「かるたジャン100」|“最小限”の少年ジャンプ読書ガイドにもなる 創刊50年の歴史辿るかるた

制作担当者インタビュー

50年分の連載作でかるたを作って成立するのはジャンプだけ!!

──週刊少年ジャンプは2018年に創刊50周年を迎えます。記念イヤーに向けさまざまなグッズや書籍の企画が進行しているかと思うのですが、その先陣を切る形で「かるたジャン100」が発売されることになったのはどういった理由からなのでしょうか。

「○」カードの取り札裏面。少年ジャンプ創刊号の表紙がデザインされている。

50周年に向けて、「読み物以外に読者が遊んで楽しめるものを作れないか」という話が社内で上がり、会議を進める中で「ジャンプ作品の名セリフをかるたにしたらいいんじゃないか」という案が出たんです。50年分の連載作から名言を選り抜いてかるたにしたときに商品として成立するのは、ジャンプという雑誌の特性だろうと。

──読者がどの世代だったとしても、マンガ好きであれば1970年代から2010年代までの連載作で、年代ごとに語れるタイトルがひとつはありますよね。

ええ。集英社は過去にも「ベルサイユのばら」をはじめ(参照:「ベルばら」がカルタに!三十路すぎてもマドモアゼル~)いろいろな作品のかるたを発売しているんですが、「ベルばら」のかるたは1作品だけにフォーカスしていたので、「三十路過ぎてもマドモアゼル」「貴族のやつらをしばり首」とか、クスッと笑えるようなカードも用意できたんですよ。でも「かるたジャン」は101タイトルを収録していて、かるたにするのは1作品につき1枚だったので、誰もが知っているセリフをセレクトしないといけない。「ネタっぽいセリフでカードを作れない」っていうのは悩みどころでしたね。

──たしかに「かるたジャン」はいわゆるネタセリフや迷言というよりは、ストレートな名セリフで構成されていますね。

400枚構想時に作成された収納ボックス。実際に商品化されたバージョンの2倍の厚さとなっている。

1作品2枚ずつ「真面目なセリフ」と「ネタセリフ」、もしくは「主人公の名セリフ」と「ライバルの名セリフ」という振り分けで読み札、取り札合わせて400枚作ろうっていう構想もあったんです。「北斗の拳」だったらケンシロウの「おまえは もう死んでいる!」と、ラオウの「わが生涯に一片の悔いなし!!」はどっちもかるたにしたいじゃないですか。でもどうしても値段が今の倍以上になってしまうので、泣く泣く断念しました。

唯一、主人公以外でかるたになったのは……

──そもそもかるたにするタイトルやセリフの選定はどのように行ったのでしょうか。

最初は「かるただから50音分、50タイトルから集めよう」というところから始めて、スタッフで集まって「あれを入れよう、これを入れよう」と収録タイトルを決めていきました。

「ゆ」カードの取り札裏面。週刊少年ジャンプの最大発行部数653万部を記録した、1994年12月20日発売の1995年3・4合併号の表紙がデザインされている。

──でも50年分の歴史を考えると、50タイトルでは全然足りないですよね。

そこから100タイトル扱おうということになったんです。それでも何を入れるかっていうのはなかなか決まらなかったですね。「このラインから上の作品を入れる」みたいな客観的な基準を作ろうとしたんですが、50年も歴史があると数字も意味を成さない部分があって。単行本の部数は創刊当時より80年代、90年代以降の作品のほうが伸びてきますし、連載の長さも昔よりは今のほうが長期になる傾向があるから。結局100タイトルでも「俺の大好きなあの作品が入っていないじゃないか」って言いたくなる人がいるとは思うんですけど、そこは「本当に本当にすみません」としか言いようがないです。

