そういえば大はまだ童貞だった
──さて、このたび「BLUE GIANT EXPLORER」の第5巻が発売されますが、加賀さんは今後の展開にどんなことを期待しますか?
「EXPLORER」で、大はシアトルからポートランド、サンフランシスコとアメリカ西海岸を車で南下して、4巻でロサンゼルスに到達するんですけど、ここで僕はすごい衝撃を受けたんです。LAではスムーズでイージーなジャズが主流で、大がやっているような激しいジャズはハマらない。それに大自身が気付いて「スムーズな音を好むこの街の全員を、感動させるのは無理──」だと、つまり自分の音楽は万人に刺さるものではないけれど「最高に感動してくれる人が、1人でもいれば──!!」と、おそらく初めて考え方を変えるんですよね。
──なるほど。
僕も芸人として、全員に笑ってもらいたいというのは大前提としてあるんです。と同時に、それが本当に難しいということも身に染みてわかっていて。でも、大の演奏に感動した“1人”でもあるコロンビア人のダンサーが、ライブのあとに大に声をかけて、レストランで一緒に食事をするわけですよ。そこで「まだまだ、頑張らなくちゃって思ったよ」と言う大に対して、コロンビア人の彼は「頑張ってるじゃないですか、とても」「大丈夫、神様が見ている」と。
──本当にね、誰がどう見ても大はがんばっていますからね。
そう言われた大は「ちょっとトイレに行ってくる」と席を外して、手洗い場の前で泣くんですよね。そこで僕は「泣くんだ!?」とびっくりして。今までずっと突っ張って、強い面ばかり見せてきたけど、めちゃめちゃ不安だったと思うんですよ……そういえばまだ童貞だし。
──それはそう。
そこも面白いというか、どんなにシリアスにキメていても、大はチューすらしたことがないという。「EXPLORER」でも、大が泊まっているモーテルの前に立っていたセクシーな女性から「50でどう?」と言われて、逃げるように部屋に駆け込んで「LAってば……なんか……怖いんだけど!!」とビビっていたり。「ええ大人やろ!」と思うんですけど、そこもまたかわいくて。そんな純粋な大がLAで、ある意味で1回心を折られて、さらなる成長が見られるんじゃないかと、かなりテンションが上がっています。
──大は、東京編では雪祈と玉田とともにトリオ編成の「JASS」、ヨーロッパ編の「SUPREME」ではカルテット編成の「NUMBER FIVE」というバンドをそれぞれ結成していますが、アメリカではどうなるんでしょうね。
また生意気なやつが出てきましたからね。メキシコ人ピアニストのアントニオ(・ソト)という。
──「BLUE GIANT」シリーズは、マイノリティというか主流ではない立場の人を描くことに意識的なのかなと。ヨーロッパ編では、ドイツで結成したNUMBER FIVEのピアニストはポーランド人でしたし、ベーシストはドイツ人だけど女性で。
確かに。ベースのハンナ(・ペーターズ)が年配の男性客に「とても良かったよ」と褒められるシーンがありましたけど、彼は「今まで見た、女性の中では一番」と、言わんでもいいことを言うんですよね。たぶん悪気なく。あれはキツかった。
──そもそも大からして、欧米では「アジア人のサックスプレーヤー」という目で見られてしまう。
保守的なシーンとか考え方に対するカウンターみたいなものは確実にあるでしょうね。東京編でも、日本最高峰のジャズクラブ・So Blueの支配人である平さんの、慣習とかに囚われずに新しいことをやりたいという気持ちにフォーカスしていましたから。じゃあ、ジャズの本場アメリカで、大はどんなメンバーとバンドを組むのか。それももちろん気になりますし、今後、アメリカの大御所ジャズマンと対面することは避けられないというか。それこそ「世界一」レベルのレジェンドとか若手のトッププレーヤーがどう関わってくるのかも気になりますね。あと、これは難しいかもしれないんですけど、とりあえず大は1回、ちゃんと女性と交際してほしい。
──そこなんですね。
マジで変わるから!
プロフィール
加賀翔(カガショウ)
1993年5月16日生まれ、岡山県出身。2015年、バイト先で知り合った賀屋壮也とお笑いコンビ・かが屋を結成する。2018年に「キングオブコント2018」で準決勝に進出して注目を集め、2019年に初の冠ラジオ番組「かが屋の鶴の間」がレギュラー化。2019年には「キングオブコント2019」の決勝に進出した。現在はテレビ神奈川にて毎週木曜24時30分より「かがやけ!ミラクルボーイズ」が放送中。また個人の活動として、2021年には初の小説「おおあんごう」を講談社から上梓した。