ナタリー PowerPush - 大友良英

あまちゃんバンドの進化

この演奏が集大成

──僕はDVDもBlu-rayも観たんですけど、個人的にはBlu-rayのほうが好きな感じというか、楽しめました。

ああ、そう。そんなに違った? 音や映像のクオリティのことかな。Blu-rayしか観てないからわからないや。

──意識しないで観ていたんですけど、Blu-rayの音声が24bit / 96kHzで収録されているらしくて、それも理由かもしれません。

ちなみに俺のBlu-ray作品って今回が初めてなんです。自分がサントラやったドラマがBlu-ray化したことはあったけど、自分の作品としてはDVDでしか出してなくて。

──そうなんですね。

うん。でも本当に収録しておいてよかったって思います。もう二度とこのテンションで、こういう演奏はできないですから。最初ビクターから「ライブ映像作品を出しませんか?」って話がきたときは、「こんなに『あまちゃん』関連作品出して大丈夫?」とも思ったんだけどね。

──「あまちゃん」関連タイトルが相当リリースされましたからね、しかも1年で(笑)。

大友良英

サントラ盤に入っている曲って最初に録音したときのものなんだけど、今回のライブ作品に収められている演奏は、そのサントラに入っている曲をライブで何度も何度も繰り返し演奏して、発展させていった形なんですよ。しかも、ドラマをみんなとともに観終えた人間たちが演奏しているわけで、その点で演奏者側にも集大成的な意味もあります。「これで本当に終われる」って。

──ライブをやるたびに、演奏が洗練されていったんですね。

洗練だけじゃなく、いい意味で壊れていってる。このライブがあった12月って、演奏者がみんなコンサートで「あまちゃん」にどっぷり浸かっていたときなんです。だからその中で演奏したものならではの音っていうか、やっぱりもう同じ演奏はできないっていうのも大きいなあ。

──なるほど。

例えば「あまちゃん」の能年(玲奈)ちゃんがあの時期にはアキちゃんでしかないような感じというか……ちょっとこの例えはアキちゃんファンに怒られてしまうかもしれませんけど。でもそんな気分なんです。俺らもそれから成長しているし……俺らは成長じゃなく老化かな(笑)。まあ、あのときだからこその演奏が残せてよかったって本当に思っています。

あのメンバーでの活動は続けていく

──「トンネル~大地」演奏時の大友さんが、あまちゃんバンドを離れて普段の大友さんの顔つきになるようなところも、ライブ当日に観たままという印象でした。

「トンネル~大地」にしても「海」にしても、やっぱりサントラのレコーディングのときより格段に進化していて。そういう部分でも、あのメンバーで音楽をやっていくってことに可能性を感じているんですよね。だから「あまちゃん」という冠は外しても、あのメンバーでの活動は続けようと思っているんです。

──「あまちゃん」というテーマを外して大友さんが別のテーマを設けたときに、あのバンドがどんな音を出していくのかっていうのは興味深いですね。

今2つ考えていることがあって。1つは「あまちゃん」のプロジェクトで演奏したことを、より進めていくってこと。「あまちゃん」の曲もやるけど、「あまちゃん」のプロジェクトを通して生まれたものがどう変化していくのか興味があって……Gil Evans Orchestraとか、カーラー・ブレイとかがやっていたような、集団で音楽をやっていくような感じ。それをアメリカのジャズ風ではなく、自分たちのリアリティでやっていく感じかな。

──本当に“ビッグバンド”的な。

うん。もう1つは前回のインタビューでも話したけど、盆踊りです。このバンドを核に、歌手も入れて盆踊りをやる。だからライブハウスでやるようなプロジェクトと、盆踊りという祭りの場でやるダンスミュージックっていう2つの軸があって。どっちもこのバンドを核にやっていきたいなって。

あまちゃんバンドならではの音

──大友さんがこれまで立ち上げてきたバンド的なプロジェクトは、メンバー構成が流動的な印象があります。あまちゃんバンドの面々で新たに始めるプロジェクトも、そういったものになるんですか?

確かにGROUND-ZEROも大友良英ニュー・ジャズ・クインテットも、いつも構成が変わっていましたよね。いやあ、俺ね、気を付けないと人が増えるんです。大人数で何かやるってすごく面白くて(笑)。でも今って、大人数だと活動しにくいじゃいない? 予算の問題もあるから比較的小ぶりなバンドで活動する人たちが多くて。

──確かに、人が多いとハコも選ばなければいけなくなるし。

ね。だからかつてはデューク・エリントンとかを筆頭にビッグバンドが主流の時代もあったけど、今の時代でこの人数のバンドを維持できているってすごいことだとも思っていて。それができているのはもちろん「あまちゃん」のおかげだし、しかも紅白まで出させていただいて。だから、それを今の形で、このメンバーで続けていけたらいいなって思っています。あまちゃんバンドは幸いメンバーも若いから、今後どういうふうにでも変わっていけると思うし。

