rei harakamiという森林

──そしてオフコース「YES-YES-YES」のカバーは矢野さんが自分でアレンジを担当していますよね。yanokamiでもカバーしている曲ですが、今回なぜこういう形に？

「YES-YES-YES」は、yanokamiで作ってたときに自分でアレンジを考えてたんですよ。

──このアレンジはその頃からあったものなんですね。

はい。で、ハラカミさんに却下されたの。それがもう悔しくって（笑）。今回そのことを思い出して「絶対カッコよくするからこれは私にやらせて」って言いました。

──yanokamiの制作においては矢野さんの意見がハラカミさんに却下されることもあったんですね。

それはそうですし、ハラカミさんが作ったトラックに私が「いやこういうんじゃなくてさ」みたいなこともあったし。まったく違う音楽家同士が一緒にものを作ろうとするわけですから、いろいろ山あり谷ありで当然ですよね。ただ「YES-YES-YES」はこの自分のアレンジがすごく気に入ってたんで、いつかやりたいと思ってました。

──トラックメーカーとのファイルのやりとりによって作られた今回のアルバムの制作スタイルは、yanokamiと近いところがありますね。

そうですね。yanokamiがなかったらこのアルバムは作れなかったかもしれない。ハラカミさんと私は、異質のものを受け入れたり外したりしながら、2人でなければできない作品を作っていましたから。その作業を通して、私は相手から来たものに対して“自分”を作っていく喜びみたいなものを知ったの。自分の中でそういう能力を培うことができたのは大きかったですね。

──じゃあ今回の制作はスムーズに？

うーん、でもyanokamiとは同じようでいて実は全然違う。説明がすごく難しいんですけど、気持ちが違うんですよね。yanokamiはrei harakamiと矢野顕子のぶつかり合いとか融合による作品でしたけど、今回はもっと曲の面白みっていうのかな。やったことのない方と作る面白みのほうが強かったです。まず新しいサウンドへの期待というのがあって、それに合わせて私が曲を作っていったので。

──自分の曲をトラックメーカーに預けるときの気持ちは、ハラカミさんとほかの方では違いますか？

違いますね。

──ハラカミさんはどこが特別でしたか？

rei harakamiっていうのはもう巨大な森林のような存在で、そこに自分が分け入っていかなくちゃいけないんです。今回はそれに比べるともうちょっと素直というか。ぶつかりあう感覚とは違うものだったと思います。

「飛ばしていくよ」という方向性

──このアルバムは、矢野さん自身が楽しんで作った感じがサウンドや歌に表れていますよね。

そうね。すごく楽しかったですよ（笑）。

──今後もこのスタイルで曲を作っていく予定はありますか？

このやり方に則ってやっていけば量産はできるけどね。でもそういうふうにプロダクトとして作ってるわけではないので。それぞれの方との出会いからこのアルバムはできてるし。「飛ばしていくよ」っていう言葉に集約される方向性っていうのは今回だけのスペシャルなものだと思いますね。

──なるほど。今回のアルバムが持つスリリングな味わいは、ファーストインパクトならではのものであると。

そうですね。

──じゃあこうしたコラボレーションは今回限り？

いえ、今回やってみていいものができたから、このやり方をもっと深めていくのも面白いと思ってますよ。もちろんその次の日に森山良子さんと“やもり”をやったりもするでしょうし。

──幅広いですね（笑）。

だからいいんじゃないの？ いろんなのがあって。まあこのアルバムはトラックメーカーの皆さんと矢野顕子が一緒に作ったものだと思うので、その新しさも楽しんでほしいです。やったことのないことをやるのはやっぱり楽しいわよね（笑）。