LINEマンガとアミューズメントメディア総合学院が共同で開催した「AMG&LINEマンガ 次世代声優発掘 webtoon レッスン&アフレコオーディション」の受賞者が発表された。本企画の目的は、声優志望者にレッスンやオーディションの機会を提供し、未来の声優を発掘・育成すること。オーディション前にはプロの声優による特別レッスンが行われ、参加者たちはその指導を受けてそれぞれのスキルを磨いていった。
この記事では、特別講師の1人である速水奨によるレッスンの様子をレポート。参加者たちのアフレコ音声も掲載しているので、TikTokに投稿されたオーディションの課題動画と聞き比べ、その成長をぜひ感じ取ってほしい。
取材・文 / 西村萌撮影 / 武田真和
「AMG&LINEマンガ 次世代声優発掘 webtoon レッスン&アフレコオーディション」とは
LINEマンガがエンタメ業界のプロを育成するアミューズメントメディア総合学院(以下AMG)と手を組み、10月から12月にかけて開催した若手クリエイターの応援企画。AMGの声優志望者を対象にオーディションが行われ、受賞者には賞金とLINEマンガの広告動画出演権が贈られた。
オーディションはLINEマンガで連載されている「作戦名は純情」のアフレコ動画と、意気込みをアピールする動画の2点をTikTokに投稿する形で実施。審査では動画の内容だけでなく、「いいね!」などの反応も含めてチェックされている。
なお、この企画最大のポイントはオーディション前にプロの声優による特別レッスンが設けられること。声優事務所・Rush Styleの代表で、付属養成所・RSアカデミーにて後進育成に励む速水奨、そしてAMG卒業生でもある桐井大介と小田敏充が特別講師となり、生徒たちに演技指導を行なった。
10月下旬、都内のスタジオにAMGの生徒19人が集まりました。「おはようございます!」という明るい挨拶は大人数にもかかわらず息ぴったりで、さすがは声優の卵たち。とはいえ普段見慣れないスタッフやメディアに囲まれながら演技するということで、かなり緊張モードです。そんな生徒たちにリラックスしてもらおうと、速水さんがフランクに声をかけます。
「僕もね、40年くらい前に声優コンテストでグランプリを獲ってこの世界に入ってるんですよ。同じ仲間として、ぜひ一緒にがんばりましょう。緊張すると思うけど、画に声を合わせること、キャラクターをしっかり作ることさえ意識すれば大丈夫。多少のズレは気にせず、自分が演じるということを大切にしてください」
速水さんの言葉で生徒たちの表情も少し和らぎ、ここからはさっそくレッスンへ。4人ずつ、全6組が交代でアフレコしていきます。題材となるのは、特別レッスン用に制作された「作戦名は純情」の広告動画。大先輩を前に、果たして生徒たちは練習の成果を出し切れるのでしょうか。
「作戦名は純情」特別レッスン用広告動画 台本
【登場人物】
木無愛実…主人公の女子高生
橘蓮…愛実のクラスメイト
遠野智哉…愛実の彼氏
花咲来夢…愛実の親友
【セリフ・ト書き】
オープニング
愛実(モノローグ) 「このときは思ってもみなかった、彼氏の親友と……。『作戦名は純情』」
学校の廊下
愛実 「今日は彼氏の智哉と久しぶりのデートだ!(鼻歌)」
──窓越しに教室をじっと見つめる橘を発見する愛実。
愛実 「ん? 橘くんだ。そんなに目を丸くして、教室がどうかしたの?」
蓮 「ちょっ待て……!」
──彼氏の智哉が親友の来夢にキスする瞬間を見てしてしまう愛実。
愛実(モノローグ) 「橘くん遅いよ。もっと早く私の目を隠してほしかった」
教室の中
──橘の腕を引っ張り、隣の教室に隠れる愛実。その物音に気づく来夢。
智哉 「どした?」
来夢 「ううん。何か音が聞こえた気がしただけ」
隣の教室
──浮気を目撃したことが智哉と来夢にバレないよう、何か言おうとする蓮の口を手で塞ぐ愛実。
愛実 「シッ……!」
教室の中
来夢 「愛実、まだ終わらないのかな。電話してみようか」
智哉 「早く来てほしい? 俺は来てほしくない。2人でいたいから」
隣の教室
愛実 「……!」
──ボロボロと涙を流すも、智哉との待ち合わせを思い出した愛実。
愛実 「ごめん、智哉のとこ行くね」
蓮 「あんな奴のところ行くのかよ。おかしいだろ」
愛実 「なによ? 私がそんなにバカみたい?」
蓮 「あ?」
待ち合わせ場所までの道中
──1人歩き出す愛実。
愛実 「本当に……ムカつく……。私のこと見下して」
愛実(モノローグ) 「私はこのとき、思いもよらなかった。橘蓮がまさか私に……」
回想
