ナタリー PowerPush - ピコ

“両声類”の魅力とこだわりが詰まった待望1stアルバム「1PIKO」完成

ちゃんと女の子として歌った「二息歩行」

──「二息歩行」はDECO*27さん作曲のボーカロイドの曲で、ひとりデュエットという特殊な楽曲ですけど、これに挑戦してみたかった理由は?

どちらかというとがっつり人間味のある曲を歌うほうが得意で、こういうメロディに体温がない乾いた感じの曲って苦手なんですよ。でも、さっきも言ったように“両声類”というものをわかってもらうためには、これぐらいはっきりと男声、女声が分かれてる曲を聴いてもらったほうがいいんじゃないかと思ったんです。

──本当にびっくりするぐらい“女の子の歌い方”ですよね。

そうですね。これが今までで一番ちゃんと女の子として歌ってます。シングルで聴いてもらった女声は、高めの地声ですからね(笑)。

──「ここまでできるんだよ」って感じですね。

はい。でも、ここまでできたからなんなんだよって感じでもあるんですけどね(笑)。ただ、1曲の中で男声と女声を使い分けて歌うことで「これが同一人物なの?」ってびっくりして、ちゃんとした意味での“両声類”っていうのがわかってもらえたらうれしいなと思いますね。

恋愛の曲は妄想しながら歌ってます

──バラエティに富んだ楽曲が揃ってますが、歌ってて一番難しかったのはどれですか?

やっぱり「恋しくて」と「Sakurane -Ballad-」(ボーナストラック)ですね。「恋しくて」なんて、リズムのないピアノ1本の曲なんで、しっかり聴かせなきゃいけないし、いつもより感情表現もしっかりしなきゃいけないことに苦労しました。

──切なさを表現する感情的な部分で?

そうですね。「恋しくて」は、6月に雨が降っている空気の中でのやりとりで、今にも泣きそうっていうイメージで、歌ってるんですよ。「Sakurane -Ballad-」は、4月の春の風の中で寂しさと切なさが入り混じった感じ。その両方の区別と、思い描いている気持ちを歌のニュアンスとして出すのが大変でした。

──しかも「恋しくて」は、ストレートなラブソングですし。

これは、作曲者でもある若Gさんに歌詞も書いてもらったんですけど、びっくりするぐらいドストレートなものがあがってきて。逆に、こんなにストレートでシンプルなバラードでグッと盛り上げるのって難しいわいっ、って突っ込みたくなったほどでしたね(笑)。

──クレジットにはピコさんの名前も入っていますね。

はい。ストレート過ぎる部分に少し装飾を加えて、イメージしやすいようにしながら作りました。

──歌い手としてはラブソングは得意じゃないそうですけど。

そうですね……“去って行く君”とか、どういう姿かわかんないんです(笑)。

──去られたことがないってこと?

ないですけど、それだけじゃなく、恋愛経験が少なすぎるんですよね(笑)。だから、こういう曲を歌うときはドラマやアニメの切ないシーンを思い出したり、「あー、若Gはこう恋愛してきたんだ」って思ったり(笑)。自分に置き換えるというよりは、妄想しながら歌ってますね。

僕は何かを発信できる立場なんだ

──今回、ほとんどの曲の歌詞を手がけてますが、これを書けて良かったというのはありますか?

実は、ラストナンバーの「Shooting Star」は、震災後に書いた歌詞なんです。アルバムの最後に入れる曲だから、夢のある前向きな歌詞にしたいと思っていたんですけど、そこへ震災が起こって。当初は“夢に向かって走れ”というイメージで書こうと思ってたんだけど、たぶん被災された方々にとって、今僕が投げかけられる言葉は、そういうことじゃないんじゃないかなって思ったんです。夢を持つことは大事だし、ぜひ持ってほしいですけど、夢を持つことにすら障害が生まれてしまう現実もあると思う。でも、それを乗り越えてがんばってほしいという気持ちになって。それを応援できたらと思いましたね。

──ちょうどお誕生日が震災当日だったんですよね。そういうことに宿命を感じたりもしましたか。

そうですね。実は、それはすごく大きかったです。僕は何かを発信できる立場なんだということを、Twitterとかいろんな場面ですごく自覚したんです。5万人のフォロワーの人に向けていろんな情報を流すべきだと思ったし、それで元気づけられるなら、たくさんつぶやこうと思いましたからね。それと同じように、このアルバムも聴いてくれた人の人生になんらかの影響を与えられたらいいなと思うようになったんです。

──この歌詞を書くのは大変でしたか?

歌詞はすんなり書けたんですけど、逆にどういうテンションで歌えばいいのかを悩みましたね。アルバムの最後に欲しかった“夢”や“温かさ”と、今の現実の“冷たさ”“寂しさ”というのを両方入れたくて。Aメロは悲しく、Bメロになって夢を持つ歌い方というか、ちょっと強さを出して、サビではあえて優しさを出して……って、いろいろ言っちゃいましたけど、最後は「伝われ!」という気持ちを込めて歌いました。

──そんな渾身の一作。やっと聴いてもらえますね。

発売直前は「スベってないよね?」って不安になっちゃいましたけどね(笑)。でも、がんばって作ったから絶対に大丈夫だと思ってます。

ニューアルバム「1PIKO」 / 2011年5月11日発売 / Ki/oon Records / 初回限定盤[CD+DVD] / 3500円(税込)/ KSCL-1764~1765

  • 特典マウスパッド付き / Amazon.co.jpへ
  • 特典マウスパッドなし / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 3000円(税込) / KSCL-1766 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. Rebirth
  2. 桜音
  3. main dish
  4. 勿忘草
  5. 恋しくて
  6. ピコピコ☆レジェンドオブザナイト
  7. 二息歩行
  8. Rollin' Merry Go Round
  9. Story
  10. 孤独の冠
  11. Shooting Star
  12. Sakurane -Ballad- (BONUS TRACK.)
DVD収録曲
  1. Story [Music Video]
  2. 勿忘草 [Music Video]
  3. 桜音 [Music Video]
  4. ぴこさんぽ ~ヨーロッパ編~
ピコ

2007年12月より自分の歌を動画投稿サイト「ニコニコ動画」に投稿。その特徴的な歌声から「両声類」と呼ばれ、多数のファンを獲得する。2009年7月にインディーズより1stシングル「タナトス feat.ティッシュ姫」をリリースし、2010年3月にはSHIBUYA-AXにてワンマンライブを実施。2010年10月にシングル「Story」でキューンレコードよりメジャーデビューを果たす。同時期にはヨーロッパ各地で開催されたアニメと音楽のコラボイベント「Japan Anime Live」に出演し、海外でも大きな注目を集めた。2010年12月には彼の歌声をサンプリングしたボーカロイドソフト「歌手音ピコ(うたたねぴこ)」も発売されるなど、幅広いフィールドで活躍を続けている。