ナタリー PowerPush - 大友良英

あまちゃんバンドの進化

昨年12月に東京・NHKホールで開催された大友良英&あまちゃんスペシャルビッグバンドによるライブ作品「あまちゃんLIVE~あまちゃん スペシャルビッグバンド コンサート in NHKホール~」がDVD、Blu-ray、CDの3形態で発売された。これを記念してナタリーでは、大友にインタビューを実施。ライブ作品についてはもちろん、「第64回NHK紅白歌合戦」出演のことや、今後の展望などを聞いた。

取材・文 / 加藤一陽 撮影 / 佐藤類

「潮騒のメモリー」紅白バージョン

──大友さんに「あまちゃん」の話を聞いてくる人、まだけっこういますか?

大友良英

うん、いますよ。みんな遠慮しながらって感じだけど。あと「紅白観てました」って言われたり。当分“あまちゃんの大友”って印象は抜けないみたい。自分から言う気はないんですけどね。

──大友さんは紅白でも大活躍でしたね。もう3カ月も前の話になってしまいますけど。

オープニングの曲も作ったしね。「あまちゃん」の曲と、昭和の頃の紅白の曲を合体させた感じの曲。

──「あまちゃん」コーナーもドラマの最終回みたいな感じでした。

ね。しかもドラマと同じできっちり15分っていう。

──僕も「あまちゃん」コーナーの演出には見事なまでにだまされたというか。

やったあ(笑)。みんな北三陸にいるんじゃないかっていうあの演出、あれはだまされますよね。

──紅白の準備はいつから始めていたんですか?

前回のインタビュー(参照:大友良英インタビュー)のときには、すでに始まっていましたね。宮藤官九郎さんの脚本が12月の中旬くらいに上がってきて。

──そうだったんですね。

リハーサルも準備もけっこうやりましたよ。「暦の上ではディセンバー」ってもともとは打ち込みの曲なんで、「そういえば生で演奏したことがない」ってことに気付いて(笑)。それで急遽新宿PIT INNの年末のライブのときに演奏して肩慣らししたり。そうやって着々と紅白に向けて準備していたんだけど、やっぱりああいう内容だから誰にも言えなくて。

──紅白では、まさか「潮騒のメモリー」を3バージョンも聴けるとは思っていませんでした。あれって、それぞれ紅白用のアレンジなんですか?

うん。小泉(今日子)さんの歌ったバージョンはオリジナルにはない管楽器を入れていて。昔のテレビショーってビッグバンドが入っていたから、どんな楽曲も管楽器バージョンになるんですよ。その感じを意識したんです。

──へえ。

あとはコーラスパートも、オリジナルを録音したときに急遽結成したサンズリバーズってコーラスグループに1年ぶりに来てもらって、生で歌ってもらいました。薬師丸(ひろ子)さんのバージョンでは堀米綾さんのハープや、金原千恵子さんのストリングスユニットを入れて。あとの演奏は、あまちゃんバンドのメンバーです。

歴史に残るバラエティショーだった

──ともあれ放送を観ていて、大友さんが紅白を楽しんでいるのはすごく伝わってきました。

もう、思いっきり楽しみました。あまちゃんバンドのメンバーも楽しかったんじゃないかな? 俺らもずっとドラマの制作陣と併走して一緒にやってきたつもりだけど、実際にキャストやスタッフのみんなと同じステージに集まるのって紅白が最初で最後だったから。そんなこともあって、紅白は本当に楽しかったです……って言っていいのか悪いのか、アバンギャルディスト大友としては(笑)。

──いいんじゃないでしょうか(笑)。

いやいや、正直本当に楽しかったです。Perfumeも観れたし、「AKBも観れる!」とか「北島三郎だ!」とか思いながら(笑)。まあ紅白は国民的なお祭りだし、その中でも「あまちゃん」のコーナーが1つのピークになれたのがうれしかったな。

──そうだったと思います。

とても大きかったのは、バラエティショーがやれたってことなんですね。昔のテレビ番組みたいに、生演奏でお芝居をやったりして。俺らは子供の頃「シャボン玉ホリデー」とかザ・ドリフターズとかそういう生のバラエティショーを観て育ったわけだけど、自分が音楽の世界に入ったらそういうものが絶滅していて。だからそういうものが自分たちでできたっていうことが、感慨深くて。しかも視聴率が50%もいっていたっていうのも驚きでした。もしかして、歴史に残るバラエティショーをやれたのかもって。

大友良英

──とても面白かったです。

ああいうの、毎週やってもいいなあ。実際やったら大変だけど(笑)。昔はああいうことを毎日のようにいろんな局でやっていたわけでしょ。そりゃあ音楽家も鍛えられるよなあって思う。歌も生だしね。そういう時代と今では、歌の意味合いもショーの意味合いも違うなあって……紅白の前後では、そんなことを考えてました。

──なるほど。

それもあって、オープニングで俺が着ていた衣装ってクレージーキャッツが紅白に出たときの衣装だったんです。NHKがドリフっぽい衣装も用意してくれるってことだったんですけど、なんといっても俺が子供の頃憧れていたのはクレージーキャッツだったんで。でもまあ、紅白はなんか親孝行もできたかなって。親戚孝行のピークでもあったかな(笑)。

本当に「あまちゃん」は今回で最後

──あれから3カ月経って、「あまちゃん」関連の仕事は落ち着いた感じですか?

