ナタリー PowerPush - ボカロ小説座談会

ボカロ小説刊行記念インタビュー

YMが原作者として携わった「十面相」、デッドボールPが執筆した「俺のボカロが妹になりたそうにこちらを見ている」、cosMo@暴走P原作「初音ミクの消失 小説版」の文庫版という、ボカロ曲を題材にした小説が3冊同時に発表された。どれも楽曲の世界観を作者ならではの視点でふくらませた読み応えある作品だ。今回はその3人のPに執筆時の苦労や裏話、そしてボカロ小説への思いについてたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 田口こくまろ

 
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10人のGUMIの中ではドSが一番好き

──それでは、「十面相」の原作者YMさんからお話を伺っていきましょうか。この小説は多重人格を題材にした本格的なミステリーですが、原曲はどのような感じで作られたのでしょうか?

YM 最初に多重人格をテーマにして書こうと決めて、そうすると何かストーリーがあったほうがいいとは思ったんですけど、正直その時点では具体的な内容は考えてなかったですね。多重人格者が恋をすると何がネックになるんだろうか、どうしたらハッピーなりバッドなりエンドに向かっていくんだろうか、というのを考えて歌詞を書いていきました。

──どうして「十面相」なんですか?

YM 単純に数字的に「10人」というのがキリがいいなと思ったからですね。それでまずは10人のGUMIがいることを説明する歌詞を書いて、後半では視点を変えて対象となる男の子との関係を書いたら最終的にこんな詞になってしまいました。

──今回のノベライズでは原作者として関わっていますが、具体的にはどのように制作を進めたんですか?

YM まずは大雑把なあらすじを僕から出させていただいて、その後にイベントや仕掛け、終わり方などについて、著者の鷹村コージさんのご意見をいただきつつ、スタッフの皆さんとも話しあって、そこで出てきたいろいろなアイデアを選んでいきながら、最終的な作品をご執筆いただいたという感じです。

──10人いるGUMIのキャラクターがそれぞれ魅力的ですが、どのように作っていったんですか?

YM 1人ひとりの人格については、楽曲を作った時点ではそれほど考えてませんでしたね。それぞれのキャラクター付けはPVを作ってくださったはんにゃGさんのアイデアです。小説で改めてキャラを作ったというよりはPVを発展させたような感じですかね。あまり離れちゃうと読者が混乱しちゃうと思ったので。

──ちなみに、どのGUMIがお好みですか?

YM ドSが……(笑)。

──あはは(笑)。小説の挿絵は描き下ろしですよね。

YM はい。閏月戈さんのイラストはもちろん素晴らしかったですね。あと、今回衣装のデザインを最近よく動画のイラストを描いてくれてる陽悦さんにお願いしたんですけど、かなり凝っててさすがだなあと思いました。僕だったら考えられないです。

──ちなみにどの衣装が?

YM あ、ドSが……(笑)。

曲作りの経験があったので、精神的な苦労はそんなになかった

──では「俺のボカロが妹になりたそうにこちらを見ている」のデッドボールPさん。デPさんは文章も自分で書いたんですよね。小説を書くのは初めてだったんですか?

デッドボールP(以下デP) まあ初めてという範囲内なのではないのでしょうか。とは言え以前からラノベ自体は「電撃hp」とか専門誌を毎号買ってて、コンテストの大賞作品は常にチェックするくらいには好きだったんですけどね。なので「小説を書くかも」という妄想は3年くらい前からしてました。本屋に並んでる瞬間をイメージしてましたからね。「あのデッドボールPが電撃文庫から」みたいな。あ、今回電撃じゃないや(笑)。

──なぜ今までは書かなかったんですか?

デP それはもう音楽のほうを真面目にやろうということだったので(笑)。途中まで書いたことはありましたけど、まあ、完成しないってことは書いたうちに入らないですからね。実質素人みたいなものです。

──書いてみてどうでした?

デP そりゃ大変でしたよ。言ってしまえば文章力もそんなにないですし技術不足は否めないので、書きたいことが本当に読者に伝わるかなっていう恐怖心みたいなものは非常に強くありましたね。

──では精神的にもかなり……。

デP いや、それはそうでもなかったですね。というのも何かを産み出すという精神的な苦労は曲を作ることですでに知っていたので。大変だなあっていっても経験したことがある大変さなんですよ。「この感じ知ってる知ってるー」っていう。そういう意味では曲を作っててよかったなと本当に思いましたね。

──執筆期間はどれくらいですか?

デP まあ締め切りがあったので執筆自体は1カ月くらいかな。プロット制作から考えると2、3カ月という感じですね。クリエイターなので自分の技量とかはわきまえてて、書く前からこのぐらいのボリュームのものができるというのはわかるんですよ。

YM(わいえむ)

2009年頃から動画サイトにマッシュアップや手描きMADなどを投稿し始め、現在はボカロPとして主にGUMIを使ったオリジナル曲を発表。2010年に公開した楽曲「ハンコウセイメイ」で初めて殿堂入りを果たし、翌年発表した「十面相」が100万再生突破の人気曲となった。2012年にはEXIT TUNESからアルバム「センセーショナル大革命」をリリース。2013年8月には自身の代表曲「十面相」のノベライズに原作者として携わった。

デッドボールP(でっどぼーるぴー)

2007年から動画サイトで自作曲を発表しているボカロP。過激すぎるエロティックな歌詞で知られ、投稿動画に「直球というよりデッドボール」というコメントが書き込まれたことがアーティスト名の由来となっている。2009年にはネットで発表した楽曲を無修正バージョンで収録したアルバム「EXIT TUNES PRESENTS THE VERY BEST OF デッドボールP loves 初音ミク」をリリース。その後もPSPゲーム「初音ミク -Project DIVA-」への楽曲提供や、さまざまな企画アルバムへの参加など精力的に活動を展開。2013年8月には処女作となる小説「俺のボカロが妹になりたそうにこちらを見ている」を刊行した。

cosMo@暴走P(こすもぼうそうぴー)

30曲以上が殿堂入りを果たしている人気ボカロP。まくしたてるように歌うポップソング「初音ミクの暴走」や、まったく息継ぎができないほど歌詞が詰め込まれたボカロならではの曲「初音ミクの消失-DEAD END-」など、テンポが速くて早口な曲が多い。2010年にはベストアルバム「初音ミクの消失」を発表し、大ヒットを記録した。2012年7月には自らが原作を担当した小説「初音ミクの消失 小説版」を刊行。この小説は好評を受けて翌年文庫化された。2012年8月には2ndアルバム「星ノ少女ト幻奏楽土」を発表し、オリコンウイークリーチャート9位を獲得。