ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
敬愛する作家と作り上げた 言葉とメロディと「ひ」
やなぎなぎがニューシングル「アクアテラリウム」をリリースする。このシングルの表題曲は現在放送中のアニメ「凪のあすから」のエンディングテーマ。同曲の作詞はやなぎ、作曲は石川智晶が、そしてアレンジは石川の音楽制作チームMATERIAL WORLDが手がけている。
やなぎは7月リリースのアルバム「エウアル」の初回特典CDの中で石川の代表曲の1つ「アンインストール」をカバー。今回やなぎは、そんな敬愛する作家とともに、海と陸の狭間の世界で生きる少年少女の姿をファンタジックかつセンチメンタルに描く「凪のあすから」の世界観をどこか切なく、どこか浮遊感あふれるサウンドを通じて描き出している。
かねてよりエレクトロニカやフォークトロニカなどアブストラクトなサウンドを志向しながら、その一方でI'veや北川勝利らとタッグを組み、彼らの手がけるポップチューンを自在に歌い続けていたやなぎなぎ。そんな彼女が自身のルーツの1人ともいえるアーティストと楽曲制作に臨んだワケとは?
取材・文 / 成松哲
1stアルバムをリリースして「ちょっとスッキリしたかな」
──やなぎさんにインタビューさせていただくのは7月のアルバム「エウアル」リリース(参照:やなぎなぎ「エウアル」インタビュー)以来になるわけですけど、アルバムリリース後に何か変わったことってありましたか?
いろんな人から「アルバムよかったよ」みたいな声をかけていただいたので、「ああ、みんな聴いてくれたんだな」って(笑)。
──あんないいアルバムがリリースされれば、そりゃみんな聴くだろうっていう気もしますけど(笑)。
ふふふふふ(笑)。ファンの方に聴いていただけたのももちろんなんですけど、知り合いのミュージシャンの人からも「聴いたよ、聴いたよ」みたいな感じで言っていただけたりして、なんかすごくうれしかったんですよ。ただ、どうなんでしょうね。自分的にはあんまり変わっていないというか。アイデアだったり、やりたかったことだったり、いろいろと自分の中に貯まっていたものを出し切ったなっていう気分はあるんですけど、でもそれぐらいですね。「ちょっとスッキリしたかな」みたいな感じでした。
石川智晶なら「凪のあすから」の退廃感を音にできる
──今回リリースされるシングル「アクアテラリウム」ってまさに「エウアル」後のシングルですよね。表題曲は、アルバム初回限定盤の付属CDでやなぎさんがカバーした「アンインストール」を歌った石川智晶さんの作曲で、アレンジも石川さんの音楽制作チームMATERIAL WORLDが手がけている。
そうですね。「アクアテラリウム」は「凪のあすから」っていうアニメのエンディングテーマなんですけど、そのシナリオとか設定資料なんかを読ませていただいたとき、どこか退廃的な雰囲気があるな、と思ったんです。で、その世界観をフルに表現できる人って誰だろう、って考えたとき、真っ先に浮かんだのが石川さんのお名前だったんです。
──確かにあのアニメってキラキラした青春群像劇を基調にはしているんだけど、どこかアンハッピーなムードが漂ってますよね。
ええ。シナリオや設定を読ませていただいたとき、だんだん何かが終わりに向かっていく印象を受けて、そこからいくつか連想されたものがあったんです。それが水の中の廃墟であったり、海の中に沈んだ何かであったり、マリンスノーであったりで。そこから、そのマリンスノーの正体であるプランクトンの死骸なんかで作られる「デトリタス」が、廃墟や海の中に沈んだものたちにどんどん降り積もって世界は覆われてしまったっていうイメージが浮かんできたというか。それを音にできるのは石川さんだろうな、って思ったんです。
言葉と音のラリーで行われる作詞&作曲術
──この曲の作詞はやなぎさんですけど、頭の中のイメージを具現化してくれる人として作曲家に石川さんを選んだように、詞についてもイメージをそのまま言葉にしようとした?
ではあるんですけど、この曲、すごく変わった作り方をしたんです。まず石川さんから「キーになるフレーズが欲しい」って言われて、イメージをもとにサビの「温かい水に泳ぐデトリタス」「長い時間をかけて糸を紡ぎながら繭になる」っていうフレーズを作ってお渡しして。まずそのフレーズにメロディを付けていただいて、そのあとAメロ、Bメロも作っていただいて、今度は私が最初に考えたフレーズにつながる歌詞を作るっていう進め方をしていて。「キーになるフレーズが欲しい」ってお話をいただいたときにはどんな曲になるかまったく想像も付かない状態だったので「このくらいの文字数でいいのかな?」って感じで書いたんです(笑)。そうしたら、戻ってきたのがあのすごすぎる曲だったという。
──詞の断片を渡して、そこからできあがったメロディに、また新た言葉を付け加えていくってけっこう大変そうな気もしますけど。
いや。そういう詞の書き方をするのはもちろん初めてだったので、いろいろ未知の部分もあったんですけど、すごく面白かったんですよね。キーになるフレーズを書いてからメロディをいただくまでの間に自分の中で「こんな感じの曲になるんじゃないかな?」「あの続きにはこういうことを書こうかな」っていろいろ考えていたんですけど、いい意味で石川さんに裏切っていただいたりして。そこから「じゃあ、こういう言葉を使ってみようかな」ってアイデアが湧いてきたりしたので、やっぱり「面白かったなあ」って感じでしたね。
──確かにいつも以上に言葉が精査されていますよね。この曲ってBメロがかなり短いから、詞も短くなっているんだけど、きちんと言葉が厳選されている。その最初に考えたサビ以外のフレーズですらどれもがパンチライン的というか、アニメの世界にマッチしていて、しかも印象的な言葉だけで構成されている。
ありがとうございます(笑)。キーになるフレーズを書いてから石川さんに曲を作っていただいているあいだにちょっと時間があって、そのあと改めて詞を書くっていう感じで、じっくり作詞に取り組めたから、いつもよりも印象的な言葉を探せたのかなっていう気はしています。
- ニューシングル「アクアテラリウム」/ 2013年11月20日発売 / ジェネオン・ユニバーサル
- CD+DVD 1680円 / GNCA-0316
- CD 1260円 / GNCA-0317
CD収録曲
- アクアテラリウム
- mnemonic
- You can count on me
- アクアテラリウム(instrumental)
- mnemonic(instrumental)
- You can count on me(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- アクアテラリウム(Music Video)
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。以来、アニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディング曲「ラテラリティ」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」を立て続けに発表。2013年7月には1stアルバム「エウアル」をリリース。そして同11月にはニューシングル「アクアテラリウム」を発売する。