加瀬さんだってあくまで女の子
──山田と同じく、イケメンな加瀬さんに恋してる読者も多いと思うのですが、男性の佐藤監督から見てもやっぱり加瀬さんはカッコいいんですか?
佐藤 個人的な意見を言うと、加瀬さんって “カッコいい”とは違うと思うんですよ。
──と言うと?
佐藤 加瀬さんの人気の理由って少年っぽさにあると思うんです。それは僕が思うカッコいい女性像とはちょっと離れてるというか。むしろ素直でかわいいところが加瀬さんの魅力だと思ってます。山田と話してるとき、うれしさや恥ずかしさが表情に滲み出てしまうところとか……違いますかね?
高嶋 そう見えますか? よかったです。
──高嶋さんはどのような意識で加瀬さんを描かれてるんですか?
高嶋 もともとは、同じクラスや近くにいる女子が思わず好きになってしまうような女の子を描いてみたいなと思ってたんです。「友達になりたい」という感情を上回って「好き」を意識させてしまうというか……そういうカッコいい女の子を描けてたらいいなと思っています。
──では監督の視点は新しかったという。
高嶋 でも監督がおっしゃったように、加瀬さんの魅力がカッコよさとは別のところにあるというのは確かにそうかもしれないなあと思います。加瀬さんは美形という設定ですが、キャラクターに厚みが出るような気がするので描くときは何か面白い要素を足すようにしてるんです。私が「カッコいい女子」を描いているつもりでも、読んでる方にはそのプラスαの個性のほうが強く印象に残って「あれ?さほどカッコよくないな」と思われてしまうことはあるかもしれませんね。「あ、かわいいな」と思っていただけたのなら、それはそれでとてもうれしいです。
佐藤 そう言えば加瀬さんのキャラクターデザインって、最初の段階ではもっとボーイッシュな雰囲気だったんですよ。だから坂井さんに、「もう少し女の子らしく、かわいらしくしよう」と相談したのを覚えてます。
高嶋 確かにとてもかわいかったです!
佐藤 そう思ってもらえたらいいなって思いながら作ってました。山田とは全然違うけど、加瀬さんだってあくまで女の子なんだからってところで悩んだので。
シンプルな表現で魅力的に
──高嶋さんはアニメーションクリップをご覧になっていかがでした?
高嶋 もう、本当に素晴らしかったです! 絵がすごくかわいくて、美しくて、音楽に合っていて……とても感動しました!
佐藤 ありがとうございます。
高嶋 監督はちゃんと「加瀬さん」シリーズをわかってくださっているなあ、と感じました。3巻分の見どころというか、要所要所の大切なシーンが全部入っていて、作品を大切にしてくださっているのが伝わってきました。
佐藤 ああ、よかったです。自分が惹かれた原作の要素すべてを、いかにして詰め込むかすごい考えましたので。楽しいところや少し切ないところ、その切なさからパーっと解放されるところ……。
高嶋 あと個人的には山田のかわいさがスゴかったです。これなら加瀬さんが好きになるのもわかる……説得力が増すな!と思いました(笑)。
佐藤 それはもう坂井さんのデザインセンスのおかげです。坂井さんは少ない線や色の数でキャラクターを魅力的に表現できる方なので、光と影の塗り分けがシンプルになるように工夫したんですよ。だから髪の毛とかをよく見ると、グラデーションが全くかかっていないのがわかると思います。
高嶋 坂井さん、さすがです……。あと何より色彩が美しかったです。モノクロのマンガからカラーのアニメーションになると、背景の青空やオレンジ色の夕焼けなどが際立ってとても印象的でした。
佐藤 原作の表紙やカラーイラストがすごくきれいなので、映像になってもイメージを守らなければと思ったんです。
高嶋 アニメーションクリップを観て、監督が作ってくださった世界観はマンガでも大事にしていきたいなあと思いました。本当に何もかもが素敵で、感無量です。
佐藤 うれしいなあ。
ドロドロは好きじゃない
──アニメーションクリップの制作にあたり、色彩表現のほかにこだわったところはありますか?
