音楽ナタリー Power Push - さユり×YKBX
“酸欠少女”の第一歩
19歳のシンガーソングライターさユりが、フジテレビ「ノイタミナ」枠で放送中の「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマとなるデビューシングル「ミカヅキ」を8月26日にリリースする。
今作をもってメジャーデビューする彼女のビジュアルは、amazarashiのトータルアートディレクションなどで知られるYKBXが担当する。自らを“酸欠少女”と称し、生きづらさを抱えて歌うさユりの内面をビジュアライズしたYKBXはどう見ているのか。そしてさユりが歌う理由とは。2人の対談から紐解いた。
取材・文 / 鵜飼亮次 撮影 / 北村勇祐 アートワーク / YKBX
いろんな人格を持っている
──まずは今回のタッグのきっかけを教えてください。
さユり 私がamazarashiさんの作品などで一方的にYKBXさんのことを知っててファンだったんです。それで、自分がデビューするにあたってスタッフさんとビジュアルをどういうふうにしていこうかって話し合う中で、YKBXさんの名前を挙げて。スタッフさんががんばってつなげてくださいました。
YKBX 初めて会ったのは今年の5月でしたっけ。お話自体はもう少し前にもらっていて。会う前にもらったデモ音源やプロフィールでいろいろ想像してました。さユりちゃんが掲げている“酸欠少女”ってキーワードは初めて聞く言葉だし、「そもそもここで言ってる“酸欠”ってどういう意味だろう」って考えてましたね。
──実際に会ってみた印象はいかがでしたか?
YKBX 達観してるというか、「いろんな人格を持った子だな」って感じました。楽曲の話をしているときはこう、普段の生活に関する話題のときはこうっていう感じで。いろんなキャラクターがいるなって。
曲や言葉を生む別次元の自分
──“酸欠少女”っていう言葉自体は、もともとさユりさんが過去に作った曲のタイトルだそうですね。
さユり はい。作ったのは16歳のときで、曲を作っていたら高校生活の息苦しさや鬱憤みたいなものが歌になって出てきたんです。
──その頃からすでに楽曲を作って歌っていたんですね。歌手になりたいと思ったのはいつ頃から?
さユり 幼稚園に通ってたときに、歌で敵を倒すって内容の「ぴちぴちピッチ」と、喉の病気にかかった子が変身してプロの歌手になる「満月をさがして」っていう2本のアニメが連続でやってて、それを観ながら歌手になる夢を漠然と持ち始めました。曲作りを始めたのは中学2年のときで、学校にあまりなじめなくなって「歌でもやろうかな」って(笑)。
──さユりさんはどういったときに曲を作りますか? 「酸欠少女」はタイトル通り切迫した気持ちの中で作られたのではと思ったのですが。
さユり 「酸欠少女」は今も自分の根っこになるような内容の曲なんですけど、作ったときはそこまで自覚的ではなかったんですよね、私自身も不思議だなって思うんですが(笑)。
YKBX 僕も相当思いつめた状況下で生まれた言葉なんだろうなと想像していたから意外でした。漠然とした不安感とか重圧とか、そういうもので文字通り酸欠状態というか、生活が困難なほど息苦しさを感じている……みたいなのが背景にあるのかなって思ってたんですけど。
さユり 周りからもそう言われるけど、私自身は意識してなかったというか。仮にストレスを抱えていたとしても自覚がない場所で曲として出てくるんですよね。だから作曲も「つらいつらいつらい!」って言いながらやってるわけじゃないんですよ。
YKBX 深層心理にはあるかもしれないけど、そのときの心境とは分離されてるっていうか前もってストレスを吐き出すことで毒抜きになる、みたいな感じなんですかね。
さユり なんですかね……。なんていうか、違う次元から曲が出てくるみたいな感覚なんですよね。
YKBXが手がける“3人のさユり”
──違う次元、と言えば今回YKBXさんが考案したさユりさんのビジュアルイメージ、3次元のご本人と2次元のさユりさん2名による“3人のさユり”というビジュアルが思い浮かびます。これは先ほどお話に出たようなさユりさんの多面的なイメージを形にしたものでしょうか。
YKBX はい。話してて2面性、3面性があるなと感じたので、「楽曲を作るときや日常生活を送ってるときに彼女の心の中でなんらかのスイッチが働くのかな」って考えたんです。それでさユりちゃんをビジュアルに起こしてキャラクター化するって段階で彼女の内面1つひとつをそのままキャラクターにしたほうが絶対面白いなって思って。イラストの“2人のさユりちゃん”は僕が受けた印象のままというか、不安定に揺れてる心をそのままキャラクターとして描き分けたものです。
──それぞれのキャラクターについて説明してもらえますか?