はい。去年手が付けられなかったことを「『あまちゃん』や紅白終わったら暇になるかな」って思いっきり今年に回していたんで、忙しさは変わらないです。今はNHKで4月から始まるドラマ「ロング・グッドバイ」のサントラの制作にも入っているし、ほかの案件の打ち合わせなどもいろいろ始まっています。「あまちゃん」をやっている最中は「俺、干されたかな?」ってくらいオファーが来なかったのに、「あまちゃん」を観て俺を知ってくれたのか、またいろいろと仕事の話が来るようになって(笑)。

──忙しいのがわかっているから、遠慮して声をかけなかったんだと思いますよ(笑)。そんな中リリースされた今回のライブ作品の話なんですけど。ちなみに今作であまちゃん関連の作品は最後になるんですか?

うん。一応そのつもり。「あまちゃん2」がない限りはね。レコード会社ではリミックス作品を出そうとかそういうアイデアもあったみたいだけど。「あまクラブ」とか名前付けて(笑)。

──よさそうですね(笑)。

いやいや、やりすぎだよ(笑)。あと俺の中ではまだ出していない音源が100ファイルくらいあるから、「お蔵出し」みたいなものはありかなとかも思ってました。その中にはいいテイクもあるし、本当にダメなテイクもあるんだけど……ダメなテイクも面白いんですよ、あー、聴かせたいなあ(笑)。でも本当に「あまちゃん」は今回で最後です。これで打ち止め。

大友良英

──そうなんですね。ところで大友さんは、今回のDVDやBlu-rayはもう観ていますか?

試写会で観たんだけど、そしたらね、ヤバい(笑)。自分の中で「あまちゃん」はひと区切り付けたつもりでいたんだけど、これ観てたらいろいろ楽しい記憶が蘇っちゃって。まあ楽しかったね。なんのひねりもなく楽しいという感じ。

──僕はNHKホールでライブも観ているんですけど、当日の大友さんの楽しそうな様子がそのまま収められているような感じで。

俺も夢中で観ちゃいましたもん。終わったらジーンとしちゃって。普段は自分の映像なんて観たくないから早送りとかしちゃうんだけど、今回は不覚にも、いいなって思いました(笑)。自分で言うのもなんですが、すごくいいです。あまちゃんバンドのメンバーもみんな楽しんでいたみたいだし。

ライブDVD / Blu-ray / CD 「あまちゃんLIVE~あまちゃん スペシャルビッグバンド コンサート in NHKホール~」 2014年3月5日発売 / Victor Entertainment
DVD 2枚組 / 4410円 / VIBL-693~4
Blu-ray Disc / 5250円 / VIXL-123
CD 2枚組 / 2940円 / VICL-75003~4
配信(iTunes Store)
配信(レコチョク)
収録内容
第1部
  1. あまちゃん オープニングテーマ
  2. 行動のマーチ
  3. あまちゃんクレッツマー
  4. あまちゃんワルツ
  5. 琥珀色のブルース
  6. 地味で変で微妙
  7. 銀幕のスター
  8. 芸能界
  9. ミズタク物語
  10. アイドル狂想曲
第2部
  1. トンネル~大地
  2. 友情と軋轢
  3. 奈落のデキシー
  4. 上野アメ横1984
  5. アキのテーマ
  6. 地元に帰ろう
  7. TIME
  8. 希求
  9. 灯台
アンコール
  1. 潮騒のメモリー
  2. あまちゃん オープニングテーマ

※CDにはコンサート中のMCは収録されません。

大友良英(おおともよしひで)
大友良英

1959年、神奈川県生まれ福島県育ちの音楽家。主な演奏楽器はギター、ターンテーブル。1990年にGROUND-ZEROを結成後、国内外で作品をリリースやライブを行う。GROUND ZERO解散後はフリージャズやノイズミュージックのフィールドで活動を続ける傍ら、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENなどさまざまな音楽プロジェクトへ参加する。加えてカヒミ・カリィの2010年のアルバム「It's Here!」でプロデュースを担当するなど、膨大な数の音楽作品に携わる。

劇伴制作にも定評があり、「青い凧」(1993年)や「アイデン&ティティ」(2003年)、「色即ぜねれいしょん」(2009年)といった映画、「クライマーズ・ハイ」(2005年)や「その街のこども」(2010年)、「とんび」(2012年)といったドラマのヒット作で手腕を振るう。さらに現代美術やメディアアートの分野でも評価が高く、音響機器を利用した展示作品「without records」「ensembles」などの展示を国内外で開催している。2011年には東日本大震災を受けて、自身が10代を過ごした福島県で「プロジェクト FUKUSHIMA!」を展開。野外音楽イベント「フェスティバル FUKUSHIMA!」の開催をはじめとした一連の活動が評価され、2012年度の「芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門」を受賞し話題を集めた。

2013年には、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当。ドラマのヒットとともにその劇伴にも注目が集まり、サントラや劇中歌などが次々とCD化された。また「あまちゃん」のオープニングテーマと劇中歌である「潮騒のメモリー」の2曲で「第55回 輝く!日本レコード大賞」の作曲賞をSachiko Mとともに受賞。「第64回NHK紅白歌合戦」にも出演した。さらに劇伴を実際にライブで披露する「あまちゃんスペシャルビッグバンド」を結成し全国ツアーも行い、2014年3月にはこのツアーファイナルの模様を収めたDVD、Blu-ray、CDを発売した。

主な著書は「MUSICS」「大友良英のJAMJAM日記」「シャッター商店街と線量計 -大友良英のノイズ原論-」。