「ババンババンバンバンパイア」吸血鬼経験豊富な堀江瞬が、吸血鬼BL(ブラッディ・ラブコメ)を読んでみた

奥嶋ひろまさ「ババンババンバンバンパイア」は、老舗銭湯・こいの湯で働く熟練吸血鬼・森蘭丸と純真無垢な童貞の少年・李仁を描くBL(ブラッディ・ラブコメ)。極上の“18歳童貞の血”を追い求めている蘭丸は、こいの湯の4代目・李仁に命を救ってもらって以降、彼の純潔を守り続けその血を狙っていた。しかし李仁の高校進学をきっかけに、好きな人ができたと告げられ……。思春期に入った李仁の童貞喪失を阻止しようと、蘭丸が全力を尽くす様が描かれる。別冊少年チャンピオン(秋田書店)で連載中だ。

最新4巻の発売を記念して、コミックナタリーでは堀江瞬へのインタビューを実施。くまがい杏子「チョコレート・ヴァンパイア」のドラマCDやアニメ「ヴィジュアルプリズン」など、バンパイアに関する作品に出演しているということから少々無茶振りでオファーを決行したところ、快く引き受けてもらった。堀江と作品との意外な縁、そして彼の不思議な日常生活についても明らかになった。

取材・文 / 片平芙蓉撮影 / 武田和真ヘアメイク / 松本江里子(M's hair&make-up)

おバカなことをこんなにも真剣に

──バンパイア役の経験があり、かつマンガ好きの堀江さんに「ババンババンバンバンパイア」(以下「バババ」)について語っていただく……無茶振り取材じゃなかったでしょうか?

いや、めちゃくちゃ、はい(笑)。「なんで?」って思いました(笑)。だけど、実は取材オファーをいただく1カ月前くらいに、友達からこの作品を勧められて読んでいたんです。

──えっ! すごいタイミングでしたね。どんな感じで勧められたのでしょう?

「お前、好きそうだから読めよ」って。僕、古屋兎丸先生のマンガが好きなんですけど、「古谷先生の絵のタッチが好きならこの絵は刺さる」という感じで。「バババ」も絵が美しくて、かつおバカな感じというテイストが古屋作品に通じるものがあるので、勧めてくれたんだと思います。僕もその友達も、ヴィレヴァン(ヴィレッジヴァンガード)に置いてあるようなマンガが大好きなんです(笑)。

堀江瞬

──なるほど! 作者の奥嶋先生も古屋先生の作品が大好きとのことなので、堀江さんの視点、鋭いと思います。

おお! やっぱり! 近しいイズムは感じます。

──作品の第一印象はどうでしたか?

奥嶋先生の作品を読むのは初めてなんですが、こんなにおバカなことが真剣に描いてあるマンガもなかなかないなと(笑)。絶妙なさじ加減で、計算されつくされたバカさ加減が、またシニカルな感じにつながっていて面白く読めます。

──なるほど。

それと僕が好きなのは、ほかの作家さんへのオマージュが感じられるところです。ギャグシーンで絵のタッチが楳図かずおさん風になっていたり。ギャグの系譜がわかるところに面白さを感じます。

──ほかにも、「カイジ」や「ガラスの仮面」、「あしたのジョー」まで登場しますね。小ネタ満載です。

そうそう。オマージュ元がわかる小ネタが多いので、発見したときに喜びにつながるんです。いろんな仕掛けがあって面白いなと思いました。さらに、マンガだけじゃなくて歌詞のオマージュも登場する。「こんなとこにいるはずもないのに」って……(笑)。

──「One more time, One more chance」(山崎まさよし)ですね。桜木町かな?と思いました(笑)。

奥嶋先生は、男性ですよね? 男のクソバカなノリを凝縮してる感じがしてすごく好きです。

2巻第6話より、とある作戦を企て李仁から葵を遠ざけようとするも、逆に2人の距離が縮まってしまい落胆する蘭丸。「あしたのジョー」のオマージュ表現が垣間見える。

2巻第6話より、とある作戦を企て李仁から葵を遠ざけようとするも、逆に2人の距離が縮まってしまい落胆する蘭丸。「あしたのジョー」のオマージュ表現が垣間見える。

3巻第9話より、吸血鬼ハンターの坂本が蘭丸の姿を追い続けていたことを回想するシーン。

3巻第9話より、吸血鬼ハンターの坂本が蘭丸の姿を追い続けていたことを回想するシーン。

「このマンガ、絶対にくだらないな!」と確信

──堀江さんは「チョコレート・ヴァンパイア」や「ヴィジュアルプリズン」でバンパイア役を演じていますが、「バババ」のバンパイア・蘭丸についてはどう感じましたか?

蘭丸は「18歳童貞の血」が大好物なあまり、李仁が18歳になる3年後に「絶対に血を吸って命をいただきたい」と思っている……その結末だけを考えると確かに悲劇が待ってるんですけど、それを度外視してもありあまるカッコよさを蘭丸には感じます。かつ、吸血鬼を神聖化しすぎずに読めるのもいいです。李仁の血を吸いたいという動機はともあれ、蘭丸ってすごくバカバカしいことで性的興奮していて、思春期の男子みたいなところが吸血鬼にもあるんだなと。思わぬ角度で人間らしいところがあって、そこには親近感や絶妙な気持ち悪さとか、いろんなものが混在している。キモいのにカッコいいってすごいです。

堀江瞬

──確かに、吸血鬼なのに一番人間らしいというのが逆説的です。好きなシーンやセリフはありますか?

