばと思ったんです。そこでBGMは落ち着いたジャズを軸足にしようかと。
──アニメのBGMにジャズというと、古くは「カウボーイビバップ」、最近では「昭和元禄落語心中」で使用されていますね。
音楽を担当してくれているEvan Callさんが非常に素晴らしくて。彼だったらジャズを軸足にダンスミュージックやポップなど、いろんなジャンルを取り込んだ作品を作れるんじゃないかと思い、BGMの方向性を固めたんです。
──「舞台背景にもリアリティを」ということは、劇中に登場する街にモデルがあったりするんでしょうか。
第1話ではチェコのプラハにある街をモデルにしています。
──それは原作に登場する街自体にモデルがあったんですか? それとも監督が「この作品にはヨーロッパっぽさがある」と判断して?
原作を読んでいてなんとなく「この街がモデルなんじゃないかな」という目星が付いた場所もあったので、先生に「このモデルはここですか?」と聞きながら擦り合わせていきました。
スタイリッシュを追求したデザイン
──キャラクターデザインを起こす上で、何かポイントはありましたか? 原作と比べると少し眼力が強いのかなという印象を受けましたが。
デザインは飯島弘也さんという「劇場版マジンガーZ」などもやっていらっしゃる方に担当してもらっているんですが、シャープな造形をされる方なのでその特色を生かしたデザインになっています。眼に関して言うと原作でもストーリーが進むに従い、眼が強くなっていくというか、大きくなっていて。なので眼は最近の原作を踏襲しつつ、ラインの美しさを出せるように気を付けていました。あとこの作品は影の付け方が特徴的なんですよ。
──といいますと?
アニメの影付けって普通は何段階かの層に分かれているんですね。でもこの作品って影が1段階しかないので、影のある場所とない場所の2段階で明暗を表現しないといけない。これはすごく難しい。
──明暗を2段階にしたのには、どういった理由が?
これは言っていて恥ずかしいんですけど(笑)、とにかくスタイリッシュにしたいと思って。スタイリッシュさって何かと考えたとき、無駄の無さとラインの美しさだろうと言う話になったので、不要なものは省こうと。明暗が少ない分かなりシャープにはなっていると思います。あとアクションが絶対的な要素になってくる作品なので、パーツが少ないほうが動かしやすいというのもありました。
原作付きの作品は「忠実よりも誠実に」
──このインタビューが公開された時点で、アニメは第2話までがオンエアされています。2話までのエピソードを原作と比較するといくつかのシーンがカットされていますが、どのような意図があるんですか。
展開をあまり細かくしすぎてしまうとわかりにくくなってしまうので、「ここで必要なものはなんだろう」と考えて削ぎ落としていった結果ですね。例えばアニメの第2話で展開されたエピソードは原作だと、「ヴィクトに対していい印象を抱いていない霧」と「ヴィクトが消えたと思い悲しむ霧」という2つの状態の霧が描かれているんです。でも2話の時点で重要なのは「ヴィクトに対していい印象を抱いていない霧」の部分で、ヴィクトを失うことによって悲しむという感情はあとに残しておいたほうがいいだろうという結論に至って。
──エピソードを重ねる中で、感情の変化を表現していこうと。
以前中村亮介さんというアニメ監督と一緒に作品を作っていたときに、原作のあるタイトルをアニメ化する際は「忠実よりも誠実に」とおっしゃっていて。それ以来その言葉が原作のある作品を作る際の方針になっているんです。流れは変えないという大前提はありますが、やはり媒体が違うと原作で成立していた表現も伝わりづらくなってしまうこともあるので、原作を想起できるような流れや言葉の選び方を意識しながら、映像化するにあたりより合ったものにチューニングしています。
──霧役の石川界人さんに演技の指導をされる際にも、感情の変化を重要視してディレクションなさいましたか。
そうですね。石川さんはヴィクトに対して、第1話から全力でツッコミを入れてくださっていたんです。でも「最初はそこまで親しい関係性に見せなくてもいいです」とお伝えして。
──視聴者には、最初は2人は仲が良くないという関係性に見せるために。
ええ。でも石川さんの演技って正解でもあるんですよね。原作の第1話の時点ですでに、2人はずっと一緒に旅をしてきている状態なので。とは言えアニメの視聴者にとっては初めて観る2人ですし、彼らの成長もカメラで追いかけていかなければいけない。だから「序盤と後半、そして最終話ではかけ合いにも差を付けましょう」とお伝えしていました。
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演者とキャラクターの間に近しいものが現れる現場
- テレビアニメ「時間の支配者」
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- 放送情報
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TOKYO MX・BS11・サンテレビ・KBS 京都:
毎週金曜24:30~ - スタッフ
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原作:彭傑(翻翻「翻漫画」連載中/集英社「少年ジャンプ+」連載中/協力・友善文創)
監督:松根マサト
シリーズ構成:横手美智子
キャラクターデザイン:飯島弘也
アニメーション制作:project No.9 - キャスト
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ヴィクト・プーチン:福山潤
霧・プーチン:石川界人
ミーナ・プーチン:釘宮理恵
ブレイズ:赤羽根健治
アイスレーダー:伊藤静
スネーク:杉田智和 - あらすじ
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人々の時間を喰らいし悪魔……その名は「計」
時を操りそれに対抗するのは時間の支配者「クロノスルーラー」計によって自らの「時間」を奪われたヴィクトは相棒の霧と共に時間という「過去」を奪還すべく時を操り、戦い続ける……。
時間操作系スタイリッシュアクション、開幕──!
- 松根マサト(マツネマサト)
- 福井県出身のアニメーション監督・演出家。これまでの監督作品にテレビアニメ「ケイオスドラゴン 赤竜戦役」など。テレビアニメ「暗殺教室」「ダンガンロンパ」シリーズなどでは、オープニング映像を手がけている。