音楽ナタリー Power Push - 上坂すみれ

「20世紀の逆襲」から読み解く 21世紀を生きる表現者・すみぺの正体

上坂すみれがニューアルバム「20世紀の逆襲」をリリースした。

上坂は2014年1月、1980年代ジャパニーズニューウェーブにロシア民謡「コロブチカ」をインサートしたデビュー曲「七つの海よりキミの海」や、チャイニーズスケールのメロディと電子音が耳に残るテクノポップチューン、1980年代アイドル歌謡のオマージュなど、彼女の趣味の世界をカタログ的にパッケージした1stフルアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」をリリース。それから丸2年ぶり2枚目のアルバムとなる今回の「20世紀の逆襲」ではその内容を大きく一変させている。既発曲群の中に並ぶ5つの新曲は、硬質なロックチューンとエレクトリックなポップナンバーに乗せて、21世紀に暮らす上坂が、雑多ながらも美しい20世紀の風景への憧憬と、それでも今を生きることを優しげに、しかし確かに誓う決意を歌う楽曲ばかり。看板に偽りのないコンセプチュアルな1枚に仕上がっている。

音楽ナタリー通算7度目となる上坂すみれ特集では、20世紀最後のディケイドの始まりとなった1991年生まれの彼女の20世紀観と21世紀観をキーにアルバム「20世紀の逆襲」の魅力に迫った。

取材・文 / 成松哲 撮影 / 塚原孝顕
スタイリング / 佐野夏水
ヘアメイク / 角本彩香

丸尾末広作品を自室の本棚に挿す勝負

上坂すみれ

──今回のアルバムのタイトルは「20世紀の逆襲」。過去から現在に向けてカウンターアタックを仕掛けるという意味なんですよね?

そうですね。でも私にとって20世紀はほぼ実感のない時代だから、まさに美樹本(晴彦)先生が描いてくださったジャケットのイメージなんです。

──1970~80年代的なSF感、フューチャー感のあるイラストですよね。

そのちょっと架空っぽくて、しかもカッチョいい時代が私にとっての20世紀って感じです。

──ただ面白いのが、上坂さんが去年の12月に花やしきで行った24歳のバースデーイベントのタイトルは「たおせ!! 23歳」(参照:誕生日サプライズに動じない上坂すみれ、ロシアの歌とまんじゅうに目を丸くする)。1カ月前にはその過去を打倒しにかかっています。

ホントだ!(笑) イベントのタイトルは、スタッフさんに「考えてください」って言われて10分くらいで決めちゃっただけのものなんですけど、なんか深層心理みたいなものが表れてるのかもしれないですね。20世紀は私にとってカッチョいい時代なんだけど、23歳の思い出、つい先月までの思い出は美化するには新鮮すぎるというか。私が74歳くらいになったら美しい思い出になるのかもしれないんですけど、今はまだ生々しすぎて噛みしめてもいいことがないから「たおせ!!」って言ってみたんだと思います。

上坂すみれ

──じゃあ例えば10年前、14歳の頃の思い出は美化できますか?

その頃の思い出は23歳の思い出と一緒。まだ胸の内に厳重に仕舞っておきたいですね。雑誌で「本誌初登場!」という感じの取材をしていただくときって決まって生い立ちを聞かれるんですけど、(口を尖らせて)「Wikipediaを書き写しておいてくれればそれでいいのになあ」って思ったりもしています(笑)。

──すみません、音楽ナタリーも「初登場!」のときに思い切り聞いちゃいました(笑)(参照:上坂すみれ「七つの海よりキミの海」インタビュー)。

ただ最近は「思い出の中には拾うものもあるよな」「完全に捨て去ろうにも身が残ってたりするよな」と思っている自分もいるんです。例えば当時は丸尾(末広)先生のマンガを買っては、無事部屋の本棚に挿せるか?という勝負を繰り広げていたんですけど……。

──勝負? 誰と?