1話で言えば、「人間にも食の好みがあるように吸血鬼にもそれがある ある者は子どもの血を好み またある者は処女の血が良いと言う 私の場合は──18歳童貞」……ここでまず、「このマンガ、絶対にくだらないな!」って思いますよね(笑)。最高の掴みで、もうすでに面白い。そして、読んでいると少年から大人までことごとくいろんな童貞がどんどんキレイに集まってくる(笑)。

1巻第1話より。
1巻第1話より。

1巻第1話より。

──蘭丸は、今は18歳童貞が一番美味だと思っているけど、その前は27歳男性の血を最も好んでいたという、好みの変遷があるのも面白いですよね。

確かに(笑)。「吸血鬼界ではそういうこともあるのか」と、架空のリアルを感じます(笑)。

女子キャラのお気に入りは?

──好きなキャラを1人挙げるとしたら?

李仁の同級生でギャルのカオルンは、ギャップがあってかわいいです。

──カオルンはかわいいものが大好きなギャルですね。メイクが濃いのはダメ親父に殴られているのを隠しているからという、とても不憫なキャラでもあります。

そこは作中唯一のシリアスというか、ちゃんと胸に迫ることが起きている世界線なんだなと感じる部分です。その塩梅はすごくいいなと思いました。

4巻第15話より。ギャル4人組・G4のメンバーであるカオルンは、かわいいものが大好き。かわいさを爆発させる李仁に好意を寄せるようになる。

4巻第15話より。ギャル4人組・G4のメンバーであるカオルンは、かわいいものが大好き。かわいさを爆発させる李仁に好意を寄せるようになる。

4巻第13話より。カオルンは父親からの暴力により化粧せざるを得ない状況に。

4巻第13話より。カオルンは父親からの暴力により化粧せざるを得ない状況に。

──女性キャラだと、李仁が一目惚れする葵もピュアで魅力的ですが、やっぱりカオルンのほうがお好きですか?

僕はギャルに惹かれる傾向にあるので(笑)、やっぱりカオルンです。それにたぶん、ピュアという意味では葵よりも全然カオルンのほうがピュアだなと思います。本人が自覚していないかもしれないけれど、ともすれば葵には計算高さを感じるので。

──なるほど! あざといですかね?

蘭丸に「私のこと好きなのかな?」って期待しているじゃないですか。その手前のピュアさがカオルンにはある気がして、そこがかわいいなって思います(笑)。

堀江瞬

──もし本作がアニメ化されるとしたら、個人的に堀江さんにはぜひピュアさたっぷりに李仁を演じてほしいのですが、オーディションで挑戦してみたいキャラはいますか?

確かに、あるとしたら李仁でしょうね(笑)。僕が蘭丸や坂本先生、フランケン役を受ける未来ってあんまり想像がつかなくて。

──李仁くんを演じるとして、あの日向のようにまぶしすぎる童貞感、どうやれば出せますかね?

どんな質問ですか!(笑) でも、もしお声がけいただけたならがんばりたいです。絶対にアニメ化すると思っています……してほしいマジで!

──450年生きている吸血鬼はどんな声をしているんでしょうね。

確かに、蘭丸はどなたがやるんだろう(笑)。難しいな……でも、熟練した感じは欲しいです。かつ、重々しすぎない感じの。ナチュラルな芝居というより、ドラマチックに色付けされたお芝居が映えそうな作品なので、CVを勝手に考えるのも楽しそうです。

堀江瞬

人の業や人間の本性が描かれている作品が好き

──さて、マンガ好きで知られる堀江さんですが、普段どんなマンガに惹かれることが多いですか?

明るいよりは暗いマンガのほうを好んで読んでいます。

──人が必ず死ぬ、とか?

とか……人の業(ごう)や本性が描かれている作品に惹かれがちです。最近だと星来先生の「ガチ恋粘着獣」とか鬼山瑞樹先生の「嫌がっているキミが好き」。

──確かに、どちらも人には絶対に見せたくない、人間の暗い一面を描いた作品ですね。

ちょっと青春っぽさを足した作品だと、桃栗みかん先生の「群青にサイレン」なんかも、普通の青春ラブコメじゃなくて、絶対に裏切ってくるところがいいです。読み進めていくと思っていた作品の感じと全然違っていた、みたいなものが好きです。あとは眉月じゅん先生の「九龍ジェネリックロマンス」みたいな、ちょっと陰りのある作品が好きです。そういう意味では「バババ」も陰りを感じられるので、僕の好みです。

堀江瞬

──「バババ」が題材にしている吸血鬼も、“陰り”とは切り離せない存在ですよね。

特に男って、吸血鬼にはめちゃくちゃ憧れがあると思うんです。例えば僕は小学生のときに「デジモン」をやっていたんですけど、ヴァンデモンっていう吸血鬼のデジモンにめっちゃ憧れていて。「ヴァンデモン、マジでかっけえ!」ってなっていた時期は、カーテンを体に巻いてヴァンデモンのモノマネしていました(笑)。

──なんてかわいらしい(笑)。

同世代の男は誰しもやっていたと思うんですけど、ヴァンデモンも実はデジモンの世界に似つかわしくなくて。確か、女の人を吸血して普通に殺しちゃってたりしていて、「デジモンの世界でこんなに残酷な描写があるんだ!」って子供ながらにしびれてました。「バババ」にもその感じがあるんです。のどかそうな世界観なのにちゃんと残酷だったり、むごいことが起こるんだっていうギャップがある。だから、怖いような、でもちょっと見てみたいような矛盾した感覚をはらみながら読み進めていく面白さがこの作品の魅力の1つなんじゃないかなと思います。