初音ミクをテーマにしたコンピレーションアルバム「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』」が、ミクの発売10周年記念日の前日である8月30日にリリースされる。これを受けて音楽ナタリーでは、この作品に約6年ぶりのVocaloid楽曲を提供したwowakaと、同じくコンピ参加アーティストであるDECO*27の対談を企画した。
DECO*27は2008年10月、wowakaは2009年5月に、いずれもlivetuneの影響を受けてボカロPとしての活動を開始。ハチ(米津玄師)、40mP、ピノキオピー、sasakure.UKなどと共に同時代のシーンを盛り上げてきた。今回の対談ではそんな両者に、ボカロカルチャーの10年をそれぞれの視点から語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 草場雄介
- V.A.「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』」
- 2017年8月30日発売 / U&R records
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初回限定盤
[CD2枚組+10周年記念イラストブック]
4212円 / DUED-1228 -
通常盤
[CD2枚組]
3240円 / DUED-1229
- DISC 1
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- アンノウン・マザーグース / wowaka feat. 初音ミク
- ヒバナ / DECO*27 feat. 初音ミク
- ボロボロだ / n-buna feat. 初音ミク
- Initial song / 40mP feat. 初音ミク
- 大江戸ジュリアナイト / Mitchie M feat. 初音ミク with KAITO
- リバースユニバース / ナユタン星人 feat. 初音ミク
- 快晴 / Orangestar feat. 初音ミク
- それでも僕は歌わなくちゃ / Neru feat. 初音ミク
- ひとごろしのバケモノ / 和田たけあき(くらげP) feat. 初音ミク
- 君が生きてなくてよかった / ピノキオピー feat. 初音ミク
- 神様からのアンケート / れるりり feat. 初音ミク
- Steppër / halyosy feat. 初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、KAITO、MEIKO
- DISC 2
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- みんなみくみくにしてあげる♪ / MOSAIC.WAV×鶴田加茂 feat. 初音ミク
- Tell Your World / livetune feat. 初音ミク
- 千本桜 / 黒うさP feat. 初音ミク
- 初音ミクの消失 / cosMo@暴走P feat. 初音ミク
- ロミオとシンデレラ / doriko feat. 初音ミク
- 独りんぼエンヴィー / koyori(電ポルP) feat. 初音ミク
- カゲロウデイズ / じん
- from Y to Y / ジミーサムP feat. 初音ミク
- *ハロー、プラネット。 / sasakure.UK feat. 初音ミク
- BadBye / koma'n feat. 初音ミク
- オレンジ / トーマ feat. 初音ミク
- ハジメテノオト / malo feat. 初音ミク
誰もやっていないことで、自分を出せるやり方を探した結果
──wowakaさんとDECO*27さんが初めて会ったのはいつ頃ですか?
wowaka 2009年のボーマス(Vocaloid専門同人誌即売会「THE VOC@LOiD M@STER」)かな?
DECO*27 ハチくんも出てたよね。もう8年くらい前か。
wowaka 大昔の話です(笑)。ボカロを始めたのはDECOさんのほうがちょっと早かったんですよね。俺はリスナーとしてDECOさんの曲を聴きながら「こういう感じの曲もあるんだな。カッコいいな」と思っていて。その後、すぐに自分も作り始めて、同じような時期にシノギを削ることになるんだけど。
DECO*27 削ってたね(笑)。よく覚えているのが、僕が「二息歩行」という曲を発表したときに、wowakaさんの「裏表ラバーズ」も上がっていて。それがすごくいい曲だったから「キーッ!」ってなってたんですよ。
wowaka そう(笑)、同じくらいの時期ですよね。
DECO*27 ああいう感じのバンドサウンドって、それまでのボカロシーンにはなかったんだよね。supercellさんとかbakerさんはいたけど、またちょっと違う感じがあって。僕が初めてボカロの曲をアップしたのは2008年後半なんだけど、それからしばらくして、ボカロを始める前にギターを弾いてた人たちとか、バンドをやってた人たちがたくさんボカロのシーンに入ってきたんです。その中でもwowakaさんの曲はヤバイなって思ってましたね。
wowaka 俺とハチくん、古川本舗とかがすごく近い時期に始めてるんですよね。そこには導線があって、俺らが始めるちょっと前に、DECOさんはじめジミーサムPさん、若干Pさんとか、そういった人たちがいわゆる邦楽ロック的なアプローチでバンドサウンドの曲を発表してたんですよ。そういうことをボカロでやっている先駆者がいたから、俺らが興味を持ったというところもあると思うんですよね。
DECO*27 僕も中学生の頃からギターを弾いてたし、曲も作っていたから、「自分でボカロをやるならバンドサウンドかな?」って思ってたんだよね。supercell、livetuneも好きだったんですけど、同じことをやってもカブっちゃうだけだから、誰もやっていないことで、自分をうまく出せるやり方を探した結果、ああいうサウンドに落ち着いたんです。
みんなライバルだったし、「全員ブッ倒したい」と思ってやってた
──当時、そこまで初音ミクに惹かれたのはどうしてだと思いますか?
