コミックナタリー Power Push - 近藤聡乃「A子さんの恋人」
日米で揺れる、優柔不断な恋の行方は?ひねくれた大人の無責任シティロマンス
主人公をナースにするんだったら、3年はナースをやらないと
──誰しも一読して思うのが、主人公はニューヨーク帰りのマンガ家で、友達や元恋人は美大の同級生で、これは近藤さんの話じゃないのか?っていう。
そう見えるかもしれないですけど、出来事はぜんぶフィクション、架空の話です。人物もモデルはいません。ただ、せっかくニューヨークに住んでいますし、設定として盛り込みました。
──見聞きしたことある世界の話なら描きやすい?
たとえば恋愛をテーマにするとしたら、学園恋愛マンガというものもありだと思うんですが、中高生の時は恋愛と縁遠かったので、難しいと思ったんです。ボーっと絵を描いてばかりいたので、そういう高校生の話なら描けると思うんですが。でもそういう人間が中高生の恋愛を描くということには、罪の意識があります。
──その理屈でいくと、異世界ファンタジーとか描けないじゃないですか(笑)。
そうなんです、多分うまくできないんじゃないかと思います。だからたとえば病院のマンガを描くとなったら、調べたり、なんらかの経験をどうしてもしてみたい。
──調べるというのは……。
どうするかというと、何年か働いてみるということだと思う。主人公をナースにするのであれば、3年はナースをやらないと。
──そうなると、主人公はマンガ家かアーティストにするしかないですね(笑)。
はい、なので主人公はマンガ家なんです(笑)。ほかの登場人物も、やったことはないけど外れない程度にはわかる職業にしました。親しい友達の仕事だったりとか。A太郎も実演販売の仕事をしているんですけど、それは私自身がバイトでやったことがあるんです。あれはすごい楽しかったな。
あれ、私ってあるあるネタを描きたいんだ?
──その、わかってることで世界を構成したいという体質のおかげか、読んでると「わかる!」ってセリフが頻出するように思います。A太郎のセリフで「この人僕のことを疑ってるな、と思うとホッとする」っていうの、すごいわかります。
そう言ってもらえるとうれしいです。こういう人いるな、と思って描いたので。
──「物の貸し借りは恋愛の基本よね」とか。あるあるですよ。
そのあたりのエピソードは、描いていてすこし恥ずかしい部分もありました。恋愛マンガを描くって恥ずかしいものなんだなと。最近はもう、乗り越えましたけど。
──恥ずかしさを圧してまで描くというのは、「あるよね?」って言われたいということですか?
最近出した「ニューヨークで考え中」というエッセイマンガがあるんですが、あれって海外に住んでいる人にとっては「あるあるネタ」でもあるようで、連載を始めてからよく「わかる」「わかるよ」って言われるんです。そうすると「あれ、私ってそういう風に、人と共有できる何かに興味があるのかな?」と気づいたんです。A子さんも「こういうことってあるよね」ということを盛り込みながら描いている気がします。
──やっぱり「あるよね」って言われるとうれしいものですか。
はい、そういう気持ちはありますよね。「よし」って思います。いいとこ突いたんだなって。
──最近の言葉で言うとあれですね、「近藤聡乃、あるある言いたい」。
言えるとうれしいですね(笑)。
──でも一方で、出目金をスタバのカップで運ぶとか、ニューヨークの恋人とスカイプとかって、滅多にあることじゃないようにも思います。
そのあたりはバランスを取るようにもしています。「あるある」は楽しいけれどストーリーが平たい感じにもになるので、A君とか出目金とか小道具とかがちょっと、非現実の部分を担当しているというか。卑近すぎないものにしようとは思っています。
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注目作家・近藤聡乃の初長編連載! 半人前の大人たちが繰り広げる、問題だらけの恋愛模様。
29歳のえいこさん。誰といっしょになるとか、どこで暮らしていくとか──そろそろ決めなきゃいけない問題も増えてきた。とはいえ、答えなんてすぐに出せない(出したくない!)わけでして……。ああでもない、こうでもない、と思い悩むえいこさんの厄介な日々を綴った「A子さんの恋人」待望の刊行スタート!
恋人・友達・家族と絡まりあう29歳女子の日常描写は“あるある”の連続! そう、このマンガの中には、あなたも、あの子も、あいつもいるのです。
近藤聡乃(コンドウアキノ)
1980年千葉県生まれ。2003年多摩美術大グラフィックデザイン学科を卒業。アニメーション、マンガ、ドローイング、油彩など多岐に渡る作品を国内外で発表している。文化庁新進芸術家海外留学制度、ポーラ美術振興財団の助成を受け、2008年よりニューヨーク在住。海外生活を描いたエッセイマンガ「ニューヨークで考え中」を自身のWEBサイトにて、「A子さんの恋人」をハルタ(KADOKAWA)にて連載中。