ナタリー PowerPush - 石川さゆり with 奥田民生

モータウン&サーフィン! キュートな作品「Baby Baby」完成

何か面白いこと見つけたい、って思っちゃう

──民生さんも、石川さんにお声をかけられて、一緒に遊んじゃおうかと。

奥田 うん、そのー、演歌みたいな世界も、僕は好きなんですけど。最初はどういう曲作るかは決まってなかったんですが、また刺激があるだろうなと思って。うん。まあ、結局は演歌を作ったわけじゃなかったんですけど、なんていうんですかね、今までにない刺激がありましたね。

──これまでもPUFFYや木村カエラさんなど、女性に曲を書くことは少なくなかった奥田さんですが、石川さんの場合は何か違いが?

インタビュー風景

奥田 まあPUFFYは適当なんで(笑)。なんて言うんでしょ、適当って言い方も変ですけど、わりかし自分がやってることを彼女らにもやらせたというか。音楽活動を始めた頃で、本人たちもゼロの状態だったんで、そういうこと考えて作ってなかったんですよ。だから今回とは全然違いますよね。カエラの場合も、まだデビューして1枚出したぐらいで、固まってる感じがしなかったんで。投げやりな(笑)。

石川 固まってない人の曲を作るのと、固まってる人のを作るのは違いますか?

奥田 固まってない人は、何もないわけだから、しょうがないから自分の曲みたいのを作って、やらせてみるっていう感じですかね。固まってる人は、イメージが固まってるところがいいところだから、それに対して、こうしたら面白いかなとか考えますね。だから固まってるほうが楽と言えば楽です。

石川 私は、こういう言い方するとおばさん臭いからやなんですけど、レコーディングした曲数は2000曲を越えてるわけ。そういう意味では、ありとあらゆる楽曲の、いろんな色を歌わせてもらってきてるんだけど、まだ何かやってないことがあるだろう、何か面白いこと見つけたい、って思っちゃうんですよね。だから、あとは素材として、石川というボーカリストに、作る人がその気になれるところ、「あ、書こう」と思ってくださるところが、どれぐらいあるかしら、って考えます。

発信する側から「ジャンルはこれです」とはあまり言いたくない

──石川さんは素晴らしいキャリアをお持ちですし、レコード大賞を何度も受賞されてるような方です。民生さんは、そういう方の曲を作るプレッシャーはなかったんですか?

奥田 いやいや、プレッシャーはなかったですね。ダメだったらダメでいいやって(笑)。確かに言われてみたら、そういうプレッシャーはなかったですね。紅白は違う曲で出るだろうし、ぐらいな(笑)。ちょっと今までにないものができたら楽しいだろうなということだったんで。そこで演歌の発注だとプレッシャーがあったかもしれないですね。まあ発注もされなかったでしょうけど(笑)。

石川 あら、演歌も書いてみます?

奥田 演歌ねえ。

石川 やっちゃおうか。

奥田 いつかできたら、あげます。

石川 (笑)。なんかねえ、皆さんが音楽ジャンルを決めてくださるのはありがたいことなんですが、発信する側から「ジャンルはこれです」とはあまり言いたくないなあ、といつも思うんです。石川のボーカルでこういう歌ができました。それが、皆さんが「いいねえこれ!」とか「いい!」と言ってくだされるものであれば、それでいいんです。だから、いつか奥田さんが「いい演歌ができた!」っておっしゃったら、それはそれだし(笑)、「これなんかわかんないけど、ウルトラC!」とか言いながら新しい曲を持ってこられたら、それはそれ(笑)。いい加減ということではなく、音楽とか歌を楽しんで遊んでいきたいなあと思うんですね。真剣に。頑なにじゃなくて、何が出てくるかわからない可能性を探っていたいし、そういう“隙間”を自分で持ちつづけたいなと思います。

「Baby Baby」の第一印象は“奥田民生”だなあ

──曲の話になりますが、「Baby Baby」の第一印象は?

