アニメ「アルスの巨獣」オグロアキラ監督×大槍葦人対談|絵の魅力を綿密に生かした、構想5年のファンタジー大作がここに

現在、MBS・TBS系全国28局ネット「スーパーアニメイズム」枠ほかで放送中のオリジナルTVアニメ「アルスの巨獣」。大地を揺るがす巨獣がはびこる世界を舞台に、“カンナギ”と呼ばれる巨大な力を持つ少女・クウミと、かつてカンナギの器“ナギモリ”として槍を振るっていたジイロが出会ったことから物語が動き出す。

コミックナタリーでは放送を記念し、オグロアキラ監督と、キャラクター原案を務める大槍葦人の対談をセッティング。5年前に企画が立ち上がったというアニメの誕生秘話や、絵への強いこだわり、中盤以降の見どころなどを語ってもらった。

取材・文 / 前田久撮影 / 高原マサキ

プロデューサーのひと言からファンタジー大作路線に(大槍)

──取材のセッティングをお待ちいただいている間、すごくフランクにお話をされている姿が印象に残りました。ずいぶん打ち解けてらっしゃるご様子で。

オグロアキラ この作品のためにやり取りしていた期間、長かったですもんね?

大槍葦人 ですね。週イチで………何年会ってましたっけ? 自分たちでもわからなくなるくらい(笑)。

オグロ たぶん、4年くらいかな? 「アルス」と同じDMM.comさんが製作していた「なむあみだ仏っ!-蓮台 UTENA-」(※2019年4月放送開始のTVアニメ)の作業中に話が来たはずなので。そこから長かったなあ(笑)。しかも俺が入ったのって、割と企画が進んで、内容も固まった後だったでしょう? だから大槍さんは、もっと長い。

大槍 そうですね。その前に僕はもう、すでに1年くらいやってました。

オグロ 1年もやってたんだ! 大変だあ……。

──初期段階で企画に参加されていたのは、大槍さんとDMMのプロデューサーの方と……。

大槍 あと、(シリーズ構成の)海法紀光さん。ただ、実は海法さんが入る前にも、「アルス」とは違う内容の、別のオリジナルアニメの企画を1回進めていたんですよ。「アルス」とは制作会社も違うし、そのとき考えていた要素はまったく残ってないんですけど。そんな経緯もあるので、気持ちとしてはもっと作業期間は長い(笑)。前の企画がぽしゃって、「ちゃんとライターさんを入れてやりましょう」という話が関係者で持ち上がって、海法さんに来てもらった。そこから改めてゼロスタートで、「アルス」につながる企画を立ち上げた。細かく経緯を話すと、そんな感じですね。

左からオグロアキラ監督、大槍葦人。

左からオグロアキラ監督、大槍葦人。

──オリジナル企画を立ち上げるのは、本当に大変なものですね……。

大槍 で、海法さんが入ってから、またみんなでいろいろ、やりたいことのアイデアを出していった。そうしたら、当時参加していたプロデューサーの1人が、「『指輪物語』みたいな王道もののファンタジーをやりたいです」とか言い出したんです。最初は「え? 何を言い出したの?」って感じでした(笑)。それまで、もっとコンパクトな話を考えていましたからね。それはちょっと難しいのでは……と。

オグロ でも実際、完成した「アルス」は壮大な話になったよね。

大槍 難しそうだけど、でも、プロデューサーが言ってるし、やろうか……って、なんとなく(笑)。そんなふうにあれこれと違う企画を考えた過程があるので、僕のPCのキャラクターデザインフォルダには、日の目を見ないものばっかり入ってます。でも、これってアニメ業界あるあるじゃないですか?(笑)

オグロ そうですねえ……(しみじみ)。

大槍 ともあれ、「指輪物語」というのはポロっとこぼしただけで、「絶対にそうしたい!」って感じでもなかったんだけど、でも、話し合いに大方針は必要じゃないですか。大きい話にするのか、小さい話にするのか。現代ものにするのか、ファンタジーにするのか。その時点で、ファンタジー大作路線になったんですよね。で、そこに、関わっているみんなのやりたいことを加えていきました。

巨獣のイメージイラスト。
巨獣のイメージイラスト。

巨獣のイメージイラスト。

大槍さんの強みを活かしたかった(オグロ)

──大槍さんの持ち込んだ要素はどれですか?

