ナタリー PowerPush - 竹内まりや

今、思うこと ロングインタビュー

「VARIETY」が大きなターニングポイント

──まりやさんはデビューして今年で35年目になりますね。

はい。でも正味10年くらいしかやってない感じかな。

──えっ(笑)。

デビュー後の3年間以外はほとんど表立った活動をしてないので、35年なんてとんでもなくて、私の中では10年くらいはやったかなっていうのが実感ですね。ツアーでも定期的に出てたらね、その年数分しっかりやったっていう気はするんだろうけど、やってないので。

──そんな実感の中でも、思い返してみて活動の転機となった時期があったら教えてください。

竹内まりや

一番の転機はやっぱり、3年やったあと結婚して休業したとき。そのとき、本当に自分がやりたい音楽を探し求めて、メロディと言葉を書き留めた日々があるんですね。それで1984年、子供が生まれる直前に「VARIETY」というアルバムを出したんですけど、そのとき「やっと本当にやりたいことがやれた!」っていう達成感を初めて持てたんです。それまでは歌手として与えられた歌を歌う立場でしたから。与えられた作品はすべて好きなものばかりだったけれど、自分でオリジナリティを追求してソングライティングをすることに興味を持っても、その時間的な余裕はなかったから。「VARIETY」は全曲自分で詞曲を書いて、達郎に初プロデュースをしてもらえた作品でした。アレンジやコーラスなどにも意見を出して、やっと納得できたと思えた作品だったので自分にとっては大きかったです。

──そうなんですね。

ただ、当時もうお腹が大きくなっててプロモーションはできなくて。プロモーションなしでアルバム出すなんて、せっかく作ったけど届かなかったらそれも仕方がないと覚悟しました。なのに、テレビに一生懸命出てた時期の最後に出したアルバムよりもずっと多くの人が聴いてくださったんですね。そのことがきっかけで「プロモーションって一体なんなんだろう」ってすごい考えたりしました。姿は見えないけど、CMとか映画とかドラマで声が聞こえていることの重要性も感じたんです。そして、自分自身が「いいと信じている何か」に対して賛同してくれる人がこんなにいるんだって感じたことがすごく励みになりました。

──賛同してくれる人?

つまり、プロモーションはできなかったけれども「VARIETY」を聴いてくれた人が想像よりもずっとたくさんいてくれたことで、静かなるリスナーの存在が信じられたんです。私は達郎のようにレギュラーのラジオ番組も持っていませんし、ファンクラブもないし、ライブでお客さんの姿を見る機会も少ないので、どこでどういう人が買ってくださっているのか実態はよくわからないのですけれど、このアルバムを出したとき、自分が模索した音楽作りへの信念のようなものをリスナーの方々からしっかりといただいたんだと思います。そこを信じて今までやってきている気がします。

──つまりデビューから5年も経たないうちに、今に続くような精神的基盤はできていたんですね。

そういえるかもしれませんね。音楽的にも、スタンス的にも「VARIETY」がもっとも大きなターニングポイントになったことは確かです。

──また、インタビュー冒頭では、歳を重ねてからもっと楽な姿勢になったとおっしゃっていましたが。

2003年、48歳のときに「Longtime Favorites」という私の好きな60年代の洋楽ばかりを集めたアルバムを出した頃から、そのへんの意識が変わったような気がしますね。純粋に歌を歌うことだけに専念する楽しさの再発見があって、必ずしも自分が作詞作曲したものだけを歌うことにこだわらなくてもいいかなって、そう感じたんです。今後例えば山下達郎の作品を昔みたいに歌ってもいいじゃないとか、今回のように杉さんが書いた曲をシングルにしてみましょうとか、シンガーとしての自由をもっと楽しめるようなモードになったんです。歌手からスタートした私が、一巡してもう一度歌手としての自分を発見する面白さがありましたね。誰の曲かにこだわらない気持ちになれたのは、そのどちらも経験したからこそだと思っています。

──2008年には30周年を記念したオールタイムベストアルバム「Expressions」で活動を総括し、セールス的に素晴らしい結果を収めたことも、さらなる自信にもつながったんじゃないでしょうか。

本当にありがたいことです。あのベストでは、かなり下の世代の人からもお便りをもらいましたし、40代以上のコア層だけでなく幅広く聴いていただいた実感がありました。自分の歩みにひと区切り付けたことで、気持ちがより軽やかになってる部分もあるかもしれないですね。これから先、流れに乗っていろんなことやってみましょうっていう。だから、今後誰かと音楽的なコラボしてみたり、そういうことだってもっと楽しく考えられるかなと思ってるんですけどね。

素材があってこそ、お題があってこそ

──まりやさんはご自身の活動に加えて作家としての顔もあり、楽曲のタイプごとに曲の書き方も変えているかと思います。近年では松田聖子さん(参照:大人の恋ウタ、松田聖子新曲は竹内まりや完全プロデュース)、松浦亜弥さん(参照:松浦亜弥10周年ベストに竹内まりや新曲書き下ろし)、芦田愛菜ちゃん(参照:芦田愛菜1stアルバムに竹内まりや、岸谷香が楽曲提供)など幅広い年代の女性に楽曲を提供してますね。

はい。ほかのシンガーやアイドルに曲を提供するということは、可能ならばずっと続けたいと思っています。

──提供曲を作る際は、まずその人を想像して、合いそうなものをひねり出すんですか?