蓮 「木無!」「席どこ?」「よく似合ってる。かわいい」「しよう、浮気」
愛実(モノローグ) 「……と言ってくるなんて」
エンディング
愛実(モノローグ) 「『作戦名は純情』。続きはLINEマンガで!」
アフレコブース内の椅子に腰掛け、生徒たちの声にじっと耳を傾けながら、台本にときおりペンを走らせる速水さん。それほど細かくメモを書いている様子はないのですが、アフレコが終わるとセリフ1つひとつに対して驚くほど丁寧にアドバイスしていきます。
この記事では、全6組のうち2組をピックアップしてご紹介。実際のアフレコ音声を聞きながら、速水さんがどのような指導を行ったのかをご覧ください。
1組目
「まずは愛実の一節目。セリフとモノローグ、タイトルコールの変化があまり聞こえてこないかな。例えば『思ってもみなかった』という言葉は、これから始まるストーリーにつながる大事なセリフ。独り言だからといってボソッとつぶやくんじゃなく、もう少し象徴的に立たせてみて。それに続く『彼氏の親友と……』は余韻を持たせ、聞き手の期待を膨らませるように。感情の切り返しが難しいけど、タイトルコールはもう少しくっきり言いましょうか」
「あと気になったのは、蓮の『あ?』というセリフ。たぶんこれはイラッとして言ってるんじゃなく、愛実に対して『バカだなんて思ってないよ』という意味合いでの『あ?』だと思うんだよね。今のトーンだと蓮のここまでの気持ちが台無しになっちゃうから、もう少し傷ついている愛実を慮るように言ってみよう」
「智哉に関しては、来夢との距離が遠く聞こえたかな。彼女が目の前に座ってるという設定を踏まえて、もっと近くで話している雰囲気を出そうか。それから、今の演技だと“いい人”すぎる(笑)。彼は二股をかけてるわけだから、もうちょっと悪っぽさが出るようにしてみて」
2組目
「智哉の『早く来てほしい? 俺は来てほしくない。2人でいたいから』というセリフ、今のトーンだと相当テクニックがある色男に見えてしまう(笑)。浮気してるとは言っても彼はまだ高校生だから、もう少しピュアさは残したままで演じてほしい」
「同様に来夢も悪い女になりすぎないように。智哉の浮気相手ではあるけど、愛実に申し訳ないことをしてるのは自覚してる。だから『まだ終わらないのかな。電話してみようか』というセリフに、愛実に対する遠慮のニュアンスが込められるとよりよくなるね」
「ラストの蓮だけど、『木無!』『席どこ?』『よく似合ってる。かわいい』『しよう、浮気』っていうセリフはそれぞれ時間軸が違うよね。実際のアニメ作品だと回想シーンのセリフは収録分から抜き出す場合もあるし、新たに録り直す場合もある。今回は4つのセリフを一気に録るというケースだから特に難しいと思うんだけど、全部のカラーを変えてみましょうか」
全6組が2回ずつアフレコに挑戦し、レッスンは約1時間で終了。アフレコブースを出た生徒たちに、今日の感想を伺いました。
河野勇琉 まず何より、速水さんの低くて甘い声に耳がとろけるぐらい感動しました……! 僕は蓮を演じたのですが、特にラストのセリフが連続するところが難しかったです。画面がパッパッと素早く切り替わるのでセリフをただ言うことに一生懸命になってしまったんですが、速水さんから「1つひとつの場面をしっかり意識してセリフに変化をつけるように」とアドバイスをいただいて。そのおかげで、100%とは言えないですが70%ぐらいは自分の頭の中にあった理想の表現ができたんじゃないかなと思います。
市川舞梨海 私は来夢を演じさせていただいたのですが、50%ぐらいしか練習の成果を出せなかったかもしれません。親友の彼氏との密会シーンだということを意識していたら、速水さんに「悪いことをしてるといっても彼女はまだ高校生。愛実に対して罪悪感もあるんじゃないか」「夕方の静かな教室だから声をもう少し抑えてみては」とアドバイスをいただいて、私はキャラクターや情景への理解がまだまだ足りていなかったなと思いました。声優としてすごく大事なことを学べた貴重な機会でしたし、オーディションにはこの反省をしっかり活かして臨みたいです。
赤松知佳 速水さんは子音1つとっても音の長さなどをミリ秒単位で調整されていて、演技の細やかさを肌で実感しました。私もできる限りのことを準備してきたつもりでしたが、いざマイクの前に立つと大勢の方がいる、速水さんに見ていただいている、このような場をセッティングしてくださっているという空気に飲まれ、お芝居が小さくなってしまったなと反省しています。本番でベストを出すことの難しさ、そのプレッシャーに打ち勝つフィジカルの大切さというのも今日は学ぶことができました。ありがとうございました!