母親と(笑)。21世紀に入って私も思春期になって、中野ブロードウェイに通うようになったら、家に帰ってくるたびに「何買ってきたの?」と聞かれるようになり。そしてカバンの中から丸尾先生のマンガが出てくると、なんとも言えない空気がリビングに流れ……(笑)。ただ、その頃の気まずさと執念みたいなものが、今回アルバムジャケットを先生に描いていただく縁をつなげてくれたと考えれば、当時の思い出の中にも拾うべきところはあるなっていう気がするんです。……でもやっぱり基本的には十数年前までの思い出は、まだ美化できないものですね(笑)。

上坂すみれ

──100%素敵な思い出は? 例えば大学に合格したとか、声優としてのキャリアをスタートしたとか、アーティストデビューしたとか。

そういう拾うところがたくさんある思い出の中にも捨てるべきところはあるじゃないですか。例えば私は公募推薦入試で大学のロシア語学科に進んだんですけど、一応ほかの大学のオープンキャンパスに行ってみたり、センター試験を受けたりもしていて。「受験」や「合格」と聞くと、そのオープンキャンパスで「キラキラした大学生活!」みたいなものにアテられて、いたたまれなくなったことであったり、センター試験のときに受験票を忘れちゃって係の方にすごくご迷惑をおかけしたことであったり、自分の罪のようなものがどうしても思い出されてしまいますから。

ニューアルバム「20世紀の逆襲」2016年1月6日発売 / STARCHILD
初回限定盤A[CD+Blu-ray]3888円 / KICS-93336
初回限定盤B[CD+DVD]3888円 / KICS-93337
初回限定盤C[CD+写真集]3888円 / KICS-93338
通常盤[CD]3240円 / KICS-3336
CD収録曲
  1. 予感02
    [作曲・編曲:R・O・N]
  2. 20世紀の逆襲 第一章~紅蓮の道~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
  3. パララックス・ビュー
    [作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI / 編曲:Sadesper Record]
  4. 冥界通信~慕情編~
    [作詞・作曲・編曲:和嶋慎治(人間椅子)]
  5. 繋がれ人、酔い痴れ人。
    [作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)]
  6. すみれコード
    [作詞・作曲:松永天馬(アーバンギャルド) / 編曲:アーバンギャルド]
  7. TRAUMAよ未来を開け!!
    [作詞:サエキけんぞう / 作曲・編曲:窪田晴男]
  8. Inner Urge
    [作詞・作曲:松浦勇気 / 編曲:橋本由香利]
  9. 無限マトリョーシカ
    [作詞:谷山浩子 / 作曲・編曲:Леснойпутешественник]
  10. 無窮なり趣味者集団
    [作詞 上坂すみれ / 作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  11. 来たれ!暁の同志
    [作詞:及川眠子 / 作曲・編曲:岡部啓一]
  12. 20世紀の逆襲 第二章~蠱惑の牙~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
  13. 閻魔大王に訊いてごらん
    [作詞:RUCCA / 作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)]
  14. 罪と罰 -Sweet Inferno-
    [作詞:RUCCA / 作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)]
  15. 全円スペクトル
    [作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)]
  16. 革命的ブロードウェイ主義者同盟(INST piano solo ver.)
    [作曲・編曲:遠山明孝]
  17. ツワモノドモガ ユメノアト
    [作詞:椎名可憐 / 作曲・編曲:牧元芳朗(strip)]
  18. 20世紀の逆襲 第三章~絶境の蝶~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
初回限定盤A、B Blu-ray&DVD 特典映像
  • 「七つの海よりキミの海」Music Video
  • 「げんし、女子は、たいようだった。」Music Video
  • 「革命的ブロードウェイ主義者同盟」Music Video
  • 「パララックス・ビュー」Music Video
  • 「来たれ!暁の同志」Music Video
  • 「閻魔大王に訊いてごらん」Music Video
  • 「Inner Urge」Music Video
  • 「テトリアシトリ(PARKGOLF REMIX)」Music Video
ライブ情報
超中野大陸の逆襲 群星の巻

2016年2月11日(木・祝)東京都 中野サンプラザホール

超中野大陸の逆襲 草莽の巻

2016年2月12日(金)東京都 中野サンプラザホール

上坂すみれ(ウエサカスミレ)
上坂すみれ

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を発表する。また同年7月、及川眠子、サエキけんぞう、窪田晴男、谷山浩子らを作家陣に招いた4thシングル「来たれ!暁の同志」を、12月には5thシングル「閻魔大王に訊いてごらん」と自薦の80年代アイドルナンバーをコンパイルした「上坂すみれ presents 80年代アイドル歌謡決定盤」を発売。そして2016年には丸2年ぶりとなる2ndフルアルバム「20世紀の逆襲」をリリースした。