石川 “奥田民生”だなあって。「いいなあこの曲、私が歌ったらどうなるのかなあ」って。最初にデモテープで奥田さんが歌ってらっしゃるのを聴いたんですけど、私にはキーが高くて声が出ない(笑)。そしたらだんだんキーを変えてくださったんですけどね。デモテープでは、奥田さんは奥田さんの世界観でワーっと歌ってらした。それが男性的なアプローチだったんで、じゃあ女性が歌ったらこうなるかなって想像しながら歌ったんです。

奥田 デモテープは、女性のキーの曲を僕が歌ってるんで無理がある。で、回転を早めたりしてどんな曲かを伝えたんですけど、まあその、歌い方のイメージとかは基本的にはお任せしようと思ってたんで。

──60年代ガールポップ風の曲で、石川さんの歌い方もかわいらしいですよね。そういう曲のイメージを共有してらしたんでしょうか。

石川 何も教えてくださらないんで、好きに歌ってくださいって。「えー、どう歌ったらいいんですか?」「いや、好きに」って(笑)。何もないって言うのは何かあるのかと思って(笑)。

奥田 いやいや何もない。

インタビュー風景

石川 という感じだったんです(笑)。さっき言ったみたいに、民生さんのデモを聴いて、男の人が歌うとこうなるんだろうな、じゃあ女の人が歌ったらこうかなって。私自身も「天城越え」の声の出し方と違うし、どういう女の人がいいかなとか、A型かなB型かなとかいろいろ思いながら(笑)。でもね、深く考えてもしょうがないのかもって。きっとこういう曲調では、言葉をひとつずつ考えて歌うというのも違うんだろうな、全体のリズムとかメロディの感じの中で、皆さんに「好きだわ」って感じてもらえたらと思ったんです。そういうのって私たちのいつもの歌の作り方にはないんですよね。いつもは、言葉を粒立てるとか、この女の人は何を言いたいんだろうとか考えるんですよ。でも奥田さんの歌の中に、この女の人の言いたいことを追求するのは求められていない。あとね、この曲は私の中では完成してないのね。いまだ。CDはレコーディングのときの真空パック状態でしかないから。スタジオでの作業が終わった後も、「これでいいの?」「いいすよ」「ほんとにいいの?」「いいすよ」ってやりとりをして(笑)。

奥田 そこまで投げやりに言ってないですよ(笑)。

石川 そうなのかなーって思いながら。これは、レコーディングのときに私が感じたことやスタジオの空気であって、石川の感じる「Baby Baby」なり「スロウサーフィン」なりは、またいろんな風に変化していくんだろうなって思いました。歌って、ずっと変化していくものだから、それも楽しみ。

コラボレーションシングル「Baby Baby」 / 2010年10月20日発売 / 1200円(税込) / テイチクエンタテインメント / TECA-12244

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CD収録曲
  1. Baby Baby
  2. スロウサーフィン
  3. Baby Baby(inst)
  4. スロウサーフィン(inst)
石川さゆり(いしかわさゆり)

石川さゆり

1958年生まれ、熊本県出身の日本を代表する女性歌手のひとり。1973年3月にシングル「かくれんぼ」でデビュー。1977年にリリースしたシングル「津軽海峡冬景色」が大ヒットを記録し、その年数々の音楽賞を受賞。主な代表曲は「能登半島」「暖流」「天城越え」「夫婦善哉」「風の盆恋歌」など。年末恒例番組「NHK紅白歌合戦」の常連歌手であり、通算出場回数32回を誇る。また、1990年に「サントリークレスト12年」CMソングとして制作した楽曲「ウイスキーが、お好きでしょ」が人気を集め、シングルとして発売。さらに2010年には、「ルーツ アロマインパクト」のCMのための音楽ユニット「コーラスジャパン」に参加するなど、演歌の枠にとどまらない多岐にわたる活動を展開している。

奥田民生(おくだたみお)

奥田民生

1965年生まれ、広島出身の男性シンガーソングライター。1987年にロックバンド、ユニコーンのボーカルとしてデビュー。1993年のバンド解散まで、数々の名曲・名作を発表した。解散後はソロアーティストとして再始動。1994年にシングル「愛のために」でソロデビューを果たし、現在までマイペースに濃厚な作品を発表し続けている。また、井上陽水奥田民生、O.P.KING、THE BAND HAS NO NAMEなどのコラボユニットへの参加や、PUFFYのプロデュースといった課外活動も盛ん。2010年には1曲をレコーディングする過程をライブで見せる“レコーディングライブツアー”「ひとりカンタビレ」を敢行し、多くの音楽ファンから注目を集めた。なお、2009年にはユニコーンが復活。バンド活動も並行して行っている。