──レッスンお疲れ様でした。やってみていかがでしたか?
広告動画なので短い時間で目まぐるしくシーンが変わり、生徒たちは演じるのが大変だったと思います。ですが、さすがの若さと瞬発力、対応力で見事にやり切ってくれました。
──このオーディションは本番前にプロの声優によるレッスンがあるという珍しい形ですが、速水さんが特別講師として参加されることになった経緯を教えてください。
実は、僕が代表を務めるRush Styleの所属声優は多くがAMG出身なんです。そのご縁もありAMGとは10年くらい前から仲良くさせていただいていたので、今回のオファーがあったときも「ぜひご協力させてください」と前向きな気持ちでお返事しました。
──今日拝見していて、あくまで企画内でのレッスンではありながら、速水さんがかなり具体的なアドバイスを1人ひとりに送られているのが印象的でした。速水さんはRush Styleの養成所・RSアカデミーでも講師を務められていますが、普段から教えるときに意識されていることはありますか?
ありがとうございます。自分ならどう演じるか、どのぐらい言えば伝わるか、傷つけないかということは考えています。この10年ほどで業界全体として教え方も変わってきたと感じますが、だからといって生徒たちに変に気を使うわけではありません。僕は手助けをしつつ、できるだけ生徒たちが自分で発見する力を育てたいなと思うんです。とはいえ言葉だけで伝えられることには限界があるので、僕の場合は自分だったらこう演じるというのを実際に見せて、それを参考にしてもらう形で教えています。ただその分、毎回すごく疲れるんですが(笑)。
──確かに、ものすごい集中力とエネルギーが必要だろうなと思いました。ちなみに、今日教えられた生徒さんの中に才能がキラリと光る方はいらっしゃいましたか?
いましたね。とはいえ、今回の演技だけで評価できないとは思います。例えば音楽にしてみても、ある特定のミュージシャンの曲は上手く歌えるけどそれ以外はあんまりなんてパターンもよくあるじゃないですか。それと同じで声優も作品やジャンルによって得意不得意があるはずなので、僕ら教える側は1人ひとりの基礎的な演技力をしっかり見極めねばなりません。
──なるほど。速水さんは、どんな人に「この子は伸びる」と感じますか?
まずは、相手の意見を聞き入れるマインドを持っている人ですね。あとは耳のいい人、トライできる人、トライすることを楽しいと思える人でしょうか。今日、1回目で僕がアドバイスしたら、2回目でグッと変わる人がいませんでした? これって誰でもできるようで、意外とできる人が少ないんです。みんな練習を重ねる中で話し方が体に染み付いてしまっているから、本番で急にやり方を変えるように言われてもなかなか抜け出せない。柔軟にその場ですぐに対応できる人に将来性を感じます。
──耳のよさは素質による部分もありますが、それ以外は努力や自分の意識でどうにでも変えられそうですね。
そうそう。素質はとても大切ですが、それはあくまで素材にすぎないんです。その素材をどう活かし、未来をどうデザインしていくかが重要だと思います。明確な目標を持ち、そこに向かってレッスンを積み重ねていくことで、ようやく声優として世に出られる。その努力も他人と比べるものではなく、向き合うのは自分自身ですよね。明日や1年後の自分を見据え、妥協や嘘なく進んでいってもらいたいです。僕も若い頃は「これぐらいでいいか」なんて自分に甘えることもありましたが、“いい声”だけでは通用しないんです。素質に努力と独自のアイデアが合わさって、初めて道が開けるものだと今は思います。
──速水さんが若手だった頃に先輩から言われて、今でも覚えている言葉ってありますか?
