竹原ピストル|不惑にして“惑えず”歌うたいの覚悟

竹原ピストルがニューアルバム「PEACE OUT」をリリースした。

全国津々浦々を巡業する“ドサ回り”生活の中で見た景色や感じた思いを落とし込んだ楽曲を収めた本作は、竹原自身が最高傑作と明言する気迫のこもった1作となっている。

住友生命「1UP」のCMソング、ドラマ「バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」のエンディングテーマを担当することでお茶の間にその歌声が浸透すると共に、出演映画「永い言い訳」で「第40回日本アカデミー賞」優秀助演男優賞を受賞するなど各方面で熱い注目を集める竹原。追い風が吹く現在の状況を、彼はどう捉えているのかじっくり語ってもらった。

取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 吉場正和

歌うたい人生における1つの大きなひと区切り

──音楽ナタリーではこれまで「BEST BOUT」(参照:竹原ピストル「BEST BOUT」インタビュー)と、「youth」(参照:竹原ピストル「youth」インタビュー)リリース時にインタビューさせていただいてますが、今回またしても素晴らしいアルバムが完成しました。

ありがとうございます。うれしいです。

──竹原さんご自身もブログに「今までで一番の自信作」と書かれていましたね(参照:竹原ピストルのブログ 流れ弾通信)。

竹原ピストル

作品ができるたび毎回自信作だって言ってるんですけど(笑)、今回のアルバムは制作中から僕の歌うたい人生における1つの大きなひと区切りになるなと感じていたので、特に気に入ってます。

──年間200~250本のライブ活動で全国を回って歌い続けてきたからこその言葉の重みや深みが感じられる内容だと思いました。同時にこのリリースタイミングで竹原さん自身にいい風が吹いているなとも感じてまして。1つは前作収録の「よー、そこの若いの」が住友生命「1UP」CMソングに使用されてロングヒット中であること。

あれは大きかったと思います。長く使ってくださってありがたいです。

──そして2つ目は出演映画「永い言い訳」で「第40回日本アカデミー賞」優秀助演男優賞を受賞されて。授賞式の模様、テレビで拝見しました。

演技に関してコメントいただくのは照れ臭いばかりで……でも、司会の西田敏行さんは僕が大好きな方だったので、お会いできて大感激でした。

──そうしたさまざまな環境の変化がある中でのアルバムリリースということで、これまで以上に注目が集まっているんじゃないでしょうか。

制作段階ではまさか役者として賞をいただくなんて知るよしもなかったんですけど、結果的にいい流れになったなとは思っています。

ドサ回りは一期一会

──ちなみに今作の収録曲で一番古い曲はどの曲でしょう?

前にやっていた野狐禅のレパートリーだった「ぐるぐる」です。それから「例えばヒロ、お前がそうだったように」はインディーズで出した曲の再録になります。逆に一番新しいのは「俺たちはまた旅に出た」ですね。

──その「俺たちはまた旅に出た」と1曲目の「ドサ回り数え歌」は呼応する関係に思えました。「ドサ回り数え歌」はライブではおなじみの曲ですが、これまでアルバムに入れてほしいという声も多かったんじゃないでしょうか。

竹原ピストル

お客さんによく言われました。物販コーナーでCDを売ってるときに「『ドサ回り』の歌が入ってるのどれですか?」「いや、新曲なんですいません!」みたいな感じで(笑)。これは録り終えてみて結果的に気付いたことでもあるんですけど、今回のアルバムは全国津々浦々回ってきた旅芸人が見た景色の曲が多いんです。実際、これまで細かく回ってきたけど、ひとまずこのスタンスからもうワンステップ上に行こうと心の中で決めていて。そうなってくると「ドサ回り数え歌」は「今日の日はさようなら」じゃないけど、いつ会えるかどうかわからないけど元気でいてくれよ、みたいな内容の歌でもあるし、ぴったりかなとは思って1曲目に入れました。

──これまで全国を回ってきたからこそ歌える歌ですね。「弦、切れて 縁、切れて でも元気でね」という歌詞が印象的で。

歌を生業としている人間としてはお客さんが減ってしまうと困ることなんですけど、ちっちゃなお店で至近距離で向き合ってライブの時間を一緒に過ごしたお客さんたちに対して「また遊びに来てね」みたいな気持ちが不思議とあんまり湧かないというか。

──つまり一期一会の心境ということですか?