──1人で何本もヒット作を出されている先生もいますし。

「ウイングマン」の取り札。 「電影少女」の取り札。

「1作家1タイトルにしよう」という話にもなったんですが、「DRAGON BALL」と「Dr.スランプ」、「リングにかけろ」と「聖闘士星矢」のどちらかだけにするっていうのはやっぱり難しくて。たとえば桂正和先生なんかは「ウイングマン」「電影少女」「D・N・A² ~何処かで失くしたあいつのアイツ~」「I’’s」と何作品もヒット作を輩出しているんですが、今回収録できたのは「ウイングマン」と「電影少女」だけなんです。

──そして100タイトルが決まったら、セリフを選定していく。

各作品の名言をさらって、「『あ』はこのセリフだろう」「でもこの作品と被るから『か』にしようか」など、パズルのように入れ替えて選定していましたね。少年マンガって「俺」とか「お前」から始まるセリフが多くて、「お」の文字なんかは普通に選ぶと多くなっちゃうので、被らないようには気をつけていました。あと「かるたジャン」は、普通にかるたを作ると難航するであろう「ん」を2つ用意できたのが売りのひとつだとは思っています。

──基本的にはすべて主人公のセリフを使用しているんですよね。

「魁!!男塾」の取り札。

そうです。どのタイトルも大ヒット作ですし、主人公は誰もが知っているキャラクターなので、それ以外のキャラを採用すると、キャラの存在感に差がついてしまうんです。ただ「魁!!男塾」だけは、主人公の剣桃太郎ではなく、江田島平八のセリフにしました。ほかの作品がすべて主人公の中、宮下あきら先生に申し訳ないなという気持ちもあるんですが、やっぱり「男塾」と言えば塾長か民明書房なんじゃないかと。ほかには「BLEACH」も名セリフの山で、単行本の巻頭に書かれている先生の詩も読者から非常に人気があるので、主人公の黒崎一護の言葉じゃなくてもいいんじゃないかという話になって難航したのですが、最終的に王道の選択になりました。

──「BLEACH」は最終的に一護の「卍解」というセリフが、ジョーカー的な扱いのエクストラカードとして収録されました。

「卍」だったら、50音じゃないし、もう1作品プラスして収録できるんじゃないかという悪あがきです(笑)。エクストラカードはかるたを並べてみたときに、100枚のカード以外にも会話の種になる要素というか遊びがほしいよねということで、ジャンプに関連した「ゆ」「○」から始まるワードや、10年以上続いた読者投稿ページ「ジャンプ放送局」に登場したえのんのセリフをかるたにしています。作品はそれぞれ独立して世界を持っているわけですが、ジャンプという雑誌の文化というか、これまでの歴史の中で作り上げられてきた共通記憶みたいなものを入れたかったのです。

ジャンプの歴史を最小サイズで詰め込んだ読書ガイド

──取り札は表面にカラー原画、裏面に単行本1巻の書影が使われていますね。黎明期の作品の原画もすべてキレイな状態で残っていたんでしょうか。

古い作品の原画はやっぱり集英社にはなかったですね。著者の先生からお借りした作品もあるんですけど、先生が「ちょっとどこにあるかわからない」とおっしゃられることもあって。ただここに収録されている作品って、どれもヒットタイトルで、保存しているデータもある程度ありました。イラスト集になっているものもあるので、イラスト集から画像をスキャンして使用したりもしています。あと先ほども話題に上がりましたが、桂先生は単行本の版が変わるときに、絵を描き直すことがあったんですよ。

──初版とそれ以降の版で表紙イラストが違うということですか?

ええ。どんどん絵柄を変えていくんです。単行本を作った担当が註釈を残してくれてはいるんですが、いざ使おうとなったとき、どれが最新のバージョンかわからなかったりもして。

「かるたジャン100」の制作スペースに積まれたジャンプ作品の単行本。これでも全体のほんの一部だという。

──昔の作品は、単行本の書影自体なかなか残っていないのではないかと思うのですが。

実物からスキャンして使用しているものもあります。80年代以前の作品は保存資料として手元にある単行本が傷んでいたり、編集作業用に何セットか必要になることもあったので、「なんで自分の会社の本をこんなに買うんだ」っていうくらい古書店からたくさん取り寄せました(笑)。

