コミックナタリー Power Push - 松本嵩春「AGHARTA」完全版

奇才の最大長編、ついに完結 いま明かされる、充電と再生の舞台裏

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松本嵩春インタビュー
松本嵩春クロニクル
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「女の子に鎖付けます?」「いいよ! 松本くん!」

──ほかに連載中、描く上で悩んだキャラクターというのはいますか。

「AGHARTA - アガルタ -」より。ギー=フュージンスキとレエル。

あの頃は、何よりジュジュをどうしたらいいだろうってのがあったんだよね。ジュジュが最後にできたキャラクターなんですよ。最初はレエルと、彼女を作った“庭師”のギー=フュージンスキしかいなかったわけ。ギャルゲーの1人称キャラクターみたいな役割をやってもらおう、と思って出したキャラなんです。だから実を言うと「こいつはなんで今主人公ヅラしてんのか」って(笑)。この作品の主人公はギーなんですよ。

──確かに1巻のイントロダクションの見開きで、砂漠をバックに立っているのは、レエルとギーの2人です。

あの冒頭、黒服の男が砂漠でウロウロするっていうイメージは、完全に映画「風の惑星」です。それに女の子を付けたの。編集長に「女の子に鎖付けます?」って言ったら「いいよ! 松本くん!」って(笑)。「いいのかなあ」って思いながらも、付けました。

──レエルのトレードマークとも言える拘束具は、そんな流れで決まったんですね。

そういう「なんかいいなあ」っていうイメージの遊びに、ある種の暴力と駆け引きが加われば、ドラマとして引っ張れるかなという思惑はあって。レエルとジュジュがどんどん悪い出来事に巻き込まれていくのを描いていけばいいや、と思っていたんだけど、やっぱり話が進んでいくと、2人でなんとか解決しないとなって思い始めちゃったんです。考えだすとそればっかりになっちゃって。そこでもう少し引いた視点で見ていたら、もっとスムーズに描けたかもしれないな。

「我慢できなかった……」というのもいい

──完全版では10巻と11巻が初単行本化となる部分で、その中でも11巻の後半が、未発表の完結編ということになります。先ほど「射精感」みたいな言葉も出ていましたが、完結編でそれは達成できたんでしょうか。

いやー、きちんとオーガズムに至れたかすごく不安で!(笑) なんかもう……勢いが全然足りない。昔みたいな勢いが(笑)。

──やはり年を経ると。

「AGHARTA - アガルタ -」より。ジュジュがギーのことを思い出すシーン。

それはそれでというか、「あああ我慢できなかった……」っていうのも儚い感じがあっていいんですけどね。まあ、ずっと悩んでいたギーとジュジュのエピソードにフォーカスが当てられたっていうのはよかったなと思います。ギーとジュジュの、親子2代にわたる、みたいな感じが出せたらいいなと思って。

──特にあの2人は親子なわけじゃないんだけど、そういう雰囲気を。

「さよなら銀河鉄道999」でハーロックの「親から子へ。子からまたその子へ血は流れ、永遠に続いていく」っていうセリフがあるじゃないですか。僕が初めて観たのは小学生ぐらいで、そのときはなんのことだかよくわかってなかったんですけど、いい年になってきたら世代間の物語って、いいよねって思えるようになった(笑)。そういうのを、長いシリーズの中で、どこかしら表現できたらいいなと考えながら、後半は描いていました。

──7巻の後半以降で描かれる、レエルの誕生にまつわる過去編の雰囲気は、本当に独特ですよね。

松本嵩春

あのね、8、9巻あたりとかは、ゲラを自分で読み返したんだけど、本当に自分でわけがわかんなくなりました。「今、どうなった、え? 過去編で……また過去に行って……それから1回戻ったか、俺」って(笑)。だから今度はあとがきマンガで、時系列のマップを自分で描こうと思っていて。読者への助けにもなりますし。

──(笑)。気が早いかもしれないですが、この完全版の後の松本先生の新作、というのを期待されている読者の方もいると思います。

自分の興味のあるドラマや映画を観て「わあ、こういうのやってみたいな」ってなる気持ちは、昔よりも素直に感じるようになったと思います。そのテンションのまま始められたらいいんだけど、このご時世にいろいろやれるかっていうと難しかったりするし、自分がじゃんじゃんバリバリ描ければいいんだろうけどそうはいかないっていうのがね。でも「AGHARTA」を踏まえて、やってみたいアイデアは確かにあるんですよ。

──それが具現化されるのが、とても楽しみです。

ありがとうございます。「AGHARTA」については、なんとかやっと最後までお見せすることができることになったので、お待ちしていた方には喜んでもらえたらいいなと。オチが納得いくものかどうかはさておくとして(笑)。さらにそのうえで新作を描いて、楽しんでもらえたら最高だよなとは思います。まあホントに、のろまなんですけど、長い目で見てもらえれば。

松本嵩春「AGHARTA -アガルタ -完全版」 / 2016年9月26日発売 / ワニブックス
松本嵩春「AGHARTA -アガルタ -完全版」1巻 / コミック / 1080円
Kindle版 / 864円
松本嵩春「AGHARTA -アガルタ -完全版」2巻 / コミック / 1080円
Kindle版 / 864円

奇才・松本嵩春の最大長編!

砂漠化した地球を舞台にした伝説の近未来SF、ついに完結へ──!!

「AGHARTA - アガルタ -」が当時の未掲載や描き下ろしなどを加え、装いも新たに「完全版」として全11巻、A5サイズ全巻描き下ろしカバーで甦る。

伝説的作品の大団円を見逃すな!!

松本嵩春(マツモトタカハル)
松本嵩春

1968年5月1日生まれ。主な著作に「GONG ROCK」(ジャパン・ミックス刊、後に「松本嵩春作品集」(アスペクト刊)に収録)、「バーチャファイター -レジェンド・オブ・サラ-」、「2HEARTS」全4巻(ともに徳間書店刊)、「きらいになれない(仮)」、「AGHARTA - アガルタ -[完全版]」全11巻(予定、ともにワニブックス刊)がある。2016年現在はホーム社のWebサイト・画楽ノ杜で「メザニーン」を連載中。