ナタリー PowerPush - 山下達郎

全音楽ファンに贈る、究極のオールタイムベスト

山下達郎インタビュー

「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」特集企画のラストを飾るのは、山下達郎本人へのロングインタビュー。ベストアルバムの選曲意図から自身の活動スタンスについてまで、約1万字におよぶ貴重な発言をじっくりと味わってもらいたい。

取材・文 / 大山卓也

オールタイムベストは現役感がないと作れない

インタビュー写真

──この「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」は、ベストアルバムとしては1995年の「TREASURES」以来の作品になりますね。

17年ぶりですかね。最初のベストが1982年で次が1995年。今回2012年だから結構間は空きましたよね。

──なぜこのタイミングでベストアルバムを出そうと思ったんですか?

一番大きいのは、パッケージがいよいよなくなるっていう危惧があって、その前にちゃんとしたベストを出しておこうっていうことですね。アメリカでは近いうちにCDの工場を閉鎖するとかそういう情報もあるし。あと、僕にとってのパッケージメディアっていうのは、紙ジャケみたいに完全限定生産で売り切りっていうものじゃなく、ちゃんとバックオーダーをとって、注文が来たらまた生産して供給できるもの。それがパッケージなんですね。だからこれはPC配信はしないし、バラ売りもしないんです。

──このベストアルバムのリリースが、達郎さんの中でひとつの区切りという感覚もありますか?

それはあんまりないです(笑)。90年代のリリースの少ない頃だったら区切りっぽくもなっただろうけど、おかげさまでここ数年はシングルのオファーが多くて、リリースが途絶えてないので。

──単なる過去の作品集ではないと。

逆にこういうオールタイムベストみたいなのは、やっぱり現役感みたいなものがないと作れないんですよね。懐メロ集になってしまうから。

アルバムタイトルは謙遜

──過去のベストアルバムと違って、今回はレコード会社の枠を越えた選曲が目を引きます。

ほんの何年か前には、こういうふうに複数のレーベルの音源を1枚のアルバムにすることって、かなり難しかったんです。メーカーそれぞれの競争意識がすごく高くて。でも今はそんなことも言ってられなくなったから。

──CD不況のおかげで夢の選曲が実現したわけですね。

実は「TREASURES」のときも、せめて「DOWN TOWN」と「RIDE ON TIME」ぐらいは入れたいなと思って頼んだけど断わられたんです。まあ時代が変わったんでしょうね。そうなったのはここ5、6年かな? 2000年の頭くらいまでは絶対ダメだったから。

──ところで今回のアルバムタイトルの「OPUS」というのは「作品」という意味だそうですが。

音楽作品に使われる用語ですね。例えばクラシックのピアノソナタ作品何番ってものを指して「OPUS**」と言ったり。

──そう言われると、若干そっけないというか控えめなタイトルのような気もしますけど。

謙虚な性格なので(笑)。でも「アルティメットコレクション」とか「ゴールデンベスト」みたいのは、なんかね、年末商品みたいでイヤですからね(笑)。

音楽はリスナーの記憶の中にあるもの

──3枚組計49曲というボリュームですが、選曲にあたってのコンセプトは?

ベストだし、当然初心者向けに代表曲が入ってなきゃいけないんだけど、でもシングル曲を入れてくだけで既に収録時間が足りなくなっちゃうので……難しいところですよね。どれがヒットしたかで選べば簡単なんだけど、そういうものでもなくて。やっぱり作品主義にはなりますよね。

──単なるシングルコレクションではなく。

僕の場合は昔からシングル主体の活動じゃないですからね。シングルヒットっていうよりも、圧倒的にアルバム中心のやり方をしてきたので。だから例えば、今は割と知られてる「さよなら夏の日」なんていうのでも、あれは別にトップテンシングルじゃないですから。最高位12位。僕はトップテンヒットって生涯で9枚しかないから。

──意外と少ないんですね。

うん。「高気圧ガール」でも16位とかそんなもんで、「LOVELAND, ISLAND」あたりはシングルカットさえしてないし。だから選曲が難しいんですよ。代表曲が必ずしもヒット曲じゃなかったりするので。

──リスナーそれぞれで思い入れの強い曲も違うでしょうし。

バラけますよね。僕の場合はラジオでリクエストを募ってもヘタすると全員が違う曲を選んできたりするし(笑)。音楽っていうのは曲を聴いてたときのその人の記憶や体験と密接に結びついてるものだから、特に僕みたいにキャリアのある人間はそこを無視できないし、最大公約数的な選曲って言っても諸説出てきちゃうんで。そうなると結局自分で選ぶしかないんですよね。

オールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」2012年9月26日発売 / 3980円 / Warner Music Japan

山下達郎(やましたたつろう)

1953年東京出身の男性シンガーソングライター。1975年にシュガー・ベイブの中心人物として、シングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がけている。また、代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から四半世紀にわたってオリコン年間チャート100位以内を記録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースする。


2012年9月25日更新