──取り札に1巻の書影が使われている中、「侍ジャイアンツ」だけ2巻の書影になっているのが気になりました。

「侍ジャイアンツ」取り札の裏面。

「侍ジャイアンツ」は1巻の表紙に長嶋茂雄さんの写真と番場蛮のイラストが使われているんですよ。1巻の書影を使うとすると長嶋茂雄さんにも、撮影したカメラマンにも許諾を取らないといけないんですが、誰が撮影したものなのか限られた時間では調べきれず。かるたの画面は小さいので、複数の人物を入れるとわかりづらいこともあり、主人公の番場蛮が大きく描かれている2巻の表紙を使おうということになりました。ほかにも「はだしのゲン」はジャンプコミックスレーベルから単行本が出ていないので、文庫版1巻の書影を使ったりしています。スタッフが生まれる前に連載されていた作品も多く、素材チェックで当時の事情を追体験することになって興味深かったです。70年代前半はすべての連載がコミックスになるわけではなかったこととか、話には聞いていても実感していなかったので。こういうかるた用の素材集めもそうなんですが、作品の情報について事実確認を取るのも大変でしたね。

──事実確認というと?

たとえば「BASTARD!!-暗黒の破壊神-」は連載初期に「破壊神」の部分に「アンスラサクス」というルビが振られていたのですが、もしかしたら読み方は「はかいしん」ではなくそちらが正しいのではないかとか、「ジャングルの王者ターちゃん」か「ジャングルの王者ターちゃん♡」か、「キャッツ♥アイ」のハートは「♥」なのか、それとも「♡」なのかとかですね。連載当時は当たり前のことでも、意外にあとになるとわからない。ジャンプ作品の固有名詞は独特なものが多いですし、何かの事情で1回だけ違うルビがふってある回があったりして、表記がぶれていると、正しい表記の根拠を探さねばなりません。連載が長いと結構ぶれていることがあるんですよ。どうしてもとなれば先生に聞くわけですが、「なんで集英社が知らないんだ?」って当然なるので調べるわけです。「BASTARD!!」くらいまでなら、ギリギリ社内に初代担当がいるんですが、それ以前になるとすでに引退してしまっているので、確認は結構大変でした。

──付属の冊子には各タイトルの連載データも載っていますし、表記の1つひとつまで確認されているということは、ジャンプの50年をまとめた資料としての意味合いも出てきますよね。

付属の小冊子に掲載されている、「DRAGON BALL」の紹介ページ。

だから発売されて「誤表記が見つかった」なんてことになったら大変まずいです。すごくドキドキしています(笑)。もちろん普段の書籍も厳しくチェックはしていますが、今回はそれ以上に念入りに校正をしたつもりです。ジャンプ50年の歴史をすべて語れる読者ってそうはいないと思うので、かるたや冊子を見ながら、これまで読んでこなかった作品にも触れてみてほしいですね。

──読書ガイド的な使い方で。

ええ。ジャンプの50年をまとめた「ジャンプ大辞典」みたいな書籍って、作ろうと思えばもちろん作れるんですけど、おそらくとんでもなく分厚くて値段も高くなってしまうでしょうし、このサイズではできない。そういう意味では「かるたジャン」には最小サイズでジャンプの歴史を詰め込んだ、ジャンプのこれまでについて知るなら、まずはこのタイトルからという「“最小限”の読書ガイド」にもなっています。資料的な意味以外でも、親、子、孫の3世代で楽しめる内容になっているので、家族や友達と一緒に「この作品好きだったな」「こんな作品あるんだ」と話しながら、遊んでもらえればと思っています。

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「かるたジャン100」
「かるたジャン100」

2017年10月10日発売
集英社
3218円

Amazon.co.jp

週刊少年ジャンプが2018年に創刊50周年を迎えることを記念して制作された「かるたジャン100」では、同誌50年の歴史からセレクトした、100を超える連載作の名セリフや名シーンを1作品につき1枚ずつかるた化。読み札104枚、取り札104枚の計208枚に加え、各作品1ページの解説を収録した116Pの小冊子も付属している。