「セスタス -The Roman Fighter-」|連載20余年、ついにTVアニメ化!「なぜ今」の問いに熱く答えるスタッフインタビュー

実写の撮影に近いモーションキャプチャーでの演出

──原作に対する皆さんの熱い思いを語っていただいたところで、本題となるアニメ版の見どころもお聞きしていけたらと。

峯岸 なんといっても、3DCGで作られた迫力のバトルシーンをお楽しみいただきたいです。先ほど話に出た亀海さんに拳闘シーンの細かいアドバイスをいただきながら、アクション俳優の皆さんが演じた動きをモーションキャプチャーで収録しておりまして、これまでにはあまりないリアルなバトルシーンが作れていると思います。

樋口 バトルシーンのビジュアルについてもそうですが、アニメならではの音にも注目してほしいですね。特に打撃音などは、かなりリアルなものができていると思いますよ。

──「セスタス」ファンの大友さんはいかがですか。

大友 技来先生がご自身の作ったキャラが動いたことに感動されたというのと同じで、私にとっても、10代の頃から何度も繰り返し読んだヒーローたちが実際に動いてしゃべっているわけですから、たまらないものがありますね(笑)。また、川瀬総監督がおっしゃられたように、セスタスが追いつめられてもそこで生き抜こうとがんばる姿が見事に描き出されていて……きっと、原作ファンの方にも満足していただけるのではないでしょうか。

村松 私はまだアニメを1話しか観れていないのですが、峯岸さんがおっしゃったような、モーションキャプチャーを使っているからこそ作れた映像の迫力というのは確かに感じました。マンガはマンガで本来止まっているはずの絵が動いて見えるような工夫がされていて、それはそれですごい技術だとは思いますが、やっぱりアニメは実際に動いて音も入ってうらやましいなあと、マンガ編集者として改めて思いました(笑)。

川瀬 3DCGを部分的に使った作品は最近増えていて、それほど珍しくはないとも言えるのですが、今回の「セスタス」のように、ほとんどの場面にモーションキャプチャーを使っているTVアニメというものは、今の段階では珍しいかもしれません。

──1980年代からアニメ業界で活躍する川瀬総監督ですが、これまで手がけられてきた作品と3DCGを駆使した「セスタス」で勝手の違いなどはありましたか?

川瀬 2Dの場合は、どうしても机に向かってちまちま絵を見たり直したりする作業がメインになりますけど、この作品ではスタジオに行ってアクターさんに演技をつける仕事に多くの時間を割いています。これは実写の撮影をやっているようなもので、今までにないいい経験をさせてもらいました。新しいことに挑戦するのは、いくつになっても楽しいものですね。ただ、2Dの場合は失敗しても描き直しができますけど、モーションキャプチャーの場合は、後でちょっと違うなと思っても撮り直しがきかないんですよ(笑)。

少年たちの前に立ちはだかる、それぞれの「壁」

──原作の序盤では、繰り返し「壁」が「不自由」のメタファーとして描かれています。アニメ版でもその壁をセスタスが壊せるかどうかが、ひとつのテーマになりますか。

「セスタス -The Roman Fighter-」場面カット。奴隷のセスタスは、戦いの場以外では鎖でつながれ自由が封じられている。

川瀬 そうですね。壁だけでなく、鎖のついた枷も同じようなものを象徴していますよね。ただ「壁」の要素は奴隷のセスタスだけでなく、皇帝ネロにとっても言えることで、彼は本当は音楽をやりながら生きていきたいような芸術家肌の少年なのに、野心家な母親によって突然権力のトップに立たされてしまう。一番自由なはずの人間が、本当は自由ではないという。そういう意味では、セスタスだけでなく、ネロにも、セスタスのライバルで天才のように描かれるルスカにも壁はあるんです。

──主人公・セスタスだけの問題を描いた物語ではないと。

川瀬 セスタスとルスカは別にして、ネロは、壁を越えたり壊したりというよりは、「壁によって性格が捩じ曲げられた人」という印象があります。原作のすごいところは、バトルや特訓のシーンにページを費やすだけでなく、一見本筋とは関係のない、そうした心優しい少年がいかにして怪物になっていくかというようなことまできちんと描かれているところですね。それ以外にも、悪女から聖女にいたるまで、魅力的なヒロインたちの生き様も丁寧に描かれている。そういう意味では、格闘ものが好きな方だけでなく、女性や歴史ファンにも注目してほしい作品だと言えますね。

──ネロやルスカの生き様からも目が離せませんが、セスタスの師匠・ザファルの存在も大きいですよね。やはり少年の成長を描いた物語において、メンター(導き手)の存在は欠かせないものだと思います。

峯岸 おっしゃるとおりで、確かにアニメでもザファルの存在は物語の核の部分を担っています。彼をうまく描けるかどうかが、そのまま主人公をうまく描けるかどうかにつながっていきますからね。ザファルは、いちいち手帳にメモしたくなるような名言が多いキャラですよ(笑)。

川瀬 この作品に限らず、「師弟関係」は演出していて楽しいものです。名言の数々もそうですが、ザファルは要所要所で現代のボクシングにも通じる解説をしてくれていて、その部分だけでも読み応えがあります。それについては、格闘シーンアドバイザーの亀海さんからもお墨付きをもらってますからね。「『セスタス』は、プロのボクサーが読んでも違和感のない、玄人受けする作品だ」と感心していました。