ナタリー PowerPush - やなぎなぎ

敬愛する作家と作り上げた 言葉とメロディと「ひ」

じっくりじっくりやっていればいつか終わる

──「mnemonic」についてはアレンジも気になったんですよ。これまでシングル収録のやなぎさんの自作曲は電子音が中心。ところが今回はブレイクビーツやシーケンスフレーズは使っているんだけど、生音のベースやピアノがすごくキレイに絡み合うちょっとストレンジなんだけど、すごく品のいいトラックに仕上がっていますよね。やなぎさんがアレンジャーとしてパワーアップした印象を受けました。

ふふふ(笑)。自分の中ではあまり変わったっていう気はしていないんですけど「アクアテラリウム」の作詞と同じで、「mnemonic」の制作にもちょっと時間を掛けることができたので。最初はベースもシンベ(シンセベース)だったんですけど、いろいろアレンジを考えていくうちにもうちょっと人の手が加わったもののほうがいいかな、と思って、ベースを録ってもらったんですけど、なんかそういう、いい意味での遠回りができた感じですね。いつもならけっこう自分の中に鳴っている音や、自分の中にあるものをそのままパッと形にするっていう作り方をするんですけど、今回はとにかくじっくり作ってみたって感じでしたね。パワーアップしていると思っていただけるのはうれしいんですけど、実は自分としては変わった点は、そのじっくりじっくりやってみたっていう点だけなんです。

──遠回りするのって怖くなかったですか? 素晴らしいトラックができあがったんだから今回の試みは結果正解だったんですけど、もしかしたらじっくりじっくりいろんな手段を試してみたはいいけど、結局ゴールにたどり着きませんでした、ってことも起こりうるわけですよね。

うーん……。「できなかったらどうしよう」っていう可能性については考えなかったですね。

──じっくりじっくりっていう作風は新しい試みだけど、いい曲になるっていう確信はあった?

そういう確信や自信もちょっとはあったんだとは思うんですけど、それ以上に「やってればいつか終わるだろう」って(笑)。

──あはははは(笑)。

このまま何十パターン、何百パターンも試せばいつか私の思うカッコいい音にたどり着くと思ってました。それにむしろそうやって遠回りすると安心感があるっていうか、音を足したり引いたり、いろいろ試した上での「これだ!」っていう音になっているので「あっ、これでいいんだ」って自分自身を信頼できるんですよ。だから今はできるだけ遠回りしながら曲を作ってみようかなっていう気持ちになってきてますね。あとカッチリ作らないほうが面白いですから。私みたいに打ち込み主体で曲を作っていると、イメージしているものを作りやすくはあるんですけど、そのイメージに囚われてしまうというか。もっとなんか面白いことをしたくなっちゃうんです。例えばシンセなんかを使って打ち込んだトラックを別のMIDI機器で走らせてみて、すごく前衛的な音を鳴らしてみたりとか。

──メロディラインの打ち込みデータをドラムマシン上で走らせると狂ったドラムパターンができあがるみたいなこと?

そうですそうです。で、その音をサンプリングして使っちゃえ、とか。そういうカッチリじゃない作り方もやれたら面白いよね?っていう気がしてるんです(笑)。

やなぎなぎ流のメッセージソングとは

──そして3曲目の「You can count on me」なんですけど……。

ふふふふふ(笑)。

──今、ご本人が笑っている通り、この曲にはビックリさせられますよね(笑)。かつて「宅急便を受け取るのもおっくうだった時期がある」とすら言っていたやなぎさんが、超アップリフティングなギターロックに乗せて「私に期待してね」っていうタイトルで「ただの一度も言わない もう諦めるよ、なんて」「声は魔法になって この世界に 宇宙に かかるよ」と歌っている。

この曲はライブありきの曲なんですよ。

──サビには「You can count on me」っていうシンガロングパートもあるし。

そうなんです。作曲家の流歌さんには以前ライブに出ていただいたことがあるんですけど、そのライブなんかでお客さんを観ていると、弾けたいんだけどどこか弾けきれないみたいな(笑)。迷いがあるような気がしたんですよ。あと私のライブが生まれて初めて観るライブだっていうお客さんもけっこういらっしゃって。そういう方たちと一緒に弾けられる曲があってもいいんじゃないかなっていうことで「みんなが幸せになれるやつにしよう!」って流歌さんと相談して作った曲なんです。

──そのお話を聞いていよいよこの曲が謎かけじみてきた感があるんですけど、この詞にはどのくらいやなぎさんの「本気」みたいなものが盛り込まれているんですか? 自分の主張はさておいてお客さんを踊らせるという機能性を優先して作った曲なのか、それともやっぱりこの言葉とメロディにはやなぎさんのメッセージが込められているのか?

自分自身のことを歌っているのかって言われるとちょっと違いますね。ライブをリードするのはもちろん私なんですけど、最終的にはそれをお客さんみんなに託したいというか。最初は私が「You can count on me」「私に期待してね」って歌い始めるんだけど、その言葉を受け取った人たちに最終的には「You can count on me」って言えるようになってもらいたい。みんなに「You can count on me」になってもらいたいな、っていう願いの曲なんです。

──文字通りの“メッセージ”ソングというか、リスナーの人たちが誰かに発信するためのメッセージを捧げるための曲なんですね。

そういう感じですね。あと、CDを買った方やライブのお客さんにビックリしてもらいたいっていう気持ちもちょっと(笑)。

「今なら電波ソングも歌えるかも」

──この詞って書きやすかったですか?

すごく書きやすかったです(笑)。今回のシングル収録曲の中で一番時間がかかってないですね。ここまでストレートに前向きな言葉を使っていいのか?って考えもしたんですけど、書いていくうちにすごく楽しくなってきちゃって。抽象的な言葉や比喩を使わないぶん、迷いなく書けました。

──その迷いなく書けた詞は歌いやすかった?

すごくスムーズでした。いつもライブで弾いてもらっているメンバーと一緒に録ってみながら、あとから1人でボーカルを録り直したりもしたんですけど、結局みんなと一緒に録ったテイクが一番よくて。全然ノリや声のハリが違うんですよね。1人で録ったやつと聴き比べてみると、ここまで変わるかってくらい自分がイキイキしてて。結局1人で録ったテイクはほとんど使ってませんね。だから最近「実は私、こっちのタイプなんじゃないか」とすら思ってるんです。なんか今なら電波ソングだって書けるし、歌えそうな気がしてますから(笑)。

ニューシングル「アクアテラリウム」/ 2013年11月20日発売 / ジェネオン・ユニバーサル
CD+DVD 1680円 / GNCA-0316
CD 1260円 / GNCA-0317
CD収録曲
  1. アクアテラリウム
  2. mnemonic
  3. You can count on me
  4. アクアテラリウム(instrumental)
  5. mnemonic(instrumental)
  6. You can count on me(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • アクアテラリウム(Music Video)
やなぎなぎ

関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。以来、アニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディング曲「ラテラリティ」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」を立て続けに発表。2013年7月には1stアルバム「エウアル」をリリース。そして同11月にはニューシングル「アクアテラリウム」を発売する。