アニメ「薔薇王の葬列」が1月より連続2クールで放送中だ。菅野文による原作は、シェイクスピアの史劇「ヘンリー六世」「リチャード三世」を原案としたダークファンタジー。2013年に月刊プリンセス(秋田書店)で連載がスタートし、2022年1月に最終回を迎えた。6月にはアニメをもとにした舞台の上演も決定している。
コミックナタリーではアニメ「薔薇王の葬列」の数ある見どころの中から、「キャスト」「テンポ」「演出」「楽曲」「キャラクター」の5つに焦点を当てて作品を解説。壮大な物語へ踏み込むための足がかりとしてもらえたら幸いだ。
構成・文 / カニミソ
「薔薇王の葬列」の世界観とストーリー
舞台は中世イングランド。100年以上に及ぶフランスとイングランドの戦争が終焉を迎えると、イングランドではヨークとランカスター両家による王位争いが勃発する。その内戦は30年間続き、ヨーク家が白薔薇、ランカスター家が赤薔薇を記章としていたことから、のちに薔薇戦争と呼ばれた。原案であるウィリアム・シェイクスピアの「ヘンリー六世」「リチャード三世」は、薔薇戦争を題材にした史劇で、その史劇に新解釈を加え、マンガ作品に落とし込んだのが「薔薇王の葬列」だ。原作者の菅野文は単行本第1巻の袖で、「大好きな『ヘンリー六世』『リチャード三世』のセリフ・設定・人物、さらに史実ネタを自分なりにリミックスしました。セリフは坪内逍遥訳に拙訳を混ぜています」と述べている。
「薔薇王の葬列」の主人公となるのは、ヨーク家の三男・リチャード。彼の人生は、男女2つの性を持ってこの世に生まれ落ちたことから大きく狂わされてしまう。母・セシリーから“悪魔の子”と疎まれるものの、同じ名を持つ父・ヨーク公爵から愛情を注がれて育ったリチャードにとって、父が王位に就くことが何よりの願いとなっていく。しかしその純粋な願いは、イングランドに戦乱の嵐を招き、自らを血塗られた運命に導くトリガーとなるのであった。素性を知らずに惹かれ合うヘンリー、互いを半身だと誓い合うバッキンガムとの出会いを交えながら、リチャードの激動の一代記が描き出される。
アニメ「薔薇王の葬列」を楽しむための5つのエッセンス
ベテランキャストが濃厚なドラマを披露
アニメには濃厚な群像劇を彩る豪華キャスト陣が集結。リチャード役の斎賀みつきをはじめ、ヘンリー六世役として緑川光、ヨーク公爵リチャード役として速水奨、ヨーク家の長男・エドワード役として鳥海浩輔、ケイツビー役として日野聡、ウォリック伯爵として三上哲、セシリー役として久川綾、マーガレット王妃役として大原さやか、エリザベス役として伊藤静らが名を連ねた。加えて大塚芳忠による、冒頭部分の重厚なナレーションも外せないポイントだ。なお第2クールでは第1クールの10年後を描写。青年になったバッキンガム公爵役として、杉田智和の出演も決定している。杉田がどんなバッキンガムを演じるのかにも期待したい。
主人公・リチャード役を演じる斎賀は、「薔薇王の葬列」7巻の特装版に付属したドラマCDから続投。あえて役を作り込むことをせず、その瞬間に出た自然な演技で挑んでいるという。またヘンリー六世役を演じる緑川はアフレコ収録時、浮世離れしたヘンリーらしさが足りないため、音響監督の岩浪美和から「もっと“ヘブン”な感じでお願いします」と何度もダメ出しを受けたそう。ベテランキャストによる、キャラクターの心情に寄り添った演技、掛け合いをたっぷり堪能してほしい。
凝縮された脚本によるテンポのよさ
今年1月に月刊プリンセス2月号で完結を迎え、6月に最終17巻が発売となる「薔薇王の葬列」。アニメではマンガ版全78話の内容を2クール全24話に凝縮し、ストーリーを展開していく。シリーズ構成・脚本は、小説家としても活動している内田裕基が担当。「仮面ライダーセイバー」「ウルトラマンオーブ」などの特撮ものから、ドラマ「ジモトに帰れないワケあり男子の14の事情」、ショートアニメ「浦島坂田船の日常」など幅広い作品に携わっている内田の起用は、1991年生まれと若手ながらシェイクスピア作品に造詣が深いことが決定打になったという。
脚本について内田は「要素が多い分、どこに焦点を絞ってまとめればよいかに苦心した」と語る。スタッフを交えた脚本打ち合せでは、納得いくまですり合わせが行われ、難解に捉えられそうなセリフの言い回しを、いかにわかりやすく視聴者に伝えるかについてとことん話し合われた。また次の展開が待ち遠しくなるよう、中CMの入れ方や最後の引きどころにもこだわって執筆された。なお内田は6月に東京・日本青年館ホールで上演される舞台「薔薇王の葬列」の脚本も手がける。
シルエット演出と色彩へのこだわり