DECO*27 僕が最初に惹かれたのは“声”ですね。初めて聴いたミク曲はlivetuneの「Packaged」だったんですけど、曲はもちろん、声がいいなと思って。その頃は何も知らなかったから「すごく特殊でかわいらしい声だな。アイドルみたいな人が歌ってるのかな」と思ってたんだけど、調べてみたら「どうやら人ではないらしい」ということがわかって。それから現在に至るまで、ミクの声はずっと好きですね。
wowaka 今DECOさんがおっしゃったように、初音ミクが初音ミクであることの一番のポイントはやっぱり“声”だと思いますね。“人が歌っていない”という事実もそうだし、自分の耳に、それまで聴いてきた音楽とは全然違う入り方をしてきたんですよ。曲にしても歌詞にしても、自分の中の新しい刺激ポイントを押されている感じがあったというか。最初は誰が曲を作っているのか知らなくて「初音ミクの作曲委員会みたいなものがあって、そこが大量に生産してるのかな?」と思ってたんですけど。
DECO*27 すごい組織だね、それ(笑)。
wowaka (笑)。でも調べてみたら、そんな組織はなくて、日本中に散らばっている個人が何から何まで1人でやってることがわかって。「俺も音楽やってるし、できんじゃねえ?」と思ったのが最初ですね。敷居も低かったと思うんですよ、当時は。
DECO*27 曲を作ってた人であれば、DAWとVocaloidの操作さえ覚えちゃえば誰でもできるわけだから。特にバンドをやってた人は入りやすかっただろうし、「俺もやれる」と思えたんじゃないかな。そこから一気にボカロPが増えたし、シーンも盛り上がりましたからね。
wowaka そうですね。2008年の終わり頃から2010年くらいまでの間で、すごいことが起きた気がします。
DECO*27 すごく刺激的だったよね。みんなライバルだったし、言い方は悪いけど「全員ブッ倒したい」と思ってやってたから。自分が一番になりたいという思いで動画を投稿していたし、ほかの人がいい曲を上げていたら本当に悔しかったんですよね。同じシーンだからというだけではなくて、みんな同じVocaloidを使っていたわけじゃないですか。だから自分以上にミクのよさを引き出している曲があると「ウワーッ! やられた!」って(笑)。そこで刺激を受けて「もっといいものを作ろう」という気持ちになれました。ほかのPがいなかったら、あんなにがんばれなかったなって。
wowaka そうですね。少なくとも俺はほかのボカロPをクソ意識してました。DECOさんに対しても「どうやら年齢が近いらしい」とわかってからは、さらに意識するようになって(笑)。DECOさんの曲、モテそうだなって思ってたんですよ。
DECO*27 モテ曲?(笑)
wowaka はい(笑)。当時くすんだ大学生だった俺は、DECOさんの曲が放つ光のオーラを感じながら「俺は俺の戦い方でこいつよりも人気になってやる!」と思ってました。
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半年くらい社会と接点を持たずに酒を飲んでるだけ