芦田菜名子(Vo)と音楽プロデューサーのRYUJAによる音楽プロジェクト・7coの新曲「0.0000%」「恋愛後遺症」が配信リリースされた。
7coは2022年3月に1stシングル「APPLE PIE」をリリースして以降、Spotifyの「RADAR: Early Noise」「Tokyo Rising」やApple Musicの「ブレイキング:J-Pop」など数々のプレイリストに選曲され、ヒップホップやR&Bをベースとしたトラックにポップスを融合させたサウンドと、共感性の高い歌詞で注目されている。この特集では「0.0000%」「恋愛後遺症」を含む既発曲をおさらいしながら、7coの持つ魅力に迫る。
文 / 真貝聡
写真は同じ時間・場所で撮られたものでも、どんな画角でカメラのシャッターを押すのかによって、その風景や被写体が違って見える。そして日常をどのように写し出すかという点において、写真はポピュラーミュージックとよく似ている。中でもアーティストによってその違いが顕著に表れるのがラブソングだと思う。例えば1組の男女が駅の改札で手を振っている瞬間を楽曲にしたとして、アーティストそれぞれの視点によって、それが甘酸っぱくも切なくも感じられる。7coの楽曲はラブソングの切り取り方が抜群に上手で、描き出す情景の解像度が高く、主人公にも感情移入しやすい。
2022年にリリースされた1stシングル「APPLE PIE」は、浮気をした恋人に仕返しをしたい気持ちを表現した失恋ソングだ。好きな人に裏切られて落ち込むラブソングは数あれど、「A・P・P・L・E More アップルパイ / 君の顔面めがけて投げたい / ブランドシャツ汚れちゃった?」と復讐する描写は実に斬新で、聴いていてスカッとした気持ちになる。2023年にリリースされた3rdシングル「SORRY」は“憎いけれど愛してはほしい”という、複雑な女性の心を見事に表現している。2023年リリースの9thシングル「TOMATO」は、“たぶんトマトが嫌いだった”元カレからのアプローチを撃退する、強気でかわいい女の子の歌。7coの楽曲はどれも物語性が高く、思わずその世界観に惹き込まれてしまうのだ。
また、歌詞は誰もが経験している“あるある”というよりも、“こうだったらいいのに”を表出しているように思う。例えば、今年2月にリリースされた「0.0000%」。“アタシ”の彼はいつもバイト先の女の子とイチャイチャし、“アタシ”が風邪を引いたときには気にせず飲みに出かけてしまう。そういった態度に不信感と怒りを募らせた結果、“アタシ”は別れることを決意する。すると彼は必死に謝るのだが、時すでに遅し。サビで「先輩、話しかけないで / ヘンタイ、ヨリ戻すのは女神のようなこのアタシでも / 0.0000%」と完全拒否をするのだ。さらにその拒絶を表すフレーズが切れ味が鋭い。「あぁあごめんごめん / そんなに泣かせるつもりじゃなくって。 / あっハナセレブあげるからさ / その代わりに別れてくんない?」と破局の決定打を打つのである。自分のことを雑に扱ってきた相手の心にドスンと重い鉄槌を下すことができたら、どれほど気持ちがいいだろう。そんな“こうだったらいいのに”をさまざまな角度から形にしているところが、大きな魅力ではないだろうか。
そんな7coは、芦田菜名子(Vo)と音楽プロデューサーのRYUJAによる音楽プロジェクトだ。芦田は3歳からバイオリンを始めて、中学1年生のときには作詞作曲をするようになる。2018年にSTARBASE x TWINPLANET主催のオーディションでグランプリを受賞し、本格的に音楽活動をスタートさせ、映画「HiGH&LOW THE WORST X(クロス)」劇中歌のTHE RAMPAGE・RIKU「Stand by you」、にじさんじ所属の▽▲TRiNITY▲▽による「XOXO」、東海オンエアのメンバーによるユニット・リサイタルズの「Choiced 漢 Soul」、RPG「メメントモリ」に収録された+α/あるふぁきゅん。の「Dokie Doggy Night」など、ジャンルレスに楽曲を提供している。
RYUJAは1999年に音楽プロデューサーとしてキャリアをスタート。これまでに安室奈美恵、w-inds.、AK-69、加藤ミリヤ、Crystal Kay、ちゃんみな、BTS、NiziUなど人気アーティストの楽曲を手がけてきた。そんな2人は2022年に7coとしての活動を開始し、先述した歌詞に加えて、ヒップホップやR&Bをベースとしたトラックにポップスを融合させたサウンドで注目を浴びている。
彼らの楽曲はSpotifyの「RADAR: Early Noise」「Tokyo Rising」やApple Musicの「ブレイキング:J-Pop」など数々のプレイリストに選曲されており、実らない恋に終止符を打てず、信号が“Yellow”なのに進みつづけてしまう快速ラブソング「Yellow.」、爽快なビートとキャッチーなフレーズが印象的な「lonely night」、優しいメロディラインと鈴の音のようなボーカルが混じり合う「Late summer waves」など、リリースする毎にバイラルヒットを生み出している。
ここで7coの最新曲を紹介しよう。3月7日に配信リリースされた「恋愛後遺症」はTikTokの“踊ってみた”動画で話題となり、急遽リリースされることとなった楽曲だ。心が離れてしまった恋人を忘れるために、ただ淡々と日常生活を送る心情が表現されている。別れても消えることがないであろう恋人への思いを「恋愛後遺症」と表現するセンスも素晴らしい。曲を聴いて印象的だったのは、言葉遊びの上手さだ。「ねぇ君はさ 明日になったら / 全部忘れてしまうのだろうか」から「ねぇ君はさ 冷蔵庫のキンピラ / 腐らせて捨てちゃうんだろな」と2人の思い出を冷蔵庫に例えたうえで「タバコやめたのあの娘のためでしょ / ごめん、ありがとう。 / 最後までの嘘タッパーに詰め込んだ」と着地する一連の言葉運びは見事。また「悲しい」や「寂しい」という直接的な言葉を使わずに、比喩表現を盛り込みながらもはっきりとブルージーさ伝えているのも特徴だ。
それでいてサウンドはバラード調ではなく、あえて心地いいクラップとドリーミーなサウンドを重ねているのも面白い。音でわかりやすい起伏を作らないことによって、聴き手が主人公の心情を想像できるように余白を与える狙いがあるのかもしれない。音と歌詞の絶妙なバランスが光っているからこそ、“踊ってみた”動画も広まっているのだろう。
また、7coはTikTokとSpotifyが共同でアーティストを応援するプログラム「Buzz Tracker」2025年3月度(第36弾)のMonthly Artistに決定。TikTokではショートムービーや楽曲ページを通じてアーティストの魅力が掘り下げられ、Spotifyでは「Buzz Tracker」をはじめとするさまざまなプレイリストを通してユーザーに楽曲が届けられる。
個人的には7coの音楽は映像が見えるからこそ、ドラマ仕立てのMVも見てみたくなる。2人はどんな楽曲を発表してくれるのか、これからの活動に注目したい。
プロフィール
7co(ナナコ)
芦田菜名子(Vo)と音楽プロデューサーのRYUJAによる音楽プロジェクト。2022年3月に1stシングル「APPLE PIE」をリリースし、ヒップホップやR&Bをベースとしたトラックにポップスを融合させたサウンドと、共感性の高い歌詞で注目されている。2025年2、3月に新曲「0.0000%」「恋愛後遺症」を連続配信した。