福田晋一のマンガを原作とするTVアニメ「その着せ替え人形は恋をする」は、ひな人形の顔を作る頭師を目指す男子高校生・五条新菜(わかな)と、読者モデルをしている美少女・喜多川海夢(まりん)によるラブコメディ。流行りに疎く周囲に馴染めない新菜とクラスでも人気者の海夢という、交わることのなかった2人だが、海夢の趣味であるコスプレの衣装を新菜が作ることとなり、次第に距離が縮まっていく。真摯に自分と衣装作りに向き合ってくれる新菜に対して海夢は……。原作マンガの単行本は3月25日に最新9巻が発売される。
コミックナタリーでは、アニメ放送を記念し、作者である福田にインタビューを実施。キャリア初インタビューという福田に、新菜と海夢の姿に込めた思い、「諦めていた」というアニメ化が実現した際の感想などを聞いた。
取材・文 / 佐藤希
新菜や海夢は趣味を肯定してくれる彼氏や彼女になるように
──今回、福田先生の初インタビューとなりますので、まずは原作についてお話を伺ってまいりたいと思います。ひな人形の頭師を目指す男子高校生・新菜とコスプレイヤーの美少女・海夢のラブコメディ、という変わった設定が目を引く「その着せ替え人形は恋をする」ですが、新菜と海夢を描くうえでどういうところに気を付けているか伺えますか?
以前コスプレイヤーさんとお話していたときに、彼氏や旦那さんに「コスプレを辞めてほしい。辞めないと別れる」と言われたことがある、と伺って。好きなことを続けたいのに、そうして辞めてしまう方が多いそうで、それがとても嫌だったんです。なのでこのマンガを描くにあたって、コスプレイヤーさんや何か打ち込んでいる趣味がある方が読んだときに、新菜や海夢は、趣味を続けることを肯定してくれる彼氏や彼女になるようにしました。
──新菜や海夢は、それぞれ好きなものが自分の軸になっているキャラクターなので、彼らに共感する方も多いのではと思います。新菜と海夢のキャラクター設定について、ほかに気を付けていることや、または当初の想定から変わった点などはありますか?
誰が読んでも性別関係なく楽しんでいただけるように気を付けていますが、海夢は「コスプレイヤーと付き合いたかった」「学生時代こんな女の子と付き合いたかった」と思っていた男の人の夢が叶うようにしています。新菜に関しては最初のネームでは、今読んでいただいているマンガと同様に、周囲と趣味が合わない息苦しさは感じていたものの、今のような繊細さはないというか。もっと軽い感じの性格で、海夢にもタメ口だったんですよ。
──それは新菜の印象がだいぶ変わりますね。
1話の最後で見せる、海夢が作って欲しい衣装に対する「なんですって?」というリアクションも、当初はあそこまで真剣な顔をしていませんでしたね。それに当初は新菜にも友達がいる設定だったんですが、衣装製作の作業に困ると海夢よりもどうしても友達に相談してしまう流れになってしまって、海夢と2人で協力してなんとかする、という状態が生まれなかったので、新菜を追い詰めるために友達も両親もなくしました。
新菜が作務衣以外似合わなくて作者もびっくり
──これまでのエピソードで福田先生が一番お気に入りのシーンや、描いていて楽しめたシーンはどこでしょうか?
夏休みに新菜が海夢と服を買いに行く話は割と好きですね。海夢がコスプレや私服などで服装をよく変えるので、新菜まで見た目がコロコロ変わると目が散ってしまいますし、海夢と対比になるようにお洒落や流行りに疎い性格にしている、などとさまざまな理由で新菜には作務衣を着せているのですが、あそこまで作務衣以外が似合わなかったのは驚きました。いくらなんでも、さすがに1つくらいは似合う服があるだろうと思っていたので……。
──福田先生ご自身も驚くほどに……(笑)。それでは反対に、一番ご苦労されたシーンもお聞かせください。
コスプレの撮影回はほぼ毎回大変なんですが、文化祭のメイク回が特に大変でした。
──海夢が文化祭のミスコンのために作中に登場するマンガ「生徒会長はNo.1ホスト」の麗の格好をしたエピソードですね。作中では初の男装でしたので、新鮮でした。
「着せ恋」は話の内容に合わせて、元々自分の描きやすいペンの入れ方から無理矢理矯正したペンの入れ方に変えてるんですよ。慣れてきていたところだったんですが、矯正後のペンの入れ方だと麗のメイクを描こうとする新菜がかわいくなりすぎてしまって。内容に合わないのでまた無理矢理元の描き方に戻したんですが、苦戦しましたね。
──そうだったんですね!
自分で決めたことなのですが、大ゴマが多いし、でも新菜の将来のために絶対無視できない必要な回だったので、いろいろしんどくて……。夜中に叫びたくなったり、朝起きて一言目が「疲れた……」だったり。ずっと頭がのぼせていて、今思うとけっこう限界だったんだなと思います。普段はどんな内容を描いていても締め切りがあるので“虚無”という感じなのですが、この回ばかりはセリフを打っているときに少し泣きました。
──このお話を伺って単行本を読み返したくなりました。単行本の巻末にもたびたびレポートが収録されているのですが、執筆にあたり福田先生は何度も取材を重ねられていますよね。ご自身もコスプレに挑戦されるなど、体当たりで挑まれているように感じますが、取材に関して何か印象的なことはありましたか?
取材をさせていただいた皆さんがとても親切にしてくださったことが印象的でした。一からコスプレをするにあたって、体型補正や衣装ごとに人それぞれ違う下着をどうするのかという問題がどうしても出てくるので、答えにくかったと思うのですがそれらもすべてご丁寧に教えてくださりとても助かりました。
──皆さんかなり親切に取材に応じてくださったんですね。
はい。ある方は「短パン履いているから平気ですよ。見ますか?」と笑顔でスカートをめくって中まで見せてくださったほどに。
──それはすごい……。
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「聖♡ヌルヌル女学園」と引き換えに諦めていたアニメ化