ナタリー PowerPush - おとぎ話

曽我部恵一と「HOKORI」を語る

おとぎ話から、通算4枚目となるアルバム「HOKORI」が到着した。これは前作「FAIRYTAIL」のレコーディング中にどんどん生まれ続ける新曲を形にすべく制作された意欲作。当時の所属レーベルとは無関係にバンドが自費でスタジオを押さえ、2日間で録音したというDIY精神に満ちた1枚だ。

もとはリリースのあてもなく突発的に制作されたアルバムだったが、これを耳にした曽我部恵一が興味を持ち、自身のレーベル「ROSE RECORDS」からのリリースを即決。この傑作が晴れて我々の手に届くこととなった。

今回ナタリーでは、おとぎ話のメンバー4人と曽我部恵一の対話を企画。バンドの現状から音楽シーンのあり方まで多岐にわたって展開する全音楽ファン必読の内容を、じっくりと読み解いてもらいたい。

取材・文/大山卓也 撮影/中西求

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ライブ会場で手売りすればいいかなって思ってた

インタビュー風景

──まずはおとぎ話のニューアルバムをROSE RECORDSからリリースすることになった経緯から訊かせてもらえますか?

有馬和樹(Vo,G) 僕たちUKプロジェクトってとこから今までアルバム3枚出してきたんですけど、その中で自分たちの曲作りのペースと、レーベルとしてレコード出そうってペースにズレが生じてきたっていう単純な話があって。おとぎ話ってもともとものすごく多作で、曲をどんどん録音してアルバム出したいっていう欲がすごいんですよ。で、3枚アルバム作って、その欲とレーベルのペースとの折り合いが全然つかなくなって。自分たちがどんどん先に進んでるのに、思うような活動ができないってのに鬱屈を感じるようになっちゃって。

──バンドとレーベル間のスピード感の違い?

有馬 そうですね。それがたぶん一番でかかったと思います。スピード感っていうか、自分たち4人でやれることがもっと欲しいっていうか、仕事が欲しいっていうか。音楽をこの国で根付かせるための努力をもっと4人でしたいんだけど、それができなくてフラストレーションが溜まってたっていうか。

──もっと精力的に活動したいのにできなかったということですよね。

有馬 で、どうしようかなって考えて、とにかくレコーディングをしたいねって話になったんだよね。

風間洋隆(B) うん、もう自分たちでやればいいじゃんって話をして、完全自費でレコーディングしたんです。

有馬 2日間で11曲をダーッと全部録り終えて、まずはそれを「この人に聴いてもらいたい」と思う人に渡そうって。4人でその話をしたときに、実は一番初めに頭に浮かんだのが曽我部さんだったんです。どこからリリースするとか何も考えずにただ聴いてもらいたいっていうので一番最初に渡したんですね。

──じゃあその時点ではリリースの予定はなかった?

風間 まったく考えてなかったです。とにかくレコーディングしたい、作った以上は人に聴かせたい。で、曽我部さん始めいろんな人に聴いてもらって。それで満足だったんですよね。別に流通に乗っけるつもりもなくて、ライブ会場とかで手売りすればいいかなってぐらいに思ってた。

牛尾健太(G) そしたら曽我部さんがROSE RECORDSから出しませんか?って言ってくれたんです。

アメリカのインディバンドみたいな自由さを感じる

──曽我部さんは最初にこのアルバムを聴いたときどう感じました?

曽我部恵一 いや、いいなと思ったよ。俺、今までのやつも全部聴いてきたんだけど、今回のはね、アメリカのインディバンドみたいな音っていうか、自由さがあってすごくいいのよ。J-POPのバンドのアルバムってさ、FMヒットを狙った曲ってのが2、3曲入ってるじゃない? 俺、それがなんかイヤなのね。そういうのを狙うのはそういう人たちがやればいいと思ってて、ロックバンドはもっと自由にやるほうがいいと思う。そういう感じが今のアメリカのインディシーンにはすごくあるんだよね。

有馬 ありますよね。

曽我部 みんな例えばLADY GAGAとかと競争しようってつもりで作ってないわけ。自由にやってんなこいつら、っていう空気があって。今回のおとぎ話も独自の息づかいがあって、匂いがあってっていう音楽。おとぎ話っていうバンドの本質が初めてモロに出たんじゃないかな。だから「この曲のこのサビがすげえいいよね」っていうアルバムではないんだけど、「なんかいいよね。聴いちゃうよね」って感じのアルバムだと思う。そういうのってあんまりないんだよ。

──曽我部さんは音を聴いて「これをROSEから出したい」ってすぐに思えたんですか?