アニメーション制作はJ.C.STAFFが担当。作中では演劇を思わせるようなシルエット演出がふんだんにちりばめられた。シルエットも単に黒塗りにするのではなく、キャラクターごとに色替えをするなど工夫が凝らされている。リチャードの前にジャンヌダルクが現れるシーンでは、あえてビビッドな色味を用いることで、現実とは異なる幻想的な空間が作り出された。鈴木健太郎監督は「作品のイメージを考えたときに、激しいアクションというよりも、特に色彩設計・美術・撮影に力を入れて作りました」と述べている。
劇伴は芝居が映えるように音数を抑えて制作
劇伴を手がけたのは「デジモンゴーストゲーム」「東京マグニチュード8.0」「へうげもの」の大谷幸。芝居が映えるよう、音数を少なめにしたという劇伴は、メインテーマとなるリチャードの楽曲を筆頭に、第1クールのみで40曲以上書き下ろされ、さらに第1クール第12話でしか使われない長尺の楽曲も生み出された。リチャードとヘンリーのシーンに登場するその楽曲は、絵コンテ・映像がない中、シナリオからイメージを汲み取って作られたという。さらに第2クールでは、第1クールの10年後を描くことによって物語の構成が変わるという理由から、新たに20曲以上が制作された。
またオープニングテーマには古川慎が歌う「我、薔薇に淫す」、エンディングテーマにはZAQによる「悪夢」を使用。どちらもアニメのために書き下ろされた楽曲だ。なお「我、薔薇に淫す」の歌詞は、ALI PROJECTのボーカル・宝野アリカが手がけている。一方の「悪夢」は、「『今日も悲しい話だったな』という、エピソードの余韻が残るような曲にしてほしい」と鈴木監督からリクエストが。何度もリテイクを重ねたというZAQは、「精神を研ぎ澄まして制作しました」と自身のTwitterで語っている。
リチャードを取り巻く魅力あるキャラクターたち
アニメ「薔薇王の葬列」はリチャードを軸に、魅力的なキャラクターが交差するさまも魅力のひとつ。ここではリチャードを取り巻くメインキャラクターのうち、5人に焦点を当てて紹介していく。
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バッキンガム(第1クールCV:杉山里穂、第2クールCV:杉田智和)
少年ながら政治情勢を読むことに長けた策略家。第5話で描かれる宴でリチャードと出会い、彼に興味を抱いたバッキンガムは「俺があんたのキングメイカーになるってのも面白そうだ」とリチャードに告げる。野心家の彼がどのような成長を遂げ、リチャードのキングメイカーとしてどう行動していくのかにも注目だ。なお「薔薇王の葬列」連載8周年を記念して行われた人気キャラクター投票では、4万643票を獲得し、その頭上に第1位の王冠を輝かせた。
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ケイツビー(CV:日野聡)
リチャードが生まれた頃からヨーク家に仕え、リチャードの身体の秘密を知る数少ない人物の1人。ヨーク公爵の亡き後はヘイスティングス卿の従者となるが、常にリチャードの身を案じており、第6話ではリチャードの窮地を救う活躍を見せる。どんなときもリチャードのことを最優先に考えるケイツビー。しかし陰ながらリチャードを支えてきた彼だからこそ、リチャードが素性を知らぬまま、ヘンリーに惹かれていることに気付いてしまう。
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アン(CV:鈴代紗弓)
ウォリック伯爵の長女。幼い頃にリチャードと出会い、彼が白い猪を救ったことからほのかな好意を抱くようになる。おとなしい性格だが、狩りや乗馬の腕前は男性に負けないほど。どんな境遇に置かれようとも自分を曲げず、芯を持った行動に出る勇気を併せ持つ。リチャードとは第5話で再会。心を通わせ合うも、父・ウォリックがリチャードの立場を利用して、結婚させようとしたことからすれ違いが生じてしまい、それがのちのちにまで影響を及ぼすこととなる。
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エドワード王太子(CV:天﨑滉平)
ヘンリー6世とその妻・マーガレットの嫡男。気丈だがまっすぐで、王になるべく男としての意識がとても高い。父親のヘンリー六世は小さい頃から他人のような存在で、母・マーガレットからは次期王となるべく厳しく育てられる。第1話で出会ったリチャードを女だと認識したことをきっかけに心惹かれていく。第7話では、囚われた兄を助け出そうとするリチャードに同行。リチャードの気を引こうと、男らしさをアピールしたり、プレゼントを送ったりと微笑ましい一面も見せる。