ナタリー PowerPush - サカナクション

山口一郎「DocumentaLy」のすべてを語る

ロックは一番時代を歌えるフォーマットであるべき

──今のサカナクションなら、それができるし、やるべきだと思った?

山口一郎(Vo, G)

そうですね。僕らは自分たちをカテゴライズしないけど、外からカテゴライズされたときに僕らはロックバンドで。そのロックバンドって、一番時代を歌えるフォーマットだと思うんですよ。特に今みたいな時代は一番前に出ていくはずのフォーマットなのに、現実にはマイノリティでしかないっていう。1万枚売れたらヒットって言われてしまう。それはなんとかしなきゃと思ったし、それをほったらかしにしているロックバンドに警鐘を鳴らしたいと思った。そのためにはロックの面白さを、いろんなバンドが、いろんな形でどんどん提案していって、ひとつの発明をしなきゃダメだと思った。だから、僕らは僕らなりの提案をしようって。

──そういう意識は数年前から持っていたと思うけど、それが明確になった?

うん、それは震災の影響です。今まではエンタテインメントが仮想敵だったから。4月下旬に気仙沼と南三陸町に炊き出しに行ったんですよ。そしたら、被災したおばあちゃんが「このあいだT-BOLANが来てくれたんだよ」って話してくれて。「おばあちゃん、T-BOLAN知ってるの?」って聞いたら、「いや、知らない」って。「だけど、こんな田舎にプロのミュージシャンが来てくれるなんて震災様々だ」って笑っていて。

──そうなんだ、って思うよね。

うん。ああ、そうなんだって思った。今までは芸能人が避難所を訪れている映像をテレビで観ていても、どうせこれもパフォーマンスなんだろうなってすごく冷めた目で見てたんだけど。避難所にいる人たちからすると、そんなことはどうでもいいんですよね。来てくれたってことだけでうれしいし、シンプルに元気にもなるんだと思って。「エンタテインメントの力ってすげえ!」と思った。それは、その人たちの役割なんだって。「じゃあロックバンドの役割ってなんだろう? 何ができるんだろう?」って。見た目を売りにするわけでもなく、サウンドやメッセージで勝負する僕らは、音楽で時代を作っていく、それしかないと思ったんですよね。

東方神起を見て努力しなきゃって

──エンタテインメントとは何かを理解した上で、ロックバンドの役割を見いだすと。

そう、エンタテインメントを完全に認めたから。この前「ミュージックステーション」に出演したときに東方神起さんと一緒になったんですよ。もう、ビックリして。パフォーマンスとして完璧だし、フィジカルもすごいし。完全にエンタテインメントしていて。「ちょっと待てよ」と。自分が知ってるロックバンドって、いい加減なやつばっかりだなと思って。違うベクトルとして努力した上でエンタテインメントやポップを批判してるのか?と思ったし。

──一方通行の選民意識に溺れているだけなんじゃないか、と?

うん。僕は、東方神起さんを見て、この人たちと同じくらい努力しなきゃいけないなと思った。エンタテインメントの人たちがロックをリスペクトするくらい揺るぎない立ち位置を見つけるべきだなと思ったし。そのために時代と自分のリアルを歌う。だから、「DocumentaLy」というタイトルでアルバムを出すのもすごく自然なことで。

山口一郎(Vo, G)

──徹底的に生々しくあろうとした。

そう、徹底的にリアルに。メンバーだけじゃなくて、かかわってくれた人すべてのドキュメンタリーをちゃんとアルバムに込めたかった。そうすることでチームとしての思想が統一化されて大きなうねりが生まれると思ったし、結果が出たときにみんなで喜べるから。そこをすごく意識しました。

──必然的に歌詞の筆致も変わりますよね。

今までは技術で歌詞を書いていたところがあったと思う。でも、もっとリアルに時代のことを歌わなければいけないと思ったから。Mr.Childrenの桜井さんの恐ろしさを知りましたね。あの人が書く歌詞ってすごく普遍的で。こんな普遍的なことを外に向かって歌える勇気があるなんて、いい意味でどれだけナルシストなんだろうって思った。

──それと同時に個人的な歌としても業が深いしね。

うん。桜井さんが書くような歌詞を普遍的な音楽として大衆に届けるためには、一種の発明が必要なんだと思った。そこをちゃんと見つけないと、ダメなんだなって。そこに僕は「エンドレス」という曲で挑んだけど、まだ100点だとは思ってなくて。これがスタートだと思ってる。誰もが考えることであり、自分も考えてること。それって当たり前すぎて、なかなか気付けないんですよね。だから、自分でちゃんと答えを出して、誰にも当てはめて考えられることを書かなきゃいけないと思った。それを見つけるのにすごく時間がかかったんですよね。