そういうことです。商売としては何度でも来てくれたほうがうれしいんですけど、人間同士の関係からすれば、そんなのはちっちぇえ話だと思っちゃうんですよね。ライブの場で向き合ったことは確かだし、至近距離となると、どんな小細工も通用しない空間ですから。いつも貴い時間を一緒に過ごしたなって思いながらやってる。で、また会えるかどうかはわからないけどある時間を一緒に過ごせたわけだし、「次、お会いできてもできなくても、元気に過ごしていようね」みたいな気持ちで全国を回ってた。

──アルバムタイトルの「PEACE OUT」(「じゃあね、またね」という別れの挨拶)そのままの意味なんですね。ステージがお客さんと自分の唯一の接点であると。お客さんの目の前で歌っていると、自然とそういう考え方になるものなんでしょうか?

竹原ピストル

いや、どうなんでしょう。実は会場の大きさではないと思うんです。確かにお客さん1人ひとりのパーソナリティや反応は近ければ近いほど明確にはなるでしょうけど。というのも僕はよく「ドサ回り」って言葉を使うんですけど、自分の中では向き合っているお客さんが自分の人気や自分の名前で自然と集まってくれたわけじゃないパターン……要するに店のマスターやママさんが「竹原ピストルっつーのが歌いに来るから、ちょっと観に来てやってくんないか?」って常連さんに声をかけてどうにか形にしてくれたところで歌うのが僕の中のドサ回りの定義なんです。だから余計に一期一会感はすごく強く感じるんですよね。

──あくまで自分を観に来たのではなく……。

「言われたから来たよ」という感じ。そうなると常連さんに声をかけてくださったマスターやママさんたちの顔もあるし、絶対成功させなきゃいけないという気合いも入るんです。野狐禅を解散して1人で回り始めて3年目ぐらいまでずっとそういう環境でやってきたから、また会える会えないはどっちでもいい、それより「来てくれてありがとう!」って気持ちなんです。望んでいたわけでもないのに自分の歌を聴いてくださっていたわけですから。そこに感じる恩は強烈だし、これを繰り返せばひょっとしたら音楽で食べさせてもらえるのかもしれないけど、そこで留まってしまってはなんの恩返しもできないだろっていう葛藤がすごくあって。

──はい。

だから「いいじゃんいいじゃん、また歌いに来てくれよ」みたいなこと言ってくださる人もいるけど、絶対に次のステージ上がって「あの竹原ピストルがこんなになったよ」っていうのを見せられる活躍がしたいっていうのが今の音楽活動における大きな大きなモチベーションなんです。

竹原ピストル「PEACE OUT」
2017年4月5日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
竹原ピストル「PEACE OUT」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3564円 / VIZL-1115

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竹原ピストル「PEACE OUT」通常盤

通常盤 [CD]
3132円 / VICL-64716

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CD収録曲
  1. ドサ回り数え歌
  2. 虹は待つな 橋をかけろ
  3. 一枝拝借 どこに生けるあてもなく
  4. ママさんそう言った ~Hokkaido days~
  5. ぐるぐる
  6. 一等賞
  7. ため息さかさにくわえて風来坊
  8. 最期の一手 ~聖の青春~
  9. ただ己が影を真似て
  10. 例えばヒロ、お前がそうだったように
  11. Forever Young
  12. 俺たちはまた旅に出た
  13. マスター、ポーグスかけてくれ
初回限定盤DVD 収録曲
  1. オールドルーキー
  2. LIVE IN 和歌山
  3. 午前2時 私は今 自画像に描かれた自画像
  4. じゅうじか
  5. 俺のアディダス ~人としての志~
  6. ちぇっく!
  7. 便器に頭を突っ込んで
  8. ドサ回り数え歌
竹原ピストル(タケハラピストル)
竹原ピストル
1976年生まれ、千葉県出身。大学時代の1995年にボクシング部主将として全日本選手権に出場した経験を持つ。1999年に野狐禅を結成。2003年にデビューし、6枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした。2009年に野狐禅を解散後、ソロ活動を開始。年間250~300本のライブ活動をしながらリリースを重ねる。2014年、野狐禅デビュー時に所属していたオフィスオーガスタに復帰し、10月にスピードスターレコーズよりニューアルバム「BEST BOUT」をリリースする。2015年11月にメジャー2作目となるアルバム「youth」を発表。2017年4月にアルバム「PEACE OUT」をリリースした。歌手のほかに俳優としての顔も持つ。映画「永い言い訳」の演技が評価され「第40回日本アカデミー賞」優秀助演男優賞を受賞した。