幸福であり、不幸でもある5つのストーリー

──すみません。一番基本的なことを聞くのを忘れていました。「メリバ」ってどういう意味なんですか？

悠木　「周りから見るとすごく不幸なお話なのに、本人たちにはすごいハッピーエンド」もしくは「周りから見るとチョー幸せそうなのに、本人たちにはバッドエンド」っていう意味の「メリーバッドエンド」っていう言葉を略して「メリバ」っていうらしくて。どこかでそれを目にしたときから「へえ、かわいい音だな」って覚えていたので使ってみました。どの曲の主人公も実はメリーバッドエンドなので。

──ネコに飲まれる小さい女の子や、子供たちに見透かされる魔女や、人形と1つになってしまうアリスが「チョーハッピーエンド」なんですか？

悠木　でも「ネコに飲み込まれたことで実は一緒にいられるようになったじゃん」っていう見方もできますよね？

──子供に見透かされてはいてもパレードはきらびやかだし、アリスは大好きな人形と一心同体になれているし。

悠木　ええ。みんなよく考えてみると幸せだし不幸せっていうストーリーなんです。

悠木碧が作詞をしないワケ

──そこまでコンセプチュアルにアルバムを作っているのに、作詞にトライしなかったっていうのも面白いですよね。

悠木　もちろん私の好きな世界のことを私が歌うんだけど、その世界や歌って、それこそ実の母親から「ショッキングすぎない？」って言われるくらいデリケートなものではあるわけですし（笑）。それを私の主観だけで歌っていいものなのかな？っていう疑問はあります。ものすごくわかってくれる人にはピンポイントで刺さるんだけど、それ以外の皆さんにはチョー壁を作られる作品になってしまうんじゃないか？ そういう作品を作ってしまうのはどうなんだろう？ って。せっかく発信させていただくのなら、自分の考えているもの、好きなものをより多くの人に好きになってもらいたいんです。

──そのためにも新居さんをはじめ、いろんな方とコラボレーションすることで、悠木さんの世界観を守りつつも、より外に開いた作品を目指す、と。

新居　そのバランス感覚がすごいですよね。考えていることはごくパーソナル。ものすごく小さな穴に入っていって、その先に揺るぎない自分だけのワールドを作ろうとしているんだけど、そのワールドと実際の世界とのバランスをどうやってとるべきなのかをちゃんと感覚として知っている。そしてそれって表現にとってかなり大事なことなんですよね。この作品でどこに到達したいのか、目指すところをはっきり持っている。こんなにお若いのに（笑）。

悠木　（小声で）……そんなことないです。

──その表現の世界の先輩として、新居さんが悠木さんに望むことってありますか？

新居　やりたいことがはっきりしているから、「こうなってほしい」って言っても、いい意味でもうムダというか（笑）。もうそのまんま好きなように好きなことをがんばって、すくすく育ってほしいですね。

悠木　ありがとうございます！ がんばります！