佐藤 実はスタッフ全員で、いかに“光だけ”を描くかっていうテーマがあったんです。と言うのもこの作品って、影を感じさせる嫌な要素がどこにもないじゃないですか。マンガを読んでいる途中で「あ、これ全部光だ」って思ったんですよ。
高嶋 言われてみればそうですね。私自身ドロドロしたものや暗いものを描くのが少し苦手なのもありますし、やっぱり読者が読んでいて明るく楽しい気持ちになれるものを作りたいなと常に思ってるところはあります。
佐藤 それが一番の魅力だと思うんですよ。何かへの憎しみや後ろめたさが全然ない。そこで僕も“光だけ”をアニメーションクリップで描くとき、観念的な意味だけじゃなく実際に映像としてどう表すかっていうのをすごく考えたんです。
──具体的に言うとどのように?
佐藤 今まで作ってきたアニメーションとは違う光の表現をしようと思ったんです。例えば夏の強い日差しを描くとき。これまでだと影を黒く濃く落とすことで表現してたんですけど、今回は影を印象付けず光だけを強調するってことはできないかなあって。
高嶋 へー、なるほど。
佐藤 今まで持っていた画面作りの経験則とか、光と影に対する先入観を1回捨ててみたんです。それでキャラクターの前に光を横切らせたりだとか、輪郭線の黒をいかに背景に滲ませるかとかもやりましたね。コンテから撮影まで、ずっと試行錯誤の連続でした。
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奥華子さんの曲でつながったスタッフの気持ち
「加瀬さん」シリーズ最新作
- 高嶋ひろみ「エプロンと加瀬さん。」
- 2017年7月25日発売 / 新書館
-
コミック 918円
-
特装版 コミック 2376円
- 特装版付属内容
-
・Blu-rayディスク
- アニメーションクリップ「キミノヒカリ」
- アニメーションクリップ「キミノヒカリ」ライカリール
・特製36Pアニメブックレット
- キャラクター設定
- 本編美術ボード
- 原画集
- スペシャル対談(高嶋ひろみ×佐藤卓哉×担当編集×プロデューサー)ほか
・高嶋ひろみ描き下ろし小冊子「アントキノ加瀬サン。」
・高嶋ひろみ描き下ろし特製BOX
これまでのシリーズ
- 高嶋ひろみ「あさがおと加瀬さん。」
- 発売中 / 新書館
隣のクラスの加瀬さんは陸上部のエースで美人の女の子。内気な緑化委員の山田は夏休みの少し前、育てているあさがおの前で加瀬さんに声をかけられて仲良くなった。知れば知るほど加瀬さんを大好きになっていく──そんな山田の思いは──!?
- 高嶋ひろみ「おべんとうと加瀬さん。」
- 発売中 / 新書館
- 高嶋ひろみ「ショートケーキと加瀬さん。」
- 発売中 / 新書館
- 高嶋ひろみ(タカシマヒロミ)
- 12月26日生まれの北海道出身。血液型はAB型。主な作品として「未満れんあい」(双葉社)、「はれたら明日! 」(新書館)などがある。また「加瀬さん」シリーズを「ピュア百合アンソロジー ひらり、」にて発表し、同誌の休刊後はウェブマガジンウィングス(いずれも新書館)にて連載中。「あさがおと加瀬さん。」「おべんとうと加瀬さん。」「ショートケーキと加瀬さん。」とシリーズ展開されており、7月25日には最新作「エプロンと加瀬さん。」が発売される。
- 佐藤卓哉(サトウタクヤ)
- 4月生まれのA型で、宮城県栗原市出身。音楽が好き。再放送で観たテレビアニメ「宝島」「母をたずねて三千里」などに衝撃を受け、アニメ界に入る。監督作品に「selector」シリーズのテレビアニメと劇場版のほか、「STEINS;GATE」「苺ましまろ」「好きっていいなよ。」「NieA_7」など。シリーズ構成としてテレビアニメ「Fate/stay night」第1作や「舟を編む」も手がけている。
- イメージソング「君の笑顔(album ver.)」収録
奥華子 アルバム「good-bye」 - 発売中 / ポニーキャニオン
- 奥華子 最新アルバム
「遥か遠くに見えていた今日」 - 発売中 / ポニーキャニオン
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3500円 / PCCA-04535 -
通常盤 [CD]
3000円 / PCCA-04536
2017年8月1日更新