そうです。それをどの歌手が歌って、誰が聴くものかということによって曲の発想は生まれます。私が思うその歌手にとって一番ぴったりくるイメージと、それを聴くリスナーのニーズみたいなものを、自分で考えて書きます。例えば芦田愛菜ちゃんだったら愛菜ちゃんの年代、もしくは愛菜ちゃんのお母さんが聴いたときに楽しいと思う曲にしようとか、広末涼子ちゃんに書いた「MajiでKoiする5秒前」は高校生だった涼子ちゃんに合わせて歌詞を探して「プリクラ」とかを入れたり。それは自分用の曲では書けないことなので、その素材があってこそ。その一番象徴的なものが(中森)明菜さんの「駅」ですね。明菜さんのあの切ない感じのイメージが「駅」という曲を書かせてくれたわけですから。

──河合奈保子さんに提供した「けんかをやめて」も、のちにセルフカバーして「奈保子ちゃんが歌うとすごく可愛いのに、私が歌うとひどく傲慢な女性に聞こえるのはなぜだ(笑)?」と解説していましたね。

ははは(笑)。私が歌うと、ほとんどネタかっ!てぐらいのイヤミな女です(笑)。歌いながら「あんたは何様?」とひとり突っ込みが入りますよね。かわいい奈保子ちゃんの歌だとほほえましく聞こえるのは、歌い手によって主人公の見え方がそれだけ変わるということの実例。誰かに合わせて曲を書くことの面白さはそんなところにもあります。職人的な作業でもあるし。

──タイアップ曲を制作するときも“合わせる”ことは意識しますか?

タイアップはすごくありますね。今回のシングル「それぞれの夜」はニュース番組のエンディングテーマだから「夜の寝る前に聴くにふさわしいような、ちょっと希望のある歌詞をお願いします」という要望があったので、それを考慮に入れながら具体的な言葉やメロディを考えていきます。だからテーマなしで自由に書いてくださいって言われると意外と難しいです。

──お題があるほうが楽?

そうですね。特にお題があってタイムリミットがあるっていうのが一番がんばるかも。「いつまででも待ちますから好きに書いてください」だと、私も達郎もなかなか出てこないタイプ(笑)。

──注文によってはしがらみを感じることはないですか?

確かに制限がある場合もあります。「今回はアップでいきたかったんだけど、またバラードだからどうしよう」って思ったりね。以前、火サス(火曜サスペンス劇場)の主題歌を連続してやっていたときは「できるだけマイナーコードでお願いします」「次も暗めでお願いします」って言われていろいろ考えました。でも、どうしようって苦労するところも楽しいってことですね。

──また、オファーを受けて作る曲では“竹内まりやに求められてるもの”も意識しますか?

それはやはり意識します。「何を求めて私にオファーをくださったのかな」ってことはやっぱり考えて、私のメロディの癖、言葉の癖みたいなものは入れるようにしているはずです。

ニューアルバム「Dear Angie ~あなたは負けない / それぞれの夜」 / 2013年7月3日発売 / ワーナーミュージック・ジャパン
初回限定盤 / [CD+DVD] / 1680円 / WPZL-30637
通常盤 / [CD] / 1260円 / WPCL-11523
CD収録曲
  1. Dear Angie~あなたは負けない
  2. それぞれの夜
  3. Your Mother Should Know
  4. Dear Angie~あなたは負けない(オリジナルカラオケ)
  5. それぞれの夜(オリジナルカラオケ)
初回限定盤 DVD収録内容
  • Dear Angie~あなたは負けない(Music Video)
  • 元気を出して(souvenir 2000 LIVE)
竹内まりや(たけうちまりや)

1978年、シングル「戻っておいで・私の時間」でデビュー。「SEPTEMBER」「不思議なピーチパイ」など次々とヒットを飛ばす。山下達郎と結婚後は作詞家、作曲家として「けんかをやめて」「元気を出して」「駅」など多くの作品を他の歌手に提供する傍ら、1984年に自らもシンガーソングライターとして活動復帰し、1987年に発表した「REQUEST」以降すべてのオリジナルアルバムがミリオンセールスを記録している。また、1994年発表のベストアルバム「Impressions」は350万枚以上の記録的な大ヒットとなり、日本ゴールドディスク大賞ポップス部門(邦楽・女性)でグランプリアルバム賞を受賞。ベスト盤ブームの先駆けとなった。2007年、6年ぶりとなるアルバム「Denim」を発表。2008年にはデビュー30周年を記念した自身初のコンプリートベストアルバム「Expressions」をリリースし、オリコン週間ランキングでは3週連続1位を獲得。2010年12月には10年ぶりのライブ「souvenir again」を日本武道館と大阪城ホールで行った。