ナタリー PowerPush - SING LIKE TALKING

年半ぶり新作で本格復活! アルバム制作の裏側に迫る

レコーディングの空気感が詰まった「Through The Night」

──ニューアルバム「Empowerment」は、良い意味で老成した感じがない作品だなと思いました。

佐藤 それはうれしいですね。アルバムの1曲目をバラードにして落ち着くのは、まだまだ先でいいかなと思ってたので(笑)。

──その1曲目「Through The Night」は、穏やかなボッサのイントロで始まったかと思いきや、それを打ち消してファンキーなサウンドになだれ込むという、意味ありげな曲ですね。

佐藤 まあ、作ってるときはあまり考えてないんですけど、そこを深読みしていただいてもいいですね(笑)。「まだまだいけるぜ!」みたいに思ってこういうふうにしたのかなとか。曲自体はファンクなんですけど、ファンクってそもそもいろいろな遊びを入れるのが楽しい音楽でもあるので、頭でボサノバをやってるのは単純にそういうものにならってみたってことなんです。でも、最初はこれをアルバムの1曲目にする気はなかったんですよ。僕らだけで遊んでる感じが出ればいいやみたいな考えだったんだけど、千章が「これを1曲目にしよう」って言い出して。

藤田 みんなアルバムのレコーディングでは盛り上がってて、「Through The Night」はその空気感が特に詰まってる曲だなと思ったんですよね。1曲目から重たく始まるよりは、久しぶりのアルバムだし、軽く乗れたほうがいいだろうって。

佐藤 「Through The Night」が1曲目になったことで、結果的にその後の流れが良い感じになりましたね。

藤田 でも、曲を作った本人(佐藤)も「これ1曲目でいいかもね?」みたいなことは言ってたんですよ。

佐藤 なんとなく、ですね。最初はちょっとやりすぎかなって思ったんですよ。それってたぶん、ソロでやってる間に……僕ってひとりでやってるとずーっと考え込んでいくタイプなので、ジャッジラインに悩むというか、そういう気分が残ってたのかなって。でも、これを1曲目に決めてみて、そういえばSING LIKE TALKINGの作品って、毎回すごく真剣には作ってはいたけど、ある意味適当なところは適当だったしなって思い出したんですよ(笑)。楽しさみたいなものがそういうところからにじみ出てた感じがありましたから。そういう適当さ加減っていうのが聴き手には臨場感として伝わったりする部分だったりするんですよね。アルバムができあがった直後っていうのは、作った音の1つひとつに対してものすごく神経が研ぎ澄まされているんですけど、時間が経ってみると、そんなに気にすることでもなかったなっていう部分が毎回あるんです。それはそれでいいなって思いますし、それもまた音楽になってるんですよね。

3人の和から生み出されるもの

──そのせいか、アルバム全体から晴々しさというか、一聴してみずみずしさや突き抜けた印象が感じられます。

佐藤 今回は全曲にわたって、特にサビに関してはライブで歌ったりレコーディングしているときに、「ポップだなぁ、キャッチーだなぁ」って楽しめるようなものにしようと思ったんです。それは聴いてる人にとってじゃなく、自分にとって(笑)。そうあればいいっていうのがありましたから、突き抜けた印象を与えてるんだと思いますね。

──曲作りはどのように進めていったんですか?

佐藤 曲に関してはデモの段階から3人でジャッジしていくので、自分では「これいいな」と思っていてもほかの2人がピンとこないときもある。そういう場合は容赦なくやり直しですからね(笑)。今までもそうですけど、特に最初の10年ぐらいって3人一致で良いって思えるものだけを作品にしてましたから、今回もそれをまず重要視しました。2人がこうしてほしいとかこれイマイチだなってなったら、それをクリアした上で自分が作ったときに思った「良い」っていう感覚にするにはどうするか、どっちを取るかではなくて両方成立させるためにはどうするかっていう、その作業はすごく楽しかったですね。若いときってあまり意識しなくてもそういう感じでやってましたけど、今はそれぞれ考え方もしっかりあるしそれぞれのアイデンティティを持っているので、その上での和から生み出されるもの……妥協点じゃない、個の張り合いじゃない部分で、どうやったらその力を生み出せるかっていうことを常に考えました。

7年半の間にそれぞれが培ってきたものが財産に

──レコーディングは基本的に3人で行ったんですか?