──楽しみですね。

ビッグバンドは演奏者が主役だけど、盆踊りは踊っている人が主役だから、演奏者は祭りのいち要素になるっていう違いもあるしね。

──皆さん演奏がうまいから、どちらも難なく対応できそうです。

うん。でもうまいんだけど、ジャズのミュージシャンみたいなグルーヴ感を持って、アドリブをばんばん演奏して……みたいなタイプの人はほとんどいないんですよ。だから俺が今まで一緒にやってきたみたいなプレイヤーとは全然タイプが違うんです。

大友良英

──それって、もともと皆さんがクラシック出身だったりするからなんですか? クラシック畑で育つとジャズのノリが理解できなくなるって話をよく聞きますけど。

確かにそういう部分があるけど、そもそもジャズのノリができればいいってもんでもないし、俺だってジャズのノリができるわけじゃないからね。とはいえクラシック出身の人が多いバンドっていうのも、俺にとっては初めての経験で、すごく面白いです。しかも彼らはかつてのクラシックの人のような感じでは全然なくて、もっと自由な感じで。芳垣(安洋 / Dr)を除くとジャズのグルーヴ感を出せる人がいないけど、無理してジャズ風に演奏する必要も全然ない。自分たち流のノリのようなものが出さればいいわけだから、だからこそ「あまちゃん」の劇伴は、このメンバーならではの音になったんです。

──なるほど。

今回のライブ作品に入っている曲で言うと、「トンネル~大地」や「海」のような曲はこのバンドじゃなきゃできない音楽で。どちらもアドリブやソロを演奏する感じの面白さじゃなくて、バンド全体でサウンドを響かせることから独特の魅力が生まれているんです。こういった楽曲をやる場合は、彼らが演奏すると特によさが出るというか、独特の音響で、誰にも似ていない演奏になってすごくいいなって思います。音のコントロールが絶妙なんですよ。

──へえ。

だからさっきビッグバンドって言いましたけど、ジャズのビッグバンドってアンサンブルと個人プレイの対比が魅力だけど、このバンドはアンサンブルの面白さ、響かせ方の妙で押していくような感じだから、これまでのビッグバンドとは違ったものになるんじゃないかな。

ライブDVD / Blu-ray / CD 「あまちゃんLIVE~あまちゃん スペシャルビッグバンド コンサート in NHKホール~」 2014年3月5日発売 / Victor Entertainment
DVD 2枚組 / 4410円 / VIBL-693~4
Blu-ray Disc / 5250円 / VIXL-123
CD 2枚組 / 2940円 / VICL-75003~4
配信(iTunes Store)
配信(レコチョク)
収録内容
第1部
  1. あまちゃん オープニングテーマ
  2. 行動のマーチ
  3. あまちゃんクレッツマー
  4. あまちゃんワルツ
  5. 琥珀色のブルース
  6. 地味で変で微妙
  7. 銀幕のスター
  8. 芸能界
  9. ミズタク物語
  10. アイドル狂想曲
第2部
  1. トンネル~大地
  2. 友情と軋轢
  3. 奈落のデキシー
  4. 上野アメ横1984
  5. アキのテーマ
  6. 地元に帰ろう
  7. TIME
  8. 希求
  9. 灯台
アンコール
  1. 潮騒のメモリー
  2. あまちゃん オープニングテーマ

※CDにはコンサート中のMCは収録されません。

大友良英(おおともよしひで)
大友良英

1959年、神奈川県生まれ福島県育ちの音楽家。主な演奏楽器はギター、ターンテーブル。1990年にGROUND-ZEROを結成後、国内外で作品をリリースやライブを行う。GROUND ZERO解散後はフリージャズやノイズミュージックのフィールドで活動を続ける傍ら、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENなどさまざまな音楽プロジェクトへ参加する。加えてカヒミ・カリィの2010年のアルバム「It's Here!」でプロデュースを担当するなど、膨大な数の音楽作品に携わる。

劇伴制作にも定評があり、「青い凧」(1993年)や「アイデン&ティティ」(2003年)、「色即ぜねれいしょん」(2009年)といった映画、「クライマーズ・ハイ」(2005年)や「その街のこども」(2010年)、「とんび」(2012年)といったドラマのヒット作で手腕を振るう。さらに現代美術やメディアアートの分野でも評価が高く、音響機器を利用した展示作品「without records」「ensembles」などの展示を国内外で開催している。2011年には東日本大震災を受けて、自身が10代を過ごした福島県で「プロジェクト FUKUSHIMA!」を展開。野外音楽イベント「フェスティバル FUKUSHIMA!」の開催をはじめとした一連の活動が評価され、2012年度の「芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門」を受賞し話題を集めた。

2013年には、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当。ドラマのヒットとともにその劇伴にも注目が集まり、サントラや劇中歌などが次々とCD化された。また「あまちゃん」のオープニングテーマと劇中歌である「潮騒のメモリー」の2曲で「第55回 輝く!日本レコード大賞」の作曲賞をSachiko Mとともに受賞。「第64回NHK紅白歌合戦」にも出演した。さらに劇伴を実際にライブで披露する「あまちゃんスペシャルビッグバンド」を結成し全国ツアーも行い、2014年3月にはこのツアーファイナルの模様を収めたDVD、Blu-ray、CDを発売した。

主な著書は「MUSICS」「大友良英のJAMJAM日記」「シャッター商店街と線量計 -大友良英のノイズ原論-」。