曽我部 そうだね。「じゃあ出そう」って、すぐに。

──なんだかすごく簡単ですね。

曽我部 まあね、もともと簡単なことだからね。これが例えば何万枚売ろうとかって計画するならすごく大変なことになるけど、そういうことを考えなければ自由にポンポン出せるから。

──ミックスも曽我部さんがやったんですよね。

曽我部 聴いてみて、これはもっとバンド感をわかりやすく出したほうがいいんじゃないかなと思って、俺から「ミックスさせて」って言ったの。

インタビュー風景

有馬 なんかね、曽我部さんにミックスしてもらった音源が、まさにおとぎ話のバンド感を抽出してくれてて。おとぎ話って4人ともものすごく"バンド愛"を持ってるバンドだから、ぶっちゃけた話自分たちの音に対する批評性はあんまりないんですよ。だからそこをミックスで引き出してくれたのがまた新しい発見で、これからROSE RECORDSと曽我部さんと仕事をしていく上で指針になる核の部分がここでできたのかなって。

──ミックスは具体的にどこに気をつけました?

曽我部 最初は普通のミックスをしようとしてたんだけど、途中で煮詰まっちゃって。で、有馬と1回飲んでるときに、ブラジルのOS MUTANTESってバンドの話になったの。変なサイケのバンド。

有馬 ブラジルのTHE BEATLESみたいな。間違った解釈だな(笑)。

曽我部 そういう、THE BEATLESのサイケ感みたいのを勘違いしたバンドがいるんだけど、それが好きだっていうのを言ってて「あっ、なるほどな」と思って。もっと遊んでぐちゃぐちゃでいいんだなと思って、もう自由にやろうと思って全部やり直したんだよね。

──結果ガレージ感の強いミックスになりましたよね。

曽我部 そうだね。ガシャガシャしてる。日本のロックってもっとキレイだし、かっちり枠の中にまとまってるじゃん。これはそうじゃないものにしようと思って。

ニューアルバム「HOKORI」 / 2010年11月11日発売 / 2100円(税込) / ROSE Records / ROSE-111

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CD収録曲
  1. GANG STYLE NO.1
  2. 遺伝子
  3. ANIMAL
  4. 科学くん
  5. フランス
  6. 輝き
  7. カンフー
  8. MOTHER
  9. シンデレラ
  10. STAR SHIP
  11. weekend
おとぎ話(おとぎばなし)

アーティスト写真

有馬和樹(Vo,G)、風間洋隆(B)、牛尾健太(G)、前越啓輔(Dr)から成る4人組ロックバンド。2000年に結成し、2005年に現在の編成に。同年銀杏BOYZの対バンに抜擢され、2006年にはツアーのフロントアクトを務めて注目を浴びた。2007年9月に1stアルバム「SALE!」を発表。その後も2ndアルバム「理由なき反抗」、3rdアルバム「FAIRYTALE」と3枚のアルバムをUKプロジェクトからリリース。その後、曽我部恵一が主宰するROSE RECORDSとタッグを組み、メンバー自ら制作を手がけた4thアルバム「HOKORI」を2010年11月に発表。

曽我部恵一(そかべけいいち)

アーティスト写真

1971年生まれの男性シンガーソングライター。2000年のバンド解散まで、サニーデイ・サービスのボーカルとして活躍する。2001年からはソロアーティストとして活動を開始。シングル「ギター」でソロデビューを果たす。サニーデイ時代にも通ずるフォーキーでポップなサウンドと、パワフルなロックナンバーを巧みに操り、多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年には自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品やランタンパレードなどさまざまなアーティストのアイテムをリリースしている。