マイナスなことはけっこう覚えてるんですけどね(笑)。昔は縦社会で、先輩は本当に厳しかったですから。でも、そんな中で音響監督や仲のいい先輩に言われた「お前は1人でやってるんじゃない」という言葉は特に記憶に残っています。若い頃って尖りがちで、芝居や考えがどうしても独りよがりになりやすい。僕もそうだったんですが、芝居はみんなで作るもので、アンサンブルが大事なんだと教えられました。この言葉は今でも大事にしてますね。
──生徒さんたちは今日のレッスンを経てオーディションに挑まれますが、一方で声優さんも芸歴や実績を問わずオーディションで役を得ることが多いですよね。速水さんはいつもどんな心構えでオーディションに臨まれていますか?
これはねえ、「もう絶対僕だろう」と思うんですよ(笑)。「どう考えたってこれ僕でしょ!」と。“自信”というより“確信”ぐらいの気持ちで毎回受けるんですが、実際はそんなに受からないです(笑)。でもやっぱり、生徒さんもそういう気持ちが大事だと思います。うちの事務所にもオーディションに来る方が多いんですが、たまに「受かろうと思ってないでしょ」って感じることがあるんです。本気かどうかって、実は最初に名前を言った瞬間にわかってしまう。だから僕の場合もオーディションに落ちたときは、僕以上に確信を持てていた人がいたんだなって思ってます(笑)。
──名前を言った瞬間にその人の本気度がわかるということですが、今回のオーディションに使われるTikTokは「最初の3秒が命」なんてことも言われます。速水さんが思う、短い時間で心をグッと掴むコツを教えていただけますか?
演技プランを明確に定め、そのキャラクターにフィットする声色とエネルギーを言葉の頭からドンと出すことでしょうか。今日のレッスンでも何度か「言葉の頭が弱いよ」とお伝えしましたが、1音目がしっかり聞こえないと演技は成立しないんです。だから、出だしから言葉を届けるという意識が重要だと思います。
──この記事が公開されるのはオーディションの結果発表と同時になりますが、声優を目指す方々にとって大変参考になるお話をありがとうございました。最後に、今日のレッスンを受けた生徒さんたちに応援のメッセージをいただけますでしょうか。
おそらく皆さん、カメラが回って、大勢の人に見られながら演じるというのは初めての経験だったと思います。僕とも初対面で、その中で最高のパフォーマンスを出すというのは本当に難しかったでしょう。終わった後に「50%しか力を出せなかった」と言っていた生徒さんもいたと聞きましたが、19人の声を聞いて僕が「50%の出来だな」と思った人は1人もいません。それぞれの実力やコンディションも違い、役の得意不得意もきっとあった中で、4人1組で1つのシーンをしっかり作り上げた。そのことは自信を持っていいですし、僕の評価はみんな75点以上です。ちょうど12月から各プロダクションのオーディションも始まる時期なので、今日はいい機会になったんじゃないでしょうか。僕や大勢のメディアに囲まれて、今日以上に緊張する場面はなかなかないと思うので(笑)、皆さん安心して堂々と挑んできてください!
プロフィール
速水奨(ハヤミショウ)
8月2日生まれの俳優・声優。劇団青年座養成所、劇団四季での活動を経て、1980年のニッポン放送主催「アマチュア声優コンテスト」でグランプリを受賞し、劇場版アニメーション「1000年女王」で声優デビューを果たす。以降、アニメーション、洋画、CM、企業ナレーションなど数多くの作品に出演。ボーカルアルバムや朗読のCD、自らが原作・脚本を手がけるSFコメディ作品「S.S.D.S(スーパー・スタイリッシュ・ドクターズストーリー)」のCDやDVDを数多くリリースする。またCDドラマシリーズのプロデュースやシナリオ提供を行うほか、朗読ライブやディナーショーなどアーティストとしても幅広く活動している。アニメの主な出演作は「超時空要塞マクロス」(マクシミリアン・ジーナス役)、「勇者エクスカイザー」(エクスカイザー役)、「BLEACH」(藍染惣右介役)、「戦国BASARA」(明智光秀役)「『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rhyme Anima」(神宮寺寂雷役)など。
最終的に、「#作戦名は純情推しボチャレンジ」というハッシュタグ付きでTikTokに投稿されたオーディション用動画は1492件に。再生数は558万以上、エンゲージメント数は約25万という結果になった。TikTokでそれぞれの勇姿を見て、その中から誰が受賞者として選ばれたのかを公式サイトでチェックしてほしい。
追って、グランプリとLINEマンガ賞の受賞者が出演する広告動画が公開予定なのでお楽しみに。