大槍 僕はおっさんと少女がバディ(相棒)になる作品が好きなので、その要素を入れたいな、と。あと、これはほかの誰かが言い出したことですけど、「異世界転生ものにはしたくない」みたいな話がありましたね。すでにそういう企画はたくさんあったから。ただ、その時点ではあまり、内容をガチガチに決めすぎないほうがいいなとも思っていました。結局、アニメは監督が大事ですから。監督が最終的に「これは俺の作品だ」と思ってくれないと、いいものにならない気がしたので、決まってから柔軟に内容を変えたいと考えていました。

オグロ そうなんですよね。「作品は自分のもの」なんて言いたいわけじゃもちろんないけど、やっぱり俺の頭の中で整理がつかないと、ちゃんと作れないな、という意識はあるんです。あまりに壮大な、緻密な設定を作っても、俺が理解しきれずに作ると、最終的なお話の辻褄が合わなくなったりする。だからけっこう、参加した後で内容を変えてしまいました。

ジイロ。「死に損ないのジイロ」の二つ名を持つ巨獣狩りで、カンナギの力を制御できないクウミを救うべく、彼女と契約し、再びナギモリとして槍を握ることとなる。

ジイロ。「死に損ないのジイロ」の二つ名を持つ巨獣狩りで、カンナギの力を制御できないクウミを救うべく、彼女と契約し、再びナギモリとして槍を握ることとなる。

クウミ。「二十と二番目のクウミ」の二つ名を名乗るカンナギで、実験対象として幽閉されていた研究所から逃げ出した際、ジイロと出会う。身体能力が高く、食欲旺盛。

クウミ。「二十と二番目のクウミ」の二つ名を名乗るカンナギで、実験対象として幽閉されていた研究所から逃げ出した際、ジイロと出会う。身体能力が高く、食欲旺盛。

大槍 おかげで新鮮に観られてます。企画から脚本になる段階でも内容がけっこう変わりましたけど、そこから映像になる段階でもだいぶ変わってますからね。

オグロ そうですね。脚本はほんと、「大筋だけここで固めよう」みたいなつもりで俺はいたんで。参加が決まったときに渡されたのは……(卓上にあった資料を見ながら)そう、この段階の資料を、もうその時点で渡されたんですよね。

クウミのイメージイラスト。

クウミのイメージイラスト。

──となると、キャラクターデザイン原案はもう、ほぼ固まっていたんですか?

オグロ ええ。だから(アニメーション制作を手がける)旭プロダクションの人には「これを動かすのは大変だよ?」って、まず伝えましたね(笑)。

大槍 ですよね(笑)。

オグロ それから打ち合わせに参加するようになって、最初のうちはとりあえず縮こまりながらお話だけ聞いとこうかなって感じだったんですけど(笑)、やっていくうちに、なんかちょっと、「このままだと話に一本筋が通ってないから、ヤバいぞ」と俺の中では感じたんです。そのあたりからかな。ちょこちょこ内容にも口を出すようになった。ただ、そこから先の追加で出してもらうキャラクターデザインの原案に関しては、もう、大槍さんに任せきりだった。

大槍 アニメは大勢の方が絵を描くものなので、「ここさえ描いておけばキャラクターが似る」みたいな特徴を付けないといけないかな?とか、なるべく線を減らさないといけないかな?とか、いろいろ考えていたんですけど、そういうことを考えないでいい、好きに描いてください……と言われたので、気は楽でしたね。

オグロ (大槍さんにお願いしたのは)キャラクターの並びの色だけかな。そこはコントラストを付けたかったので。

キャラクターの対比画像。

キャラクターの対比画像。

──オグロ監督が物語の内容についてもご意見を出されるようになってから、どう変わられたんですか?

オグロ 最初はもっと世界観だけを見せるような内容でしたよね?

大槍 そうですね。僕も海法さんも、実はあまり「何を描きたいか」は考えていなかったんです。自分の絵がアニメになって動いてくれるのはうれしいけど、キャラクターの心の動きがどうなるのか?みたいな部分には関心がないというか(笑)。先ほど話した少女とおじさんのバディの要素があり、それから、僕はSF的なものが好きなので、それさえうまく描けていれば大丈夫なんじゃないかな?と。でも確かにTVシリーズともなると、どこか中心を決めないといけない。結局あるとき、「主人公はジイロなのか? クウミなのか?」みたいな話が持ち上がったんです。そこで監督が「結局これって、クウミの成長を描く作品でいいんだよね?」とおっしゃったのが、1つ、決め手になった。言われてみれば確かにそうだ、それしかないな、っていう。

オグロ ねえ? 大槍さんの絵といえば女の子だから。

──企画のど真ん中にいらっしゃるクリエイターの強みを活かそうと考えたら、その発想になりますよね。美少女を主人公として、作品の中心に立てる。

大槍 ありがたいことです。

クウミ

クウミ

オグロ あと、逆にジイロが主人公でクウミがサブだと「この子はなんのためにいるの?」という問題も生じてしまうし。

大槍 いや、僕はね。本当はおっさんが主人公で、女の子はどんどん死んで、入れ替わっていくくらいの話でもいいかなって最初は思っていたんですけど……(笑)。

オグロ あっはっは。大槍さんも、それから海法さんも、割とその気がありますよね。けっこうどぎつい表現とか、キャラクターの扱いをする。

大槍 最初はもう、クウミをはじめ、カンナギたちは16歳までしか生きられないことにしましょう!みたいな話をしたら、監督から「それはないわ」って言われて(笑)。

オグロ ま、とはいえ、少しはその要素も、完成した作品に残っていますけどね……。