YouTubeのコメント欄からヒントを得た

──「エンドレス」はどういう歌でなければいけないと思ったのか、もう少し詳しく聞かせてもらえますか。

「この時代ってどんな時代なんだろう? どんなことを考えてるんだろう? 年代を問わず意識してることってなんだろう?」ってすごく考えて、それを言葉にすることが重要だった。自分の生活の中にいろんなヒントがあったけど、それを歌詞に紡いでいくのは大変でしたね。

──結果的にそのヒントの中から、どんな情景を中心に置いたんですか?。

YouTubeがあるじゃないですか。あのコメント欄って、映像があって、その映像を観て最初に受けた感情をコメント欄に書くんじゃなくて、誰かがコメントしたものに対してのコメントで埋まっていくんですよね。つまりそれは批評じゃないんです。

──独立した感想や意見の連なりではないと。

山口一郎(Vo, G)

誰かが何かを言ったことに対して、また誰かが何かを言って、それを受けてその作品を笑う人がいて、それを悲しむ人がいる。その流れを終わらせようとするコメントをする人もいて、それをまた傍観してる人がたくさんいる。何か不思議なコミュニケーションの連鎖がそこで行われている。でも、その連鎖は、僕らの日常の中にもあるんですよね。僕らは誰かと常に接していて。そこには苦手な人も得意な人もいるし、誰かの陰口を叩く仲間もいるし、陰口を叩かれることもあるし、自分が誰かの陰口を叩くこともあるかもしれない。そうやってひっつきあいながら生きていくのって、社会の成り立ちとして当たり前なんだけど、みんなどこかで疑問を持っていると思ったんですよね。

──無意識でも。

うん。その成り立ちに終わりがあるのかと思ったら、僕はないと思った。でも、自分の中で終わらせることはできるなと思った。自分で自分を指差すことで。「自分はどうなの? 自分はどうするの?」って、自分で自分を指差す。僕はミュージシャンで、人に何かを啓蒙したりする存在ではないと思うけど、自分の考えを言うことはできるなと思ったんですよね。それを「エンドレス」の歌詞で言えたことがすごく大きかった。

──しかも技術論を排した上で。

うん。技術で解決することはできたんですよ。従来どおりの情景描写をすれば。だけど、それをやってしまった瞬間にこの曲は台無しになると思ったから。それをやり遂げるまでは絶対に妥協できないと思ったし。100点満点じゃないけど、これに続く曲をこれから何十曲も作って、自分をブラッシュアップしていけるなと思った。「エンドレス」の歌詞って実は74パターンあるんですよ。しかもフォルダを見たら、「エンドレス74 ラスト1」「ラスト2」「ラスト3」「ラスト4」まであった(笑)。

──すごいね……。でも、そこまで推敲を重ねたからこそ、こんなにシンプルに響く曲になったんだなと思う。

そうですね。シンプルにするために構成も変えたから。メロディを一部削ったりしましたからね。シングルにしなかったからこそ、それができたし。

ニューアルバム「DocumentaLy」 / 2011年9月28日発売 / Victor Entertainment

  • 初回限定盤A / CD+DVD / 3500円(税込) / VIZL-437 / Amazon.co.jpへ
  • 初回限定盤B / CD / 3000円(税込) / VICL-63785
初回限定盤A、B 収録曲
  1. RL
  2. アイデンティティ
  3. モノクロトウキョー
  4. ルーキー
  5. アンタレスと針
  6. 仮面の街
  7. 流線
  8. エンドレス
  9. DocumentaRy
  10. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
  11. years
  12. ドキュメント
  13. ホーリーダンス Like a live Mix
初回限定盤A DVD収録内容
  • DocumentaLy Documentary「エンドレス」「ドキュメント」(レコーディングドキュメンタリー映像を27min収録)
  • 通常盤 / CD / 2800円(税込) / VICL-63790
通常盤 収録曲
  1. RL
  2. アイデンティティ
  3. モノクロトウキョー
  4. ルーキー
  5. アンタレスと針
  6. 仮面の街
  7. 流線
  8. エンドレス
  9. DocumentaRy
  10. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
  11. years
  12. ドキュメント

レコチョクにて着うた(R)配信中! / iTunes Store

サカナクション(さかなくしょん)

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。その後、地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させた。