YKBX 制服を着たキャラクターは、14歳の「さゆり」っていう設定ですね。歌詞を見ていると過去を振り返るところがあって、会話していても過去の話が出てたのでまず“中2感”みたいなものをキャラクターにできたらいいなと思ったんです。それにさユりちゃん本人が当たり前ながら成長していくのに対して“14歳”はもうずっとそのまま。これから時系列で見ていけばその距離感がどんどん開いていくことになって面白いかなと思ったんです。
──もう1人の、ピンクの服を着た浮遊しているさユりさんはどんな設定にしているんですか?
YKBX こちらは彼女の中の理想や神様的な存在というか、“10代が憧れるさユりちゃん像”です。ネットの世界とか、すごく身近なところに宗教的な観念があったりするのかなと思って、別の世界に生息する達観した存在、強くブレないキャラクターとしてこの「サユリ」を作りました。
さユり 「お見事」って言うとアレですけど、初めてお会いしたときに私と話したあんな短い時間の中からアイデアやイメージをすごい掬い上げてくださって、すごく感動しました。
──先ほどさユりさんはご自身について「あまり自覚的ではない」とおっしゃっていましたが、こうやってYKBXさんがイラスト化したことで多少クリアになった部分もあるのでは?
さユり そうですね。自分は不安定だなあと思ってはいましたけど、そんな部分をきちんと形にしてもらえたというか(笑)。ずっと“14歳”っていうのも、実際そういう曲が多いというか、自分の過去について後悔してるような自分がいることは認識してたので、それを形にしてくれたことに感動しました。ピンクの「サユリ」もYKBXさんから説明を受けて、それまで意識したことがなかったんですけどスッと腑に落ちました。
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- さユり デビューシングル「ミカヅキ」 / 2015年8月26日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1599円 / BVCL-669
- 通常盤 [CD] 1000円 / BVCL-671
- 期間生産限定アニメ盤 [CD+DVD] 1599円 / BVCL-672
初回限定盤 CD収録曲
- ミカヅキ
- ちよこれいと-street 弾き語りver-
- 人間椅子-酸欠少女さユりボカロver-
初回限定盤 DVD収録内容
- 「ミカヅキ」MV
期間生産限定アニメ盤 CD収録曲
- ミカヅキ
- オーロラソース-street 弾き語りver-
- ミカヅキ-「乱歩奇譚 Game of Laplace」ED-intro start ver
期間生産限定アニメ盤 DVD収録内容
- 「乱歩奇譚 Game of Laplace」ノンクレジットED映像
通常盤 CD収録曲
- ミカヅキ
- ちよこれいと-酸欠remix-
さユり
福岡県出身、1996年生まれのシンガーソングライター。人とは違う感性と価値観を持つことにコンプレックスと優越感を抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分を“酸欠少女”と表現している。中学生の頃に地元でライブ活動をスタートさせ、2013年に上京。2015年3月には東京・TSUTAYA O-nestでのワンマンライブを成功に収める。同年8月にはフジテレビ系「ノイタミナ」枠のアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマ「ミカヅキ」をリリースする。
YKBX(ワイケービーエックス)
ビジュアルアーティスト。各種映像作品のディレクションや制作に加え、イラストレーションやグラフィックデザインなど活動は多岐にわたる。トータルアートディレクションを目指した 作品を数々リリースし、国内外の映画祭やイベントでも高く評価されている。初音ミク・ボーカロイドオペラ「THE END」では、全てのビジュアルディレクション・ 演出・映像ディレクターを務める。近作には安室奈美恵、GUCCI、VOGUEによるホログラムファッションショーやソチオリンピック公式オープニング映像、アニメ「GHOST IN THE SHELL ARISE」オープニング映像のディレクション、国立競技場クローズイベント「JAPAN NIGHT」の映像演出のディレクションなど。