ナタリー PowerPush - 田村ゆかり
超ラブリーな「ゆかり王国」建国記
アップテンポは難しい
──それではここからはニューシングル「Fantastic future」についてお聞きします。タイトル曲はこの春放送のテレビアニメ「変態王子と笑わない猫。」のオープニングテーマで、田村さんは声優としても参加されているんですよね。
はい。「鋼鉄の王」というあだ名の厳格な女の子の役で。
──では楽曲もキャラクターを意識して?
今回はキャラクターに寄せるような作り方ではないですね。ドタバタなラブコメディなので、恋する女の子の気持ちが歌えたらいいなと思って作りました。
──みんなが望んでいる「THE 田村ゆかり」とでも言うべき直球のポップソングという印象です。ひたすらポップでアップテンポな、田村さんの得意路線かなと思ったのですが。
でも私、実はアップテンポな曲を歌うのって苦手で。アップテンポな曲のときはいつもプリプロで「もっと(テンポを)落としたいなー、落としたいなー」って言ってるんです。「Fantastic future」も落として落として、ようやくこのテンポに落ち着いて。
──本来はもっと速かったんですか?
そうなんです。ミディアムテンポだと歌に気持ちを乗せやすいんですけど、テンポが速い曲だと元気さのほうが大事だったりするので難しくて。
──元来CoccoやACOサイドなわけですからね(笑)。でも世間がイメージする田村ゆかり像は、どちらかというとポップでテンポがいい、陽のイメージが強い気がします。
うーん。太陽と月なら、どっちかというと月なんですよね。もちろん明るいポップソングも好きなんですけど、歌入れには苦労します。
表題曲とカップリング
──そういう意味では2曲目の「傷つく宝石」はまさに月サイドの、「Fantastic future」とは真逆とも言えるアダルトな路線で。歌い方もかなり変えてますよね。
この曲はホントはキーをもう1つ下げたほうが歌いやすいんですけど、アダルトになりすぎないようにしたほうがより切ない感じになるかなと思って。
──この路線もかなりいいですよね。こういったタイプの楽曲がシングルのA面になっても面白いかなと思いました。
でもやっぱり表題曲になれる曲となれない曲ってあると思うんですよね。表題曲って損をするので……。
──損をする?
はい。私のお客さんは特にマイナーなものを好むから「『Fantastic future』もいいけど、いつものゆかり節だから、やっぱ『傷つく宝石』だよな」ってきっと言うんですよ(笑)。
──あははははは(笑)。
でもシングルの表題曲はやっぱり広く受け入れられる曲のほうがいいと思うので。逆に「傷つく宝石」が表題曲だと損をしちゃうと思うんですよ。
──「カップリング曲ならでは」「アルバム曲ならでは」の楽しみはありますよね。田村さんのファンは特にその傾向が強いという。「だって×2ウキウキ」はジャズやブギーの要素があって、これもまさにカップリングならではの遊び心にあふれたサウンドですね。
最初に聴いたときはなんというか、少し恥ずかしかったんですよ。昭和な感じがして(笑)。太田さんに「これちょっと歌ってみてよ」って言われて、最初は半信半疑だったんですけど、歌っているうちにだんだんハマッてきて。
──昭和な感じが恥ずかしい?
なんでしょう、テレビの「懐かし音楽」みたいな感じというか(笑)。たぶんブギーは自分が知らない時代の音楽だからなのかな。それを私が歌っていいのかなーみたいな感じがあったんですよ。でも、ちょっと時代は違いますけどフィンガー5みたいな、子供がまっすぐ歌ってる感じをイメージしたらわりとスムーズに行きました。
普通のライブになると思います!
──「もうちょっとFall in Love」は、そういう意味では表題曲になってもおかしくないキャッチーな曲だと思うんですけど、これをカップリングに入れたのはなぜですか?
この曲は、今回は春のシングルだし「傷つく宝石」以外は明るい曲で行こうということになって、試行錯誤してできた曲ですね。6月にはちょうどライブも控えているし、こういう曲もあったほうがいいかなって。ストレートに「みんなの好きなゆかりんソング」って感じで作りました。
──ああ、確かにこれはライブ向きな曲ですね。バンドの演奏をバックに飛び跳ねている様子が目に浮かぶというか。
そうですねー。
──今回のライブは埼玉・さいたまスーパーアリーナで2日間という、田村さんにとって過去最大規模のワンマンになりますが、いったいどんなライブになりそうですか?
具体的なプランは全然考えてないんですけど、今回は珍しく、楽曲会議の前から過去の自分の歌を聴き返してます。でもやりたい曲が多すぎて、しかも「これ、みんなが望んでるものではないかもな」とも思ったりして。
──これからいろいろ決まっていくということは、まあヒントになるようなことも言えないかもしれませんが……。
普通のライブになると思います!
──普通のライブ(笑)。2日間あるということで、それぞれに趣向を凝らしたりということも?
だいたい同じになると思います(笑)。
みんなが夢を見てくれているのなら、私はそれに応えたい
──今後の音楽活動として、冒頭におっしゃっていたような“女の情念”の世界を歌うようなことはありませんか?
うーん。受け入れてもらえるかもしれないけど、私はやっぱり少人数の人が喜ぶことより、できるだけたくさんの人に楽しんでもらえることがやりたいんですよ。そこを壊してまで打ち出そうという気持ちは今のところないですね。この規模でやれなくなった頃にやるのはアリかもなと思いますけど。
──ちょいちょいシビアな言葉が入りますよね。
お客さんが付いてくださる今だからこそできる冒険もあるとは思うんですけど、ここで裏切るよりは、みんなが夢を見てくれているのなら、私はそれに応えたいです。
──声優や音楽に限らず、個人的に今やってみたいことはありますか?
なんだろうなー。だいたい長続きしないんですよ、何をやっても。しいて挙げるなら……中国語が習いたいです。昔から中国語ってかわいいなと思っていて。英語はカッコつけてしゃべってるような感じがするんですけど、中国語は子供がしゃべってるような印象なんですよ。ずっと興味はあったんですけど、昔、英会話教室に通わなさすぎてクビになったことがあるので。仕事で使おうとかいう思惑はありませんけどね。あと中国語は文法的に英語と同じらしいので、中国語を覚えればあわよくば英語もマスターできるんじゃないかって(笑)。
──では最後に余談ですが、最近個人的に買ったCDを教えてもらえますか?
最近だとONE OK ROCKさんですね。歌がすごく上手だし、ライブの映像を観ても超盛り上がってていいですよね。もう少し前だと……クレイジーケンバンドさんかなー。雰囲気が好きなんです。
- ニューシングル「Fantastic future」 / 2013年4月17日発売 / 1300円 / KING RECORDS / KICM-1441
- ニューシングル「Fantastic future」
収録曲
- Fantastic future
- 傷つく宝石
- だって×2ウキウキ
- もうちょっとFall in Love
- 田村ゆかり(たむらゆかり)
- 2月27日生まれ、福岡出身の声優アーティスト。1997年にドラマCD「マクロスジェネレーション」でデビューを果たし、声優および歌手としての活動を始める。いずれも精力的な活動で着実に評価を集め、2008年には声優として3人目となる日本武道館公演を行った。2012年10月には2枚目のベストアルバム「Everlasting Gift」をリリース。2013年4月17日には通算23枚目のシングル「Fantastic future」を発表する。