佐藤 今回はドラムやベースでの参加ミュージシャンはいますけど、基本的にはアレンジからプロダクション、エンジニアリングまでほとんど自分たちでやって。このスタイルが自分たちに合ってるんだな、楽しいなって思いましたね。まあエンジニアリングに関しては千章が中心になってやったので大変だったと思いますけど、SING LIKE TALKINGを休んでいる間にずっとエンジニアを兼ねた仕事をやっていたので、そういう意味では引きこもりの成果がここに成就したのかなって(笑)。

藤田 7年半の間にそれぞれみんなが培ってきたものとか考えていたこととかがすごく財産になって、こういう作品ができた感じですね。まあ、僕は引きこもりのプロになり(笑)。

西村 僕もどっちかっていうと引きこもりですよ(笑)。ライブのサポートをやってたのも、SING LIKE TALKINGを休んでた最初の2年ぐらいだけでしたから。

藤田 だからもう、久しぶりに地方とか回ったりするとね、知ってる人もいるんですけど新しいスタッフも多いわけですよ。僕は知らないんですけど、彼(佐藤)は知ってて。

佐藤 結果的に3人の役割分担が、ソロでやっている間に磨かれたみたいな(笑)。千章はテクニカルなことやプロデュース、西村はギタリストとしてだけじゃなくメロディメイカーやアレンジャーとしても磨かれて。僕は「歌う」ということを中心にしながらも人とつながっていくのはすごく好きで。それこそもう、人を駆使して道具を揃えたりするの大好きですから(笑)。

──この7年半の間に、音楽シーンがSING LIKE TALKINGの音楽をよりあたたかく迎える雰囲気になったんじゃないかなと思うんです。SING LIKE TALKINGがそのサウンドに散りばめてきたAORやアーバンソウル、日本的に言えばシティポップスといった類のエッセンスを匂わせる若いアーティストが国内外で台頭していたりしますし。

佐藤 SING LIKE TALKINGのサウンドって、ジャズフュージョン的な部分もありつつ、ハードロック的なことをやったりオルタナ的なものをやったり、正直言ってどのへんが僕らのスタイルなんだろうってのは自分たちではこれといって把握しているわけではないんです。でも、恐らく一般的にはフュージョンやAOR的な部分がイメージとして強いのかなっていう意識はあって。で、SING LIKE TALKINGを……っていうよりも音楽シーン全体を客観視してみたときに、例えばヨーロッパを中心にAORであったりそういった手触りのサウンドが20代、30代の若いミュージシャンによってスタンダードとして復刻されて盛り上がってきてる。そういう流れを見ているとね、どんなものでもちゃんと作っていれば、時代が回って考え方自体が淘汰されてスタンダードなものとして残り得るんだろうな、っていうふうに思えるんですよ。そういう意味では、ある期間SING LIKE TALKINGに手を付けなかったことは、すごく良かったんだと思う。それから、比べるのはおこがましいですけど、ドナルド・フェイゲンのインタビューを読んで、STEELY DANが20年間アルバムを出さなかった発想に対して達観性を感じたんですよ。だからまあ爪の先っちょの垢ぐらい、ドナルド・フェイゲンの思いとリンクしてるのかなって思いますけどね(笑)。

ニューアルバム「Empowerment」 / 2011年5月18日発売 / 3000円(税込) /  UNIVERSAL J / UPCH-1829

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CD収録曲
  1. Through The Night
  2. A Wonderful World
  3. 飾りのないX'mas Tree
  4. Dearest
  5. 涙の螺旋
  6. きみの中に輝くもの
  7. 祈り
  8. Do-Nuts?
  9. 硝子の城
  10. Desert Rose (Adenium)
  11. Wild Flowers
  12. Dog Day In The Noon
東日本大震災復興支援ソング配信決定

SING LIKE TALKING「Luz」
2011年5月18日(水) からiTunes StoreにてPC配信開始
同日にはSING LIKE TALKING携帯サイトにて着うた配信
(PC 200円 / 着うた 105円)

SING LIKE TALKING(しんぐらいくとーきんぐ)

佐藤竹善(Vo, Key & G)を中心に藤田千章(Syn, Key)、西村智彦(G)の3人によって1982年に結成。同年プロデビューを目指し上京し、オーディションでのグランプリ受賞などを経て、1988年9月にシングル「Dancin' With Your Lies」でメジャーデビューを果たす。佐藤の透明感あふれる美しいハイトーンボイスとエバーグリーンで高品質な楽曲は、一般の音楽ファンだけでなく耳の肥えたリスナーも魅了。特に佐藤の圧倒的な歌唱力は同業者からも絶賛され、他アーティストのコーラスを務めるたほか、小田和正や塩谷哲とはユニットも結成し活動を行った。2003年にアルバム「RENASCENCE」のリリースとそれに伴うツアーを行ってからは、バンド活動を休止。メンバーはそれぞれソロ活動や他アーティストのサポート、プロデューサーとして活躍してきた。2009年にイベントで久しぶりにライブを行った後、再始動に向けて準備期間に突入。2011年3月にシングル「Dearest」、5月にアルバム「Empowerment」を立て続けにリリースし、本格復活を果たした。